まずは脱出を始めよう。
ナギの過失(?)で落とし穴に落下してしまったカナタとナギは、絡繰り屋敷攻略の先駆けとして、とりあえずはこのふざけた罠からの脱出を図る事にした。
ナギはハリセンで叩かれた頭を擦り、目尻に浮かんだ涙を拭いながらカナタに提案する。
「私と君が肩車をして脱出するというのはどうだろう?」
「それだったら最後に残された一人が脱出できません。というか、この深さは俺とナギさんが肩車しても普通に届きませんよ」
ちら、と真上に視線を向ける。カナタ達が落ちてきたであろう穴はかなり上の方にしか黙視できない。少なくても十メートル以上はあるだろう。……どんだけ落とし穴に熱意込めてんだあのおっさん。
ナギの鳥ポケモンに乗って脱出する、という策も考えたのだが、この狭さでは流石の鳥ポケモンも羽ばたく事が出来ないため、カナタは口に出す前に自らその案を棄却していた。もっとこう、確実性のある脱出法を考えねえと……。
「穴抜けの紐とか使えたらいいんですけど……ここってダンジョンじゃねえから穴抜けの紐の対象外なんですよね」
「穴抜けの紐に限らずとも、とにかく長い紐状のものが在れば良いのではないか? そうだな、今の私たちが持っているものの中で最も的確な存在は……」
ポンッ! とナギは胸を揺らしながら両手を打ち、
「ドククラゲでこの穴を登ろう! 私も気持ちよくなれるし脱出もできるしで一石二鳥ではないか!」
「前者は捨てろさもなきゃハリセンだこの野郎」
☆☆☆
そんな訳で、ドククラゲさんにご登場いただきました。
「ドククラゲ、いけるか?」
「くらぁっ」
心配そうな表情で問いかけるカナタにドククラゲは触手を駆使してサムズアップを返した。やだこのドククラゲ、超イケメン……ッ!
穴の一番上に向かってにょろにょろと触手を伸ばしていくドククラゲ。流石に一度には届かなかったが、触手を全て利用して壁に掴まる事でドククラゲによる梯子が何とか完成した。これで一応の脱出口は開けたということだ。
カナタがドククラゲに掴まり、その後からナギが続く。
カナタはドククラゲのぷにぷにとした触手をむんずと掴んで攀じ登――
「ドククラゲ、私をイカせられるか?」
「その減らず口ごと蹴り落とすぞ!」
☆☆☆
ドククラゲの活躍で元の部屋へと帰還したカナタとナギ。脱出に成功した直後にカナタのハリセンが炸裂してしまったため、ナギの頭には大きなたんこぶが御降臨なさっている。素材は鉄なんじゃないか? とハリセンに対する疑いが生まれてくる今日この頃だ。
涙目で頭を擦りながら、ナギは周囲を見渡し、
「あぅぅ……出口は未だに見当たらないな」
「あのおっさんの言う通り、無駄に絡繰りが多いみたいですからね。脱出はそう簡単って訳じゃないんでしょうよ」
「君は私を簡単にハリセンで叩くけどな」
「テメェが簡単に下ネタ言うからだボケ」
ギロリ、というカナタのガチ睨みにナギは顔をヒクヒク引き攣らせて敗北した。ダメだ、今の睨みには逆らえん。
ドククラゲをボールに戻したカナタを見てナギは「む?」ととある違和感を指摘した。
「そういえば、最近ジュプトルが外に出てこないな。何かあったのか?」
「あー……いや、別にそんな事はないんですけど……」
とてつもなく気まずそうにカナタは頬をポリポリと掻き、
「ナギさんを怖がってしまって、外に出てこようとしないんですよね……」
「私のどこに怖がる要素が!?」
がーん! と青ざめた顔で露骨にショックを受けるナギさん。私はジュプトルが大好きなのに! 何故に私がジュプトルに嫌われているというのだ!?
うがー! と突如として襲ってきた混乱と絶望に頭を抱えるナギを宥めながら、カナタは凄く申し訳なさそうな表情で彼女から目を逸らし、
「なんか、俺がナギさんの胸に挟まれてるのを見て、ナギさんにどうしようもない程の恐怖心を覚えちゃったみたいなんですよね……」
「無自覚ぱふぱふ禁止令が下された!?」
☆☆☆
そんな訳で『ぱふぱふ』が禁止になりましたとさ。
ボールの中でカタカタ震えるジュプトルにカナタが苦笑いを、ナギが落胆を見せる中、二人はようやくコースの中間ポイントへと到達した。
到達した、のだが……。
「あれ? なんかあそこ、見たことないポケモンがいますね」
「ラルトスだな。しかし、何故ラルトスがこんな所に……?」
『あと少し! 頑張って!』と書かれた看板の下で、そのポケモンは看板を見上げながらぼーっと突っ立っていた。ナギの言う通り、このポケモンはラルトスというポケモンだ。所有タイプはエスパータイプのみだったのだが、最近の研究で『フェアリータイプ』という特殊なタイプも保有している事が分かった、何気にタイムリーな噂を持つポケモンだ。
付かず離れずの距離でまじまじとラルトスを見つめるカナタとナギ。
そんな二人の視線の先でラルトスは顎に手を当て、
《この看板、早漏の男を励ます風俗嬢みたいッスね……》
「…………」
「…………」
《ワタシも一度はそういう経験をしてみたいものッスけど、ワタシは野生のポケモンの身。あーあ。誰か可愛い顔した男のトレーナーがワタシを捕まえてくれないッスかねー》
ポスン、とナギは優しくカナタの肩を叩く。
「良かったな、カナタ。三体目のポケモンが何気にゲットできる流れになったぞ」
「その無理に気遣った表情で言うのやめてもらえません?」
☆☆☆
パンパカパーン!
カナタはラルトスをゲットした!
「……俺の人生がエクストリーム過ぎて胃へのストレスがフルスロットル」
「ま、まぁ、そんなに落ち込むものではないぞ、カナタ。ラルトスは進化すれば凄く強力なポケモンになるからな。ポケモンリーグのためには必要な戦力だったと考えよう!」
「ストレスの一因に慰められてもなぁ……」
「…………君は意外と失礼な事を言うヤツだな」
はぁぁ、と大きく溜め息を吐くカナタにナギのジト目が突き刺さる。しかしまぁ、ナギも自分が原因だと一応は分かっているので、あんまり強くは出れなかったりするのだ。
カナタは捕まえたばかりのラルトスをボールから出し、ラルトスを顔の前まで抱え上げる。カナタは捕まえたポケモンとまず対話するように心がけている。ポケモンとの絆が大事だと考えているカナタならではのファーストコンタクトだ。
カナタは頭に浮かぶ悲しみを頭の奥底に沈めながら、ニコッとラルトスに微笑――
《イヤアアアアアアアアッ! 凄く可愛いトレーナーにゲットしてもらうって夢が叶っちゃったッスぅうううううううううううううっ! はぁはぁはぁはぁはぁはぁ!》
「…………ッ!」
「や、やめろカナタ! 流石のラルトスといえどもその看板での一撃は命にかかわる!」
「離してくださいナギさん! ポケモンの躾けはトレーナーの義務なんだぁああああああああああっ!」
《躾け!? ということは、あんなことやこんなことでワタシは調教されちゃうって事ッスか!? うっひょい! ヘイ、カモンカモン!》
「一撃! 一撃だけでも許可してください!」
「君は一撃必殺のつもりだから不許可に決まっているだろうが!」
看板を振りかざして暴れるカナタをナギは過去最高なほどの全力で羽交い絞めする。
☆☆☆
新たな仲間との最悪な出会いに脳が震えたカナタを慰めながらの絡繰り屋敷攻略を終えたナギは、最初に自分たちがいた畳の部屋でユウキとハルカと合流した。因みに、絡繰り大王も二人と一緒に待機していました。挑戦者放って寛いでんじゃねえよ……。
ラルトスを頭に乗せてえぐえぐぐすぐすと泣きじゃくっているカナタの頭を優しく撫でながら、ナギは絡繰り大王への報告を開始する。
「そんな訳で、私たちは無事にクリアしたから景品を貰いたい。そうだな、できるだけ高額なものを頼むぞ」
「いや、そんな指名制じゃないのぞな……このボックスの中から好きなものを選択する形式なのぞな」
「つまらない物ばかりだったら容赦なくこの屋敷を破壊するから覚悟しておくのだな」
「ひぃっ! な、ななな何でそんなにイラついているのぞな!? ワシはそんなに危険なトラップを仕掛けた覚えはないのなのぞな!」
「屋敷の中に野生ポケモンを侵入させるなこの戯けが痴れ者がぁっ!」
ギロリ、と先ほどのカナタのような睨みを利かせるナギに絡繰り大王は心の底から恐怖を覚える。
意気消沈しすぎてブツブツと膝を抱えて座り込んでしまったカナタをぎゅっと抱きしめ、ナギは絡繰り大王が用意したボックスの中を覗き込む。
毒々玉。
強制ギプス。
黒い鉄球。
………………凄くマニアックな趣向の方が対象なのかもしれない。
いつものカナタの気持ちが分かった気がするよ、と眉間を指で揉み解しながらナギは強制ギプスをボックスから取り出し、迷う事無くカナタのラルトスに装着した。
《んぎぃいいいやぁあああああああっ!? か、身体が上手く動かないッス! し、しかも何故か“ねんりき”でも“テレポート”でも取り外せないし!》
「でれでれでれでれでれでれでれでれでーででん。その装備は呪われています。呪いを解くためにはお近くの教会に行って解呪の呪文を唱えてもらってください。――カナタは私が守るのだざまぁみろこのエロポケモンがぁっ!」
《き、貴様ァァァァァァ!》
ギチギチギチ、と強制ギプスに拘束された身体を動かすラルトスにナギは人を小馬鹿にするような笑みを返す。ポケモンVS人間の頂上決戦が開幕した瞬間だった。
絶望状態のカナタと緊縛状態のラルトスと魔王状態のナギをやや遠目で眺めながら、ユウキとハルカは顔を引き攣らせる中で冷や汗を流す。
「す、凄く個性的なポケモンの参入でカナタのダメージが急増してる気がする……」
「私、後でカナタに無料でクイックボールをプレゼントしようそうしよう」
「ど、同情するならツッコミを代わってくれぇぇぇぇっ!」
バチバチバチィッ! と火花を散らすラルトスとナギに挟まれたカナタの全身全霊をかけた大絶叫に、ユウキとハルカはとても気まずそうな表情でふいっと顔を逸らした。
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