戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

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第参拾伍話

 暗い暗い闇夜の中で、私はリズムを刻みましょう。塞がる塀は飛び越えて~、幾重の瞳は移せない~、っと。

 

「フフフッ、時間は掛かりましたが準備も整ったことですしそろそろ乗り込むとしますかね」

 

 後輩君からの催促が日に日に増して大変でしたが、ようやく解放されますね。そびえ立つ大きな建造物――デュノア本社の正門で一度足を止める。

 デュノアの父がいるであろう上と悪行を働く下を処理する算段を整えるためです。

 踊やデス辺りでも呼べたなら上下で分担するなんて手が使えたものの、今の私は死神、人知を越えたった一人で様々な場所を瞬時に襲撃していくものと知られているため、二人の死神を同時に動かすわけにはいきません。そのようなことをすれば活動に大きな影響が出てしまうでしょうし。それに後のことを考えるとね。

 ふふ、ここから先はいつも以上に慎重にそれでいて世界へ拡散させるため大胆に、で遂行しなければなりません。

 

「社長さんの動向を知るためにも、やはりここはまず下を押さえるべきですね」

 

 下、それは一階や二階という下位層という意味ではなく、文字通りの下、それもB1やB2という地下駐車場よりもさらにその下、本社の設計図にも載せられていないB4階以降の悪戯の温床となっている場所です。

 日夜非人道的実験が行われ、幾千万の裏金を用い幾多の兵器が作られているそこは私が調べきた外道を超えるものを隠しています。

 何故そんなことを知っているのか? フフ、すでに一度進入してますからねぇ。その時に粗方の情報的証拠は押さえさせて貰ったのです。では今回の意味はないのでは、と思うでしょうが、あながちそうでもないのです。

 情報的証拠はあくまでも見聞でしかありません。なのでいくらああだこうだと他者が声を荒げたところで物的な証拠を消されてしまえば全て無意味。それに私は死神なのです。こそこそ忍び込んで物を世に出すなどと言う恥ずかしいマネはできません。

 故に私は彼の鎌を手に構える。

 

「さぁ、パーティーの始まりといたしましょう!」

 

 門を切り伏せる。当然警報がけたたましく鳴りますが、そんなもの関係ありません。細切れの鉄柱を踏み越え社内へ……は行かずその少し手前で鎌を真下に振り下ろす。

 B1、B2、そして1階分のセメントを切り崩し、降り立った隠し層。わざわざここを選んだのにもちゃんと訳があります。本来ならば真っ暗といっても過言ではないでしょう場所、月明かりに照らされ見えてくるのは…………大量の銃火器。それもIS用ではなく人が使うことを前提にした物のみ。

 

「まずは一つ」

 

 これが私たち死神の情報的証拠というものの使い方。襲撃時に物的証拠を効率的に集める糧とし、そして全てを知っていると対象者に告げる福音となす武器とする。

 誰にも入ってこられないように残っていた天井を大まかに切り落としてしまう。それと扉の位置を確認し……ふむ、一つのようですね。

 部屋を後にし、入れないように出入り口も瓦礫で塞ぐ。これでもうこの場所の隠滅は出来ません。

 

「次々参りましょうか!」

 

 捕まえに来た屈強な男は石突きで首を穿ち意識を刈り、また数名いるIS乗りは刃で武器を斬り捨て無力化して通り過ぎる。前情報で仕入れていたISの兵器化計画の証拠となる部屋を出入り不可に変えていく。

 そして残りは後一箇所。

 

「チッ、虫酸が走る……」

 

 おっと、いけない。素が出てしまいました。

 そこに広がっていたのは牢獄、中を見ると傷だらけの者ややせ細った者など男女様々な者が収容されています。……それも子供ばかりが。

 

「……みなさん、もう大丈夫ですよ」

 

 全ての鉄格子を潰す。

 

「……だ、誰?」

 

「死神――尊き死を司りし者です」

 

「死に……神さん?」

 

 あ……、これは少々失敗してしまいましたね。一人の少年に問われたのでいつも通り答えたのですが、このような状況で死神などと名乗っては怯えられてしまいます。

 どうしたものかと思った矢先、少年の表情を、そして言葉を聞いて唖然としてしまった。

 

「そっか……」

 

 とても安らかで嬉しそうな笑みを少年達は浮かべていました。

 

「僕達……やっと死ねるんだね」

 

 そしてそう涙を流して呟いたのでした。

 

「死なせなどさせません。絶対に私がさせません!」

 

「……え?」

 

「このような場所で惨めな死を君達が遂げる謂われなどありはしません。私は尊き死を司る者、悪しき死はさせて堪るものですか!」

 

 死んだ魚のような目をしてしまっている少年たちを先導して、上に……。

 

『残念だったな、死神。ここに来たのが運の尽きだ。殺れ』

 

「私の邪魔をするな」

 

『な……に……!?』

 

 複数の巨大な何かが戯れ言をほざいていたような気もしますが、所詮塵芥でしかないものです。気にしない。一閃で黙らせる。

 

「うそ……。あの化け物を一撃だなんて……」

 

 全てを輪切りにし地上へ出る。そこで見たのは警報に呼ばれて何百人の警官が武装し正門前に鎮座している姿です。それも皆、私が正しき義を持つ者と判断し『死神の襲撃』があるかもしれないので待機した方が良いとリークしていた騎士た乗り手の方々。

 皆突然現れた数多くの子供達を見て目をしばたかせていますが、まぁ良いでしょう。

 

「お行きなさい。彼らなら君達を守ってくれるでしょう」

 

「し……死神さんは、どうするの?」

 

「私にはまだ為さねばならぬことがあります。なに、心配することはありませんよ。さぁ」

 

 少年達を促し警官たちの元へ送り出す。デュノア社内にいるものは誰も手を出そうとはしません……、いえ、出すことはできません。

 今ならまだ、少年達を保護したと言えば言い逃れができますからね……望み薄ですが。それにこの状況で撃ち殺そうなどとすれば、死神の討伐を目的にしたポリス全てを敵に回すということになるのです。

 いくら悪事に手を染めているからと言っても、一企業でしかない彼らが対死神用の超重装備で完全武装したポリス相手に立ち回れる、なんてことは天地がひっくり返ろうとありえない。

 彼らが言い逃れる術はただ一つ。

 死神たる私を捕獲し罪を着せる。

 それだけです。

 

「まぁ、させるつもりはありませんがね」

 

 そろそろ時間も良い頃合いです。上へ参るとしましょうか。

 あぁ、それと……、ローラン・ブランシャール、貴様だけは必ず……ね。

 

 

 

「……ようやく私たちも終われそうだ」

 

 最上階、社長室に到着したその時、部屋の主人はそうそっと呟いた。

 

「待っていたよ、死神……いや、ヴァルファ君」

 

「おやおや、これは意外デスね。他の皆様方は逃げたというのに社長ご本人やその奥様が未だ残っているとは驚きました。それに、待っていた、とは?」

 

「いつか貴方が来ることを予想してました。貴方はとても優しい人のようだから」

 

「…………」

 

 扉を塞ぐように一人の女性が部屋を訪れる。

 

「私たちだって伊達や酔狂で社長に就任しているわけじゃ無いからね。君が何故このようなことを繰り返しているのか、理解しているつもりだよ」

 

「断罪されるとわかっていて、自らここに残っていたと?」

 

「ええ。ここの地下を見て来たのならわかるでしょう。これは私たちの責任だから……」

 

 やはりこの人たちは……。密かに笑みを零してしまっていた。ぶかぶかな袖に仕舞っていた通信機のスイッチをオンにする。準備は、できてますよね。

 

「まだ貴方方は語らねばならぬことがあるはずですが? ……貴方方の娘シャルロット・デュノアに何故あのようなマネをさせたのか、聞かせてもらえますね?」

 

『『『『Oui』』』』

 

 体内をその一言が駆け抜けた。

 

「君のことだ。もう調べがついているのだろう? 他企業の第三世代型の情報を集め、そして織斑一夏、世界で数少ない男性適合者を調べさせるためさ」

 

「……あなた」

 

 彼の妻は悲しげに呟く。しかしその顔は夫に着いていくという覚悟が現れていました。たった一つの大切なもののために。

 

「いいんだよ。これが真実だ。ヴァルファ君、満足頂けたかな?」

 

「……それで本当に良いのですね?」

 

「ああ」

 

 彼の魂の在り方はとても高貴なものなのが伝わってきます。そして本当に美しい、暖かな祈りを胸に秘めているのがわかってしまいます。

 ここで自分が死ぬのだと覚悟を持ったその上で……。

 

「後悔は、しませんね」

 

「くどいぞ」

 

 しかし、だからこそ私は彼の嘘を見逃すことができない。非情だと睨まれたとしてもあの少女のために、彼の支柱を砕く一鉄の杭を打ち込む。

 

「本当にこのままあの子に誤解されたまま死んでも良いのですね」

 

「……ッ!」

 

 真剣に彼の目を見つめて、そう問いかける。

 

「…………そうですか。ではその思いを胸に死になさい」

 

 彼の内から滲み出る葛藤が、強く握り締める拳の中から血となって流れ出る。その姿を見た上で、私は鎌に、差し込む月明かりを当てて振り上げる。

 そして一気に振り……、

 

「……良いわけが! 大切な娘に嫌われたまま死にたい親が何処にいる!!」

 

 首筋に触れたその時に、涙と共に零れた彼の悲痛な叫びが私を止めた。

 

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