ホウエン地方は何処も思春期   作:秋月月日

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 今回からジム戦に入るので、少しばかりシリアスになります。

 そう、誰が何と言おうとこれはシリアス回なんだ!


ジムリーダーはカナタの天敵

 そして翌日。

 カナタはムロタウンジムの扉の前に立っていた。

 彼の周りにはユウキとハルカ、そしてナギの姿がある。別に見に来なくていいと言ったのだが、「観戦するに決まってる」と即答で反論されてしまった。まぁ確かに、バトルを見る以外にやることもないしなぁ――とカナタはどこかずれた見解を示してみたり。

 カナタは隣に立っているジュプトルの頭を撫で、小さく微笑みを浮かべる。

 

「ここに勝てば二つ目のバッジゲットだ。俺とお前達の実力を思い知らせてやろうぜ」

 

 こくん、とジュプトルは頷き、ボールの中のドククラゲがガタガタと震えた。

 タイプ相性で勝つことは難しく、実力差も想像がつかない。ユウキは「ネタバレは面白くない」と言ってトウキの手持ちを教えてはくれなかったから、具体的な策を立てることも不可能だ。

 だけど、とカナタは拳を握り締める。

 こんなところで負けるようなトレーナーがチャンピオンになれるわけがない。チャンピオンとは最強のトレーナーの事なのだから、負けるなんてことは許されない。――そう、要は勝てばいいんだ。

 前髪を手で掻き上げ、表情を引き締める。

 

「そうだ、カナタ。僕から一つだけ君にアドバイスをしておくよ」

 

「???」

 

 ジムの自動ドアに近づこうとしたところでユウキから声を掛けられ、カナタはピタッと制止した。

 何を言われるんだろう、と不思議そうな顔をするカナタの肩にユウキは静かに手を置き、

 

「――貞操に気を付けて」

 

「え、ええぇっ!? 今の何!? どういう事!? ちょ、オイ待てってユウキ! そんな凄くイイ笑顔で勝手に観客席に移動すんな! ちょ、ナギさんとハルカまでどうしてそんな顔をしてんの!? え、ナギさん何? 『トウキはヤバい。マジヤバい』って――だからどうしてそんなアドバイスをするの!? ちょ、ちょっと待ってぇええええええええええええっ!」

 

 カナタのムロジム挑戦が――始まる!

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

「やぁっ、君がカナタくんだね! オレはトウキ、見て通りのサーファーさ! 今日は良いバトルをしよう!」

 

「あ、はい。……よろしくお願いします」

 

 一抹の不安を拭えぬままにジムの中へと足を踏み入れたカナタを待っていたのは、半袖シャツに短パンという如何にも『海の男!』という服装の好青年だった。歓迎の言葉は普通で、声は元気いっぱいで清々しい。この青年のどこに気を付ける要素があるというのだろうか? やっぱりアレは脅しだったのか? いやでも、ナギさんまでもが引き攣った笑み浮かべてたしなぁ……。

 ガシッ、とアツい握手を交わしながらもトウキを警戒するカナタ。カナズミジムのツツジの件もある。ジムリーダーは変人、という想像が現実にならないとも限らない。……というか、ツツジは酷すぎた。アレは思春期って言うよりただのエロキャラだろ。

 握手の状態でニコニコと爽やかな笑顔を浮かべるトウキに、カナタは愛想笑いを返す。うーん。やっぱりこの人、ユウキ達が言う程おかしな人じゃないと思うんだけど……結局のところ、どうなんだろう?

 疑問と警戒を同時に発動させながら、カナタはちらっと観客席の方に視線を向ける。

 

(何であの三人、俺に向かって十字切ってんの!? そして黙祷とか意味分かんない!)

 

 ヤバイ。なんだか知らないが、凄くヤバい感じがする。あの変態トリオが諦める程にこのトウキという青年は変態なのか。……これは本格的に警戒した方が良いのかもしれない。

 カナタは愛想笑いを崩しながら、トウキの手から自分の手を離――

 

「君、可愛いね。ユウキ君から聞いたけど、性別は男らしいじゃないか」

 

「あ、はい。なんか母親の顔を諸に遺伝しちまったみたいで……」

 

「そうか。まぁ、それは君の母親に感謝しておかないといけないね」

 

「え? どうしてですか?」

 

 まぁ確かに、不細工な顔じゃないだけマシだけど……この顔って結構コンプレックスだったりするから、感謝とか言われてもあまりピンとこない訳なのだけど……。

 言っている意味が理解できない、と言った表情のカナタにトウキは本日最高の爽やかスマイルを向け、

 

「オレが可愛い男の子が大好きだからさっ!」

 

「うわぁっ、うわぁあああああああああああああああああああっ!」

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

「あーあ。やっぱり言っちゃったね、トウキさん。カナタが脅えるからやめた方が良いって言ったのに」

 

「まさかあのビッグウェーブなジムリーダーが生粋の『ホモ』だなんてね……いやまぁ確かに、カナタは幼い頃から異性よりも同性にモテてたけどさぁ」

 

「カナタは昔から女顔だったのか?」

 

「ええ、まぁ。正直な話、私よりも何倍も可愛かったんです。絵本のお姫様を実写化したら昔のカナタになるんじゃないかなぁ? あ、私、五歳の時のカナタの写真持ってますけど、見ます?」

 

「是非!」

 

「ちょっと待ってくださいね……あ、っとと。これだこれだ。はい、どうぞ」

 

 カナタ(ショタ:ゴスロリver)

 

「我が人生に、一片の悔いなし……ッ!」

 

「うわぁああっ! カナタのあまりの可愛さにナギさんが鼻血を出して気絶した!」

 

「だ、誰か救護班を呼んでください! そしてできれば輸血も頼みます!」

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 ムロタウンジムのジムリーダートウキはホモだった。

 しかも、可愛い男の子専門の同性愛者らしい。

 そんな事実をトウキ本人の口から言い渡されたカナタはジュプトルとドククラゲと肩を組む形で円陣を組み、

 

「全力で締まっていくぞォおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

 

「ジュプトォーッ!」

 

「くらぁっ!」

 

 腹の底から放たれたカナタの叫びにジュプトルとドククラゲも全力で呼応する。というかドククラゲさん、そんな声だったんですね。久しぶりに聞いたからちょっとびっくりしました。

 右にジュプトル左にドククラゲを従えたカナタは目尻に涙を浮かべ、ギロリとトウキを睨みつける。

 

「絶対に負けられない戦いがここにある!」

 

「別に何かを賭けた訳でもないのに凄い嫌われようだよね、オレ。――あ、やっぱり何か賭けるかい? そうだな、オレが勝ったら君と一晩過ごすってのはどうだい?」

 

「言っている事はナギさんとハルカよりも普通なのにその対象が俺というだけで全身の震えが止まらない!」

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 何故だか賭けが成立してしまったようです。

 予想もしなかった展開に全身に鳥肌を浮かべるカナタくん。顔は何処かしら青褪めていて、身体は小刻みに震えてしまっている。そんなカナタの身体をジュプトルとドククラゲが優しく摩ってくれた。ありがとう、二匹とも。俺の心を癒してくれるのはお前らだけだよ。

 負けたが最後、男としての貞操を奪われてしまうというこの最悪な状況。俺は一体何と戦っているんだろう、とカナタは心の底から疑問を浮かべ恐怖してしまう。――しかし、そんな事をしたところで状況は改善されない。

 

「それでは、挑戦者カナタとジムリーダー・トウキのポケモンバトルを開始します! 使用ポケモンは二体、道具の使用は不可。ポケモンの交代は挑戦者だけ認められます!」

 

「カナタ君! オレは君のために勝ってみせる!」

 

「俺の為を思ってんのなら負けてくださいお願いします!」

 

「あははっ、それは聞けない相談だ!」

 

 心底ムカつく爽やかスマイルでトウキはボールを構え、

 

「ビッグウェーブで押し切ろう、アサナン!」

 

「あさぁっ!」

 

 白い頭部と水色の身体が特徴ンポケモン――アサナンがフィールドに顕現し、座禅を組んだ状態で己のやる気をカナタとトウキに叫びとして伝えた。アサナンのタイプは格闘タイプとエスパータイプ。飛行タイプかゴーストタイプのポケモンがいれば短期決戦で打ち負かすことができるのだが、カナタの手持ちにそれらのタイプは存在しない。

 さて、そろそろ覚悟を決めよう。

 絶対に負けられない、と改めて心の中で固く誓い、カナタは真剣な表情で言い放つ。

 

「お前の力を見せてやれ、ジュプトル!」

 

「ジュプトッ!」

 

 カナタが選択したのは草タイプのジュプトル。タイプ相性としては普通だが、これといった決め技がある訳でもないポケモン。まぁ、持ち前の素早さを生かした戦闘スタイルを駆使すれば、もしかするとアサナンを圧倒できるかもしれない。

 両腕のブレードを構えるジュプトルと座禅を組むアサナンが真正面から睨み合う。その後方で、爽やかな笑みを浮かべたトウキと青ざめた顔のカナタが見つめ合――もとい睨み合っていた。

 これで、双方の準備は整った。

 一瞬の静寂の後、審判役の青年は両手に持った旗を真上に掲げ、

 

「それでは――バトルスタート!」

 

 カナタの二度目のジム挑戦が幕を開けた。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 バトル開始の合図の直後、先に動いたのはアサナンだった。

 

「アサナン、“ビルドアップ”だ!」

 

「あぁぁぁさぁぁぁっ!」

 

 トウキの指示を受けたアサナンは空気を一気に吸い込むことで力を溜め込み、自らの防御力と攻撃力を底上げする。ただでさえ防御力が高い格闘タイプだというのに、更に防御を固められてしまった。これは誰が見ても分かるほどに厳しい戦いになるだろう。

 しかし、カナタは焦らない。

 

「ジュプトル、アサナンに向かって“すいとる”!」

 

「ッ!」

 

 遠距離攻撃が可能な“すいとる”でアサナンの体力を削る。威力は微々たるものだが、別にこの技で倒せなくても良いのだ。少しずつでも相手の体力を削り、最終的には勝利する。これがポケモンバトルの定石だ。

 “ビルドアップ”による能力上昇では減らせないダメージを受けたアサナンは苦悶の表情を浮かべるものの、その場でジャンプする事で自分がまだ全然戦えることをトウキに伝えた。

 トウキは親指を立てて笑顔を浮かべ、

 

「よしっ、その意気だアサナン! ジュプトル目掛けて“かわらわり”!」

 

「あさなぁんっ!」

 

 組んでいた足を解除し、ジュプトルに向かって一直線に突っ込んでいくアサナン。ジュプトルは特殊防御力はそこそこだが、物理防御力はそこまで高くないポケモンだ。アサナンは物理攻撃力が高いという訳ではないが、先ほどの“ビルドアップ”で攻撃力が上昇している。そんな状態のアサナンの“かわらわり”を正面からくらったら、流石のジュプトルもただでは済まないだろう。

 迫りくるアサナンをジュプトルは正面から見据える。――しかし、カナタはまだ動かない。

 何故か指示を出さないカナタにジムの中の人々が騒然とするが、そんな事などお構いなしといった様子でアサナンは右手を高く振り上げた。――その直後。

 

「今だ! ジュプトル、ジャンプで躱して“つばめがえし”!」

 

「ジュプトォーッ!」

 

「あさっ!?」

 

 アサナンの右手を跳躍する事で回避したジュプトルは空中で体勢を立て直し、右腕のブレードで渾身の“つばめがえし”を叩き込んだ。

 天敵である飛行タイプの攻撃を叩き込まれたアサナンが地面へと勢いよく叩きつけられ、地面に小さなクレーターができてしまう。落下の速度を攻撃力に付加させたジュプトルの効果抜群な一撃に耐えきれなかったアサナンは、クレーターの中央で目をぐるぐると回していた。

 一撃。

 いくら効果が抜群といっても、アサナンは“ビルドアップ”で防御力を上げていた。そんなアサナンを一撃で葬り去れるほどの攻撃力なんて、ジュプトルが持ち合わせているはずがないのだが……。

 

「昨日、色々とトラブルがあったんです」

 

「トラ、ブル……?」

 

 アサナンをボールに戻すトウキにカナタは得意気な表情を向ける。

 

「俺の仲間が森で迷いましてね。その人の捜索中に無駄に大勢の野生ポケモンに襲われたんですよ。捜索前に幼馴染と特訓していたから割となんとかなったんですが、それでも数の暴力に中々の苦戦を強いられまして」

 

「……ま、さか」

 

 なにかに気づいたトウキにカナタは「ええ」と邪悪な笑みを浮かべ、

 

「昨日だけで俺のジュプトルのレベルは格段に上昇している。それに加え、ジュプトルは格闘タイプに効果抜群な“つばめがえし”を武器としている。――これが何を意味しているのか、分からない訳じゃあないでしょう!?」

 

「ぐっ……」

 

「さぁっ、どこからでもかかってきてください、トウキさん! 俺は自分の身と貞操を護る為、全身全霊をかけてあなたを叩き潰します!」

 

 残るポケモンはあと一体。

 いろいろなストレスが溜まっていたカナタの黒化が始まった。

 

 

 

「というか、やっぱりナギさん、カナタに“つばめがえし”の技マシンあげたんですね」

 

「だって、カナタに負けてほしくなかったんだもん……」

 

「うっ! 可愛い、可愛過ぎるよナギさーん! もうっ、ぎゅってしちゃう!」

 

「はいはい。あんまりナギさんとイチャイチャしてるとカナタが嫉妬でブチ切れちゃうよー?」

 

 

 




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 次回もお楽しみに!
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