戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

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第拾伍話

 決戦の次の日、教壇前にうきうきした副担任のまや先生がいた。担任のちー姉は当然のように後ろで睨みをきかせている。適材適所というやつです。

 

「というわけで、クラス代表は織斑君に決定しました」

 

「がんばれー!」

 

「クラスの命運は任せた!」

 

 うん。どんないいことがあったのか知らないけど行程がすっとばされた。そしてそれで良いんだ、クラスの人たち。あと命運は大げさだと思う。

 

「先生!」

 

「はい、何でしょう?」

 

 勢いよく手を挙げたのは一兄だ。ニコニコ笑顔のまや先生は兄の質問に耳を傾ける。

 

「何で俺が代表になってるんですか? 俺、全敗したんですよ。俺よりセシリアのほうが向いてるんじゃ……」

 

「それは私が辞退したからですわ。確かに、勝負は私が勝ちました。しかしあなたはまだISに乗り始めた初心者、私が勝つのは当然です。ですが、私も少々大人げなかった反省しまして、一夏さんに代表を譲ることにしましたわ。それにIS操縦は実戦が何よりの糧ですから」

 

「だそうですよ」

 

「セシリアわかってるぅ! 折角、世界で数少ない男子がいるんだから、持ち上げていかないとね!」

 

 腰に手を当てて堂々とセシリアさんは言い放つけれど、あれは建前だ。だってセシリアさんは一兄に向かって言っているのに、その目が明後日のほうに逃げてるもん。それに顔がビミョーに赤い。

 どうやら一兄のフラグメーカーが発動してしまったみたいです。出会ってから今まで何人の人があの力の犠牲になってしまったか数えきれません。

 ご愁傷様、セシリアさん。

 ……あれ? 私、結構注意しないといけないんじゃ……。ま、いっか。悪くても一兄が刺されるだけだし。

 

「いやいや! 待ってくださいよ! それなら響は」

 

「残念だったね、一兄! そもそも私は誰からも推薦も自薦も受けてないのだ! ただ巻き込まれただけなのさ!」

 

「そういやそうだった!?」

 

 ……セシリアさんのマネをして胸を張って言ってみたけど凄く虚しい。よく考えたら私は二人の喧嘩に巻き込まれただけだった。何で踊君と闘ったんだろ。へとへとになっただけで利益なし。

 まさかのハイリスクノーリターンだよ。酷いです。悪徳です。

 

「まあまあ、一夏殿、落ち着いて考えるのです。丁度良かったではないですか。強くなりたいのなら受けるべきですよ。実戦で掴むものは訓練の比ではありませんよ」

 

「うぐっ」

 

「強くなりたいのでしょう?」

 

「……わかったよ。でも本当に皆は俺なんかでいいのか?」

 

「「「「「オール、オッケー!」」」」」

 

 一兄が不安そうに周りを確認するけど、そんな心配はご無用。誰一人異論なく、むしろ一斉に親指立てて推し上げた。まや先生まで一緒にだ。あまりに息がぴったりで若干一兄が怯む。ちー姉だけは肩をすくめるだけでしなかった。

 

「…………ですが強くなれたでしょう?」

 

「まあね」

 

 ……怒られる程とは思わなかったけどね。

 視線が一兄に向けられたことで注目から逸れた踊君はそう私に耳打ちをしてゆるりと下がった。

 

「そ、それでですね」

 

 咳払いで再び注目を戻したセシリアさんは一兄に提案する。

 

「私のように優秀かつエレガント、華麗にしてパーフェクトな私が操縦を教えて差し上げれば、それはもう「……生憎だが一夏の教官は事足りている。私が直接頼まれたのだからな」あら、貴女はISランクCの篠ノ之さんではありませんか」

 

「ランクは関係ない! 私が一夏にどうしてもと懇願されたのだ!」

 

 箒ちゃ~ん、一兄がぽかんとしてますよ~。頼みはしたんだろうけど、懇願した覚えはないといいたそうにしてるよ~。

 机に手を叩き付けて立ち上がり、箒ちゃんはセシリアさんに攻め寄る。あのせめぎ合う姿が恐ろしくて、誰も割って入れる気はせず、二人の口論は激化していく。

 

「まや先生頑張って!」

 

「無理ですよぉ~!?」

 

 教師なのに諦めるの早すぎじゃないですか!? せめて止めようとする姿勢くらいは見せてください。火花散らす殺気で肌がピリピリ痛い。

 

「座れ、馬鹿者」

 

 ズガンという撃鉄に似た音を轟かせ二人の少女の頭に硝煙のような煙が噴き上がった。……流石、血腐愉先生です。

 

「何か考えたか?」

 

「てへっ」

 

「ふん」

 

「アウゥ!?」

 

 笑って誤魔化せるような相手じゃなかった。割れるような痛みにのたうち回る。

 

「お前達のランクなど、私からしたらどれも平等のひよっこだ。その程度のことで優劣を付けようとするな」

 

 有無も言わさぬ眼光が二人を貫いた。

 

「前に言ったはずだ。代表候補生だろうと一から勉強してもらうと。下らん揉め事は10代の特権だが、今は私の管轄時間だ。自重しろ、小娘共」

 

「「は、はい」」

 

 どうやら私たちは鬼が居るのに洗濯してしまったみたいです。これ以上ちー姉を怒らせないようにしないと私の頭がへこむ。

 

「……なにか無礼なことを考えただろう」

 

 ひぅ!?

 

「そんなことはまったくこれっぽっちもありませんのことですよ」

 

「ほう」

 

 わ、私じゃなかったみたい。ちー姉の矛先は一兄の頭に狙いを定めていた。一兄の脳細胞を犠牲に助かった二人はそそくさと席に戻り、私も不満の意を片隅に追いやった。

 

 

 

 月出りて夜も更けし頃、学園から遠く離れた地にてそれは行われていた。

 

「おやおやおや、お待たせしてしまいましたかねぇ?」

 

 顔を歪めた影の道化師は設けられていた最後の空席を埋めた。

 

「まだ10分前だ。気にすることはない」

 

 その場に集う5つの影、その代表だろう漆黒のものが道化師に声をかける。そして席に居るもの達を順に見回していく。

 

「こっちにはもう慣れたか?」

 

「問題ない」

 

「あたいも大丈夫だよ」

 

 威風を背に堂々と鎮座する影はそう答え、ふてぶてしい態度を取る影も肯定の意で返した。

 

「ISなるものの登場から早10年、皆ももう気付いていると思うが漸くIS学園で大きくことが動き始めた。この機に乗じて動き出した勢力も数を増やしてきた」

 

 ISによりこの世界は変革された。今まで多くを占めていた男尊女卑の概念が一変し、女尊男卑となった。そして世界の基盤が国際IS委員会なるものが牛耳った。その危険性に一抹の不安はありはしたが、まだその辺りは彼らもさして気にしていなかった。

 だがそこから次々と起こり始めた問題には怒りを抑えられずにはいられなかった。

 女尊男卑になって早々に発覚したのは女性による男性への過ぎた高圧な態度、そしてそれを子供にすり込むように仕組まれた日常生活が構築されていたのだ。

 

「女尊男卑は仕方なかろう。元々人というのは天地を付けたがるもの故。されど、童を毒すような阿漕な行為を流石に見逃すわけにはいかぬ」

 

「出来ることならば奴等を我が剣の錆にしてしまいたいものである」

 

 自身の背を超す大剣を鳴らし影は頷く。

 

「殺しちゃなんねえっしょ。それで世界が変わったとしてもただの脅しにしかならねぇっての。その辺は今代の申し子に望み、託すしかないんじゃねぇか」

 

「であるな」

 

「歯痒いな」

 

 態度に比べて意外と思慮深い影は抑えが効かなくなる前に二人を諫める。

 

「そちらについては後回しです。注意しなければならないのはそれによって生じた裏の勢力です」

 

 道化の影は分厚い冊子を各々に配る。

 

「日本、アメリカ、ドイツ、イギリス、フランス、ロシア、……ISを生んだこの国を初めとし世界を代表する大国やその他多くの小国でそれらしき勢力が止めどなく確認されています」

 

「確認できた組織はいくつだ」

 

「組織そのもので100を越え、それを纏めているであろう勢力数は3。一つは……」

 

 それは信じたくない内容であった。だがそれが事実なのは明確であるため彼らは受け止める。時が来るまで明かせないと悟る。

 

「最後は亡国機業、これは話すまでもないですね。50年程前から存在するという裏組織の筆頭です。残念ながらそれ以外のことは今だわからずなんですよね」

 

 現在亡国機業は世界各地で出現しIS関連の施設を襲いISを強奪しているらしい。影たちも尻尾を掴むため動いているが中々成果は上がらない。まあ八割方の理由はISよりも優先しなければならないことがあるためなのだが。

 

「やはり数が足りないか」

 

 ここにいる5人だけでは世界全土をカバーするには数が全く足りない。一大陸を一人で担っているようなものなのだ。何かを為すために手の空いたものを呼び出すことも少なくなく、何かを倒せば世界が平和になる程現実は甘くもない。どれほど足りていないか容易に想像できるだろう。

 

「何か方法が?」

 

「ああ。これを見てくれ」

 

 そう言って彼が取り出したのは何処かの文献だった。

 

「……ほほう。これはもしや」

 

「ニア1の確率で予想に間違いない。いつの間にか行方を眩ませていたあいつらだ。俺はこれからこいつを捜そうと思う。その間の防衛を任せて構わないか?」

 

「「「「是」」」」

 

「すぐに合流する」

 

 全員の賛成を受けられた長たる影は円卓を離れ海の彼方へ駆け出した。残されたもの達は必要な情報を交換して各々で散っていくのだった。

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