戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜 作:円小夜 歌多那
「くてー………………」
「響さん、大丈夫ですか?」
くへー……………………。
「ほっといて大丈夫だぞ。自業自得だ」
「そうなのだ~」
うるさいな……、寝かせて下さい。
「偉そうにすな」
「うにゅあ!?」
おぉぅ……、眉間に何か堅いものが叩き付けられた。でも眠気は飛ばないや。……おやすみ~。
「な、何があったのですの?」
「最近連日で訓練していただろ?」
「ああ、ちゃんと休めなかったのですね」
「それならまだ良かったんだけどな。そうじゃないんだ。……このバカは、昨日の夜になるまで完全綺麗さっぱり用意してなかったんだ。全部後回しにしてやがった。それで完徹して出発直前ギリギリまでドタバタしてただけ」
「忘れてただけだもーん……すかぁ~」
ちょぉっと一兄たちとの特訓が楽しくて、ちょびっと後回しにしたら忘れちゃっただけだもん。忘れてたわけじゃないもん。
「さんざん言っただろうが。それにのほほん嬢も目の前でやっていたはずだが?」
「……くー」
耳が痛くなってきた。これはあれだ、頭痛のお友達に違いない。私は風邪を引いたんだ。て、ことで私は寝ました。
「そうか、風邪か。なら皆に移さないように向こうに着いたら部屋に軟禁だな。皆、安心してくれ。俺が責任を持って監視する」
「ごめんなさい。私が悪かったです。だから勘弁して下さい」
折角の海を取られちゃ叶いません。いつものように座席の上でも即刻土下座する。
「まったく謝るくらいなら素直に反省しろ」
「はぁーい……」
「ほれ。着いたら起こしてやるから静かに寝とけ」
「わぷっ!?」
どこからともなく出てきた毛布に飲み込まれた。
……て、重っ!? でかっ!? 私の身体がすっぽりどころか座ってるイスまですっぽり入る程の巨大だった。しかも結構もふもふでちょっと暴れたくらいじゃ抜け出せない。 顔を出すのも一苦労です。
「へふぅ……。いきなりひどいよ」
「しらん」
「むぅ……」
まぁ、いいけど。もふもふして気持ちいいし。よく寝れそう……だ……すぴーぃ。
「あ、暑くないんですの?」
んにゅぅ……、セシリアさんの声もどんどん遠くなっていく。
「最新技術を駆使して熱は籠もらないようになってるから大丈夫なはずだ。悪くても響なら蹴飛ばすさ」
「そ、そうですの」
もこもこサイコ~……・
「響ー、着いたぞー」
「あと1時間……」
「わかった。一夏、響は海に行きたくないらしい。ここに置いていってあげよう」
「お、おう」
「にょっわ!? 行く! 私もすぐ起きまぁぎゃぅ!?」
ぅぁ……頭打った……。えぇっと、イス? ああ、そうだった。ここバスの中なんだ。イスがあるのも当然なのか。
隣を見るとおっきな旅館が鎮座していた。あ、もう皆降りてる。私が寝ている間に置いて行かれたみたいです。
「早く行くぞ。教諭がお冠だ」
「うげ。それはやばい」
毛布を包んで……、踊君の着物化したズボン(スカート?)の下に放り込む。……て,あの中どうなってるんだろ。簡単に入る質量しとりませんよ。
手持ちの荷物を抱えていざ行かん。鬼の元へ!」
「良い度胸だな」
「わぴっ!」
降りたところに落雷一発。頭を引き裂くような痛みが駆け抜ける。
「バカのせいで申し訳ありません。それでは、ここが今日から3日間お世話になる花月荘だ。全員、このバカのようなことをして従業員に仕事を増やさないように注意しろ」
「「「「よろしくお願いしまーす!!」」」」
ちー姉のお言葉の後に続いて、全員で挨拶する。この旅館には毎年お世話になっているらしくって、ちー姉とも顔見知りなもよう。珍しい敬語を聞いた。
姦しいのにも慣れたもので、にこにこして女将さんは丁寧にお辞儀する。
「はい、こちらこそ。今年の1年生も元気があってよろしいですね」
歳は30代くらいかな、笑顔の中に確たる信念が感じられる。向きは違えどこの人も強い人なのは違いない。
「あら、彼らが噂の?」
「ええ、まあ。その内の一部です。今年は3人男子がいるせいで迷惑を掛けてしまいます」
「いえいえ、そんなお気になさらず。それでは皆さん、お部屋の方へどうぞ」
「「「「はーい!」」」」
わらわら、ぞろぞろ、生徒ほぼ全員が部屋へ一直線に駆けていく。あ、あまりにも走りすぎる子はちー姉の餌食になってる。
「ね~ね~、おりむ~、ひびりん」
この不思議な呼び方をするのは、間違いなくのほほんちゃんだ。真っ先に部屋に行くと思ったんだけど、まだ残ってたんだ。見ると異様にゆっくりとした速度で走ってきていた。残ってたというか、置いてかれたんだね。
「む~、なんかひどいことを言われたよ~な……? ま、いいや~。おりむ~のお部屋はどこなの~? しおりにものってないのだ~」
うん? ごそごそとカバンをあさってしおりを確認。あ、ホントだ。一兄の名前がない、……踊君のもだ。ちなみに私のはのほほんちゃん達と同じ部屋です。
「いや、知らない。踊は聞いてるか?」
「残念ながら俺も知らん。織斑教諭に聞いてこい」
「そりゃそうか。千冬姉なら知ってて当然か。ちょっくら行ってくる」
しばき終えて憤然としたちー姉のもとに向かった行く。
「踊君はいかないの?」
「どうせ、教諭らと同じ部屋になるだろうさ。態々聞く必要はない」
「……わかってるなら教えてあげようよ」
「直接聞いた方が確実だろ。それに俺は部屋を利用するつもりはないから、どこでも問題ないのさ」
空を見上げて踊君は呟く。
「とりあえず、響も荷物を置いてきたらどうだ。皆行くようだぞ」
「わわ、ホントだ。また後でね! 皆、待ってよ-!」
また置いてかれそうなので荷物を抱えて部屋に向かった。
やれやれ。一体全体、この場合俺はどうしたら良いのかね。
他の者達が着替え等で誰もいないはずの中庭に行くと、一人の少女がうさ耳片手に地面を掘っていた。それも制服でも水着でもない、不思議な国に迷い込んだ何処ぞの少女のような青と白のワンピースを着ていて、学園関係者ではないのが一目瞭然な人が、である。
「何時もながら、何をやっているのやら」
「わっ!? やっぱバレちゃったか~。やぁやぁ、よっくん、おひさだね。本当に久しいねー」
「ああ、久し振り。それで何をやってるんだ? 束嬢」
「わっはっはー。箒ちゃんといっくん、ひーちゃんを驚かす細工中なのだよ」
はた迷惑なことを……。
とは言いつつも、それを止めようとしない俺も同罪か。
「よしできた! 箒ちゃん達には絶対言っちゃダメだからね! 言ったら酷いんだから!」
少女が釘を刺されたが、わざわざ言うか。言わずともあの三人なら気付くだろう。
「じゃぁね~。また後でね!」
少しくらい落ち着くことを学べば良いのに。ばたばたした勢いそのままに少女は姿を眩ますと天へと飛んでいった。
……あの娘がはっきりと姿を見せるとはな。
困ったことに、この旅はただの旅では終わってはくれなさそうだ…………。