頑張ればもう一話、もう一話だけ投稿できるかも……ッ!
カナタは窮地に立たされていた。
ユウキとハルカが浮き輪を取りに行ったことでナギと二人きりになってしまった訳だが、そこに彼女の背中にサンオイルを塗るというまさかの試練が爆誕してしまったのだ。個人的には嬉しいこと限りなしだが、それでもやっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。いや、ナギさんが普段から言っている下ネタの方がかなり恥ずかしいんだけど、それとこれとはベクトルが違いすぎる。
水着のホックを外した状態でシートの上に寝転がっているナギを赤い顔で見つめながら、カナタは右手にサンオイルを注いでいく。
「さ、さぁっ、私にえっちぃ事をするなら今がチャンスだぞ!」
「アンタ照れてんのかいつも通りなのかどっちなんだよ!」
☆☆☆
「んっ……くっ……」
ヌリヌリヌリ。
「あふぅ……っくぅっ!」
ヌリヌリヌリ。
「はぁ……はぁ……んんぅっ!」
「オイお前ワザとだろワザとなんだろそうだと言えよ!」
☆☆☆
そんなこんなで無事に試練を乗り越えたカナタは極度の脱力感に襲われていた。なんかもう、地面に押し潰されてるナギさんの巨乳とか凄くスベスベなナギさんの肌とかが目の毒過ぎてスッゲー疲れた。いやまぁ、幸せじゃなかったと言えば嘘になるけど、それでもやっぱり辛い時間でした。まる。
浮き輪を駆使して全力で海水浴を楽しんでいる幼馴染み二人をぼーっと眺めていたカナタは、自分の傍で自分と同じようにユウキ達を眺めているナギに不思議そうに問いかける。
「ナギさんは泳いでこないんですか?」
「君にそっくりそのままその質問を返させてもらおう」
「いや、まぁ、確かにそうですよね……」
俺が泳いでないのは単純に平常心を取り戻そうと必死だったからなんだけど……流石にそれをナギさんに言うのは恥ずかしすぎるし……はぁぁ、やっぱりいつも通りに過ごした方が良いのかもな。
海に行きたくてうずうずしている様子のナギに苦笑を浮かべながら、カナタはナギの手を掴む形で立ち上がる。
「そんじゃま、俺たちも行きますか」
「う、うむ、そうだな! 私たちも早くイかなくてはな! はい、気分は絶頂絶頂!」
「最低な言葉口走ってんじゃねえぞ思春期エロ巨乳!」
☆☆☆
ナギの浮き輪に掴まる形でユウキとハルカの元まで泳いで移動したカナタ。基本的に運動神経が良いカナタはナギを押す形でバタ足だけでの泳ぎだった。ナギも泳げないことはないのだが、「浮き輪があった方が楽しいですよ?」というカナタの意見に屈してしまい、凄く乙女っぽい役回りに甘んじた――という訳だ。
ようやっと海に入ってきてくれたカナタとナギにハルカはニコニコ笑顔を向ける。
「おぉっ! ナギさんのおっぱい、カナタの動きに合わせてすっごく揺れてる! カナタの! 激しい動きに! 合わせる形で! ナギさんの! おっぱいが! 激しく! 動いてる!」
「ふふん。どうだ、見たかハルカ! これが正しいおっぱいの在り方だ!」
「お前ら全国各地の貧乳に土下座しろ!」
☆☆☆
激しい運動をするとお腹が減ってしまうのは人間の性というもの。
というわけで、カナタ達四人は海の家で昼食を摂る事にした。
海の家の中は海水浴客で賑わっていて、広い所ではポケモンバトルが行われている。カナタ達も一応はポケモンたちを外に出してあげようと思ったのだが、カナタのドククラゲだけは許可されなかったため、「一体だけ出してもらえないのは可哀想」というハルカの言葉を尊重し、結局は全員のポケモンをボールの中でお留守番させることになったのだ。……今日はドククラゲの大好物の食用コイキングをたくさん買ってあげよう。
カナタは一つのメニュー表をナギと共同で見ながら、自分の昼食を選んでいく。
「うーん……カレーライスもいいけど、ラーメンも捨てがたいなぁ……」
「それでは、私がカレーを頼んで君がラーメンを頼むというのはどうだ? 私のと君のとで食べ比べをすれば、二つの味を楽しめると思うのだが」
「あ、それいいですね。それじゃあそうしましょう」
昼食を選ぶという簡単な行為の中で無自覚にイチャイチャしてしまうカナタとナギ。巨乳で美人なナギと恋人同士のようなやり取りをしているカナタに海の家にいる男性一同から嫉妬の視線が送られるが、現在進行形で幸せの絶頂にいるカナタは彼らの視線に全く気付かない。唯一ユウキだけがその視線に気づいていて、メニュー表を見ながらも静かに苦笑を浮かべていた。
カナタとナギの注文が決まり、ユウキも数秒遅れて焼きそばを決定した。
一番注文が遅れているハルカはメニュー表を凝視しながら「ぐぬぬ」と呻き声を上げ、
「チョコバナナもミートボールもヨーグルトも肉まんもサザエもないなんて、私は一体何を食べればイイというのか!」
「生ゴミでも食ってればいいんじゃねえの?」
☆☆☆
注文した料理が運ばれてきました。
ナギの前にカレーライス、カナタの前にラーメン。ユウキの前に焼きそばでハルカの前にたこ焼きが置かれたところで、四人は昼食の時間を開始した。
ナギはカレーをスプーンで掬い、カナタの口元へと運ぶ。
「ほらカナタ、あーん」
「……ナギさん?」
「??? どうした? 食べないのか?」
「いや、食べますけど……」
不思議そうに首をかしげるナギにカナタは僅かばかりの頭痛を覚える。この人、自分がどれだけ恥ずかしい事をしてるのか、自覚症状がねえんだろうか……。
まぁ、ここで何かを言ったところで状況は悪化するだけだろうし、ここは俺が恥ずかしさを我慢してこの場を乗り切る事にしよう。
僅か二秒ほどで覚悟を決めたカナタは頬を仄かに朱く染めながらも口を大きく開ける。
「あ、あーん」
「うむ。はい、あーん」
ぱく。
もっきゅもっきゅもっきゅ。
「どうだ、美味しいか?」
「…………最高に美味しいっす」
そこで満面の笑みとか、反則過ぎですよナギさん。
☆☆☆
昼食を終え、カナタ達四人は再び海水浴を開始した。
――というのに、何故か砂浜で砂遊びを始めてしまったハルカは「ふぅ」と額の汗を手の甲で拭い、
「見て見てカナタ! 砂でイボイボバ〇ブ作ってみた!」
「ふんっ!」
「ぎゃぁああああああっ!? 私の自信作がぁああああああああっ!」
☆☆☆
ハルカの芸術作品がカナタに蹴り飛ばされている頃、ナギとユウキは海にぷかぷかと浮いていた。
ナギは浮き輪の上に胸を乗せた状態で浮いたまま、自分と同じ状態で海に浮いているユウキに話しかける。
「最近のカナタ、ツッコミに容赦とか手加減というものが無くなってきたような気がするのだが……私の気のせいだと思うか?」
「いえ。僕から見てもそう思うので間違いないと思います。特にハルカへのツッコミがランクアップしまくってますね。だからほら、今もハルカの作品を容赦なく蹴り飛ばしてますし」
「あぁ、本当だな。ハルカが心の底からショックを受けた顔をしている」
「まぁ、ハルカは昔からカナタに厳しいツッコミを入れられまくってましたけどね。見ての通り、ハルカは下ネタ大好きな思春期なので、カナタのツッコミの格好の的だったんです」
「ということは、私ももっと下ネタの頻度を増やせばカナタに激しくツッコんでもらえるのか!? おぉぅっ、これは今日からでもギアを二段階ほど上げる必要があるな!」
「厳しく激しいツッコミ……? そ、それってまさか、僕も下ネタを言うようになればカナタに激しくハリセンで叩いてもらえるって事!? あぁっ、痣が出来るぐらいに激しく叩いてもらえる光景を想像しただけで気持ち良く……」
「「興奮してきたぁああああああああああっ!」」
『距離があるからって好き勝手言ってんじゃねえぞ変態コンビ!』
☆☆☆
海でハシャイデ騒いでボケてツッコんでを何度も何度もくり広げ、ついに日も暮れはじめた頃。
水着から普段着に着替えたカナタ達四人はカイナシティに向かって歩いていた。カイナビーチにはほとんど人の影は無く、係員やらライフセイバーやらがゴミ拾い作業に勤しんでいる姿だけが確認できる。
遊び疲れて眠ってしまっているハルカを背負ったユウキは苦笑を浮かべながら、カナタとナギに言う。
「今日は楽しかったね。久しぶりに全力で遊んじゃった気がするよ」
「旅の中にも息抜きというのは大事なものだ。特に君たちのようにポケモンリーグを目指している者の旅には、定期的に休むことが何よりも必要になって来るだろう。私はアドバイス程度しかできないが、あまり根を詰め過ぎないようにするのだぞ?」
「分かってます。ねぇ、カナタ。……カナタ?」
カナタからの返事がない事に疑問を覚えたユウキは自分とナギの間にいるカナタの顔を下から覗き込んだ。
カナタの顔は上下にカクンカクンと揺れていて、目はほとんど閉じられてしまっている。――あぁ、なんだ。カナタも遊び疲れてるのか。まぁ、あれだけツッコミを入れたりはしゃぎまわってれば、必然的に体力は失われちゃうよね。
さて、今にもぶっ倒れそうなカナタをどうしよう。ハルカを背負っている状態ではカナタを持ち運ぶことは不可能だし……。
そんな事を考えるユウキの傍ら、ナギは「よっ……と」と軽い調子でカナタをおんぶで持ち上げた。
「ナギさんって意外と力持ちなんですね。カナタは確かに小柄だけど、そんな簡単に持ち上げられるとは思わなかったなぁ」
「まぁ、私はカナタよりも身長が高いし、昔から力には自信があるからな。飛行機の操縦や鳥ポケモンとの修行で鍛え上げたこの身体はそんじゃそこらの女性とは比べ物にならないぞ?」
「あはは、それは凄いですね。流石はヒワマキシティジムのジムリーダーさんだ」
「――――、え?」
予想もしない発言に、ナギの思考に一瞬だけ空白が生じた。
目を見開いて絶句しているナギにユウキは微笑みを向け、
「情報収集はトレーナーとしての義務。ですから、僕はジムリーダーの事は予め調べ尽くしているんです。まぁ、ハルカとカナタはそういう事が苦手だからジムリーダーの顔も名前も知らないみたいだけど……というか、この二人がそういうキャラだからこそ、僕が地味な役割を担っているんですけどね」
「……ということは、カナタはまだ私の正体については知らない、と?」
「僕が教えてないから知らないままだと思いますよ? こんな所でネタバレなんてつまらないですからね。大丈夫、そんなに警戒しなくてもいいですよナギさん。僕はカナタの味方であると共にあなたの味方でもあります。仲間の秘密を守るのは仲間としての義務です。僕らがヒワマキシティジムに挑戦するまではこの秘密を守り続けてあげますよ」
「……どうして、そんな事をしてくれるのだ?」
「うーん、そうですねぇ」
ユウキはニッコリと子供のような笑みを浮かべる。
「ナギさんとカナタのやり取りを見るのが好きだから、ですかね」
「…………は?」
「ナギさんが一生懸命になってカナタにアプローチをしているのを見るのが好きなんです。人の恋路ほど面白いものはない、ってよく言うじゃないですか。もちろん、ハルカとミツル君の恋路を見守るのも大好きです。――つまり僕は、面白い事の為ならどんな秘密でも護り抜けるって事ですよ」
「……君は、意外と腹黒い性格をしているのだな」
「鋭いカナタに対抗し続けた結果の産物です」
まぁ、別にそんな事はいいじゃないですか。ユウキは裏が読めない張りぼての様な笑みを浮かべ、いつも通りの弱気な少年のような声色で言い放つ。
「今は楽しく仲良くしましょうよ、ナギさん。僕は今のこのパーティが大好きなんですから。ナギさんだって、カナタと離れるのは嫌でしょう?」
「はぁぁ……ったく、これは一本取られたな。君の策士っぷりに脱帽だよ」
「褒め言葉として受け取っておきますね」
肩を竦めるナギにユウキが「くくくっ」と笑った直後、彼らはカイナシティのポケモンセンターに到着した。
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