戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

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第参拾漆話

 シャルル君、改めシャルロットちゃんが決着を極めるほんの少し前、一兄はラウラちゃんと熱い戦闘を繰り広げていた。

 

「っ、……来るっ!」

 

「また外した!?」

 

 ラウラちゃんの懐に迫ろうとしていた一兄の機体が不意に下がった。直後その場の空気が不自然に歪曲する。

 またAICを使ったんだ。でも一兄は何度となく発動する姿を見てこれたことで、ラウラちゃんがする発動までの予備動作と大まかな発動可能範囲を掴めていた。……まぁ、範囲を掴んだのは白式のほうだけど。

 

「ウオォオオ!」

 

「くっ、させん!」

 

 雪片弐型の刀身とレールガンの砲弾が大気を揺るがす。折角近づけたのに反動で一兄が押し戻されてしまい、その間にラウラちゃんが体勢を整えてしまった。

 やっぱり剣一本しかない一兄が攻めあぐねてるみたいだ。

 射出された2本のナイフに追われながらも器用に振り向き様で斬り払って、一兄は再び接近を試みた。けど、またも立ち塞がったAICという壁に引かざる終えなくなる。

 

「ひびりんなら、どう切り抜ける~?」

 

「うーん……。ニールハートなら反応できない速度と軌道(※無理矢理)がだせるから懐に飛び込むこともできそうだけど、白式だったらー……」

 

 のほほんちゃんに聞かれたので、ちょっと考えてみる。白式のスペックじゃ反応できない動き、ってのは難しいだろうから……。ならいっそのこと当たることを前提にした方がいいかもしれない。

 

「うん。私なら……肉を切らせて、骨を断ちにいくかな」

 

 お、一兄が小細工無しでまっすぐ進んでいく。

 

「いくら動きを止めれるからって、それもまたエネルギーなら切り裂けるよな! 白式、零落白夜発動!」

 

「無駄だ」

 

 ラウラが手を振り翳す、僅かな光を放つ剣では無くそれを持つ腕を指すように。

 

「確かにその無効化を使われてしまえばエネルギー体であるAICも解けてしまう。だが、それはあくまで触れた時のみ。触れさえしなければどうということはない無い! 喰らえ」

 

 ゼロ距離と言っても過言じゃないくらい近距離でカノンがぶっ放された。停止させられ躱すことのできない白式にズドンと鈍い音が炸裂した。

 

「あわわわっ! おりむーが!?」

 

 噴き出した煙がもくもくと漂い現状を覆い隠してしまう。誰もが嫌な予想をし、残念そうに試合を見る中で、煙の底が大きな口を開き一兄を吐き出した。

 意識を失ったように一兄は瞼を閉ざしていて、重力に引かれるまま真っ逆さまに落ちていく。

 そして二人の勝負が決し……ない。

 

「待ってたぜ、この時を!」

 

「なにっ!?」

 

 地面に当たる目前で、力強い瞳がラウラちゃんを射貫いた。その次の瞬間、一兄の姿が霞と化す。

 姿を追えたのは何人いたかな。色々人間離れしてるちー姉や(ここ大事)私とかほんのごく僅かだったと思う。ハイパーセンサーを使っていても、完全に勝った気で余韻に浸っていたラウラちゃんは大多数、見失った側にいた。

 一兄は既にラウラちゃんの背後にいた。さらに手にした刃は青白い煌めきを目一杯放っていた。瞬時加速と零落白夜のエネルギー消費は大きいと思うけどその欠点を差し引いても、今この場においては絶大だ。

 

「ぐわぁぁああっ!?」

 

 たったその一振りで二人の残りエネルギーは逆転した。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 でも疲労は一兄のほうが溜まっている。それも当たり前か。

 さっきのシーンで一兄がやったのは私の考えと同じ、肉を切らせて骨を切る、だった。

 ラウラちゃん本人が気付いているかわからないけど、あのAICと言う機能、集中力が切れてなくてもラウラちゃんが攻撃しようとした時にほんの少し誤差の範囲内で早く解除される。一兄はその小さな小さな欠点を突いたのだ。その時間で確実に体を後ろに倒せたことで受ける圧を流してしていた。結果受けたダメージは大幅カットてわけ。で、その分が精神的疲労となって出たのだ。

 でもそれくらいの疲れなんかで簡単に折れたりしないよね。

 頑張れ、一兄。

 

 

 

 何とかイーブンに持ち込めたか?

 速やかに零落白夜を解除した雪片を握り直す。

 

「……………………」

 

 ん? どうしたんだ?

 ラウラの様子が何処か可笑しい。さっきまで俺を親の敵のように睨んでいたのに、それが嘘のように消えていた。別に落ち着いてくれたとかならいいんだが、どうやらそうでもないらしい。

 ラウラの目はそれでもまだ俺の方に向けられているのだ。にもかかわらず、その目は俺を映しているようには感じられなかった。俺の後ろ見ているわけでもなく、また俺の前を見ているのでもない、この世の何処にも視線が合っていないような感じがするのだ。

 言いようのない不気味さが背筋を這い上がってくる。

 

「あっ……」

 

 今までの戦闘で緩んでいたのか、ヒラリと今までラウラの左目を覆っていた眼帯が落ちていった。その先に隠されていたのは綺麗な金の瞳だった。戦場で何を思ってんだと自分にツッコみはしたものの、見惚れてしまったのは事実だ。

 でもその瞳が、俺や俺の後ろの世界を映した時、その内に異様な禍々しいものが燃えだした。

 

「あぁぁぁぁぁぁああぁああああ!?」

 

「なん……ガァッ!?」

 

 突如レーゲンから湧きだした黒い液状の物体が腹の装甲に突き刺さり壁に叩き付けられた。同時に肺の空気が押し出され、呼吸が滞る。

 絶対防御は何処に行ったんだよ……。痛む腹を押さえ何が起きたのか前を見ると、そこにラウラはいなかった。そこにいたのは真っ黒な鎧を着込み、これまた同じく真っ黒な刀を手の中に収めた黒一色の女性、のような姿をしたものだった。

 なのに、俺はその姿に既視感を覚えた。

 

「千冬……姉?」

 

 ああ、そうだ。千冬姉とそっくりなんだ。それも今のではなく世界大会に出ていた頃の現役時代の姿と。

 

「ッ!」

 

 黒いISは驚いている暇を与えてはくれないらしい。うねうねと蠢いていた黒い液体が凝固した矢先、刹那で数十メートルという距離を詰められていた。

 真っ黒の刀を中腰に当てて、居合いを彷彿とさせる構えをしていた。ちっ! 間に合え!!

 

「グゥッ!」

 

 辛うじて雪片弐型を間に挟め、直撃だけは避けられた。だがその超速で放たれた一閃は腕に重く伸し掛かり、弾き上げられていた。信じられないことに姿形だけでなく、太刀筋まで同じ。しかもその刀まで同じ姉の武器、初型の雪片。

 黒いISが振った勢いで移し取った構えは上段の構えだった。この流れは――ッ! ヤバい!?

 

「白式!」

 

――ゴゥッ!!

 

 鋼鉄の鎖で縛ったままトップスピードのF1に引き摺られるような衝撃に全身を投げ入れ、後ろに吹っ飛ぶ。派手に地表を転がった。シールドエネルギーが底をついたらしいな。地面に激突した体の至る所で焼けるような痛みがあった。

 今の緊急回避が最後の力だったんだな。白式が光と共に腕の中へと戻っていく。……ありがとよ、白式。

 ちょっと困った。手にしていた武器が消え去ってしまった。

 

「でも、……それがどうしたってな!」

 

 俺にはまだこの響から習った無手の構えがある。

 それに今の俺は激情が煮え滾ってんだ。立ち止まってられるかよ。

 

『いいか、一夏、響。刀は、力は振るうものだ。振られるようでは、技術とは言えない』

 いつだったか、俺と響で初めて真剣を持った時、千冬姉が語った言葉だ。あの時手にした容赦の無い鋼の重さを今でもしっかり覚えてる。

 格好いい、とか綺麗、なんて感想は何処にもなかった。その冷たい存在の重圧を俺は忘れない。

 

『この重さを振るうこと。それが持つ意味を考えろ。それが強さになる』

 

 その時の千冬姉の眼差しは、厳しさと優しさ、相反する二つを合わせて持っていたっけな。

 ……そんな姉の武器を真似し、姿を真似て、剰え剣の術までもを真似た。それだけならまだ許せたんだ。だが、こいつはその姉の誇りを暴力に使った。それが許せない。

 

「一夏!」

 

「シャル! 勝ったんだな」

 

 ふらふらとシャルが隣にやってきた。

 

「なんとかね……。あれはいったい?」

 

「わからない。でもあれは千冬姉のデータからできたものみたいだ」

 

「ちょっ、一夏何する気なの!?」

 

 俺が前にいこうとしたら、シャルに見咎められてしまった。

 

「ん、ちょっと一発ぶん殴ってくる」

 

「ISもなしに素手でそんな無茶だよ!」

 

「大丈夫だって。これでも無手の戦い方は学んでる」

 

「だからって……、あぁ、もう! わかったよ。まったく……。でもちょっと待って。普通のISには無いけど僕のリヴァイブならコア・バイパスでエネルギーを送れるはずだから、僕の分のエネルギーを受け取って。残念だけど僕にはもう武器が残ってなくてね」

 

 よく見るとシャルの乗るラファールは傷だらけだった。桐生との闘いもこっちと同じくらい激しかったんだな。

 

「頼む」

 

「任せて。でもその代わり約束して。絶対に負けないって」

 

「勿論だ。あんな劣化コピーに負けられねょ」

 

 ラファールから次々とエネルギーが送られてくる。

 

「じゃあ、負けたら明日から一夏は女子の制服で通ってね」

 

「……いいぜ。なんてたって俺は負けないからな」

 

 全てのエネルギーを受け取り終わった。

 

「勝つ」

 

 展開するのは剣と右篭手だけでいい。

 そして俺は静かに偽りの千冬姉(ラウラ)に向き合った。

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