戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜 作:円小夜 歌多那
やることが多すぎて時間が足りない……。
「えっと、ことの始まりは私が行ったライブで起きたある大きな事件が始まりなんだ」
悩んだ結果、踊君との出会いから始めることにした。
未来という親友とライブに行こうと約束して、急遽その子が行けなくなって一人でいくことになったこと。それでも何のかんのあって会場に入れて、ライブに聴き惚れられたこと。そしてその時ノイズに襲撃を受けたことを話した。
もちろん、ノイズのことはテロリストてきな何かで誤魔化したよ。こっちにはいないものを伝えるのはまずそうなので。
「だがいったい何故それが虐めの原因になるのだ?」
ラウラちゃんがわけがわからんといった風に首を傾げた。箒ちゃんと鈴ちゃんも同じみたい不思議そうだ。
私もこれだけでわかる気がしないけど……
「その……被害は…………どのくらい、なのでしょう?」
成績トップ層の二人と先生してるちー姉は流石に違った。その可能性にも思い至ったみたいで顔を青ざめさせ、またしかめさせていた。
「……観客関係者延べ10万人のうち……死者、行方不明者は3万人、です」
「さ、3割も…………しかし……」
逆に考えれば7万人は生き残ったということになる。最悪なことに変わらないけど、それだけだったならそこまで怨まれことなく済む話だった。けれど、その被害率があまりにも偏り過ぎていた。
「観客だけだと……3万人中2万7千人が亡くなりました」
「「「「「「っ!?」」」」」」
ほとんどの死者が観客だったのです。
それは仕方がないことだけどね。だって、関係者はあくまで屋内で仕事していたのだ。逃げるとなると沢山のルートを知ってるから観客よりも素早く脱出できるのだ。現に死者のほとんどが誘導なんかを行っていた警備員が主らしいし。
それに対して、観客だけどそもそも逃げ道が限られていた。野球場とかサッカー場なんかと同じで、詰まらない程度しか出入り口がなかったのだ。ぽこぽこ出入り口があっても無駄だし、それならいっぱい入れられた方が運営も客も嬉しい。でもそれが仇となってしまったわけです。
ノイズが直接の原因になった行方不明者は翼さんと奏さんのお陰で数百人程度で少なかったけど、出入り口が少ないせいで、押しかけた観客が将棋倒しのようになってしまい、沢山の人が圧死した。しかも直前に起きた地震が原因で建物自体も崩壊が起きていて、無事だった者も逃げられず死を迎えた。
「生き残った3千人は大変だったでしょうね……」
「ううん。そんなにだと思うよ。生き残った人は大体初めのうちに逃げれた人ばかりらしいよ。それにほとんどの矛先は私に向いたからね」
「何故だ? そのような被害生き残るだけでも奇跡と言えるのではないのか?」
「えっと……私が会場にいた唯一の生存者だったんだ」
踊君は観客してたけどお金を払わず不法侵入してたからには上がらなかった--元々人ですらなかった--けど、正規手続きから入った私は情報が残っていて、どうやって掴んだのか世間様に晒し者にされてしまった。
しかも会場を脱出したんじゃなくて、ノイズが暴れた会場内に瀕死な状態で発見されて、九死に一生を得たことも一緒に、都合の悪い部分だけ抜いてという嫌がらせ付きで、だ。
「この胸の傷もその時に出来たんだ」
浴衣を崩して胸をはだけさせる。
「爆発(?)で飛ばされた時の破片が突き刺さっちゃって、あの時は死んだと思ったよ。でもその時助けてくれた人に『生きるのを諦めるな!』て怒られちゃって、運良く私は生き残ったんのです。後遺症でしばらく身体のほとんどが麻痺しちゃったのは大変だったけど」
信じられない、その気持ちが悲しくなるくらいびしびし伝わってくるんですが、ちょっと酷くないでしょうか? 凄く頑張ったと思ってくれても良いのにー。
「それで3ヶ月頑張ってリハビリを終えて待っていたのが--」
「虐め、だと言うのか!?」
「あっはっはー……」
そうなのです。あの日々は色々大変だった……。
「(私の)教科書が消えたり、(誰かの)カバンが消えたり、(私の)イスが消えたり、(誰かの)席が消えたり、(私の)表札が消えたり、(誰かの)家が消えたりして」
特に家が消えた時は本当にビビった。いつものように通学路を帰ってたら、一角だけなくなってたのだ。普通だったら引っ越して取り壊した、で終わる話なんだけど、家が建っていた場所がコンクリートで滑らかに埋め立てられてて木片一つ残っていなかったんだよ。
朝行く時は普通にあった建物が帰りになくなる恐怖がわかる? しかも! しかも、だよ! 隣の住民たちにも悟られず、違和感なく消えたのだ。
あの時はあまりにも怖くて、踊君の布団に潜り込んじゃったけど、今では良い思い出だ。
「信じらんない、なんでそうなるのよ! 全身規模の麻痺なんて年単位の時間を掛けてもそう直らない症状なのよ!? それをたった数ヶ月で終わらせたのに何で?!」
「えっと、確か犠牲者の中に同い年の優秀な子供がいたらしくって、何故その子じゃなくて、何の取り柄もない私が生きているんだー! て感じでね」
「ただの逆恨みではないか!? そのような戯れ言で虐めになっただと!?」
箒ちゃんは憤慨したけど、私は既に吹っ切っちゃって案外平気だったりします。その時は確かにムカついた。けど、すぐに化けの皮が剥がされて失墜したからざまーみろと思った覚えがある。
「まぁまぁ。あの頃はホントとっても辛くて苦しい毎日だったけど、それがあったから今の私があるんだ。だからへいきへっちゃらだよ」
「響はやっぱり強いね」
「いやいや、そんなことないない。未来や踊君が支えてくれたからあれを乗り越えられたんだよ。私一人だったらすぐにポッキリしてた。現に二人がいても『私は生き残るべきじゃなかった』って、自殺を考えたこともあったから」
どんなに嫌がらせを受けても未来が横にいてくれて、どんなに恐ろしいことが起ころうとしても未然に踊君が防いでくれていた。……でも当時は全然気付かなくって、そんなことを思ってしまった。
「響も辛い人生送ってたのね」
む、過去形にされてしまった。確かに今は辛いか辛くないかで言えば、辛くない。むしろ誰かに「ありがとう」って、言われる生活ができて幸せです。でも、人任せにして先送ってた問題が帰ってきてて辛いのも事実。
所謂、ジェットコースターの最高点まで登り切った時みたいな感じの凄い番かな。凄く平坦なんだけど、目の前には地獄まで落ちそうな下り坂が見えていて、なのにどうしようもない理不尽な状況を想像してもらえば良い。
つまり未来進行形なのだ。送ってたんじゃなく、送ってるわけでもなく、今から送りに行くのです。…………やだなー。
「その状況からよく立て直せたな」
小さな感心だった。でもここまで話したならあの日のことを話しちゃおう。
「お父さんが死んで、踊君に平手打ちされたのがきっかけ、だよ」
あの日の平手の痛みは今になっても思い出せる。首の骨がベキッと鳴るくらいの勢いだった。…………あれ? 私、結構命の危機にあったんじゃ……、き、気のせいだよね。
今日の天気とは真逆の雨が土砂降りで、嵐一歩手前まで天気が崩れていた日のことです。
いつもの如く私は沢山の嫌がらせを受けた。いつもなら、へいきへっちゃらって強がって流していたのだけれど、その日だけはできなかった。
もう既に心が折れていたのだ。前日にお父さんの死を踊君に告げられたことで……。皆を心配させないように私も平気を装ってはいたよ。けど無理だった。いつ終わるかわからない……、いや本当に終わるのかすらわからない日々を過ごせる程の意志が残っていなかった。
そして踊君とも喧嘩してしまったのだ。
『苦しむな。なんて無責任なことは言いたかないが、もっと気楽に生きな。自分が死んで他の誰かが生きた方が良かったなんて思ってんじゃねぇよ』
踊君が言った言葉だ。それは正しい。だってあんな事故を未然に防ぐ事なんてできるわけがなく、私は偶然生き残れただけだから。本来なら気に病むことではないのだ。
でもそれを私は認められなかった。当時の私は本当に劣等生だったんだもん。運動はイマイチで勉強に至ってはボロボロ。療養もあってさらにどん底だった。本当に私ではなく優秀な人が生きてたら良かったのに、そう思ってしまってたんだ。
一方的に責めて八つ当たりしてしまった。踊君が助けてくれた人だってわかっていたのに。自分が嫌になって逃げ出した私は、屋上で死のうとしてた。
『失礼する』
だったかな。屋上のベンチで雨に穿たれていた時、追いかけてきた踊君がビックリするくらい気軽に屋上に侵入してきた。濡れることに躊躇いもなく晴れの日同様真っ直ぐ近づいて、私の前に立ったのだ。
嫌になりすぎて、殺意が湧いていたと思う。それくらい声が禍々しかった。
そして、踊君に叩かれた。
『忘れているようだが、俺も生き残りなんだぞ?』
殴られた気分だった……いや、叩かれたけど。
『もしあの日、あの場所に、お前が生きていてくれなかったら、俺はずっと一人だった』
そう言われたのです。私は何もできないって思っていた中で、言われて嬉しかった。
踊君は一人で生きていくと決めていたらしい。でも私がいたことで拾われて、家族の温かさを知れたって、言ってくれた。
『だから、自分が死ねばなんていうな』
似合わないことに、ちょっぴり泣いてしまったよ。
『響は一人で抱えすぎなんだよ』
いつから聞いていたのか、未来までやって来て励まされた。
泣いて泣いて泣きまくって、そうしたら笑えるようになったんだ。
「それで踊君に言われたの。
『死んで償えることなんかない。死んだもののために生きる人たちのために抗うことが償いになるんだ』
て」
その言葉が私の目標になった。
「その時になって、やっと思い出したんだ。生きるのを諦めるな、って言ってくれた人のことを。それで知ったんだ。その人が行方を眩ましたこと」
「……え?」
「私を助けた時の影響で寝たきりになっていたの」
私が些細なことで悩んでる間、ずっと自分を助けてくれたヒーローのような人が生死を彷徨っていたのだ。その人が救えただろう命の事を考えると自分が嫌になる。
「だから私は決めたんだ。手を伸ばそうって、どんなに遠くっても絶対届かせようって。それで遅刻とかしまくっちゃっていっぱい怒られたけどね」
「人助けにそのような意味があったのか……」
「うん。今はもうその人も元気で世界中飛び回ってるけどね」
奏さん今頃何してるんだろ~。
「で、なんの話をしてたんだっけ?」
「…………えっと、踊の話だったんじゃなかったっけ?」
あ、そうでした。
「そんなこんなで踊君はとっても優しいのです。変なところも多いけどいつだって皆を支える力持ちなのですよ」
「強引にまとめたわね」
「いや~、面倒になっちゃって」
伝えきれないし、伝えられないし、……眠たいし。
「流石はお義兄様ということですね」
ラウラちゃんが納得してくれたので助かった。これでようやく寝れる。
「さて、では一夏のことでも話すとするか」
「酷っ!?」
うぅ……、まだまだ夜は長いらしい。
この話で響は盛大なミスを沢山しました。
さて全て気付ける方は何人いるでしょうか?