そこで思ったことが一つだけ。
“なきごえ”しか覚えてないはずのラルトスのレベル上げを行ったミツルくん、流石に凄腕すぎやしませんかね。
なんだ、不思議な飴でも食わせたのか……ッ!?
キンセツシティ。
【明るく輝く楽しい街】というキャッチコピーの通り、在住している人々が常に笑顔でのびのびと暮らしている街である。電気タイプを司るジムリーダーが筆頭となって建設したニューキンセツから大量の電力を供給する事で夜でも明るい街を構築している――そんな街でもある。
110番道路で手持ちポケモンのレベルを上げたカナタ達四人はポケモンセンターでチェックインした後、キンセツシティの中を歩き回っていた。俗に言う、物見遊山というヤツだ。
「意外と広いな、この街。カナズミシティと同じぐらいの広さがあるんじゃねえか?」
「キンセツシティは電力関係でホウエン地方最大の街だから、それに比例して範囲も広くなっていくのだ。人が増えれば街も広がる。自然が少なくなるのは残念だが、人が増えていくとはそういう事だから仕方がないのさ」
「へぇ……博識ですね、ナギさん」
「ふふん。褒めるならもっと褒めても良いのだぞ?」
「調子に乗ってそうなんで遠慮します」
きゃいきゃいと仲睦まじく駄弁りながら歩を進めるナギとカナタ。仲良くしている二人に嫉妬して《むきゃぁああああああっ!》とモンスターボールの中で叫びまくる変態ポケモンがいたが、彼らはあえてシカトした。今はそんな謎のストレスに襲われている場合ではない。
デートの様なテンションで観光を続けるナギとカナタの後ろで、ハルカはキョロキョロと田舎者のように周囲を見回す。
「やっぱり珍しいポケモンが多いなぁ……あ、あれはマルノーム! すっごい! スライムプレイとかできそうかも!」
「あっはっは! 公衆の面前だぞバカヤロウ!」
☆☆☆
ハルカがハリセンでシバかれ、頭を抑えてぷるぷると震えている頃。
ユウキはとある方向をじーっと見つめていた。
「む。どうしたのだ、ユウキ?」
「あーいや、キンセツジムの前にいるあの人、どこかで見た覚えがあるような気がしまして……」
カナタの隣で首を擡げてきたナギにユウキは視線の先を指差して返答する。
ユウキの視線の先にはホウエン地方共通のジムがあり、その入り口の前にカナタやハルカたちよりも二歳ほど年下、といった感じの少年が立っている。
ナギとユウキの会話に気づいたカナタとハルカも彼らと同じ方向に視線を向ける。ユウキは見覚えがあると言っていたが、カナタは全く見覚えが無く、「誰?」と純粋に首を傾げてしまっている。
しかし。
ハルカだけは顔を真っ赤にして口をあわあわとさせていて。
「み、みみみみみみみみみみちゅっ、ミツルくん!?」
『ふぇ? あ、ハルカさん、ハルカさんじゃないですかお久しぶりですーっ!』
無駄に恋する乙女モードとなってしまったハルカの叫びに、ジムの前にいた少年――ミツルはぱぁぁっと太陽のように明るい笑顔で彼女の前に走り寄って来た。
透き通った翡翠色の髪と白っぽい肌が特徴のミツルはハルカの両手を取り、
「お久しぶりですハルカさん! 旅は順調ですかっ?」
「お、おおおおかげさまでね! み、みちゅっ、みちゅるくんは身体の具合とかどうなの!?」
「はいっ! シダケタウンの新鮮で綺麗な空気とポケモンたち、それと優しい皆さんのおかげで大分好調です! ハルカさんとユウキさんがゲットを手伝ってくれたラルトスも――この通り!」
《こんちゃっ! 久しぶりやね、ハルカ! 相変わらずミツルに動揺しとるみたいやね!》
「きゃぁあああああああああっ!? い、いいいいきなり何言ってるのラルトス!」
ミツルの肩の上でニヤニヤをほくそ笑むラルトスに赤面ハルカの叫びが飛ぶ。
――とまぁ、そんなコトは置いておくとして。
すぐ目の前で行われるやり取りを受け、ナギとカナタは全く同じ感想を抱いていた。ユウキはなにやら冷静にハルカたちを見守っているが、こっちとしてはそんな場合ではない。
ナギとカナタはハルカとミツルを凝視しながら冷や汗を流し、
((あの下ネタ大好き少女が恋する乙女モードに……ッ!?))
ぶっちゃけ信じられない光景だった。いつも四六時中、口に出す事すら憚れるほどの下ネタをぶっちゃけるあのハルカが、ミツルという少年を前にした瞬間に顔を紅蓮に染めて恋する思春期の様なテンションになってしまっている。今のこの段階でテコ入れですか? と思わず言ってしまいそうになる程の衝撃だ。
だらだらだら、と大量の冷や汗を流しながら、カナタはハルカに問いかける。
「あのー、ハルカ。この人、誰?」
「ひょえぇぃっ!? あ、うんっ、そうだね! カナタは初対面だったよねそうだよねうっかりしてたよアハハハハーッ!」
俺の幼馴染みがおかしい件について。
「え、えーっと! この人はミツルくんといって、私とユウキがポケモンをゲットする手伝いをした人なんだ! 少し体が弱いからシダケタウンに引っ越したみたいで、今は見ての通り元気っぽいね、うんっ!」
「あぁ、そう……」
激しくおかしいハルカに苦笑しつつ、カナタはミツルに手を差し出す。
「次はこっちの自己紹介だな。俺はカナタ。ハルカとユウキと同じミシロタウン出身のトレーナーで、ポケモンリーグを目指して旅をしてるバトルプレイヤーだ。アンタと同じラルトスが手持ちにいるから、是非仲良くしてやってほしい。……まぁ、そっちのと比べて大分変態だけど」
「あ、はい。わざわざご丁寧にありがとうございます。これからよろしくお願いします」
「ん。よろしく」
ぺこり、と礼儀正しくお辞儀をして握手をするミツルにカナタは小さく微笑みを返す。あぁ、この人、凄くまともだ……久しぶりの真人間との邂逅に涙が流れそうです。
度重なるストレスの中に降り注ぐ一筋の光の登場に感極まっているカナタをまじまじと見つめ、ミツルは「あっ、そうだ!」と何かを思い出したかのような声を上げた。
「カナタさん! 折り入ってボクから頼みたいことがあるんですけど……良いですか?」
「んぁ? まぁ、内容によるけど……一応言ってみろよ」
「はいっ」
ミツルは肩に乗っていたラルトスを抱え、
「カナタさんのラルトスとボクのラルトスでポケモンバトルしてもらえませんかっ?」
「別に構わんけど……どうしてだ?」
「えっと……ボク、シダケタウンに引っ越してからラルトスを頑張って育てたんです。夢のポケモンリーグに参加するために、ラルトスと一緒に頑張ってきたんです。それで、今からこのキンセツジムに挑戦しようと思っていたんですけど……今の僕の実力で本当に勝てるのか? と思ってしまって……だ、だから、ジム戦の前に、ボクの実力を試してみたいんです! お願いします、カナタさん! ボクとポケモンバトルをしてください!」
「なるほど。そういう事だったら喜んで受けさせてもらうぜ。そんじゃ、ラルトス同士の一対一って事でオーケーだな?」
「はいっ!」
元気よく返事をしたミツルに苦笑を返した後、カナタは皆を引き連れてキンセツシティの広場へと移動した。広場内には他にもトレーナーの姿があり、バトルフィールドに移動してきたカナタ達を見て「おっ、バトルかバトルか?」と野次馬根性全開でぞろぞろと集まってきていた。
カナタとミツルがトレーナーエリアに立つ。ベンチに座ったナギとハルカはそれぞれの想い人に声援を送っていて、審判役を務めることになったユウキは備え付けのフラッグを両手で持ってカナタとミツルを交互に見た。
「それでは、カナタ対ミツルの試合を始めたいと思います! 両者、ポケモンを出してください!」
「よーっし。初めての対人戦、頑張ろうね、ラルトス!」
《そうやね! 気張っていくよーっ!》
ぺいっ、と可愛らしく片手を上げながらフィールドに顕現するラルトス。ゲットしたばかりだと言っていたが、それにしては凄く仲が良いみたいだ。おそらく、ミツルが心の底から大事に育てた賜物だろう。こりゃ負けてられねえな。
先ほどから実はガタガタとうるさいボールを手に取り、フィールドに向かって放り投げる。
ボールは空中で開き、中からカナタが指定したポケモン・ラルトスが飛び出し――
「へ?」
――てくるはずだった。
フィールドに現れたポケモンをぱちくりと見つめ、カナタは思わず間抜けな声を漏らしてしまう。それはベンチにいる思春期コンビと審判役のユウキも同様で、ぽかーんと口を開けて茫然としてしまっている。
カナタが選んだのはラルトスが入ったボールのはずだ。だから、中から飛び出してくるのはラルトスでなければならない。
しかし、今現在、フィールドに現れているポケモンは……
「な、なんでラルトスがいつの間にかキルリアに進化してんだよぉおおおおおおおっ!?」
キルリア。
かんじょうポケモンと呼ばれる種類のポケモンで、ラルトスの進化系でもあるポケモンだ。
どう考えても予想外すぎる事態でしかない現状にカナタが頭を抱える中、ラルトス改めキルリアはカナタの方を振り向くと同時に鼻息を荒くしつつサムズアップし、
《嫉妬の力で進化までいってやったッス!》
「ポケモンの成長期を全力で侮辱するような真似してんじゃねえよ! っつーか嫉妬の力って何!? ポケモンってそんな意味不明で摩訶不思議な力で進化できるもんなの!?」
《嫉妬したメスに不可能なんて無いんス! あの牛女をぶっ飛ばしてカナタと性的に寝るために、ワタシは全身全霊をかけてパワーアップしてみせる! あ、ついでに言わせてもらうッスけど、この強制ギプスもなんか慣れてきちゃったッス! この拘束感と締め付けがたまらない……はぁはぁはぁはぁ!》
「いろいろと規格外すぎんぞテメェ!」
うっとりとした様子で腰をくねくねさせるキルリアにカナタは全力で咆哮する。ダメだ、このポケモンはもうどうやってもまともにはならない……ッ!
まさかのポケモンの登場に苦笑するミツルと絶望するカナタを交互に見つめ、一応は仕事を全うしなければならないことを思い出したユウキはフラッグを二本とも空に掲げる。
そしてラルトスとキルリアが向かい合い、
《カナタとワタシの性的に素晴らしき未来の為、アンタに負ける訳にはいかないッス! あっ、んぅっ! 強制ギプスが食い込んで――気持ち良いぃいいいいいいいいいいっ!》
《わ、わっち、こんな訳の分からん同族と戦わなきゃいけないのっ!?》
「そ、それでは――バトルスタート!」
始まる前から決着がついていそうな雰囲気を肌で感じながら、ユウキはあくまでも冷静に試合開始の合図を出した。
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次回もお楽しみに!