戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜 作:円小夜 歌多那
乱入者さんたちの沈黙を確認の上で、めらめら燃える鎌を振って火を払う死神さん(たぶん踊君本人)と拳を当てて互いに健闘を称えあった。
「お疲れ様でした!」
「お疲れ」
いや~、アリーナは穴ぼこになっちゃったけど怪我人がいなくてよかったよかった。
え? 踊君はどうしたんだって? やだな~、踊君(多分ディバンスでもサージェでもない人格)は怪我してるけど、あの人は人の枠に填まってくれてないもん。
だから怪我人に含めません。
だってほら踊君って腕吹っ飛んだのに次の日にはほぼ直っちゃってるくらい意味不明な自己修理能力を持ってるでしょ? 脇腹に穴開けた程度じゃすぐに治ると思うんだ。たぶん明日になればけろっとしてランニングでもしてるんじゃないかな。
「協力ありがとうございました」
「当然のことをしただけだ」
知らない者同士と言うことになってるので他人行儀で久し振りの会話を楽しむ。
「それでもですよ。貴方のおかげで皆助かったんですから、お礼くらい言わせて下さい」
「そうか? なら俺からも言わせて欲しい。助かってくれてありがとうと、ここの生徒たちに伝えてくれ」
「わっかりました! 任せて下さい!」
助けた側が礼を言うなんて、皆。はっ? て感じでぽかんとすると思うけどちゃんと伝えておくね! 面白そうだから。
「ではな」
またねー、なんて言ったらちー姉とかの目が怖くなりそうなので背を向ける踊君を見送るだけにする。
「待ってくれ!!」
だけど、踏み込む寸前で誰かが踊君を止めた。
「…………」
「ハァ、ハァ……あんたの名前を教えてくれないか」
補給も修理も途中で終わらせた一兄だった。白式のスラスターが時々ぷすっとなるのはご愛敬……でいいんだろうか? ふらふらだけど無事に着地すると踊君の背中を見つめた。
「人に名を尋ねるならば己が名を先に名を名乗るものだぞ。織斑一夏」
「す、すみません。……て、知ってるんじゃないですか……。えっと、俺は織斑一夏です」
まぁ、そこで寝てる踊君と同一人物だから仕方ない。
「俺はヴァルファだ」
あれ? ディバンスじゃないんだ。死神繋がりでディバンスだと思ってた。
「(イアちゃん、ヴァルファの語源って?)」
『ちょっと待ってて下さいね~っと。ただ今検索中です。……あ、ありました。
「(踊君はいいの?)」
『総称なのでいいんです』
へー。
「ヴァルファさん! ありがとうございました!!」
一兄は踊君に向かい合うと深々と頭を下げた。
「ヴァルファさんの御陰で俺も妹もこうして生きていられます。貴方がいなかったら、俺たちはたぶん……殺されてた。千冬姉や皆とこんな風に暮らすこともできませんでした。本当に、本当に、ありがとうございました!!」
「……礼を言われるようなことはしていない。俺はお前たちの呼び声に応えただけで、それにお前の姉を棄権させてしまったのだろう? すまなかったな」
ただそれだけ述べると踊君は今度こそ空の彼方へと姿を消した。
「死神……」
奴の登場は復旧に当たっていた教師を固まらせた。
それも当然だろう。奴はたった一人で世界中にあるIS関連施設を次々と襲撃しており、奴によってもたらされた被害は尋常ではない。
奴の襲撃で潰された企業も膨大で、裏に少しでも関わりを持った者ならば知らぬものはいないと言われる世界最大の秘密結社『
そんな奴が現れたことに絶望しなかったものはいない。……世界最強と呼ばれたことのあるこの私でさえもその例外ではなかった。
奴が現れた時、アリーナ内部で戦えた者はすでに一人もいなかった。
一夏と凰は補給と改修を行わなければならず動ける状態ではなく、オルコットも二人の護衛という役目があった。唯一戦っていた聖は7機という数の暴力に耐え内3機を撃墜、1機を中破させたが瀕死の重傷を負い打鉄は大破していて行動不能。
未だ暴れる4機の無人機に加え彼の死神を止められるものなどいなかった。例え教師や3年の救援隊が駆けつけたとしても、訓練機程度では一蹴されるのが目に見えていた。
だがそれは杞憂だった。
我々の最悪の予想とは裏腹に死神は倒れた生徒を庇い、無人機を斬り裂いた。さらにマイクを通さずともはっきりと歌が聞こえてくると、フィールドを覆っていたシールドの一部に穴が開き、ニールハートを羽織った響が死神の隣に降りてきた。
そして響はさも当然のように一言挨拶だけすると、共闘を始め3機の無人機を瞬殺した。不思議なことに響の動きに一片の迷いもなく二人の息は歴戦を潜り抜けた戦友のように一致していた。
さっきの歌について事情を聞こうとおもっていたが、それ以外にもいろいろ聞かねばならんことが増えたようだ。
場の制圧を終え死神が去ろうとしていたところを一夏が止め、頭を下げた。そして一夏の口から語られた話は私の知らない話だった。
拉致され連れ去られただけで何もされなかったから「へいき、へっちゃらだ」と聞いていたというのに……。それが、殺されかけていただと? そしてそれを救ったのが死神? いったいどういうことだ?
響だけでも辛いというのに、一夏にも尋問せねばならんのか。はぁ、……腕が鳴るな。
「それで制御は取り戻せたか?」
だがそのあたりのことは後回しだ。優先すべきことは別にある。
「あ、はい! 黒いISの沈黙と同時にクラッキングも完全に沈黙。それにともないアリーナ内全ての指揮系統の掌握を確認しました。もう大丈夫です」
巻き込まれた生徒等のメンタルケアとこれ以降の対策立てだ。
今回は死神が味方として現れたことで事無きを得たが、そうそう都合の良いことが連続して起きてくれるわけがない。死神が助けに来るとは限らんし、来たとしても敵に回る可能性さえもある。
早急に対策を立てる必要があるだろう。
「「「「ひっ…………!?」」」」
頭の痛くなることが相次ぎ、私は無意識に指を鳴らしていた。
『あの~、響さん』
「(ん? どうしたの?)」
あ、何だかすごーくイヤーな予感が……。だいたいイアちゃんが遠慮がちに進言してくる時って、良くないことがもう起こった後なんだよね~。
『一夏さん、オープン・チャンネル切ってませんよ』
ほらぁ~~……、やっぱりぃ~……。
あぁ、鈴ちゃんや箒ちゃんにどやされるぅ。そしてちー姉にお説教を喰らうんだろうなぁ……。
……ガタガタ。
頑張って誤魔化したのに~!! 一兄のマヌケぇ!!
はぁ、この前は面倒で飛ばしたけど、ここまで話されちゃったらもう飛ばすわけにはいかないだろうな。7年前のモンド・グロッソの裏で起きたちょっと悔しいあの事件の真相のこと。
あ、あっれぇー? なんだか急に悪寒が……??