戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜 作:円小夜 歌多那
「今日は飛行操縦の実践を行う。セシリア、織斑兄妹、試しに飛んで見ろ」
「「はい!」」
今、私たち一組はグラウンドにてちー姉の授業を受けています。その中で専用機を持っている私たち三人はよく呼ばれてる。
セシリアさんはすぐに立ち上がりブルー・ティアーズを纏う。私も続こうと意識をペンダントに集中した。
「何をしている。早くしろ。熟練した者なら1秒かからないぞ」
何か別のことを考えていたようで一兄は慌てて指示に従い、右腕のガントレットを前に付きだした。そこから広がる光の粒子が鎧を形作り、白式に変化した。
たぶん1秒切ってる。凄く訓練したんだろうな、なんて感心したいところだけどそれどころじゃない。
「まだか、織斑妹」
一兄が動く前から集中しているのに私はまだニールハートを欠片程しか展開できていなかった。何度も自主練で早くしようとしているんだけど、なかなかイメージが定まらなくてとても時間が掛かってしまってます。
遅れること約10秒、ようやくニールハートの装甲が私を包んだ。
「もっと早くできるようにしろ」
「はい……」
何をどうしたら早くできるんだろう……。はぁ……。
「飛べ!」
セシリアさんと一兄が一斉に急上昇を始める。スペック上では白式のほうが速いはずなのにセシリアさんのほうが先に上空に到達し止まった。
おおー、流石セシリアさん。
「何をしている! 白式のほうが出力は上だぞ! そして織斑妹、お前も何をやっている!」
「ふぇい? ……あ、私も飛ばなきゃいけないのか」
どんよりしてる場合じゃなかった。
「しっかりしてよ~。ひびり~ん」
「ごめんごめん。行ってきま~す」
さっきの失敗は取り敢えず心のロッカーに保管しておくとして、それじゃ行っちゃおう!
意識をすぱっと切り替えて、私は軽く身体を落とし跳んだ。
「「!?」」
「よっ、ほっと、……えと、2人してどしたの?」
二人に顔の高さが並んだのでいらない勢いを放り捨てて止まる。でもちょっと勢いを付けすぎて天地が反転してしまった。天井を蹴るようにしてもう一度反転し直す。PICってマジ便利です。重力と床がほどよく自在に作れる驚きの機能が大助かり。
二人に顔を向けると、ハイパーセンサとかいう高性能カメラが化け物を見るような目で見ているのを鮮明に写した。
「は、速すぎですわ……」
「どんなイメージしてんだよ」
普通にやっただけなのに……解せませぬ。
『仕方がありませんよ。必然的差というやつです。セシリアさんは代表候補生として長時間の訓練を行っていたとは思いますが、響さんは常に死と隣り合わせの状況下で必要に迫られていたでしょう? 命懸けの差は大きいです』
ああ……、そういえばブーストが新設された当初、ガングニールに振り回されて壁に風穴を空けた覚えがある。あれは痛かったなぁ……。
『いつまでそこにいるつもりだ!』
メガホンを持った箒ちゃんに怒鳴られた。隣を見ると2人が仲睦まじく(?)話していた。一兄はバランスをとるのに意識を半分くらい傾けてるからやっぱりどっちの好意にも気付かない。
『次は急降下と完全停止をやってみろ。目標は地表10cmだ』
通信越しにちー姉の指示が入ってくる。
「ではまずは私から。一夏さん、響さん、よく見ていてくださいませ」
セシリアさんは頭を下にすると一気に落ちて行き、ちー姉の指示通りちゃんと10cmのところで完全に停まる。
代表候補生に選ばれるだけあって凄く上手です。あんなに上手くできるかな……。
「次は俺が行く!」
一兄は背の硬い翼を少し閉じ盛大にブーストを噴かせた。
見る見るうちに小さくなっていく一兄の背は停止の片鱗も見せず大地に吸い込まれるように……あ、吸い込まれた。
「うわぁっ……」
爆音というか轟音というか取り敢えず、酷く痛々しい音を立てた一兄は頭から地表に突き刺さり地面に生えていた。
『誰がグラウンドに衝突しろと言った』
そんな哀れな葦をちー姉は引っこ抜き容赦なく投げ捨て説教する。
……今、ちー姉素手で一兄ごとISを持ち上げたような……、き、気のせいだよね、うん、気のせいだ。きっとそうに違いない。
気付けという平手打ちを片手間にちー姉は私を見上げた。次は私の番だということみたい。
「よし。……行きます!」
一兄の開けた穴を避けるためちょっとずれた場所に移動した。
……一つのイメージを形にする。
仮の足場を蹴り、空に描いた天井を踏み込む。狙いは上々地上に向け真っ逆さまのままバーニアを燃やし、落ちるのではなく隕ちる。
これ誤字にあらずだよ。
『PIC改変成功しました。さあさあ! 一気に行っちゃいましょう!』
まるで地上を目指す重力が数十倍に膨れ上がったように、さらに加速が上昇する。
「ふんっ!」
足を突き立て地面を踏み鳴らす。一緒に大量の砂埃と振動を起きるけどちゃんと止まった。
「よしゃぁっ! 成功!!」
「じゃないだろ!?」
ちゃんと成功したのに、どことなく顔の膨れた一兄に文句を言われてしまった。
「いや成功はしている。よく織斑妹の足元を見ろ」
ちー姉の一声に足元に注目が集まる。胸を張りちゃんと地表から10cm浮いているのを見せつける。
「だがな、グラウンドに穴を開けるな」
「あはは……ごめんなさい」
土踏まずあたりに大穴が空いていた。
何をしたかっていうのは簡単です。ニールハートに厚底10cmの仮想の靴を履かせてみました。
私は空を飛ぶのではなく空を踏台にして跳ぶイメージで飛行(跳躍?)しているので、ちょっとそこにアレンジを加えたら、意外といけてしまった。
イアちゃん、グッジョブ!
「納得いかねぇ……」
「時間は、……まだあるな。折角の機会だ。武装展開の実演に移る。織斑兄」
「は、はい!」
ちー姉の献身的調教の甲斐あってか悶々としていた一兄は即様反応した。
一兄が集中するのに合わせ、白式の肩から指先へと純白の光が流れていく。1秒程で一振りの剣の形になった。
「ふう」
「遅い。0.7秒以内に展開できるようにしておけ」
一兄の満足げな顔はあっさり歪む。落ち込む背中は哀愁に満ちていた。
そんなものは知らんと、ちー姉は獲物をチェンジする。次はセシリアさんが餌食のもようです。
「オルコット」
「はい!」
答えるや否や腕を横に振り、瞬時にライフルをその手に携える。精錬された滑らかな動きが様になっていて自然と目が奪われた。
で、でも一つすっごく気になることが……。
「横に向けて、お前は一体誰を撃つ気だ」
多分、私じゃないかな。
立ち位置的にセシリアさんの銃口は熱心に私の眉間を見つめているもん。無意識に手を上げてしまったけど、し、ししし仕方ないよね。
いくら私でも目前10cm程度のライフルはそうそう躱せません。流石に怖いです。
「……ヘ、ヘルプミー」
「ひ、響さん!? いらしたんですか!?」
「ヒドいっ!?」
一兄に気を取られてるからって、着地からほとんど動いてないのに忘れないでよ……。
「次までに直しておけ。いいな」
「で、ですが、これが私の!「また味方に銃を突き付けたいのか?」」
正論を返され押し黙る。
「ならよ~、身体を横向けりゃよくないのかい? 銃が前むきゃいいならレイピアの姿勢を習えばいいっしょ」
「そ、そんな乱暴な」
「まあ、片手撃ちに自信がないなら無理にするこたぁねぇーけどよ~。そこんとこどうよ、代表候補生さん?」
踊君に煽られ顔がどんどん赤く染まっていく。なのに踊君は自重しない。そんなセシリアさんに向けてさらにダイナマイトを放り込む。
「他人に左右されて自分を捨てる負け犬ちゃん」
それは流石に煽り過ぎ!? 赤を超えて青筋が幾つも立ってるぅっ!? セシリアさんの歪んだ笑みが『見せられないよ!』な状態になっちゃってる!? モザイクプリィーズ!
「……お前たち、何のつもりだ」
「守ってください!」
「「「「お願いします!」」」」
クラス一同(+まや先生)は揃ってちー姉の後ろに避難した。
「やれやれ……そこまでだ。聖は言い過ぎだ。自重しろ。オルコットは自由にすればいい。構えを直すも立方を直すもどちらでも私はかまわん。ただし銃口は前にむけろ。わかったな」
「……はい」
「うぇい~っす」
しぶしぶでも引いてくれたお陰で私たちは解放された。でも踊君が大人しくしてくれないと解決になってない。
ちー姉が時計を確認した。まだあと5分ほど時間に余裕があり、思案したあとセシリアさんに新たに指示を出す。
「近接武装も取り出してみろ」
「そ、それは……ちょっと」
「どうしたできんのか」
「わかりました……」
セシリアさんは涙目になりながらも手を光らせる。
………………?
「まだか?」
「うぐっ……、インターセプターッ!」
ヤケクソ気味に叫んでようやく短剣を取り出した。
「実戦でも相手に待ってもらうつもりか?」
「ま、間合いに入れなければ何も問題は……」
「ほう。初心者2人にいとも容易く接近を許したスナイパーはどこの誰だったろうな」
「…………私です」
ひゃ~……ちー姉、絶対楽しんでる……。セシリアさんのプライドが先端から秒速1cmくらいのハイペースでやすられていく。
「ついに出た。本性・血躙愉が……」
一兄が何か呟いたけれど私は聞いてない。頷きたくなんてなってない。
「そうかそうか。まだ私の実習を受けたいか。よくわかった」
「やべっ!?」
一兄が犠牲になってるうちに少しみんなから距離を取る。
『ニールハート、解除します』
相手は待ってくれない、ちー姉の言葉は私の胸にも突き刺さっていた。
ISの展開に十数秒もかかってしまうのはいくらなんでも遅すぎる。いつ何が起きてもおかしくないのに、今のままじゃただの足手まといだ。
「私は私のまま強くなる。でもちょっとくらい無理してもいいよね」
その後、時間を忘れて何度も展開解除を繰り返し、出席簿の餌食になったのは言うまでもない。