戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

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第拾話

 何の問題もなく、二日目の朝を迎えた。

 

「(おはよーございます)」

 

『(おはようございます)』

 

 静かに呟くとイアちゃんの声だけが頭の中に反響した。時刻は5時の半分にも満たない早朝で空はまだ夜明け色です。けどベッドの向かいで瞑想するように寝ていたオオカミさんと浴衣型の制服はすでになくて、いたのは隣のベッドを使って幸せそうに涎を垂らすキツネちゃんだけだった。

 起こすのも悪いので静かに着替える。

 

「(よしっ)」

 

 最後に踊君にもらったウェイトを手足に付けたのを確認して、もうすっかり日課になったランニングに向けてそっと部屋を抜け出した。

 

「(今日も一日頑張って行こーッ!)」

 

『(おぉー!)』

 

 付き合ってくれるイアちゃんと一緒に私は一人、校内の探検も兼ねて駆けだした。

 

 

 

「この地は子供がいるには物騒なものが多い……」

 

 某は学内に置かれている射撃訓練用の施設を訪ねていた。保管されていたほとんどの銃は実物のようで、弾丸の装填も済んでいる。数十あるがあまり使われた痕跡がないのがせめてもの幸いか。

 

「いや……、あのようなものを嬉々として扱っている時点で幸いも何もないな」

 

 戦場にも度々現れるISなるものを流行りのように扱う若者を考えると先が恐ろしいものであった。

 中に入ってしまえば誰にでも手に取れるようになっていた一つを手に取り確かめる。これは……ふむ。余り使われていないというのに、中は新品のように清掃が行き届いていた。隣に箱詰めされている薬莢や撃ち出す鉛も同様に綺麗にされている。これなら不発や暴発、腔発の危険性は極めて低いだろう。

 して、これを行ったのは……何者だ?

 

「おや? 君は確か入学式の時の少年か?」

 

「おお! 先の御仁ではありませぬか。先日はどうも有り難う御座いました。貴殿御陰で無事響と見えることが叶いました」

 

 うっすらとしか感じ取れなかった気配の持ち主は体育館の道を教えて頂いた用務員の御仁だったようだ。只者ではないとは思っていたがこれほどとは驚きである。

 

「それはなにより。それで、またどうしてこんなところに来たんだ?」

 

「某はまだここに来たばかり故、少しでも多くこの学舎の設備を見学させていただこうかと。御仁は何故ここへ?」

 

「唯の清掃さ。もうほとんど使われてないとはいえ埃は積もるからな。いざという時、不備があってもいけないだろ」

 

 なるほど、相当の手練れであるはずだ。銃というのは繊細な物であり、その整備は難度が高い。下手に手を加えるとすぐに壊れてしまう。それを精巧に成し遂げられるようになるということは、銃が身近にある生活を送る即ち戦場に近しいものを経験したことがあるということ。この御仁は某達と似た生活を送った時期があるのやも知れん。

 

「……御仁、これを使っても良いだろうか?」

 

「勿論だ。是非使ってやってくれ。このままここに飾り続けているよりもきっとそいつらも喜ぶはずだ」

 

 少し離れたところにある訓練場に連れて行かれると、慣れた手つきで御仁は端末を操作する。

 

「準備ができたぞ。思う存分撃ってくれ」

 

「感謝する」

 

 地中から三方向に飛び出す円盤を撃ち抜いていく。

 やはり某には射撃の腕は無いようだ。当たってはいるが中心にはほど遠い位置にしか当たらない。この反動とやらの小さな揺れで手元が狂い狙いは逸れる一方である。

 このような暴れ馬を使いこなすクリスやサージェの腕前が改めてわかった。

 む、外したか。

 

「響が乱れ打ちしたのもよく分かる」

 

 狙い撃つよりも取り敢えず撃つ方が確実だ。

 

「乱れ打ちはおすすめしないぞ。一往回避する方法はあるが、間をしっかり置かないと薬莢がはき出せず詰まりやすくなる」

 

「そうで御座ったか」

 

 そんなことが起これば戦場では命取りであるな。銃器はサージェらに任せておくほうが良さそうだ。某には剣と鎌さえあればそれで十分だ。

 一頻り撃ち終えたのを確認したあと、銃を分解する。そして銃内にこびり付いた溶けた金属を取り除いていった。

 

「ほう。精度に比べこちらは上手いな」

 

「某の輩に銃器を得意とする者がおるのだ。その者から教わった。使わずとも知っておいて損はないからと」

 

「そうだな。どんな知識であっても、知っていて損することはそうそうない。そいつの言う通りだ。おっと、そこからは俺がやろう」

 

「かたじけない」

 

 最低限の整備を終わらし御仁に……、

 

「と、そう言えば御仁の名を伺っていなかった。某は聖踊。この学園に通うことになった。して御仁は?」

 

「俺は轡木十蔵だ。見ての通り用務員をやっている」

 

 用務員にしては貫禄があるお方だ。彼を見ていると今は亡き朋等を思い出す。十蔵殿に銃を任せ某はその場を去ることにしよう。

 そうだな。またいつか時間が取れれば翼嬢に伝授するのもいいかもしれんな。

 

 

 

「どう思った?」

 

 踊が居なくなり一人となった轡木は一人呟いた

 

「……彼はいったい、何者なんでしょね。私に気づいた上で見て見ぬ振りをしていたみたい。隠密には自身あったんだけどな~、これでも更識の当主なのに」

 

 天井から一人の少女が降り立ち扇子を開いた。そこにはでかでかと?と書いてあり少女の心情が語られていた。

 

「やはりそうだったか。あまり気に病むなよ。あいつは只者じゃない」

 

「わかってます」

 

 轡木が踊の後ろから現れたのはただ清掃していたからなどではなかった。天井の少女、更識楯無を隠すために態と姿を見せたのだ。

 楯無の僅かな気配の漏れを感じ取った轡木はその気配に重ねるように自身の気配も零した。そして踊に視認されると共に完全に隠蔽を解き、その一瞬に楯無が気配を消す。

 それはプロさえ騙すことができるほどの完璧に近い方法だった。にもかかわらず踊は造作もないことのように見破った。

 

「それで何か情報は掴めたか?」

 

「それがまーったくなんにも。更識の情報網を持ってしても彼についてまったくわからなかったわ。このどの国にも聖踊とされる戸籍もないようなのよね~。残念ながらお手上げよ」

 

「戸籍がない、か」

 

 世界には200近い国が存在しているがそのどこにも彼らしきデータは残っていなかった。彼女はその事実がどれほど重要な情報であるか気づいていない。

 轡木の中にとある可能性が浮上したがそれを口をするには推論でしかないと押し隠し、楯無に一つ頼みをした。

 

「では織斑響を調べてみてくれないか? その子を調べれば何か分かるかも知れない」

 

「織斑響……織斑先生の妹さんですね。確かにあの子からなら何か分かるかもしれません。二人は昔から知り合い、何処かでその兆しが見付けられるかも」

 

「頼む」

 

「任せてください。この学園を守るのが生徒会長の役目ですから」

 

 『お任せ!』と書かれた扇子を口元にあて楯無は訓練場を後にする。得てせず踊の知らないところで響が弄ばれることが決まってしまったのだった。

 

 

 

「ヘクチュンッ!」

 

『風邪ですか?』

 

「うーん……違うと思う」

 

 走っていた響は急に来た悪寒に首を傾げる。

 

「おはよう。某も加わって良いか?」

 

「踊君、おはよう」

 

『おはようございます』

 

 訓練場を出たところで踊は響を見付け、ランニングに合流するのだった。

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