戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜 作:円小夜 歌多那
「えっとね、たぶん一夏がオルコットさんや凰さんに勝てないのは、単純に射撃武器の特性を把握してないからじゃないかな」
唐突で失礼。今日は土曜日、デュノア君が転校してから数日が経ちました。
「そ、そうなのか? ……これでも一往わかってるつもりだったんだが」
IS学園では土曜日の午前中は理論系の座学が入っています。それで午後は自由時間になっているんだけど、土曜日はアリーナが全面開放されてるから大抵の生徒が実習に当ててるから自由っていう建前だったりもする。
「うーん、知識として知っているだけって感じかな。さっき僕と戦ったときもほとんど間合いを詰められてなかったよね」
「うぐっ、確かに瞬時加速も読まれてたんだよな……」
で、私たちもそんな生徒の集まりで、ついさっきまで一兄とデュノア君が試合をしていた。結果は二人の会話の通り一兄が完敗して、今はデュノア君のレクチャーが行われています。
「一夏のISは近接戦闘しかできないから、より深く射撃武器の特性を理解しておかないと試合じゃ使い物にならないよ。特に一夏が使う瞬時加速は直線的だからいくら速くても軌道予測は簡単なんだ」
「直線的か………………ん? 響はどうなんだ?」
「ふぇ?」
一兄に名指しされて、確かにと思ってしまった。私に力を託してくれたガングニールもニールハートも曲線的軌道がとてつもなく苦手だ。できても腰のスラスターを使ってようやく数度変えれる程度でユニットやバンカーなんかホントに真っ直ぐだ。……撃槍だもん。
「えっと、響は…………………………規格外? 一夏以上に直線的だけど、信じられないことに瞬時加速に似た超加速を一回二回どころかエネルギーが持つ限り延々と連続使用できるし、それを衝撃として放つことで減速もできるから、人外染みた反射神経も合わさって軌道予測が難しいんだ。それはもう織斑先生に次ぐレベルって言ってもいいくらいに」
「そうなのですわよね……。後ろに回られたと思って動き出した時には、既に即時反転して目の前を横切るなんてことも少なくありませんし」
「あの人は予測の前に軌道そのものが見えないせいだけど、響も大概なのよね。この前だって、横を抜けらんないように槍で妨害しようとしたら、上に逃げられたし。……メートルもないギリギリの所で突きだしたのに躱すって、どこの化け物よ」
「私もちゃんとした人間だよ!」
私が人間じゃなかったら、二課の人達はなんと呼べば良いのかわからないじゃないですか。師匠こと風鳴弦十郎はコンマ以下の駆け引きでノイズを制する動体視力と反射神経の持ち主だし、マネージャーの緒川さんも忍者の末裔で速さだけなら師匠以上、動体視力も師匠並みで、アーティストの翼さんは刀で銃弾切れるし、ツンデレなクリスちゃんだって自分は真面なんて言ってもビリヤードができるぐらい私なんかよりもよっぽど化け物染みている。
うん。やっぱり私は普通の人間です。
『……
………………あっ。
『むしろ響さんが二課内筆頭なのでは?』
……だ、大丈夫。踊君が!
『元々、あの人は自分を人間だと位置づけていませんよ』
…………そ、そんな……。
「ど、どうしたのよ? 急に落ち込んで」
「ううん。ちょっと突きつけられた現実が辛くって……」
「そ、そんな真に受けなくても」
そうこうしている内に、一兄がデュノア君から一丁の銃を借り受けていた。
「確か白式には後付武装がないんだよね。それじゃあ、これを使って」
「お、おう?他のやつの武器って使えないんじゃなかったか?」
「普通はね。でも所有者が使用許諾をだせば、その人たちも全員使えるんだ。許諾は出来てるから一夏撃ってみて。射撃訓練スタートだよ」
「おう!」
何処からその自信が湧いてくるのか、意気揚々と的を狙い撃った。
「うぉっ!?」
ISなら多少相殺できるといっても反動はあるみたいで、へんな方向に飛んで行った弾に驚いていた。
「想像以上に反動でかいな。みんなこんなん撃ってんのか」
「もっと脇を締めて。左腕はこっちに」
ISで浮けるから割とある身長差も関係なく、デュノア君は一兄の体を正しい姿勢に導いていく。
「あとセンサー・リンク出来てる?」
「銃器に使うときのだよな?さっきから探してんだけど見当たらない」
「普通は入ってるんだけど……」
「欠陥機らしいからな」
「そっか。仕様がないから目測でやるしかないね。その体制のままもう一度撃ってみて」
外れたものの最初よりはずっとましだ。……かすっただけでも。
「どう?」
「んー……。なんかアレだな。とりあえず『速い』っていう感想しかない」
「うん。速いんだよ。一夏の瞬時加速も速いけど、弾丸は面積が小さい分より速い。だから軌道予測次第で簡単に命中させられるし外れても牽制にできる。いくら一夏が集中しても、心のどこかでブレーキがかかちゃうから余計にね」
「だからすぐに間合いが開くし、攻撃も止められないのか」
「そうだよ。あ、そのまま続けて。1マガジン使い切っていいよ」
「おう。サンキュー」
そして一兄はまた撃ち始めた。
「ところでデュノア君のISって、ラファールであってるの?」
「うん、そうだよ。あ、でも僕のは専用機だから先生が使っていたものよりもかなりいじってあるんだ。それにこの子の正式名も『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』で別者なんだ」
デュノア君のラファールは訓練機と違って、ネイビーカラーの隠密っぽそうなのとは真逆の明るいオレンジや黄色がメインで、装甲も大幅に――それでもニールハートほど薄くない程度に――軽量化され動きを遮らない仕様になっていた。
「基本装備を幾つか外して、その上で拡張領域を倍にしてあるんだ」
「ほぇー……」
機動性と戦術の幅が売りなのかな。戦闘方が近づいて殴るや近づいて斬るしかない私達には、臨機応変型は味方となるととても心強く、敵になると極めて厄介な子になる。
敵にしないように心掛けたほうが良さそうだ。
「ねえ。ちょっとアレ……」
「ウソッ、ドイツの第3世代型?」
「まだトライアル段階だって聞いてたのに……」
なんでだかアリーナ内が騒がしくなってきた。一兄の練習も一区切りついたから、ちょっと様子を……て思ったら、噂の人は私達を目指していたようですぐそこまで来ていた。
「やっほー、ボーデヴィッヒちゃん。どうしたの?」
「ちょっと、響さん!?」
「おい」
むぅ……、無視されてしまった。
ボーデヴィッヒちゃんの目に映っているのは一兄ただ一人みたいです。お話はいつでもできるから今日のところは引いときます。
「……なんだよ」
出会い頭に平手打ちされそうになったこともあり、一兄の返事はすっごい不機嫌なものだった。
「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話は早い。私と戦え」
何がそうなったらそうなるんだか……。取り巻き化したもの同士で疑問符を浮かべ合う。
「イヤだね。理由がねぇ」
「貴様になくとも、私にはある」
んー? どんな理由なんだろう?一兄がちょっかい出すとは思えないし…………ドイツ、ちー姉、軍人さん?
……あー、あれだ。そこまで考えてようやくわかった。ひそひそ声で前に話した三人の答えと照らし合わせてみよう。
せーの、
「「「「モンド・グロッソの決勝戦」」」」
疑う余地なく、満場一致でこのまえ話したあれが根っこだったらしい。
悲しいけど、それだと恨まれても仕方ないのかもしれないや……。
……あれ? それなら私も当事者じゃん!?