テッテレー。
謎のポケモントレーナー・ナギがパーティに加わりました!
「……いやいや、本当にこれで良いのか俺」
「別に良いじゃないか、カナタ。旅は道連れ世は情け、とよく言うだろう?」
トウカの森で出会った思春期トレーナーことナギと別れてカナズミシティを目指そうとしたカナタだったが、「カナズミシティか……ここで会ったのも何かの縁。私の目的地でもあるヒワマキシティまでの間、私も旅に同行しても良いか?」というナギのいきなりの提案に動揺と混乱を余儀なくされていた。
男性の旅に女性が同行するというだけでも結構な問題だ。旅の途中で何か間違いが起こらないとも限らない。――しかも、ナギはそこら辺の女性よりも美人でスタイルが良い。別にカナタが性欲に塗れた野獣だとか言うつもりはないが、それでもお年頃なので意識するなと言われると凄く難しい。
つまり。
ナギとカナタの旅は凄く問題が多すぎる、という事だ。
うーん、と腕を組んで首をかしげるカナタ。彼の肩の上で彼と同じように首を傾げているキモリがなんとも可愛らしい。
どうすりゃいいんだろう? と必死に考えるカナタの肩をナギは優しく叩き、
「因みに、私は初物だぞ?」
「このタイミングで悩みの種増やしてんじゃねえよ」
☆☆☆
「トウカの森を抜けるのにはコツがいるからな。私が出口まで連れて行ってやろう」
「あ、はい。ありがとうございます」
意気揚々と先頭を行くナギに軽く頭を下げ、カナタは「やっと外に出られるぞーっ!」とキモリと共に空に向かって右手を掲げた。二日前に貰ったばかりという話だが、今の時点でかなりカナタに懐いている。これはポケモンリーグに出場するまでには命令無しで行動してくれるほどの懐き具合を実現してくれるかもしれない。
懐かしいな、とナギは表情を和らげる。自分の幼い頃と今のカナタを比べ、どうしようもない程の懐かしさに胸を躍らせてしまっている。
(ジムリーダーになってからというもの、バトルを純粋に楽しめなくなってしまっていたからなぁ)
今更言うのもなんだが、ナギはヒワマキシティジムのジムリーダーだ。飛行タイプを司る鳥使いで、ホウエン一の飛行タイプの使い手でもある。最も得意とする技は“つばめがえし”という情報を一応補足しておく。
ジムリーダーは三回連続で敗北するとジムリーダーとしての資格を剥奪されてしまう。だからどの挑戦者相手にも全力で立ち向かわなくてはならないのだが、ジムリーダーが永遠に勝ち続けてしまってはポケモンリーグに参加できる者が誰一人としていなくなってしまう。――つまり、勝ちと負けの割合を計算しなければならないのだ。
そんな状況でバトルを楽しめとか言われても、こちらとしては困るしかない。挑戦者には悪いが、こっちは毎日の生活が懸かっているのだ。……まぁ、今は三ヶ月の有給取ってるから良いのだが。ジムトレーナーにジム事業を全て押し付けてるから私には関係ないのだが。
そう、今の私は超絶的にフリーの身。
分かり易く言うのなら――
「私は都合の良い女!」
「オイやめろ周りのトレーナーに誤解招くだろうが」
☆☆☆
ナギの案内で無事にトウカの森を抜けだしたカナタは巨大な湖の縁まで駆け寄り、靴を脱いで湖の中にゆっくりと両足を沈めた。ずっと歩き回っていたせいで筋肉痛やら靴擦れやらに襲われていた足が、湖の冷たい水でひんやりと心地よい刺激に包まれていく。
ふぅぅ、と疲れを吐き出すようにカナタは溜め息を吐――
「湖に入ってから一分未満……凄まじい程に早漏だな」
「ねぇ、ナギさん。怒らないから何が早漏なのか正直に言ってみ?」
☆☆☆
湖で疲れを癒したカナタはナギと並ぶ形で104番道路の上方を歩いていた。因みに、下方というのはトウカシティに続いている方の104番道路の事を指す。
その道中で優しい女性から技マシンを貰ったカナタは音楽プレーヤーのような形状の技マシンをまじまじと見つめ、
「これが噂の技マシン……実物は初めて見たなぁ。ナギさん、これってどうやって使うんですか?」
「簡単だよ。そのプレーヤーから伸びているコードをポケモンの頭に張り付け、再生ボタンを押すだけだ。もしそのポケモンがその技マシンを覚える事が出来たのなら『ピロリーン』という効果音が鳴り、逆に覚える事が出来なかったのなら『デデーン』という効果音が鳴る。因みにその技マシンは“タネマシンガン”だから、ちょうどキモリが覚えられるだろうな」
「…………」
「どうした? 今の説明でどこか分からないところでもあったのか?」
「いや、そういう訳じゃないんですけど……」
カナタは気まずそうにナギから目を逸らし、
「今の発言の中にモザイク音があるように聞こえてしまった自分がなんか悲しくて……」
「君は私を一体なんだと思っているんだ」
ただの変態、もしくは重度の思春期です。
☆☆☆
「そっか……キモリに新しい技を覚えさせられるって事なのか……」
「“タネマシンガン”は低レベルの草タイプにとっては切り札にもなり得る強力技だ。一番目のジムリーダーのタイプは草タイプに弱い岩タイプだから、覚えさせておいて損をすることはまずないと思うぞ?」
「そうですね。それじゃあとりあえず――キモリ、ちょっと大人しくしてろよー」
「きゃもっ」
カナタの顔に頭をすりすりとこすり付けてくるキモリに表情を和らげながらも、カナタはキモリの頭にコードを張り付け、技マシンの再生ボタンを軽く押した。
直後。
CDが再生されるときのような駆動音がマシンの中から流れ出し、心地よい音楽がカナタの耳を刺激した。
「あの、何で音楽が?」
「技を覚えるまでにトレーナーを飽きさせないようにする工夫だ、という都市伝説があるが、その真実は未だに不明だな。私としては、音楽を利用する事でポケモンに技を覚えさせる、という意見を君にお勧めしたい」
「確かに、その意見は結構理論的ですね……」
なるほど、音楽を利用した学習法か。
英単語や歌の歌詞なんかを覚える時も基本的には耳を介しての方が頭に入りやすいし、やはり聴覚という感覚が直接脳に働きかけてくれるという事なのだろう。まさかこんなところで学べる事があるとは……ナギさんって意外と凄いトレーナなのかもな。
ちらっ、とナギの顔を横目で見てみる。
容姿端麗で知識豊富。内面はかなり変わっているが、それでも根は真面目で優しい。凄まじい程の好物件だ。しかも結構――タイプだし。
「??? どうした、そんなに私を見て……ゾクゾクするじゃないか」
「俺の感動を返せ今すぐに!」
☆☆☆
「そういえば思ったんだが、“タネマシンガン”ってどこかエロく感じないか?」
「ノーコメントで」
「君の“タネマシンガン”で私を倒す事が出来るかな?(キリッ)」
「ノーコメントでッッッ!」
☆☆☆
「目が合ったらバトルの合図! そこの君、私は君にバトルを申し込むわ!」
カナズミシティへと続く桟橋の直前、カナタはミニスカートを穿いた少女に行く手を遮られてしまった。くそっ、見つかった……ッ! カナタは思わず歯噛みする。
カナタは大きく溜め息を吐き、肩の上にいるキモリに指示を出す。
「キモリ、いけるか?」
「きゃもっ! きゃもきゃもっ!」
「よーっし、その意気だ! いっちょドカンとかましてこい!」
ぴょんっ、とカナタの肩から飛び降り、キモリは華麗に着地する。流石は身軽な事で有名なポケモン、その動きには一切の無駄がない。
相手がマリルを出したのを確認したカナタは嬉しそうに口角を上げる。
「よっしゃ相手は水タイプ! さっきの技マシンの使いどころが早速来たぜ!」
水タイプは草タイプに弱い。それはトレーナーの間では至極常識だ。――そして、先ほどキモリに覚えさせた“たねマシンガン”は草タイプの技である。この勝負、俺が貰った!
まさかのタイプ相性にミニスカートの少女は悔しそうに顔を歪める。タイプ相性の優劣を覆すほどの実力があれば関係ないのだが、カナタも少女も言ってみれば駆け出しトレーナー。相性の悪いタイプを突かれてしまったら敗北に一歩足を進めてしまう事になる。
今まさにバトルが始まる――その傍ら、
「カナタ! バトルの邪魔にならないようにドククラゲを私に預けておけ! 大丈夫、すぐに洗って返すから!」
「アハハッ! ちょっとお前黙ってろ!」
☆☆☆
「それじゃあこっちから行くわよ! マリル、“あわ”攻撃!」
「お前の自由に躱して“タネマシンガン”!」
マリルの口から放たれた無数の泡を素早い動きで回避していくキモリ。無駄に回避の方向を指示しなかったのが幸いしたのか、その動きは高レベルポケモンに匹敵するほどの軽やかさだ。
“あわ”の弾幕を掻い潜り、マリルの目の前へとたどり着く。――今がチャンス。ここで一気にぶっ放せ!
キモリの口が大きく膨らみ、ぐぐっと背中が逸らされる。
キモリの予想外すぎるスピードに動揺したミニスカートの少女は「えぇっ、うそ!?」と次の指示を完全に忘れてしまっていた。トレーナーの動揺はポケモンの動揺。トレーナーとポケモンは一心同体、一蓮托生、運命共同体だ。自分が相手に圧倒されてしまっていると、ポケモンも同じように動きを止めてしまう。
そして。
逸らした背中を前に戻す勢いを利用して放たれた“タネマシンガン”がマリルの腹に直撃した。
白い光の塊を五発ほどくらったマリルは勢いよく宙を舞い、ズザザザザーッ! と地面の上を砂煙を上げながら滑っていく。アレは結構な傷を負ってしまうのではないだろうか、と思わないでもないのだが、これはあくまでもバトルの中での負傷。カナタがどうこう考えるものではない。
動きが止まると同時に目をぐるぐると回し始めたマリルを抱え上げ、ツカツカと不機嫌そうにカナタに近寄ってから彼の手に五百円玉を握り込ませ、少女はうるうると目尻に涙を浮かべて言い放つ。
「こ、この恨み、いつか返してあげるんだから! その首洗って待ってなさい!」
ぴゅーっ! と全力疾走でカナズミシティの方角へと走り去っていく少女に、カナタは呆れた様子で手を振った。やっぱりああいうの見てると飽きねえなぁ、と感想を心の中だけで述べてみる。
さて、とりあえずは軍資金をゲットしたし、カナズミシティへの道も開けた。今日はこのままポケモンセンターに行ってキモリとドククラゲを休ませ、俺自身も休むことにしようかな。
「と。その前に――よくやったなキモリ。偉いぞー」
「きゃももっ!」
嬉しそうな表情で飛び込んできたキモリを抱きとめるカナタ。キモリからの頬擦りを自身の頬で受け止めながら、カナタは五百円玉を財布の中へと仕舞い込む。
勝利の余韻に浸っていたカナタにナギはトタタッと小走りで近づき、
「バトル勝利おめでとう、カナタ。凄いバトルだったな。そのキモリ、その調子だと凄く強くなるだろう。丹精込めて育てるんだぞ?」
「あははっ、分かってます。俺のキモリは最強なんですから!」
そうだよなー? とキモリと目を合わせてカナタは嬉しそうに笑う。
そんなカナタとキモリをナギは柔らかな笑みと共に見つめ、
「それでは次は、君の“タネマシンガン”の強さを私に見せつける番だな!」
「よーっし、今日は寝かせないぞーっ!(説教的な意味で)」
ナギの手を引きながら、カナタはカナズミシティへの一歩を踏み出した。
しかし、まさかこのカナズミシティで更なるツッコミを要求されることになろうとは、この時のカナタは想像すらしていなかった――――。
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