戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

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第弐拾捌話

「では午前の授業はこれで終了だ。午後の授業では今使った訓練機の整備を行ってもらうので、昼休み終了後各人格納庫に班ごとで集合するように。では解散!」

 

「「「はい!」」」

 

 うだ~、疲れた……。特訓とか修練なんか好きだから人から教わることはよくしてるけど、人に教えたことはないからすごく苦労したよ。

師匠方式の感覚便りのやり方が私に合ってたのもあるけど、空気を踏み鳴らす感じでなんて言ったら班の皆から何言ってんの? って冷めた視線で串刺しにされた。

 でも私の班の問題は私が残念だったくらいで問題なく、セシリアさんや鈴ちゃん、あとデュノア君の班にいたっては羨ましいくらい快活に進んでいた。

 

「聖さんがISに好かれていることは知っていましたけれど、あのようなことまでできるなんて驚きましたわ」

 

 その一方で、一兄の班では故意のミスが多発しちゃって、踊君の班でも同じミスが起きたんだけど……

 

「あー、あれね。クラスの子から話は聞いてたけど今でも信じられないわ」

 

 そっか。鈴ちゃんは入学式の時はまだいなかったんだっけ。

 

「転入したばかりで、ISが独りでに動いてる姿を見ることになるなんて思ってもなかったよ」

 

 えっと交代の時にしゃがむのを忘れてしまった子がいたのだ。立ったままでは生徒が乗れないからって山田先生の提案で一兄が次の人を抱えて乗せたんだけど、それを踊君は前提から覆してしまった。

 なんと踊君がちょっとしゃがんでくれないかの、と軽くお願いしただけでISがウィーン! と元気な返事をして膝を折ったのです。

 踊君的には、ISが立ったままじゃ乗れないなら座らせたらいいじゃないか、と馬とか象にでも乗るかのような軽い気持ちで、ありえないことを平然とやってのけてしまったのだ。

 

「妙に聖は好かれてるよな。入学式の時にはISに乗っけられたし」

 

「え?」

 

「UFOキャッチャーみたいにガシッと掴まれてコックピットに運ばれてたんだよねー」

 

「どんだけ好かれたらそんなことになるのよ……」

 

 私だって聞きたいよ。ISを壊す側に立ってそうな踊君がなんでISに好かれてるんだろう……?

 わかんないことは考えてもわかんないから一旦保留してしまう。そんなことよりも今はお腹を満たすのが最優先です。久し振りに持たせてくれた弁当箱に手を付ける。

 踊君お手製の栄養満点ボリュームたっぷりの三段重ねはいつ見てもおいしそう。実際本当においしい。

 

「…………」

 

「箒? さっきから黙ってるけど調子でも悪いのか?」

 

「いや、なんでもない」

 

「ふーん、そうか」

 

 あの、一兄? 私にはちらっと見ただけでも箒ちゃんがふてくされてるようにしか見えないんだけど……。納得しちゃうの?

 

「ところで箒、そろそろ俺の分の弁当をくれるとありがたいんだが」

 

「…………」

 

 さっきの実習の時にそんな話をしてたみたい。

 確かたまたま早く起きたからお弁当を作ったんだけど、たまたま作りすぎてしまったので、たまたま二つあったお弁当箱に詰めてきたんだったっけ。

 話の中に有り得ないくらい偶然がバーゲンセールしちゃってるのに、そこは一兄の唐変木クオリティ。見事なまでにその部分だけ綺麗にスルーして理解してます。

 

「折角ならこれも食べなさいよ」

 

「おう?」

 

「酢豚よ」

 

「お! そりゃありがてぇ」

 

 いいな~。中華料理屋さんの娘なだけ合って鈴ちゃんが作る酢豚は中学の時から絶品だった。あれから1年も経ってると考えるとどれだけ美味しくなったんだろう。

 

「涎を拭きなさい。汚いわよ。全く……。そんな顔しなくてもちゃんと響の分も作ってきてるわよ」

 

「わーい! 鈴ちゃんありがとう」

 

「どーいたしまして」

 

「私のもどうぞ。今朝は少々早く起きられたのでサンドイッチを作ってみましたの」

 

「ッ!?」

 

「うわぁ……」

 

「ねね、私も1切れもらっていい?」

 

「「!?」」

 

「どうぞ召し上がれ。鈴さんとデュノアさんもいかがですか?」

 

「ごめんなさい。僕はこれだけでお腹いっぱいなんです」

 

「え!? え、えっとー、あたしはいいかな-。さっき売店でごはんもかってきちゃっから流石に食べきれないかもしれないし。それより一夏はお腹すいてるんでしょ? 箒に催促するくらいなんだから、セシリアのサンドイッチもぺろりと食べてくれるわよ、ね!」

「なっ!?」

 

 ………………ん? んん? なに、この既視感のある嫌な雰囲気。もしかして私、またどこかで地雷でも踏んだ?

 

「さぁ! どうぞ」

 

「……お、おう」

 

 手をガタガタ震えさせながら一兄はサンドイッチを手に取った。その笑みは満面のまま凍りついていて青白かった。

 

「いただきます……」

 

 そして観念して食べた一兄は百面相を始めた。赤に黄に紫と顔色まで変化しちゃってるし、いったいサンドイッチに何を挟んだらそんな惨劇になるのか不思議です。

 て、悠長に観察してる場合じゃないんだって。このままじゃ次に犠牲になるの私だよ。でもどうしようもない……。鈴ちゃんを見たらセシリアさんの死角で両手を合わせて黙祷を捧げていた。

 

「一夏さん、お味はいかがですか?」

 

 どう見てもよろしくないと思う。セシリアさん、一兄の顔をよく見てから聞いてあげてください。血の気がなくなってるから……。

 

「お、おう。いいんじゃないかな。ほら、響も食べてみろよ」

 

「うぇっ!?」

 

 差し出されたセシリアさんの見た目だけいいサンドイッチ……。一兄の身体からずっと噴きでてるヤバいくらいの汗でどれくらい酷いものなのかは想像しがたくない。でも言っちゃった手前今更受け取らないわけにもいかなくて渋々でも食べます。

 

「ハグッ!…………ッ!?」

 

 なにこの意味不明な味……、甘いくて辛いくて苦いくて酸っぱくて塩っぱくて渋いなんていう味覚全部を出鱈目に刺激する謎めいたもので、しかも鼻に抜ける匂いで嗅覚まで変になる。そして見た目がたまごサンドなのに食感がスライムっぽいのは何故だろう?

 なんだか視界が霞んで……。

 

「おぉ、皆ここにいたか。……ん? 響と一夏殿はどうかしたのか? 百面相の練習でもしているようだが」

 

「これよ」

 

「サンドイッチ? これか? もらうぞ」

 

「踊君、ちょ、スト……」

 

 気持ち悪くても言わなきゃと思ったけど、二足くらい遅かった。別の種類のサンドを口に入れていた。

 

「ハムッ。……む、グリコールだと? これは酷いな。これは誰が?」

 

「わ、私ですわ。酷いとはどういうことですか?」

 

 賢明に誤魔化した言いづらいことを踊君ははっきりともの申した。

 

「セシリア嬢、もう少し注意力を養った方が良いぞ。個人の自由ゆえ胡椒やカラシの量がいくら多くとも我は問わぬが、同じ塩だからと洗顔用の塩を代用にするな。口に入れるものに石けんを使うのは止めるように。それとマヨネーズを自作したようだが酢を入れすぎだ。しかも何故よりによって特に酸っぱいバルサミコ酢を持っているんだ……、塩は持っていないくせに。それと油と油落としを見間違えているぞ」

 

 ……たった1つのサンドイッチを作るだけでどんだけミスを詰め込んだら気が済むんだよう。外国人だからって調味料と洗剤の区別くらいはできてよ……。洗剤だったら特有の匂いがするし、混ぜれば泡立ちそうなんだけど……。

 

「……個性がありませんわ」

 

 そんな個性は滅んでください。

 

「君は死者を出したいのか? いや、この場合はむしろ君が先に死ぬかもしれんが」

 

「それはいったい?」

 

「今回は酸性と中性で問題なかったが、下手をすると調理中に中和で有毒ガスが発生していたかもしれんということだ。多少は中学の化学で習っておろう」

 

「「「あぁ~……」」」

 

「な、なんですか、皆して!」

 

 いつものセシリアさんしか知らなかったら、まさかで済ませられたのに今この手元にあるものを見てしまうと、ありそうで否定できない。

 

「次からは個性を求める前に安全を優先するようにな」

 

「はい……」

 

 しょんぼりとセシリアさんは答えた。

 

「そう落ち込むな。次に気を付けたら良いのだ。少ないかもしれないが、とりあえずこれでも食べろ。午後もまだあるのだぞ」

 

「え、ですがこれは……」

 

 そう言って取り出したのは踊君のお弁当だ。それは味の確認と食べてる体裁を保つためのものだから私が持たされたものの一段分の半分にも満たない少量だったけど、事情を知らないセシリアさんは当然躊躇った。

 

「気にするな。我はもともと食が細い故、昼はあまり食べんのだ。人がいる手前食すようにしているだけで抜いた方が断然体調は良くなる」

 

「それではお言葉に甘えていただきます」

 

 プロ顔負けの踊君の料理に目を丸くするセシリアさんの顔を楽しみながら、私たちはそれぞれの昼食を済ませた。

 

 

 

 放課後、のほほんちゃんがよく似た先輩に連れ去られてしまい、一人で部屋に戻ることにした。本当ならこのまま一兄の特訓を手伝う予定だったんだけど、件のあれで私も一兄も若干体調不良気味になってしまって、大事を取って今日は大人しく休むことになったのだ。

 その時、鈴ちゃんや箒ちゃんに「あの響の胃がやられた!?」と、どういう意味なのか非常に気になる驚き方をしてくれやがったので、詳しくO・HA・NA・SHIさせてもらったけど私は悪くない。

 

「ただいま~」

 

「おかえり」

 

「あれ? 踊君いたんだ」

 

 返事はないと思っていたからちょっとびっくりした。いつもは女子の部屋に一人長居するわけにも行かないとか理由付けて、ギリギリまで遠出してるのに。

 

「響に聞きたいことがあるのだ」

 

「なに?」

 

「シャルル・デュノアのことだ。響はあの者をどう思う?」

 

 態々聞くってことはシャルル君には何か後ろめたいことがあるんだとすぐに察した。そして私に気付かれることを承知で聞くのだから、踊君自身もシャルル君のことを悪い人だと思っていないのもわかったので、思ったままのことを話すことにした。

 まあ、気付かなくても話すことは変わらないんだけどね。

 

「シャルル君はとっても良い子だと思うよ。他の人との会話がちょっと余所余所しいというか無理してる感があるけど、打算があるようには見えないかな」

 

 偶に見せる暗い顔が気になる程度だ。

 

「そうか。やはり響にもそう見えるか。これはいよいよもって動く必要があるようだ」

 

「踊君たちのしてることは大体わかってるから、危険なことをしないでなんて言わないけど、あんまり無茶しないでよ」

 

「危険も無理も無茶もする奴が言えた台詞ではないと思うが」

 

「うぅ……、反省してます」

 

 心配して突いたそれは蛇のいる藪だったらしい。返された言葉に呻くことしか出来なかった。

 

「少しばかり用事ができた。少し出てくる」

 

「いってらっしゃい」

 

 私はずーんと落ち込んだのまま踊君を見送った。

 ……でもこの時ちゃんと踊君の顔を見ていたのなら、後に起きたあれに驚くことはなかったかもしれないな。その時の踊君の顔は怒りに満ちたちー姉にも劣らない、とても恐ろしい顔をしていたらしいから。

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