戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

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第参拾壱話

「何故こんな場所で教師など!!」

 

 それは朝のランニングを終えた帰りのこと、怒りを露わにした女の子の声が廊下に木霊しているところに居合わせてしまった。

 

「やれやれ……」

 

 憤ってるのがラウラちゃんで呆れてるのがちー姉だ。このまま聞かなかったことにしてお部屋に戻れたら嬉しいんだけど、残念なことにこの廊下を通らずに帰るには来た道を引き返し校舎を出て外をぐるっと大回りしなきゃダメになる。

 ちょっと面倒だし、ちー姉のことだから簡単にあしらってしまえそうなので待つことにする。ついでに聞き耳も立てちゃう。

 

「何度も言わせるな。私には私の役目がある。ただそれだけだ」

 

「このような極東の地で何の役目があるというのですか!」

 

 簡潔にちー姉は反すものの、わざわざ朝から突っかかる子が素直に聞く訳がなく不満をぶつける。

 

「お願いです、教官。我がドイツで再びご指導を! このような場所ではあなたの能力は半分も生かされません!!」

 

「ほぅ?」

 

「大体、この学園の生徒など教官が教えるに値する人物ではありません!」

 

 ちょっぴりムッとしたのはここだけの話、気持ちを抑え込んで吐き出されるラウラちゃんの思いの丈を聞き止めることに集中する。原因の一端は私にあるから、これくらい甘んじて受け入れます。

 

「ここの者達は意識が甘く、危機感にも疎い。ISをファッションかなにかと勘違いしている。その程度の認識しかもてない者達のために教官が時間を割かれるなど――」

 

「そこまでにしておけ、小娘」

 

 っ!? 軽々と千冬姉から放たれたプレッシャーは重く、空間が支配されたように錯覚する程凄味を含んでいた。直接言われたわけじゃない私でこれなのに、それを目の前で受けたラウラちゃんは身を竦ませ凍てき、言葉を失った。

 

「少し見ない間に随分偉くなったな。十五歳でもう選ばれた人間気取りか。恐れ入る」

 

「わ、私は……」

 

 辛うじて口から零した声は震えている。恐怖に呑まれた、て言うのかな。圧倒的強者が放つ力への恐怖、そして崇拝するかけがえのない相手に嫌われるという恐怖。

 

「さて私にも予定がある。さっさと部屋に戻って用意をすませてこい」

 

 そして押し黙ってしまったラウラちゃんを急かしちー姉は職員室に戻

 

「そこの女子。盗み聞きか? とやかく言いたくはないが異常性癖は感心しないぞ」

 

「な、なんでそうなっちゃうんですか!? ちーね――うぎゅっ!!

 

「学校では織斑先生と呼べと言ったはずだが?」

 

「は、はい……」

 

 授業前くらいいいじゃん、なんて言うと出席簿の餌食に……って、なんでここに出席簿?

 

「そら走れ。こんなところで性癖をさらけ出している暇があるなら少しでも自習に当てたらどうだ。実技のトーナメントはともかく、このままでは学習面での中間で補習になるぞ」

 

「うげっ、じゃ、じゃあ失礼します。あと違いますからね!」

 

 忘れようとしてた"し"から始まるあれを聞きたくなかったので逃げる。そりゃもう走らないギリギリな速度で部屋に逃げ帰った。でも高圧な態度の裏でちー姉が意外とクラス一人一人に目を掛けているのを知れた朝でもあった。

 

 

 

「あの噂?」

 

 教室に入った途端皆から一斉に詰め寄らた。あの噂が本当なのかと聞かれるんだけど、そもそもその噂がなんなのやらわかりません。

 セシリアちゃん達も興奮してるみたいだし……また一兄が何かやったのかな、って隣のクラスのはずの鈴ちゃんもいる時点で原因が一兄なのは確定だった。

 

「その噂ってどの噂?」

 

「え、えっとー……」

 

「あ、あのそれはですね……」

 

「月末の学年別トーナメントとで優勝したら好きな男子生徒と交際できるって噂があるんだって~」

 

 二人とも顔を赤くして言葉に詰まってしまったから助かるんだけど、なんでほほんちゃんが知ってるのかな……、一緒の部屋にいて一緒に来たはずなのに。私、その噂初耳なんですけど。

 

「そ、そうなのですわ。それで話題の内、聖さんと織斑君の義理兄弟の響さんでしたら何か噂について知って――」

 

「俺がどうしたって?」

 

「「「きゃぁあっ!?」」」

 

「ちょっ、なん!?」

 

「な、なんだ!?」

 

 一兄の登場に総毛立って、皆が私を押し出した。いや、ホントなんで皆揃って私を変わり身にするの! 別にそれ自体は構わないけどいきなり押すのは止めて欲しい。

 

「何の話をしてたんだ? なんか俺の名前が出てた気がするんだけど」

 

「なんでもな……くもないのかな? さいきッムグ!?」

 

 あーだ、こーだ、誤魔化しても面倒なのでスパッと聞いちゃえと思ったら、口がふさがれた。……あと鼻も。

 

「そんなことなくなくもなくってですわよ?」

 

「そ、そうアルよ、一夏の気のせいじゃないアルか? じゃ、じゃああたし自分のクラスに戻るわるわいね」

 

「そうですわね。わ、私もそろそろ席に戻りゃなしませんと」

 

「一体何なんだ? 二人とも言語が滅茶苦茶だぞ」

 

「いつもこんな感じよ」 ←セシリアさん

 

「いつもこんな感じでしてよ」 ←鈴ちゃん

 

 二人とも落ち着いてよ! 二人とも逆だから、口調入れ替わっちゃってるから! それと、

 

「ムゥー、ムゥー!」

 

 このままじゃ私死んじゃう。窒息死しちゃうからそろそろ呼吸させて下さい!

 

「あ、忘れてましたわ」

 

 こ、恋する乙女怖いです。危うく意識が刈り取られるところだった。勝手に押し出しといて、なんで私がこんな目にあわなきゃいないんだろう……。

 私呪われてるぅ……。あ、久々に使ったかも。昔はこの言葉口癖なんじゃないかってくらいよく使ってたのに最近思わなくなったなー。いつから……あべしっ!?

 

「何時まで立っている。すでに朝礼は始まっているぞ。席に着け」

 

「先に声かけて下さいよぉ~」

 

「知らん」

 

 今日は朝から2度もありがたい出席を取られてしまうとは……、うぅ、頭痛い。あと箒ちゃんが放つ怒気が怖い。瞑目し続ける踊君が不気味……。

 

 

 

「一夏、響、今日も放課後特訓するよね?」

 

「もちろん!」

 

「ああ、やるぞ。今日使えるのは……」

 

「第三アリーナだ」

 

「あ、箒ちゃん。許可取れたんだ?」

 

「なんとかな」

 

 廊下で揃って歩いていたら後ろから箒ちゃんが教えてくれた。今日もIS使用が認められたようで嬉しそう。

 

「なら早く行かないとな。折角箒も参加できるんだし時間がもったいない」

 

「今日は使用人数も少ないと聞いている。時間が空けば模擬戦もできるかもしれないぞ」

 それは良いことを聞いた。早く行けばそれだけ戦えると。

 

「燃えてきたぁっ!」

 

「「「響には戦わせない(よ/ぞ)」」」

 

「うぇっ!?」

 

 周りが危ないからと模擬戦を禁止されてしまった。上げるだけ上げて落とすなんてなんて嫌がらせ。ふてくされながらアリーナを目指す。

 

「なんか騒がしいな?」

 

「騒がしいと言うよりも、慌ただしい?」

 

 入り口に近づくにつれてアリーナ内にいた生徒達が出たり入ったりして、なんだか皆大慌てになっているみたい。

 何があったのか聞こうとしてもそれどころではない感じで進むことに。

 

「何かあったんだろうね。ちょっとこっちから見ていこっか」

 

 デュノア君が指差したのはピット側ではなく観客席側に続く廊下だった。ピットに直接向かっても良かったけど、デュノア君の言う通り上から見れるぶん観客席の方が状況確認は簡単だから、提案に乗って観客席へ足を運ぶ。

 そして階段を上りきった私はアリーナの中を見て、

 

「「なっ!?」」

 

「セシリア、鈴!!」

 

 ……切れた。

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