戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜 作:円小夜 歌多那
「ぉぉうぅ……」
「だ、大丈夫か?」
まだ目の前がチカチカクラクラする……
「略してメチクラするおぉ~……」
「「「余裕そうだな(ですね)」」」
「くて~……」
どこが余裕そうなんだよ~。冷ややかな目で見る教師二人と兄に恨みを言いたいけど身体が怠く重たいので諦める。
いっぱい動いたからお腹すいたなー……。
「そういう所ですよ」
「なあ、踊。何で最後響は爆発しちまったんだ? 俺には踊が銃を下ろしただけにしか見えなかったぜ?」
回収されたニールハートを見るとその右腕は真っ黒に焦げ見るも無惨な姿になっていた。
「おやおや? しっかり見ているではないですか。その通りですよ」
「まさか欠陥か?」
「違うよ~……、ニールハートはちゃんと整備されて万全だったよ~」
『欠陥とは失礼極まりないですっ!』
踊君は本当に銃を下げただけで、あの時は何もしていない。あと何時まで踊君はサージェになっているつもりなの?
「あの時は、ね~」
最後の最後であんな仕掛けが仕込まれていたとは思わなくて、全力全開で絞った力を放つ前に炸裂させられたのだ。
あの時はホントに死ぬかと思ったよ……。
「そんな怨めしげに見ないでください。くねくねしますよ?」
えんr……あれ? かわいいかもしれない。ぱたぱた左右に振れる袖にヒラヒラ捲れる裾……やば、結構萌える。
「わかんねぇ……」
「ふふふ、悩むのです、若者よ。答え合わせは後ほどするとしましょう」
踊君は朗らかに笑みを浮かべるとちー姉とまや先生の元に向かう。
「それでは行きましょうか」
「理解が早くて助かる」
「あ、それ私も付いていっていいですか?」
このISについて話をしにいくんだろう。私も聞きたいので混ぜてもらう。
「えーと、よろしいのでしょうか……?」
「まぁ、いいだろう。これから自分が使う機体の話だ。当人が聞く分には問題ないだろう」
やった。ちー姉に許可を貰えた。
「ありがとうございます! ということで皆、また後でね。ちゃんと考えておくんだよー」
悩む一兄を置いて私たちは会議室のような話し合いの場に向かった。
「それで、これはなんだ」
面談の時のように向かい合って席に着いて早々、ちー姉は机の真ん中に置かれたペンダントを指して踊君に問いかけた。
「何とはどのような質問でしょう?」
「まずは元になったペンダントがいったい何なのかを聞かせてもらおうか。このペンダントはISが生まれる前、響が家に来た頃から常に身につけていたものだろう。それがなぜISを格納できる」
「そちらですか。簡単に言ってしまえばオーパーツだから、ですね。このペンダントは古代の遺物なのですよ。それはもう遠い遠い過去の現在を越え未来を超過する技術で作られたものです。それくらい調整さえしてあげれば訳ありませんよ」
「……なぜそんなものを響が持っている」
「勿論あげたからですが。くく、私には必要のないものでしたからね」
本当なんだけど真実ではない話で踊君は返答する。満面の微笑みが実にあざとい。
「……では試合前に投げたあの玉、私の見間違え出なければあれは」
「ふふふ」
「ISコア、なのだな。どこで手に入れた?」
頭が痛いのか額を抑えつつも、ちー姉は目を細め踊君の胸の内を見透かさんとする。嘘は許さないという強い意志がひしひしと伝わってきた。
受けているのは踊君のはずなのに隣で見ているだけの私や書記をしているまや先生のほうが緊張してるような……。
「どこでもなにもあのコアは自作の代物です。こう見えても私、機械には強いほうなんですよ。新しい物を製作するのは得意ではないのですが、既存の物であれば大抵は作れます。ISコア程度なら楽なものです」
だろうね……。
世界は違えど踊君は1億年前のオーバーテクノロジーで作られた遺物で、ここの色々進んだ科学技術でも足蹴にされちゃうほどの超絶技術が詰め放題のごとく使われてます。ISコアの一つや二つ造作もないことなんでしょう。
あ、えっと、ISコアというのは、説明の必要性を感じないくらいその名通りで、全ての設定を司っているISの核と言える最も重要な機械のことです。
これには絶対防御とかPICとかのとんでも機能を使う全ての基礎が詰め込まれているんだけど、中身が複雑すぎてこれを設計そ発表した束さんにしか作れないブラックボックスだと言われてます。
ちなみにISコアは世界に467個しか存在せず、色々もめたらしい。それを踊君は当然の如く作れてしまうというのだからちー姉が頭を抱えてしまった。
そんな代物にもかかわらず踊君(古代技術)から言わせればまだまだ赤子同然っぽいから困ったもんです。
「ああ、そうでした。これを作るためのサンプルとしてここの打鉄達で解析と軽く改良させてもらいました」
「……なんだと?」
「とはいえ、いくつか存在した設定の無駄を省いただけですがね。束嬢もまだまだ青いですよねー」
マジですか、束さんとも既に面識あるの。それがディバンスとしてなのか踊君としてなのかは今のところ分からないけど、何をどうしたらあの人と仲良くなれるのか凄く気になる。怖いから聞かないけど。
「あいつがガキなのは認めるが、会ったことがあるのか」
「ええ、旅の途中で。顔を合わせる度、機械談に花を咲かせましたよ」
「あの天災が興味を持つとは……何をしたんだ?」
聞いてしまった……。
「考えられる理由としては迷彩装置を見破ったとか、数十キロ先でのぞき見してるのを捕まえたとかが原因だと思います」
「いや。踊君この10年間いったい何してたの!?」
「大したことはしてませんよ。調べごとをついでにガキ狩り狩りをしていただけです。いやはやどんな場所でも人攫いとか多いですねぇ。お仕置きのし甲斐がありますよ。丁度その時に束嬢と目的が重なることがありまして、それから懇意にさせてもらってるんです」
二人が協力するって、それは蹂躙か殲滅の間違いじゃないのでしょうか? 子供が絡めば容赦しない踊君と基本興味ない他人がどうなろうと知ったこっちゃない束さんのタッグ……、想像しただけでゾッとする。
その人達は無事生きているのかとても心配です。
「そ、そうか。それで改造の件だが何も問題はないのだろうな」
「ありませんよ。本人にも了承は得ていますしね」
「そうか。ならいい」
「「いいんですか!?」」
流石に我慢できずまや先生とツッコみを入れてしまった。
「学園側の了承をとってないんですよ!?」
「勝手に訓練機を使っちゃってるのはいいの!?」
次の瞬間、私の頭にだけ出席簿が突き刺さった。
「敬語を使え」
「ど、何処からそれを……」
「聖、気を付けろ。束にしか作れないといわれているISコアを作ったと知られれば、世界が黙ってはいないだろう」
「私に挑む分には向かうところです。受けて立ちますよ」
おぞましい何かを含ませ踊君は笑顔を浮かべる。その辺りで軽く話をまとめてしまって、ニールハートの構造についての話題に移った。
「次にニールハートのことだがいくつか質問をさせてもらうぞ」
備え付けのモニターで保存された試合中継を見る。こんな風に客観的に見ると、長く感じた試合もたった1分しかなかったんだな、と実感させられる。
バンカーを使い出した辺りなんて速すぎて映像がブレまくりだ。
「まず一つ、ニールハートは第3世代で良いな?」
ちー姉のいう世代っていうのは時期的な意味もあるけど何を想定して製作されたかというので大まかに別れているらしい。
第1が純粋な兵器で、第2が後付け武器による多様化、これが今の主流かな。そして現在試験段階の第3世代が特殊兵器の使用、だったはずです。詳しい内容は他の誰か専門の人にでも聞いてね。その辺の違いは全くわかんないです。
「まあ、そうですね。バンカーは特殊兵器に入るでしょう。部類は一夏殿の雪片弐型と同系統かと思います」
「一夏とセシリアの試合も見ていたのか……」
「客席の上からゆったり見せてもらいました」
「羨ましい……」
雪片弐型っていうのは一兄のたった1つしかない専用武器の名前らしい。闘ってないからどんなのか私は知らない……。
踊君だけずるい、妬ましい、恨めしい。
「では次だ。あの馬鹿げた威力はなんだ。まさかセーフティー設定をしていなかったのではないだろうな」
バンカー機能を使いまくる私をピックアップして何度も見せてくる。
「それは私のミスです。ああ、でも私もちゃんとその設定はしたんですよ? この猪娘に合わせて最大出力でも絶対防御発生手前になるように制限していました。それをこの子はあんなおバカなことをした為、軽く上回ってしまったんです。迷惑極まりませんよ」
「えー、人のせいにしないでよ~」
「何を言うのです。貴女がPICなしで戦闘なんかしたのがそもそもの原因なのですよ。まさか忘れていませんか?」
「ふぇ? ………………………………あぁ」
「はぁー……」
そんな一瞬で強くなるわけがない、なんて思ったけどそう言えば神様に何処までも強くなれるようにしてもらったんだった。
いやはや、全く実感がなかったからすっかり忘れてた。
流石に10年もたったんだもん。いちいち些細なことは覚えていらんない。
他にもちー姉はいくつか質問し、踊君が答える、と繰り返した。最後の方は一兄を鍛えてやってくれーとか関係の話になってきたので、まや先生に切り上げてもらった。
「それでは失礼します」
「長々とすまなかったな」
「いえいえ、では」
部屋を出たところで私のお腹が鳴った。
「お腹すいたー」
「皆さんを呼んで食堂に行きましょうか」
「さんせーい!」
いったん部屋に戻り、のほほんちゃんを誘い食堂に向かう。
「わかんねぇ……」
「聖はいったい何をしたのだろう?」
「何度見ても彼に変わった動きは見当たりませんわ」
食事もそっちのけで端末に映る映像を見て唸ってる人たちがいた。
「まだ答えを見つけられていないみたいですね」
「ちぃーっす」
「やほ~」
「二人ともやっと終わったのか。ずっと考えてんだけど全くわからねぇんだよ」
映像を停止して皆の意識が私たちの方に向けられる。
「ふふふ、もっと観察眼を鍛えるべきですよ。……まあ、そう容易く見破られてしまうような動きをしたつもりもないのですがね。ではそろそろ答えといきましょうか」
「頼む」
一夏が静止した端末を手にすると巻き戻す。
「一つ確認しますが、貴方達はどこを見ていたのですか?」
「どこって……、ちゃんと全部見たぜ」
「ええ。特に高速戦闘の所は重点的に見たのですがそれでも」
「あちゃー、それじゃあいつまで経ってもわからないよ。踊君が仕掛けたのはもっと前だからね」
「そんな素振りがどこにあったのだ?」
踊君はとあるシーンで映像を止めて皆に見せた。
それは試合が開始して二言三言会話して少しした場面だ。
「こんなとこから仕掛けてたってのか?」
傍から見ると凄い無茶なことをやってたんだと自分のことだけど感心した。イアちゃんの補助があったからとはいえ、よく弾丸を見切れたものです。
当たらなかったのは残念だけど、すれ違い様のアッパーへの流れがスムーズに出来ていてちょっとうれしい。
「踏み込みの時、少し沈みすぎです。余分に地面が抉れていますよ。あと2mmほど重心を上げた方が威力とスピードは上がります。それともう一つ、足の向きがいつもより15度外側にズレていますね。これでは本来の半分の威力も乗せられなかったでしょう。初戦とはいえニールハートは貴女の身体なのです。最低でも5度以内になるよう努力するのですよ」
「はーい……」
見事に踊君がへし折ってくれた。満足はさせてくれないみたいです。解説と一緒に分析をして他にもいくつか改善点を指摘された。
本題の踊君が仕掛けた罠のある場面直前でまた止めた。そしてアップで撮っているカメラからアリーナ全体を写す離れたカメラに切り替える。
「ここからです。皆さん、しっかり見るのですよ」
「おう」
離れているので見えにくいが、私が銃弾を蹴り返しその返した銃弾を踊君が2つの銃弾で打ち上げた。
「え、ここがそうなのか?」
下の方で私と踊君が高速バトルを繰り広げている最中にまた止めて、踊君がとある箇所を指差す。中央にキラキラ光る小さな粒が移っている。
「銃の弾、ですわね」
「そうです。これをよく見ているのですよ」
私がバンカーを使い始まったカメラでも捉えきれない攻防戦が10秒と少し経った時、打ち上げられた弾が最高値に達し重力に引かれて落ちてきた。
「ま、まさか……!?」
踊君に投げられて私がアリーナのど真ん中に着地した時、弾は私の上をくるくると落ちていた。
「そ、そのようなことが……」
踊君が銃を向けチェックメイトです、と言った時、弾は私の数十㎝上の地点を落下している。
「ほぇ~……」
私がトドメとバンカーを盛大に後ろに引っ張った時、その弾はもう数㎝のところまで迫っていた。
「まじかよ……」
そして私がバンカーの固定を解除したその時、弾が伸びたバンカーの中を通過していこうとしている最中だった。元の位置を目指すバンカーは何も考えず機能通りに戻ってきて、自然落下で過ぎようとしていた弾を掬い上げそのまま溜めていた力を解放した。
本来ならそのまま拳に伝わり前方へと炸裂するはずの溢れた力が、突如入り込んだ異物に集約されてしまいバンカーの内部で炸裂してしまったのだ。
「成る程……これがあったために試合が短くなったのですわね。銃を打ち上げてから落ちてくるまでの時間はおよそ30秒、その間の響さんの動き全てを支配していたのですか。これほどまでのゲームメイク……恐れ入りましたわ」
「広域にわたる状況把握能力に的確な判断、そして確実に実行する冷静さか……」
「そんなに褒めないでください。元々打ち上げたのは一番被害のでない確実な回避法だっただけですよ。バンカーの威力が当初想定していたものよりも倍近く上回ったために、急遽その予定を変えて取り入れた出来の悪い運任せの賭けでした」
謙遜でもなく踊君は正直にそう言うと苦笑する。
「セシリア嬢との戦いや初期の跳弾回避でわかっていただけたでしょうが、響はずば抜けた空間把握能力と鋭い勘を持っています。打ち上げた弾をまだ捉えていた可能性もありましたし、私の動きで危険を感じ取ることもできたかもしれません。結局は起きなかった未来のことですが、失敗する確率の方が高かったのです。響が私に集中し滾っていたのが幸運でしたね」
「最近はずっと1対1の真剣勝負ばっかりだったから、途中から周りを見るのをすっかり失念してたんだよね……。はぁ~あ、セシリアちゃんの時はまだはっきり中・遠広域型だってわかっていたから何とか出来たけど、踊君相手じゃやっぱりな~」
近距離戦を挑まれるとどうも私は相手の動きに集中してしまうみたいだ。イチイのサージェのなっているってわかっていたはずなのに、です。
ノイズと闘っていた時は自然と視野が広くなっていたのにな。
「悩まなくてもすぐに慣れますよ。それに悪いことばかりではないのです。駆け引きというのを学ぶことができたはずです」
「うん。それは良く感じてる」
この動きで相手がどう動くかとか、あの場合ならどうかとか色々先を考えることができるようになった。私がどうしようと基本ノイズは突進一択しか方法がないので、向こうにいたままじゃ駆けることも引くことも知らないままだったと思う。
「他に質問はありませんか?」
「じゃあもしあれがなかったらどうしてたんだ?」
「それは勿論……」
少し気になる踊君の他の勝利法とはいったいいかに。どんな凄い方法を考えていたのかと、皆のどを鳴らして食い気味に興味を向けた。
少し考えて踊君が出した答え、それは……、
「逃げます」
「逃げんのかよ!?」
「当たり前でしょう!! 掠った程度でラファールの装甲に大穴が開くのですよ?! 逃げるしかないでしょう! それ以外どうしろというのですか!?」
「……リザイン」
聞きたくなかった回答でした……。