ホウエン地方は何処も思春期   作:秋月月日

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妻を怒らせると後が怖い

 フエンタウンジムリーダーのアスナとカナズミシティジムリーダーのツツジが仲間になりました!

 

「カナタ様の貞操はわたくしが貰い受けますわ!」

 

「開口一番何言ってるのだテメェ」

 

「な、ナギ先輩口調! 口調が大変なことになってます!」

 

「このバカに普段の口調など必要ない!」

 

「すごい名言! だけど自分のキャラは大切にしてください!」

 

 ツツジのボケとナギの激怒に適切かつ迅速なツッコミを入れていくアスナ。流石はジムリーダー界唯一の常識人と言ったところか、そのキレはカナタに負けず劣らずのレベルだ。

 整った胸を張るツツジと青筋を浮かべるナギとツッコミを入れるアスナを順番に眺めたカナタはアスナの肩に優しく手を置き、

 

「俺、アンタの事(ツッコミ仲間として)結構好きかもしんない」

 

「うえぇぇっ!? い、いきなり何言ってるのカナタくん!?」

 

「浮気だ、浮気の瞬間だー!」

 

「おーっほっほっほ! 貴女の時代は終わったのですわ、この過去ヒロイン!」

 

 え? 俺、何かダメな事言ったっけ?

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 何が起きたのかは分からないがとりあえずナギに全力で謝罪した後、カナタはジムリーダートリオを引き連れてヒワマキシティへと足を進め始めた。因みに、カナタの右頬についている赤色紅葉はナギからの平手が原因だ。……今後は余計な事言わないようにしよう。

 ヒリヒリと痛む右頬を擦りながらカナタは隣のナギに視線を向ける。

 

「あ、あのぅ……ナギ?」

 

「…………何だ、この浮気男」

 

「い、いや、だからその、さっきのは誤解だって……あれは同じツッコミ役としてアスナが好きかもしんないって言っただけで、別に異性として好きって言ったわけじゃないんだよ……」

 

「……私以外の女に『好き』とか言うんじゃない」

 

 そう言ってナギはぷくーっと頬を膨らませた。これはあれだ、柄にもなくナギが拗ねているって状況だ。子供のように頬を膨らませているナギが凄く可愛いんだけど、このまま彼女を怒らせているのは得策ではない。まずは早急に機嫌を直してもらう。これが最善策だろう。

 そうと決まれば何とやら。カナタは頬を膨らませたままそっぽを向いているナギの前に一瞬で躍り出て――

 

「んっ」

 

「むぐっ!?」

 

 ――流れるように彼女の唇を奪った。

 予期せぬタイミングでのキスにナギの顔がボンッ! と紅蓮に染まってしまう。二人のキスを後方で見ていたツツジが『ぶっ殺す! ナギをこの手でぶっ殺す!』と叫び散らしていたが、新たなツッコミ役ことアスナが彼女を羽交い絞めにすることで何とか引き止めることに成功していた。――やはり凄いツッコミセンスだ。

 カナタの不意打ちにまんまと引っかかってしまったナギは「な、ななななな!」と驚天動地な心境を言葉で表し、

 

「か、カナタはやっぱり卑怯だ! そ、そそそそそんな事をされてしまっては、どんなに怒っていても許してしまうではないかぁーっ!」

 

「なにこの生き物凄く可愛い」

 

「カナタくん落ち着いて! 君だけはアタシと同じツッコミ役でいてくれないと困るんだ!」

 

 ナギの“メロメロ”に完敗しているカナタにアスナのツッコミが炸裂する。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 キンセツシティジムのジムリーダー・テッセンは、下ネタ好き少女ハルカがドン引きしてしまう程のセクハラ親父だった。

 後ろのミツルが「うわぁ」と心の底からの感想を述べているのを耳で確認しながら、ハルカは引き攣った笑みをテッセンに向ける。

 

「あ、あのえとその……よ、よろしくおねがいします」

 

「がっはっは! 別にそこまで畏まる必要はないぞ、お嬢ちゃん! あの日(・・・)に悩まされとる女子じゃあるまいし!」

 

「そ、そんなセクハラはいいから、さっさとジム戦を始めませんか!? 私、先を急がなくちゃいけないんです!」

 

「ほぅ? もしかして――そこの可愛らしい少年とセッ〇スをする予定でも入っておるのかの?」

 

「今だけはカナタの気持ちが分かる気がする!」

 

 下ネタ攻めがまさかここまでウザかったとは。今までは自分がボケの側だったからよく分かっていなかったが、今は断言できる。……私、これからはちょっと下ネタ自重する!

 予想外のタイミングで自分を見つめ直すこととなってしまったハルカはワカシャモが入ったモンスターボールをテッセンに向けて握り締め、

 

「ミシロタウンのハルカ、いろいろと更正するためにあなたからジムバッジを勝ち取ります!」

 

「それじゃあワシはお主の処女を勝ち取らせてもらおうかの!」

 

「にゃ、にゃぁああっ!?」

 

「がっはっは! 冗談じゃよ、冗談! お主はリアクションが面白いのう!」

 

「こ、このセクハラ親父、断じて許さん!」

 

「落ち着いて、落ち着いてくださいハルカさん! 何を言われたのかは全く理解できませんけど、冷静さを欠いた状態で勝てる相手じゃありません!」

 

「むきゃーっ! 殺す、殺しきるー!」

 

「は、ハルカさぁーん!」

 

 まことに珍しい事に下ネタを言われて憤慨しているハルカをミツルは全力で羽交い絞めにする。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 ヒワマキシティ。

 《木の上で自然と戯れる街》というキャッチコピーの通り、ポケモンセンターとポケモンジムとフレンドリィショップ以外の全ての建物が木の上にあるという、ホウエン地方の中でも五本の指に入るぐらいに様変わりした街である。

 久しぶりの故郷に帰ってきたナギがヒワマキシティに足を踏み入れた直後、街のあちらこちらから老若男女問わずに多くの住人達が彼女の元へと集まって来た。

 

「ナギ様、ナギ様が帰ってこられたぞ!」

 

「わーい、ナギさま、ひさしぶりー!」

 

「うぅ。これでやっとジムトレーナー達の負担が減るってもんだな!」

 

「ナギ様やっぱりお美しいですぅ!」

 

「ナギさま、ナギさまー!」

 

「あははっ。久しぶりの帰郷が嬉しいのは私も同じだが、そんなに圧さないでくれ。圧迫が強くて……んっ……少し、苦しいではないか……くぅっ」

 

 ナギ様ナギ様、と英雄凱旋状態になってしまっているヒワマキシティの住人達。それほどまでにナギが慕われているという事なのだろうが、流石にこれは予想外すぎる展開だ。他のジムリーダーもこんな感じなのだろうか?

 ――とまぁ、そんなコトは置いといて。

 

「大勢の人に圧迫されて喘ぎ声を漏らすナギ、最高にエロい……ッ!」

 

「ねぇねぇカナタくん。君って本当にツッコミキャラなの? アタシ、君と出会ってからデレボケ状態のカナタくんしか見てないような気がするんだけど」

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 アイドルの追っかけのようになってしまっていた住人達を解散させた後、ナギたち四人はヒワマキシティジムの中へと移動していた。

 ジムの中には大勢のジムトレーナー達が待機していて、ナギの姿を見た途端に先ほどの住人達とほぼ変わらない行動に出ていた。

 

「お師匠様! 御無事で帰ってきていただいて何よりです!」

 

「ししょー! ししょーがいない間、私たちでしっかりとジムを護ってきました!」

 

「流石にナギ様のようにうまくは行きませんでしたが、それでもジム閉鎖の危機にはならずに済みました!」

 

「ああ、それは助かった。私がいない間、よく使命を全うしてくれた。ありがとう」

 

「「「あぁっ、やっぱり素敵……ッ!」」」

 

 どこの少女漫画だこの状況。

 瞳の中に星を浮かべて骨抜きにされてしまっているジムトレーナー達(全員女)。それほどまでにナギのカリスマが凄いという訳なのだろうが、それにしてもこれはモテ過ぎではないだろうか。ナギの恋人という立場であるカナタにとっては凄く面白くない状況だ。ナギを独り占めしたいなぁ、と思ってしまう彼を一体誰が責められようか。

 と、そんな中。

 カナタに気づいたジムトレーナーの一人がナギの服をくいっと引っ張り、

 

「あ、あのぅ、お師匠様。そこの男性は一体どなたなのですか?」

 

「あぁ、そういえばまだ紹介していなかったな。カナタ、ちょっとこっちまで来てくれるか?」

 

 ナギの手招きに応じ、カナタは彼女の隣まで移動する。

 ナギはカナタの腕に抱き着き、

 

「この人の名はカナタ。ミシロタウン出身の新米トレーナーで――私と将来を誓い合った最愛の旦那様だ!」

 

「「「天誅!」」」

 

「どの感想よりも先に暴力とか意味分からぶげらぁっ!」

 

 複数人の攻撃を真正面から諸に受けたカナタはなんの抵抗もできずに膝から床に崩れ落ちてしまう。ヒワマキシティジムの床は珍しい事に畳張りで、膝へのダメージを無駄に和らげてくれていた。

 ――しかし、ナギの部下たちからのダメージは和らぐことはない。

 

「ありえないありえないありえない! 何でこんな女顔がナギ様の旦那様なの!?」

 

「ナギ様の旦那様に相応しいのは、もっと格好良くてもっと男らしいトレーナーに決まってるのに!」

 

「どんな方法を使ってお師匠様を誑かしたの!? 言え、言いなさい!」

 

「もががががががががが!」

 

 チョークスリーパー、四の字固め、腕拉ぎ――等々の多種多様な折檻技を浴びせられているカナタの口から壊れた機械のような悲鳴が零れ出る。彼の悲劇を少し離れたところで見守っているアスナとツツジの顔は驚きの青さを誇っており、このままでは死んでしまうおそれがあるカナタに向かって静かに合掌までもをしている始末だった。なんて仲間甲斐のない奴らだろうか。

 しかし、この地獄の中にも天国がない訳ではない。

 チョークスリーパーをしてくる少女の胸は後頭部に当たっているし、四の字固めを極めてくる女性の胸は足に密着している。トドメとばかりに決められている腕拉ぎに関しては、不可抗力で巨乳少女の胸を鷲掴みにしてしまっている状態だ。

 あえて正直に言おう。

 今の状況は男としての楽園であると。

 

「す、少しユウキの気持ちが分かった気がする……ッ!」

 

「ああ、そうだな。その思考を私に読み取られてさえいなければ、最高の気持ちだっただろうな」

 

 …………………………あ。

 

「な、ナギ? 冗談だよな? その謎の巨大なプロペラは俺に振り下ろす為だけに用意したものじゃねえよな?」

 

「あははっ。――妻の恐ろしさを教えてやるゾ☆」

 

「い、いいいいいいいやいやいやいやちょっと待ってちょっと待って助けてマジでそれはヤバイ洒落になってない! っつーかそんな遠くで見てねえでちょっと助けてよアスナにツツジさん! このままじゃ俺マジで死んじゃ……はいっ、ごめんなさい俺が悪かったですナギさん! だからそのプロペラを股間に向けるのだけはマジ勘弁してく」

 

 直後。

 ヒワマキシティジムの中に超原始的な暴力の音が響き渡った。

 

 




ホムラ「おーい、カガリの旦那ぁ。今日もあのクソガキの相手をしに行くのかぁ?」

カガリ「あぁ、ホムラか。というか、アタイは旦那じゃないって何度言えば分かるんだい? レディに対してのその言い草、いい加減に直した方が良いと思うけどねぇ」

ホムラ「はン。別に気ィ使わなくちゃならねえ相手なんていねえから良いんだよ。――それで、あのクソガキはどうだぁ? オレたちの作戦の一部としてちゃんと使えそうなのかぁ?」

カガリ「その点については心配ないよ。ユウキと『紅色の玉』は怖ろしいほどに共鳴してる。この調子で行けば、作戦開始日までには最高の数値が叩き出せるだろうね」

ホムラ「ふーん。そりゃ結構。オレとしちゃ、別に陸がどうのとか海がどうのとかはどうでもいいんだけどよぉ……ただ純粋に強ェ奴と戦えりゃそれでイイんだ」

カガリ「それ、マツブサ様に聞かれたらこっ酷く言われちまうよ?」

ホムラ「はン。忠告御苦労ォ。そんじゃま、オレは今から下っ端共のを鍛えに行かなきゃなんねぇから、先に行かせてもらうぜェ」

カガリ「はいはい。それじゃあ、また後で」

ホムラ「うーい」




ホムラ「あの女狐、自分でも気づいてねえんだろうが……あのクソガキの話をしているとき、やけに嬉しそうな顔をしてやがんだよなぁ。――まぁ、オレにゃ微塵も関係ねぇし興味もねぇから良いんだけどよ」

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