戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

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第弐拾壱話

 呵々、嫌な予感的中で中々に冷やっとさせられた。まったく打鉄には感謝しねえとな。こいつが飛んできてくれてなかったら正直間に合わなかった。

 ちょっくら呼び出し掛けに出てる間に襲撃されるなんざ思ってなかった……わけでもねぇか。こうも簡単にここの防衛機能が突破されると思わなかったが正解だな。

 裏の世界、古株『更識』があるからと過大評価が過ぎたんじゃないのかね。まあいいけど。それよりも、だ

 

「…………浮かれてるところ悪いんだけどさ、まだ気を抜くにはちーっとばかし早いぜ」

 

「何言って?」

 

『そ、そんな!? アリーナの主導権、今だ解放されてません! 掌握されたままです!!』

 

 諸手を挙げて勝ちを喜んでるガキ共にそう忠告するのと同時に、まやさんから連絡が届いたらしい。見上げるのは青い空、見つめるは中に浮かぶ無数の黒い点。

 

「あと少しでいい。共に飛んでくれるな、打鉄!」

 

 キュインと小さくても力強い返事が返ってくる。どうやらこいつも、あたしらと同じ護りたいって思いを持つ変わり者らしい。

 だったらその意思に応えてやる。

 いつ尽きてもおかしくないと告げる印を外へと追いやり、あたしらは天へと翼を拡げた。

 

 

 

 踊が飛んだ、そう認識した次の瞬間、大量の何かが高速で落下してきた。いや、何かなんてのは本当は分かっている。たった今俺たち3人がかりでようやく1体倒すことができたISの同型機だ。

 

「踊ォ!」

 

「聖さん!!」

 

「聖!!」

 

 シールドの天辺に向けて飛び出した踊はあっさりと落下してきた奴等に巻き込まれて、シールドごと地面に叩き付けられた。

 いくらISを身に纏ってるからといってあんな勢いで地面に叩き付けられたら絶対防御なんてまともに機能しない。それも遮断フィールドを貫いた上となると皆無に等しい。

 

「呵……々……2機か。まあ、上等か……、まだ止まってくれるなよ」

 

 濛々と立ち籠める砂埃に紛れて、返答するかのように踊の声が聞こえてきた。掠れているが何とか無事のようだ。

 直後、煙の中から5体の乱入者が飛び出し煙から距離を取った。さっきのような観察している様子ではなく強く警戒しているのがありありと現れていた。

 

「打鉄ェッ!!」

 

 轟く咆哮と共に煙を掻き消し、踊は無人機たちの中に突撃を咬ます。両手に掴んだ大破して動かない無人機を武器にして。

 

「嘘でしょ……、あの一瞬で2機も潰したっての!?」

 

 腕を蛇のようにくねらせ、手首でスナップを利かせ無人機に無人機を叩き込む。いくら相手が堅いといっても、同じ物質で殴られたら互いに潰れる。が、踊の手にしているのはもともと壊れた物だから踊に何ら不都合はなく、無人機とわかっているからだろうか情けもなければ容赦もない。

 

「オラァッ!」

 

 取り囲んでいた2機の無人機を両手の無人機で殴り飛ばす。衝撃で片手の無人機の頭が引き千切れた。無人機と分かっていても目を背けたくなる光景でも、踊は止まらず器用に振り回すと放たれたビームを無人機の太い腕を盾にし弾く。

 その隙を突き攻め込んできた無人機が拳を……って、もうわけが分からなくなってきた。動いてる無人機をゴーレム、踊が手にしてる無人機をムチと呼ぶことにしよう。

 ゴーレムが拳を突き立てるも、踊はムチを身代わりに受けきった。

 

「凄い……」

 

 セシリアの感嘆を聞きながら、俺は踊との余りの力量の差を痛感していた。

 俺たちが3人で倒したゴーレムをあいつはたった1人で5体……いや最初のを含めて7体を相手に立ち回っている。それも訓練機である打鉄でだ。専用機を持ってるってのに自分が情けない。

 

「ハァッ!」

 

 爆発寸前のムチごとゴーレムを押し飛ばし、鞘に収められたままの刀を手に掴み直すと、そのまままとめて貫きゴーレムの核を抉り落とす。

 

「あと4……ガッ!」

 

「「「ゥッ!?」」」

 

 踊は爆炎を払い振り返ろうとしたが、その炎を抜いて突進を敢行したゴーレムの鋭く尖った指が脇腹に突き刺さった。ゴーレムは腕を真っ赤に染めてもまだ光を収束させ攻め立てる。

 

「クソッ!! エネルギーが足りねぇ……!」

 

 セシリアも鈴もその光景に呆然として、咄嗟に動けたのは俺だけだった。操縦者を守る絶対防御がちり紙でも破るみたいに簡単に突破され酷い出血までしてるんだ。驚くなって言う方が無理だ。

 なのに肝心の白式はさっきの一撃で完全にエネルギーを使い果たしていて、装甲が展開しているのが奇跡に近い状態で何もできなかった。

 

「舐めるなよッ!!」

 

 痛むだろう腹を庇うどころか気にもせず酷使して、踊は刺さった腕を支えに蹴りを見舞った。

 

「わ、私も加勢を!」

 

「来るんじゃぇえええッ!!」

 

「「「ッ!?」」」

 

 血反吐を撒き散らして発された大喝に自然と身体が震えた。

 

「ここはあたしが引き受ける!」

 

「ですが!「セシリア・オルコット!!!」」

 

 任せられるわけがないとセシリアは食い下がろうとしたが、踊は名を呼び黙らせた。

 

「テメェまで出てきたら、誰が二人を守るってんだ! お前がしなきゃならねぇのは、ここであたしと闘うことじゃねぇだろ!!」

 

 俺にも鈴にも、まだ闘う意思はあった。だが現実がそれを許さず、白式も甲龍も補給しなければ飛ぶことさえままならない。

 くそったれ! そう思わずにはいられない。もう少しせめて自力でピットに帰るだけの余力さえ残していればセシリアは踊の支援が行えた。俺が後のことを考えてさえいたら!

 

「ヴァカなこと考えてんじゃねぇだろうな? 帰れるだけは残していればとか、考えていたら、とかよ。…………自惚れんなよ、ド阿呆が」

 

 ムチ、もとい初っぱなで潰されたゴーレムを放り投げ、色々な格闘技をごちゃ混ぜにした俺のよく知る徒手空拳の構えを取った。

 踊もまた響の義兄なのだと理解させられる。同じ構えだった。家族になってすぐのあの試合の時に見せ、今までずっと変わらない妹と全く同じ独特の構え。

 

「全てを出し切って挑んだお前の行動は、誇ることはあっても悔いることなんざ1つもねぇ! それでも思うことがあるのなら次に繋げる事だけ考えやがれ!」

 

 そして踊は逃げろではなく引けと叫んだ。

 

 

「すまねぇ。セシリア、頼む!」

 

「お任せを!」

 

 悔しい思いを飲み込んで、俺と鈴はセシリアに肩を貸して貰う選んだ。少しでも早く進めるようにブースターだけを残し重りとなってしまう白式を格納した。部分展開が繊細な集中力を必要とされるからって甘えるなんてことはしない。踊に掛けてしまう負担と比べたらこれくらい屁でもないから……。

 

「ここから先は一歩も通さねぇ!」

 

 アリーナを這い回る重鎮の気概がゴーレムを縫い付けるのを背中に感じながら俺たちはピットに戻った。

 

 

 

 一兄が下がってからも激しい攻防は終わりを見せない。聖遺物のエネルギーを転用させてるからなのかわかんないけど、踊君はぎりぎり稼働できるラインを維持し続けて4機の無人機の足止めを続けていた。

 

「まだ取り戻せないのっ?」

 

『これでも精一杯やってるんですよぉ! 一体全体どこの誰ですか、こんなバカげたハッキングしかけて来やがる人は!?』

 

 さっきからずっとイアちゃんが管理棟の支配権を奪い返すために奮闘してくれている。それで指先が届く寸前までは何度も到達しているみたいだけど、後一歩のところで離れていくそうだ。

 しかも相手の援軍が来たせいで処理がさらに追いつかなくなってしまっているみたい。イアちゃんのデータが入ってるニールハートのペンダントも大量の演算を熟すために、酷い熱を帯びて火傷しそうなくらい熱くなっている。

 

「ああ、もう! なんでこんなに頑丈なのよ!」

 

 出入り口では会長さんが愚痴をこぼしながらも水色のISに乗っていて、ジリリリッと金属のすれる音を響かせドリルのような渦巻く水で扉を削っていた。物凄い音が鳴る割にはてんで水流の矛先は進んでる様子は見えない。

 ニールハートなら殴るだけで破壊できるのでは? と思うだろう(実際多分余裕)し私もそう進言してみたけど、会長さんに考える素振りすら見せずダメって両断されてしまった。向こう側にも救援の人がいるし、何よりアリーナを運営するための大切な機材が至る所に設置されてるから、殴り飛ばした勢いで破壊しちゃったら取り返しのつかないことになると言われた。

 最後にだめ押しで、最悪の場合爆発が連鎖してアリーナ消滅もありうるなんて言うから、閉じ込められた全生徒と向こう側の人たち全員から絶対にするなと釘を刺された。……クスン。

 

「もう少し頑張って……」

 

 やっぱり私は祈ることしか出来ないみたいだ。ニールハートと一緒ならこことアリーナを阻むシールドに穴を開けることができるから余計に悔しい。せめてあと1歩でも助走が付けられたなら駆けつけることができるのに!

 

「踊君……」

 

 情けなくて涙が出そうだ。

 

『………………………………詠いませんか?』

 

「へ?」

 

『やっぱりここで祈ってるだけなんてらしくないです。迷わず前を向いて一直線に走り続けるのが私の知ってる響さんです。確かに踊さんには使わないようにって止められてますけど、だからって響さんの一生懸命を曲げるのは間違ってます。それに信じて待つ(そこ)は未来さんのポジションですよ』

 

「それ未来に聞かれたら怒られるよ? ……でもありがとね」

 

 私はずっとこの世界に本来ないものだからってガングニールを使うことを遠慮していた。でもイアちゃんに言われて思い出した。未来が教えてくれた大切なこと。

 

――助ける私だけが一生懸命なんじゃない。助けられる誰かも一生懸命。

 

 だっていうことを。

 私の目の前に助ける人たちが懸命に抗っているのに、私はその人たちを助けることに必至になってなかった。

 

「いつもの私はどこに行った!」

 

「響ちゃん?」

 

 両頬にビンタを喰らわせる。……痛い。けどお陰で迷いは吹っ飛んだ。

 

「助けを求める皆が一生懸命なんだ。助けられる私が迷ってどうする! 皆さん! 離れていてください!」

 

 詰め寄せていた人の波に大きな隙間を空けて貰う。

 

「何をする気なの!?」

 

 待たせてごめん、ガングニール! 貴方の力を私に貸して!!

 

「すぅぅ……!」

 

 目一杯の空気を肺に取り込んで、私は駆け出した。

 

「(必ず皆助けるんだ!)」

 

 大穴を飛び越え、空の中で私は詠う。私の信じるこの胸の唄を……。

 

――Activate "Symphonic Room"――

 

 

 

 とある地より、日本を目指し海上を駆ける黒い影の姿があった。

 

「ッ!」

 

 船を追い抜き飛行機を置き去りに、そして前を飛ぶものを退け進む影の視界にはその地はもう捉えられていた。

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