戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜   作:円小夜 歌多那

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第肆拾伍話

 響から更識簪という少女を頼まれた翌日、早速俺たちはその簪なる少女がいるという整備室を訪れた。

 

「ちぃーっす! 簪ちゃんいる?」

 

 殴るようなノックが扉を襲う。しかも叩くだけ叩いて返事は待たずに、乱暴に扉を開け放ちやがった。

 問答無用かい!

 

「ひぃっ……!」

 

 そりゃ、怯えるよな。簪らしき子は打ち込み途中のモニターを盾にして縮こまっていた。あまり響の周りにはいなかったタイプの子で、小動物的性格と言えば良いのだろうか、ちょっと引っ込み思案な子なんだろう。

 しかしこの子を見ていると、昔共に戦場を駆けた無垢なる盟友を思い出す。こういった子は心を覆う堅殻を破ると、大きく化けるんだよな。

 ちょっと楽しみだ。

 

「どうしたの?」

 

「お前のせいだ。戯け!」

 

「あだっ!?」

 

 その辺りは横に置いといて、取り敢えず怯えさせた元凶を成敗しておく。

 

「……あ、織斑……さん? ……と、えっと…………」

 

「響と同組の聖踊だ。すまないな、驚かせてしまって、更識嬢……で間違いないか?」

 

「……は、はい。私が……更識、簪です…………て、えぇええっ!? に、入学式の時の!?」

 

 赤みがかった瞳と目が合った。

 あぁやはり、それがその子を見た時の俺の感想だ。その赤い瞳と遺伝による空色の髪は俺たちが幾度となくかち合ったある親子ととてもよく似ているのだ、同名字をした『更識』の前当主の御仁とその後を継いだ娘さんと。

 

「あの、来て……いただいて、恐縮なのですが……、響さんに言ったように……私は一人で、します」

 

 会話が苦手なのかおどおどとしてすぐに視線を反らされてしまったが、それでも強く言い切った。

 

「呵々、そのことは響から聞いてるさ。心配せんでも手出しはしないぞ」

 

 製作途中の打鉄の発展型をざっと見たが、良い腕をしている。今は詰まって手を拱いている状況でも、超えれば完成も間近に迫るだろう。

 

「? ……なら、なんで……」

 

「えっへっへ、何を隠そうこの踊君、こんな形しちゃってるけど私の専用機を作った人なのだ! だから簪ちゃんの助っ人になれるんじゃないかなって!」

 

 間違ってないが、響が自慢することではない。

 

「……えっ? ひ、聖さんってパイロットなんじゃ…………」

 

「俺は確かにパイロットもしているし教員たちからもそう思われているが、メインは技師寄りだ。乗り手なら真っ先に俺用のISだって作っているさ」

 

 実際は作っても無意味になるだけだからなんだが……。

 それと言うのも、俺は複数の人格で交代しているためだ。響の専用機を作ったように俺用の専用機を作ること自体は可能なのだが……、各人格で武装が違う俺たちではそれぞれで適合率が変動してしまうのだ。

 それなら一人ずつ作れば、とも考えられるのだがそう言うわけにもいかないのが現実だ。

 いくらなんでも人格を交代する度に別の専用機を使っていたらおかしいだろう? ISコアは限られた数しかない。なのに一人で複数を占めているなんてことになると、世間の目を誤魔化しきれなくなる。

 実際、響の件だけでも相当面倒なことになった。これ以上厄介ごとは勘弁願う。

 

「あ……、確かに、そう……ですね」

 

「だがそう考えると、俺とさら……いや簪嬢は重きが違うだけで似ているのかもしれないな」

 

「!? …………そ、そうですね。立場は、近い……かも」

 

 パイロットをメインにするか、技師をメインにするのか。その差があるだけでどちらもできるというのは一緒だ。これは大きな強みになるな。何せ改良するにも動かすにも無茶と無理の境界線がわかるのだ。どっちになってもパートナーとなる相手の立場がわかるから信頼関係が一層築き易くなる。

 驚いた拍子に簪嬢と目が合った。

 

「呵々! 最近の俺は時間が有り余っているからな、何か困ったことがあったらいつでも相談に乗るぞ」

 

「だったら私たちの特訓にも付き合ってよー」

 

「うむ。しばらくは協力するぞ。あいつらには教えておきたいこともあるし、何より暇だし」

 

 他の奴等に暇を言い渡されてしまったからな。特にすることがない……。

 

「でも……私は…………」

 

「あぁ、一人でしたいのはよくわかっている。でもそれじゃ視野が狭くなってしまうぞ。どんな天才だって何かの外的影響は必要なんだ。俺にとっての響然り、世界の兎にとっての最強然り、そして恐らく、君の姉もね」

 

 向こうで会った時なんて、妹を巻き込まない為に! と叫ぶくらいだ。姉の心、妹知らずか?

 

「……っ! 考えて……みます……。……あ「何時でも来い。歓迎するぞ」……ぅっ……」

 

「ああ、そうだ。響、先に一夏たちの所に行って、全員が集まれる日を確認しておいてくれないか? 俺の都合はいつでも大丈夫だから、次は参加すると伝えといてくれ」

 

「うん。わかった。絶対だからね! ドタキャンはぶっ飛ばすから! それじゃまたね、簪ちゃん。また明日!」

 

「え? あ、うん。……また明日」

 

 疾風のごときダッシュで響は部屋に帰っていく。

 ふぅ、可哀想な言い方をするが、厄介払いはできた。今なら心置きなく簪嬢とも話ができるだろ。地べたに腰を下ろして簪嬢の視線と合わせる。

 

「響も行ったことだ。俺に聞きたいことがあるんだろ? それとわざわざ無理して丁寧に言う必要はないぞ」

 

「やっぱり、私の家のこと……知ってるん……だ」

 

「まあな。家なしの俺は裏にも通じる機会が多いのさ」

 

「そう言えば……、聖君の家族は……」

 

「その通りだが、暗くなるようなことじゃないぞ」

 

 嘘というのはこういう時が本当に辛い。信じてもらえるのはありがたいが、悪いことを聞いてしまったと、悔やむ顔をされると胸が痛む。

 

「わ、わかった。あの聖君はお姉ちゃんのことを、知ってるの?」

 

「少しだけな。だが、それ以上に君たちの亡き父君のほうがよく知っている。向こうで何度も話したことがある」

 

「お父様と!?」

 

 敵としても味方としても、聖踊としても何度も会った。……基本世間話か、娘の自慢話がほとんどだったが……。

 

「だから簪嬢が更識の家をほんの少し嫌っていることも」

 

「お父様、知ってたんだ……」

 

 そりゃ父親なんだ。娘の変化に気付けたって不思議じゃない。

 

「で、散々愚痴られた」

 

「お父様……」

 

 父親というのは、何時の時代も娘で悩むのだろうな……。だからと言って子育ての経験がない俺に相談されても困る。……ああ、一時期娘扱いされいたからか。だがそれは黙っておこう。

 

「そろそろ準備しないと朝礼の時間に間に合わなくなるぞ。簪嬢は大丈夫なのか?」

 

「も、もうこんな時間!? え、ええっと……!!」

 

「呵々、大丈夫。後の片付けは俺がやっておくから先に帰って良いぞ」

 

「で、でも……!」

 

「俺はこのまま行くだけで、時間は十分あるんだ。ここは俺の暇つぶし、ってことで任せてくれ」

 

「……じゃあ、お願いします」

 

 そう言って簪嬢も部屋を後にした。

 

「それじゃあ、ちょっくらやりますか」

 

 一人静かになった部屋で、片付けついでに打鉄弐式のコンソールを開く。

 

「ふむ……」

 

 俺はまず既に構成されているプログラムを開き、次々と中を確認していった。直せる点は多々あれど致命的なミスはない。精々反応が遅延するくらいで、完成した後にでも書き換えたら終わることだ。

 次は作成途中のものを開いていく。

 

「……………………ここか」

 

 とある箇所で手を止めた。エラーの原因、詰まってしまっている理由を見付けたのだ。ここからだ。他にもあるだろうとそこを基点にして関係性を洗い出す。

 「一人でしたい」と言われたが、「何もするな」とは言われていない。それに前情報があるのとないのとでは、簪嬢から相談された時にできる対応が変わってくる。

 

「こんなものでいいか。……打鉄弐式、良い主を持ったな」

 

 全ての整理を終えて、俺も部屋を後にした。

 

――…………キーーン!

 

 扉が閉まりきるその時、そんな頷くような音が聞こえてきたとかいないとか……。

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