戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜 作:円小夜 歌多那
そこでは3人の生徒が戦闘を行っていた。
内二人は犬猿の仲なのでは? と思われるほど、激しく争いいがみ合うセシリアと鈴だ。実際の所は一夏関係でライバル的な立ち位置ゆえに競っているだけで2人が不仲なわけではなく、現にこの戦闘では共通の理由で共闘していた。
その2人と対している生徒はドイツ軍特殊部隊が1つ、踊の第5の人格イートと名乗るものが信頼した部隊の隊長であるラウラ。1対2の戦闘にも関わらず2人を嘲笑い、そして機体を半壊させるほど圧倒していた。
「どうした、もう終わりか?」
この3人が争っているのは、ラウラがいくつも放った挑発の内のたった一言が原因だった。
数しか能のない国や古いだけで取り柄のない国、なんてことも言われはしたがその辺りは別にどうでも良い。代表候補生としての態度を改めて考えることになったセシリアは勿論のこと、ただ必要だったからというだけで候補生になり、ラウラの誹謗もあながち間違ってないと思っている鈴には受け流せる程度の些細なことでしかないのだから。
しかし、だ。ラウラが言った最後の言葉だけは聞き流すわけにはいかなかった。それはそうだろう。自分達の愛する者を『下らない種馬』などと言われたのだ。それをはい、そうですかで流せる奴が何処にいる? さらに言えば2人とも一夏関係で荒れる激情は人並みの堪忍袋の許容範囲を軽く超えてしまう量を沸々と湧き上がらせるのだ。
そんな規格外の憤怒を無理矢理詰め込まれて袋の緒が爆ぜない筈がない。
「まだ、まだ! こんな程度で音を吐いたりしないわよね、セシリア」
「ハァ、ハァ……、私を、誰だと思っていますの? これくらい、余裕でしてよ。貴女こそ、私の足を引っ張らないでくださいませ」
ISも身体ももうボロボロで立つのもやっとというのに、それでも2人は体を起こし互いを罵り合うことで心に発破を掛け奮起させる。
「ふんっ」
「「ッ!!」」
直後、2人の中間を抉るように閃光が駆け抜けた。苦痛に顔をしかめてでもラウラから目を離しはしなかったために、左右へと散ることで難を逃れたが、閃光に抉り取られた地面を見るとその威力は容易に推して量れた。
聖遺物製のニールハートのバンカー機能や対ISには絶大な効果を持つ白式の零落白夜には届かずも、IS武装中屈指の威力を誇っている電磁大砲『レールカノン』の一撃は2人の装甲を貫くには十分と言える。
「こんのぉっ!!」
鈴が気合で天に哮り、そして両肩の二門の砲『龍砲』が共鳴し咆える。
「無駄だ。このシュヴァルツェア・レーゲンの停止結界の前ではな!」
手をかざしただけでラウラを狙っていた見えざる砲弾が掻き消えた。
「くっ! いったいなんなのよ。こうも相性が悪いなんて……。」
候補生でしかない鈴が知らないのも無理はない。中国が空間圧に干渉する武装を独自に開発していたように、ドイツにも同じように水面下で研究されている武器がある。
だが鈴に考える暇はない。何かしらの妨害で無力化されるや否や、ラウラが攻撃に転じていた。
レーゲンの肩に格納されていた一対のナイフが打ち放たれる。ナイフは通常では有り得ない複雑な軌道を描いたものの偶然放った1つが命中し、鈴の足下に突き刺さる。
「これ以上好きにはさせません! 行きなさい!」
「ハッ! 理論値最大稼働のフレキシブルならいざ知らず、この程度の練度で第三世代型兵器とは笑わせる!」
セシリアの元を飛び立った2機のビットがラウラを囲み、その精確無比な射撃が狙撃を交えた射撃が開始された。だがその死角外からの射撃にもラウラは反応し避ける。あまりにもセシリアが正確すぎたのだ。さらにラウラには極一部を除けば他の誰よりも実戦経験というアドバンテージがあり、狙いを隠すことを真面に知らないセシリアは余りにも攻略しやすかった。
先程と同様にラウラは腕をビットに向けた、それも左右で飛翔する2つ一片に。そして腕の延長線上とビットが交錯瞬間、時が止まったように2つはピタリと停止した。
「っ!?」
『
とはいえ欠点がないこともない。
「どういう原理かはわかりませんが、これで動きが止まりましたわね!」
AICはその名の通り結界のようなものを張るため展開と維持にバカにならない集中力が要求される。いくら実戦経験があるといってもまだ15、6の子供でしかないラウラが止まってしまうのも無理はない。
セシリアはそれを隙だと断定し、ビットの操作を止めライフルを構えた。が、果たしてどうだろうか?
「……貴様もな」
確かにライフルの引き金は引かれた。だが、それとほぼ同時、ラウラのレールカノンも発砲されており引かれ合うようにして衝突した2つは互いを殺す。
「……えっ?」
それこそが隙を生む一端となる。体勢を立て直しラウラの気がセシリアに向く瞬間を待っていた鈴の足下に何かが絡みつく。咄嗟に下を見るとそこには黒いワイヤーが……。
いつの間に? ワイヤーに引っ張られる最中で考えたがその先端に括り付けられているを見れば答えは一目瞭然だった。
「「きゃぁっ!?」」
ラウラの元に手繰り寄せられるワイヤーにナイフごと引き摺られ、鈴はそのままセシリアと激突させられる。
『『--
2人のISが自身の損害が甚大だと我鳴り始めた。
両機共にシールドエネルギーは極僅か。甲龍は右の垂れが熱で爛れ落ち、腕の装甲からは火花が、さらにさっきので左足と左翼のスラスターが拉げてしまっていて、ブルー・ティアーズも右足の装甲が役割を果たせない程に破壊され、よく見れば背中で漂っていたはずのビットの片翼が地面に突き刺さって停止していた。
「これで終わりだ」
「「ッ!!?」」
既に結果は見えているはずなのにラウラはレールカノンを撃つことを躊躇いもしなかった。誰も間に合わない、誰にも止められない、誰もが見ているしかない。
ただたった一人……、否たった一匹の獣は動いていた。
「……なにを…………やってるの…………………………?」
見ていた生徒も当事者もその直前に歌を聴いていた。だから彼女がここにいてこうして止めに入ることに戸惑いはなかった。
しかし目の前の光景は誰も想像していなかった。
「な、なんだ……、貴様は……!?」
響がレールカノンをニールハートの掌で掴み取っていた。それは別に可笑しなことじゃない……、ただしそれは普通に展開していたのならの話だ。響が身につけていたのは受け止めた手を覆うガングニールの手袋、たったそれだけだった。
「離れ…………てて……………………」
「ひ、響?」
最初に展開された手から順にニールハートの装甲が響の周りに出現していき、乱闘騒ぎを見ていた全ての者に恐怖を抱かせた。
本来白であるはずの部位は赤黒く染まり、太陽のように暖かな橙も黒が禍々しいものへと変色していたのだ。ISが緩衝材として存在しているためかかつての暴走よりは幾分かマシではあるが、それでも一般から見たら恐ろしいものなのに変わりはない。
「響……、織斑響か! そういえば貴様もいたな。ちょうどいい、まずは貴様を下ろす。……ハァッ!」
プラズマブレードを展開し瞬時加速で仕掛けるも響は拳骨一つで完璧に向かい撃ち、相殺どころかブレードごと殴り飛ばし発射口の根元を圧し砕いて押し返す。
「……ッ! …………ゥグガァァアッ!」
「ぐッ!?」
仰け反り崩れた姿勢に理性の枷が外れ本能に忠実になった響は数回転で勢いの増した回し膝蹴りをラウラの腹部へと突き刺す。そして足が地面に着いたと思えば、吹き飛ぶラウラの眼前に。
「ちぃっ!」
決して少なくない経験がなんとか告げた知らせは、ラウラを左へと滑らせた。それは正拳突きもどきを避ける結果へと繋がり、さらに続けざまに繰り出される裏拳を停止されることへと至った。
「グラァァッァアアア!」
「な!? 力尽くでこの結界から抜け出す気か!?」
停止結界に囚われてなお、響は暴れることを止めない。普通そんなことで破壊できるような柔いものではないのだが、ほとんど野獣と言っても良いくらいに人から逸脱してしまった動きに対応できるほど柔軟性がなかったのだ。
「ガァァアアァアアアアアッ!!!」
「間に合え!」
抜けられる前に仕留める、と驚きから意識を切り替えラウラはレールカノンの威力を最大まで引き上げそのまま砲弾を解き放つ。また響もAICを強制的に破り鋭く尖らせた指先をラウラへと突き立てようとしていた。
「「「響ッ!!」」」
互いの全力が交錯するその時を見ていた者達は再び目を疑う光景を目撃することになった。ただそれは悪い意味ではなく、この場を抑える最強が割り込む瞬間であったためだ。
「やれやれ、これだからガキの相手は疲れる」
どこからともなく現れては生徒に天誅を下す出席簿が大砲を斬り裂く。真っ直ぐ突き出された手刀の前には無造作に掲げられた片手があり、さも当然のように捕まれたと思えば地面へと叩き付けられた。
「き、教官」
「きゅー…………」
蛇に睨まれた蛙とでもいいか、ラウラは鬼の形相をした千冬を正面から見る羽目になってしまって子兎のようにプルプル震えていた。響のほうはさっきの一撃で既にノックアウト済みで、踊や翼が暴走響を抑え込むのにした苦労はいったいなんだったのかと悲しくなるくらい、見事に伸びていてもうご愁傷様としか言えない。
織斑千冬の実力の一旦を垣間見ることとなった人たちも人たちで唖然とか呆然とかいう言葉を置いてけぼりにした何とも言えない静寂な空気に包まれている。
「模擬戦をやるのは別に構わん。……しかしアリーナのバリアを破壊する事態にまでなられては流石に教師として黙認するわけにはいかん。この続きは次の学年別トーナメントでつけてもらおうか」
「は、はっ!」
今までの威勢は何処に行ってしまったのやらビシッと敬礼し、そう答える。それを見届けた上で離れた所で待機していた一夏とシャルルに声を掛けた。
「織斑兄、デュノア。すぐに織斑妹も保健室に連れて行ってやれ」
「わ、わかりました」
最後に辺りを見渡して千冬は宣言する。
「これ以降学年別トーナメントまで私闘の一切を禁止する。いいな!」
「「「「はい!!」」」」
パンッ、と千冬は手のひらを強く打ち鳴らす。銃声よりも大きなその音はアリーナ全体へと伝わっていくのであった。