ポケットモンスター。
縮めてポケモン。
この世界にはそんな名前で呼ばれる生き物が、凄まじい数存在している。
火の中、草の中、水の中――そして、スカートの中。
夢と希望でいっぱいな自然環境にポケモンたちは生息し、世界中の人々に夢と希望を与えてくれる。
そして。
ポケモンを仲間とし、バトルを行い、自分の名を世界に轟かせようとする者は――ポケモントレーナーと呼ばれている。
個性や容姿、バトルの手段やポケモンの入れ替え方。
アイテムの持たせ方やポケモンとの関係。
その要素は多種多様で、十人十色。ポケモンバトルに勝利し、己が栄光を掴みとる為に――彼らは日々精進を怠らない。
そして。
このホウエン地方にも、最強のポケモントレーナーを目指す少年の姿があった。
ミシロタウン出身・カナタ。
性別は男性で、特徴としては異常なほどに中性的な顔立ちだ。一応は男性用の衣服に身を包んでいるのだが、男なのか女なのか曖昧な顔のせいで『男……いや、女……?』という有様になってしまっている。
そんなカナタはつい二日ほど前にポケモントレーナーになったばかりの、俗に云う新米ポケモントレーナーだ。
ユウキとハルカという同郷コンビと同じ日に旅を始めたカナタ。三人そろって『ホウエンチャンピオン』を目指しているミシロトリオは互いをライバルとして認定し、最強目指してホウエン地方一周の旅に出かけたのだ。
…………とまぁ、そんな前置きは置いといて。
チャンピオンを目指す少年・カナタは現在――
「…………へるぷ、みー」
――トウカの森で絶賛遭難中だった。
☆☆☆
トウカの森はホウエン地方で最も迷子になる確率が高いエリアである。
そんな警告をポケモンセンターの掲示板で見た覚えがあるなぁ――と思った時には既に何もかもが遅かった。カナズミシティへと繋がる出口はおろか、104番道路に繋がる入口の場所さえも分からない。
まさに迷子。絶賛迷子。
何の言い訳も効かないほどに迷子だった。
カナタは黄緑色の小さなポケモン――キモリを肩に乗せながら、文字通り、草の根をかき分けながら直進していく。
「森舐めてた、スッゲー舐めてた。キモリの天敵である虫タイプが多い事とか完全に失念してたよチクショウ」
キモリはホウエン地方の新米トレーナーがまず最初に貰える三体のポケモンの内の一体で、そのタイプは全タイプの中でも岩に並び、最も弱点が多い事で有名な草タイプだ。
炎に弱く、
氷に弱く、
毒に弱く、
飛行に弱く、
虫に弱い。
ただでさえ自分の攻撃が効果抜群なタイプが激しく少ないというのに、天敵と呼べるタイプが無駄に多いというこの仕打ち。なんだ、世界は草タイプに何か恨みでもあるのか。
草タイプでは虫タイプに不利なため、カナタはなるたけ野生のポケモンとの遭遇を避けて進んできた。低レベルクリアを目指しているんですか? 不本意ながらそんな感じになりそうです。
長草を掻き分け、短草を踏み越え、なるたけ気配を消しながら歩を進めていく。全てはポケモンに遭遇しないようにするために。カナタは今この瞬間だけは逃亡犯だった。
と、そんな中。
カナタの目に信じられないものが映り込んできた。
「あれ、は……女の、人?」
薄暗いトウカの森の一つの木の下に、その女性は横たわっていた。
紫色のロングヘアーが水色飛行帽の中から飛び出していて、前髪が鳥の翼のようにまとめられている。モデルのような凹凸を見せるスタイルは水色の飛行服に覆われていて、白を基調としたズボンはすらりと長い脚を隠すかのように少しばかり大き目なサイズで作られている。
そんな、見るからに特徴的な女性が、木の下で意識を失っている。
ケガ人を見たら即救助。
昔から両親にそう教えられてきたカナタは今までの隠密行動などかなぐり捨て、女性の元まで駆け寄った。
「だ、大丈夫ですか!?」
あまり刺激しないようにと気を付けながら、カナタは女性の肩を軽く叩く。服のあちらこちらに枝や葉っぱが付着していることから察するに、この人は空から落ちてきたのだろう。飛行中の落下事故が最近問題となってきている事を、トウカシティのポケモンセンターで耳にした気がする。
カナタの声で意識が戻ってきたのか、女性は「ぅ、ぅん……」と眠りから覚醒する際の様な小さな呻きを上げ、ゆっくりとその双眸を開いた。
(うっわ……スゲー美人……)
長い睫毛に紫色の透き通った瞳。顔のパーツは黄金比としか言えないほどの間隔で存在していて、ぷっくりとした唇からは大人の色気が漂ってくる。こんな森の中にいるよりも漫画雑誌とかでモデルでもやっている方が絶対にベストだと言える女性だった。
思わず顔を赤くしてしまうカナタ。彼の肩の上のキモリが『なに照れてんの?』と彼の頬を突いてきたが、今はそんな事など意識の外だ。
目が離せない。
こんな美人を、カナタは今まで見たことがない。
――――というか。
「あ、あの……俺の顔に、何か付いてますか……?」
――女性が俺の顔から視線を外してくれないんですけど。
じ――っとカナタの双眸を直視したまま動かない女性に、カナタは狼狽してしまう。子供が珍しいものを見つけたときによくやる行動だな、と気分を変えるためにややずれたことを思ってみたり。
と。
純粋な青少年的リアクションを取ったカナタの両手を女性が突然握ってきた。
「え、ちょ!?」と今度こそ心の底から動揺するカナタ。生まれてこの方女性に触れたことはおろか、触れられたことなんて数回にも満たないカナタは(いくら女性が手袋をしているとしても)ほぼ初体験の柔らかな感触にドキンッと胸を高鳴らせてしまう。
何だこの状況は!? ――カナタは現在状況に混乱する。
そして。
謎の女性はカナタの顔を真っ直ぐと見つめながら――
「君は童貞か?」
言葉を失った。
「君は童貞か?」
脳が震えた。
因みに確認しておくが、カナタとこの女性は今まで出会った事なんて一度もない。カナタが忘れてしまっているというなら話は別だが、女性の口ぶりからして初対面なのは間違いないだろう。
それならば何故、この女性はそんな質問をしてくるのか。――俺が知るか。
とにかく意味が分からない。彼女の言っている言葉の意味が分からない。この状況でその言葉が飛び出してくること自体が意味が分からない。
疑問というかツッコミどころが多すぎて頭を悩ませるカナタに気づいたのか、謎の女性は「ああっ、すまないな」と少しだけ面目なさそうに表情を崩し、
「君は処女か?」
「性別の問題じゃねえんだよバカヤロウ」
結論。
この女性は凄く残念な内面の持ち主だった。
☆☆☆
ナギ。
それが、謎の女性トレーナーの名前であるらしい。
「すまないな、気絶しているところを助けてもらって」
「いえ、別にそこまで大したことじゃないですし」
謎の邂逅を果たしたカナタとナギは先ほどの木の下にシートを敷き、一先ずの休憩を取っていた。
その中での話で分かったのだが、カナタの予想通り、ナギは飛行中の事故でこのトウカの森に落ちて来てしまったらしい。見るからに飛行タイプ使いっぽいのに落下なんてするんだな、と結構失礼な感想を心の中で述べてみる。
落下の原因を話したナギはカナタのキモリの頭を優しい手つきで撫でながら、
「速度の限界まで達する事が出来ればGカップの感触が分かると思ったのだが、まさかその前に落下してしまうなんてなぁ」
「その汚らわしい手で俺のキモリに触らないでもらえます?」
☆☆☆
「なるほど、やはり君は男性だったのだな、すまないすまない。あまりにも中性的な顔立ちだったから混乱してしまったよ」
「いえ別に。昔からよく間違われるんであんまり気にしてねえです」
ナギからキモリを奪い返して自分の膝の上に乗せたカナタは、ナギの謝罪に手をひらひらと振って答えを示した。
先ほどからの発言からはあまり想像できないのだが、この女性は結構優しい性格をしているらしい。自分の非を素直に認めることが出来る――この時点でその人の人格はある程度確定できる。
カナタはキモリの尻尾を撫でながら、ナギの顔をまじまじと見つめる。
「??? どうかしたのか、カナタ? 私の顔に精液か何かでも付いているか?」
度肝を抜かれた。
☆☆☆
こんなやり取りをしているのは勝手だが、カナタはいつまでもこんな所で油を売っているわけにはいかない。次の目的地であるカナズミシティに早く到達しないといけないからだ。
ナギを立たせ、シートに付着した泥を叩き落とし、綺麗に畳んでリュックサックの中へとしまう。――の直後に灰色のジーンズと黒の上着に付着していた草を叩き落とし、カナタはぐぐっと背伸びをした。
どこからどう見ても旅の途中であるカナタにナギは感心したように口笛を吹き、
「君はポケモンリーグを目指しているのか?」
「ええ、まぁ。同郷の奴等と『リーグでまた会おう!』って約束しちまってますからね。大変だとは思いますが、とりあえずはジムバッチを集める旅をしてんですよ」
「しかし、それにしてはやけに大人びているな。旅を始めるのは十歳からだと相場が決まっているのではなかったか?」
「あはは……いや、ちょっと事情がありまして……」
カナタは照れくさそうに頬を掻く。
「ウチの親父が無駄に親バカでしてね。『十八歳になるまで旅をするのは許さない!』ってずっと意固地ってまして……親に刃向かうのもどうなんだろうって感じだったんで、この間キモリを貰うまでの八年間、幼馴染のポケモンと一緒に近くの草むらでバトルの練習ばっかりしてたんですよ。幼馴染みの二人は『カナタと一緒に旅を始めなきゃ意味がない』って言って俺の出発の日まで一緒に待ってくれてたんです」
「良い友達を持っているな、君は」
心の底から感心したように表情を和らげるナギに、カナタは顔を赤らめてそっぽを向いた。
よいしょっ、とリュックサックを背負い直すカナタにナギは「そういえば」と声をかけ、
「君はキモリの他にポケモンを持っていると言ったな?」
「ええ、まぁ。一体だけですけど……」
「良かったら私に見せてくれないか?」
「別に良いですよ?」
なんでそこが気になるんだろう。いや、単純に気になっただけだろうな。俺がこの人の立場に立っていたとしても、同じ行動と発言をしただろうし。
ベルトの近くにあるホルダーからモンスターボールを一つ手に取り、近くの草むらに放り投げる。
ポンッ! という小気味良い音の直後、そのポケモンは姿を現した。
ドククラゲ。
赤く大きく丸い突起と青の笠、そして黒光りした無数の触手が特徴のポケモ――
「興奮してきたぁああああああああああああああああっ!」
「戻れ、ドククラゲ! この人は危ない!」
チャンピオンを目指す少年が出会ったのは少しばかり――というか大胆すぎる程にエロが大好きな、心は思春期で肉体は大人な無駄に綺麗な女性だった。
ナギの声はぴかしゃさんで再生してくれれば分かり易いんじゃないかな?
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次回もお楽しみに!