送り火山。
ホウエン地方で亡くなったポケモンたちの墓地としての役割を負っている山であり、太古の伝説ポケモンであるグラードンとカイオーガを操る事が出来るとされる二つの玉が厳重に保管されている山でもある。この山は二人の老夫婦によって管理されていて、数えきれないほどの数ある墓石は主にこの二人が毎日汗水たらしてきれいに掃除している――との噂である。
そんな、ホウエン地方最大の墓地山の目の前にて。
カナタ達一行は円陣を組んでいた。
「まさか本当にアクア団がいるなんてな……あの天然ドジ属性組織、そろそろ滅ぼした方が良いかもしれんね」
「そうは言っても荒事は遠慮したいし……ナギ先輩、何か良い案とかありますか?」
アスナの問いにナギはフフンと鼻を鳴らし、
「私たち全員でアクア団を悩殺する、というのはどうだろう?」
「まさかとは思うが俺は含まれてねえよな?」
☆☆☆
キンセツシティジム攻略後にハジヅケタウンにまで辿り付いたハルカとミツル。その間にハルカはベトベターをゲットした訳だが、彼を選んだ理由は特にエロい方向ではない。別にスライムプレイが試したかったとかそういう意味じゃないんだからねっ!
新たな仲間に喜色満面なハルカはミツルを引き連れ、次なる目的地である流星の滝を目指していた。
「ん?」
「どうかしましたか、ハルカさん?」
「あーいや、なんか黄色い影がふと見えた気がしたんだけど……気のせいだったのかな?」
そう言って、ハルカは大きく首を傾げる。
ミツルは話題を変えるために両手をポンと鳴らし、
「それにしても良かったですね、ハルカさん。ベトベターが無事にゲットできて」
「あ、やっぱりミツルくん、ベトベターの魅力が分かっちゃう? いやぁ実は私、昔からベトベターをゲットしたくてしたくてたまらなかったんだぁ」
「え? それはどうしてですか?」
「フフン。それはね――」
ハルカは貧しい胸を自信満々に張り、
「――スライムプレイにずっと憧れていたからさ!」
「???」
ツッコミ不在警報発令中。
☆☆☆
送り火山の周囲にいたアクア団を物理的に叩きのめしたカナタ達一行は遂に山中へと足を踏み入れた。ポケモンたちの魂が眠っている送り火山で騒がしくするのはなるたけ避けたい訳なのだけれど、今回ばかりは致し方ないので許容してもらいたい。全てはホウエン地方の平和の為、暖かくお見逃しくださいませ。
アクア団の下っ端をハイキックでノックダウンさせ、ナギは前方を指で示し、
「あそこに階段がある! あそこから山頂を目指そう!」
「とりあえずポケモンバトルって方法も考慮してあげてください、ナギ先輩!」
☆☆☆
一般開放エリアを攻略したカナタ達。とりあえずここまでの経過で叩きのめしたアクア団は亀甲縛りにして一般客にお持ち帰りいただいた。女の下っ端が亀甲縛りにされて喘いでいるのを見たカナタが顔を真っ赤にしていた訳だが、幸運にもナギはその様子を目撃してはいなかった。もしその様を見られていたらと思うと……以下省略。
山頂付近は一般開放エリアに比べて霧が濃く、比較的暗い空間に包まれていた。――ぶっちゃけるなら凄く不気味な様子だった。
アスナはツツジの袖にしがみ付きながらぶるぶると震える。
「うぅっ。け、結構怖いですね、送り火山って……お化けが居たらどうしようぅぅ……」
「フン。そんな非科学的なものがこの世に存在するわけがありませんわ! いたとしてもそれはゴーストタイプのポケモンだけ。ヨマワルとかサマヨール、他で言うならヤミラミ程度が関の山ですわね」
「さ、流石はツツジさん、素晴らしい程に現実主義……」
有り得ない、と根底から否定するツツジにアスナは久しぶりの尊敬を意を送る。
―――そんな二人の後方にて。
「えーっと、その……ナギ?」
「ひゃわぁあ!? ど、どどどどどうしたのだ、カナタ!?」
「い、いや、もしかして、その――お化けが怖かったりするのかな、って思ってさ」
「わ、わわわ私がお化けなどという非科学的なもにょを怖がるわけがないだろう!?」
「今『もにょ』っつったよね? 絶対に噛み倒したよね?」
「ハッ! 何をバカな事を。今のはきっと空耳か何かのたぐ」
ガサッ←草むらが揺れる音。
「うにゃぁあああああああああああああああああああああああああああっ!?!?」
「ぐぶうぇえっ!? ぐ、ぐるじっ、ナギ、抱き締めが強くてぐびがじまる……ッ!」
「怖い怖い怖い怖い本当無理お化け無理お化け怖い助けてカナタぁ!」
「うぎっ、うごごごごごごごご!」
「じゃすたもーめんナギ先輩! このままじゃカナタくんが送り火山の住人になっちゃいますから早急に拘束を解いてください!」
胸の感触と死への危機で文字通り天国と地獄を見た、とカナタは後に語る。
☆☆☆
流星の滝に入った直後にマグマ団と鉢合わせた。
ソライシと名乗る研究者が持つ隕石を狙ってきたというマグマ団を睨みつけるハルカ。ミツルはハルカの後方でソライシを庇っていて、既にボールからはラルトスとワカシャモが臨戦態勢込みで召喚されている。
どうやら今回はあのカガリとかいう女は参加していないらしいが、それでも油断できる相手ではない。事実、マグマ団の下っ端たちの先頭に立っている飄々とした男からは言葉にできないほどの威圧感が感じられる。実力が高いトレーナーは戦わずして相手に自信の実力を感じ取らせる、とはよく言ったものだ。
ハルカは冷や汗を垂らしつつ、飄々とした男に言う。
「あなた達は一体何が目的なの? ソライシさんの隕石が欲しい、だなんて意味不明にもほどがあるわ」
「はン。別にテメェに話さなくちゃなんねェことでもねェだろう?」
「ぐっ。それは、凄く正論なんだけど……」
「頑張ってハルカさん! そこで屈しちゃダメな気がする!」
はっ! いつもの癖で思わず即効で諦めちゃうところだった!
ナイスだよミツルくん愛してる! と心の中でサムズアップし、ハルカは続ける。
「カガリって人は『この世界を陸で覆い尽くす』って言ってた! だから多分、あなた達の目的はそれに関係してる事なんだよね。――そして、『紅色の玉』とかいう摩訶不思議な道具がユウキに適応する可能性がある、みたいな事を言っていた記憶もある」
「……チッ。あの売女、無駄な事を喋りやがって」
「やっぱり、あなた達にとっては凄く大事な機密情報だったのね。――これで、やっと謎が解けたよ」
そもそも、ハルカはミシロタウンに住んでいる子供の中で最も頭の回転が速い。普段のバカな彼女からは全く想像が出来ないだろうが、彼女のバトルスタイルも例に挙げればその違和感は綺麗さっぱり消えてなくなるに違いない。
彼女のバトルスタイルは『カウンター』だ。
相手の動きや技を冷静に分析し、数秒足らずで導き出された最良の選択をポケモンたちに的確に伝える。『カウンター』と言っても別に防御に徹してから攻撃に転じるという訳ではなく、単に相手の出方を窺ってから作戦を考えるという感じであるだけなのだ。
故に、ハルカは導き出す。
自身の記憶という名のピースを組み合わせ、最適な答えを提示する。
「つまり、あなた達はユウキの『黄金の玉』と『紅色の玉』を同化させようとしている訳だね!」
『『……………………Pardon?』』
まぁ、頭脳に人格は考慮されない訳なのだけれど。
☆☆☆
送り火山の山頂にたどり着いたカナタ達はアクア団と睨み合っていた。カナタ達の後ろには二人の老夫婦と『藍色の玉』があり、アクア団は言わずもがな、『藍色の玉』を奪うためにこの山に侵入していた。
アクア団の下っ端たちの先頭に立っていた筋肉質の大男は曝け出された上半身の筋肉を脈動させ、
「そこの『藍色の玉』を大人しく渡してもらえば、わざわざお主らに手荒な真似をしなくて済むのだが?」
「言うまでも無く却下だよ。ただでさえマグマ団が『紅色の玉』を持ってるっつーのに、さらに『藍色の玉』まで奪われちゃ溜まったもんじゃねえんでね。ここは手荒に抵抗させてもらうぜ」
「……ふむ。それは悲しい事だな」
そう言って。
大男はダブル・バイ・セップス・バックのポージングを華麗に決め、
「我はアクア団幹部が一人、荒ぶる波のウシオ! 我の上腕二頭筋と鳥口腕筋の餌食になりたい者からかかってこ――「もういいよそういうのは!」――ぐぎゅるばぁっ!?」
カナタのハリセンがウシオの股間を華麗に叩き上げた。
カガリ「それじゃあ、今日もその冷たくて硬い床で一夜を過ごすことだね!」
ユウキ「ああんっ、ありがたき幸せ!」
――ピシャッ。
カガリ「……本当、アタイはどうしちまったんだい? ユウキを虐める事で発生する感覚じゃない、この気持ちは一体……?」
下っ端「カガリ様。マツブサ様がお呼びです」
カガリ「ああ、了解した。すぐに向かう」
下っ端「紅色の玉についての経過報告をせよ、との事です」
カガリ「紅色の玉、ねぇ……」
カガリ「この世界が陸に支配される未来よりも、アタイはユウキの可能性の方が知りたんだけど、って言ったら流石に殺されちまうかねぇ」