ポケモンセンターで地獄の一泊を終えたカナタは手持ちのジュプトルとドククラゲとキルリアを外に出し、ミナモシティ名物のミナモ海岸にやって来ていた。
彼がここに来た目的はマグマ団についての情報収集。他の三人も街中で情報収集を行っている。本当はアクア団についての情報も集めなくてはならないのだろうが、奴らはカナタが物理的に滅ぼしたのでもう存在しないものとして考えるべきだろう。弱者にいつまでも構っているわけにはいかないのだ。
海水浴客たちの間を通り抜け、話がしやすそうな水着ギャル二人に声をかける。
「あのー、ちょっといいですか?」
「えー、なにこの人、チョー可愛いんですけどー」
「そんなに可愛い顔してるのに、アタシたちをナンパって訳ぇ? うっそ、マジテンションアゲアゲなんですけどぉ」
やべぇ超殴りてぇ。
「い、いやその、ナンパとかそういう訳じゃなくてですね……」
「ナンパじゃない? だったらー……ああ、もしかして芸能関係のスカウトさんだったりー?」
「きゃははっ! 確かにアタシたち、チョーイケイケだもんね!」
「…………」
ぎちっ、と両手を握り締めるカナタの額には、やけに深い青筋が一つ。
口をヒクヒクと引き攣らせつつも必死に作り笑顔を浮かべるカナタからは無言の怒りが漏れ出てきているのだが、勝手にテンションアゲアゲになっているギャルたちはそんな事には気づかない。
《このクソビッチ共。カナタを困らせて生きて帰れると思うなッス……とりあえず四肢を分断してぇっ!》
そして、カナタの背後で怒れる修羅と化しているエスパータイプにも気づかない。
「え、えっと……もうナンパでも何でも良いんで、とりあえずちょっとお話を聞かせてもらってもいいですか?」
目の前のアホなギャルたちと背後の激怒なキルリアという板挟みで胃がキリキリと痛んでいるカナタはもうどうでも良くなってきたのか、ナンパという汚名を自ら被る事にした。ナンパと言われるだけでマグマ団の情報が得られるのなら安いもんだ。……っつーか、コイツ等って情報持ってなさそうなんだけど。本当に大丈夫じゃなさそうなんだけど。
「おうおう、アタシたち、チョーナンパ中なんじゃねぇ?」「おねぇさんたちと楽しくお話ししよぉ!」「あ、あははは……」日焼けした二人組に腕を組まれ、豊満な胸を水着越しに腕に密着させられるカナタ。まぁ正直無駄だとか何とか言ってたけど、こんな予想外のオイシイ経験ができるのならナンパの汚名ぐらいどうってことはない訳で。っつーか、これってナンパだったとしたら成功なんじゃね? 言ってこの二人、結構美人の部類に入る訳だし。
―――と、心の中で調子に乗っていると。
「そんなところで何をしているのだ―――カナタ?」
俺の人生終了のお知らせ。
「…………」
「今は皆で情報収集をする時間なのではないのか? それとも君の中では情報収集というのは恋人を差し置いてナンパをする時間、という認識になっているのか?」
冷たくも美しい笑顔でこちらに詰め寄ってくるナギだが、正直言って額に浮かぶ無数の青筋のせいで凄く怒っている事だけは理解できます。なんかもうね、背後にエアームドが控えられている時点でナギが激おこ状態なのは火を見るよりも明らかなんですよ。
彼女と恋人同士になってから最大級で修羅状態のナギに震え上がりながらも、カナタはギャルたちの胸の感触を惜しげもなく突き離し、
「ダァ――――ッシュ!」
「エアームド! カナタの股間に“エアスラッシュ”!」
☆☆☆
カナタがナギに人生を終了させられている頃、ハルカとミツルはフエンタウンの温泉に浸かっていた。
「ふぅ……ボク、温泉なんて初めて入りましたけど、意外と気持ちいいものなんですね」
「そ、そそそそうだね! うん、この妙に生温い感じとか、超エキサイティングだよね!」
「え、エキサイティング?」
ハルカの意味不明な感想に、ミツルは小さく首を傾げる。
ぶっちゃけた話、ハルカはミツルと一緒に混浴の温泉に入っている事にもはや頭がオーバーヒート状態なのだ。フエン温泉は水着着用の温泉だからまだ気絶には至っていないものの、ミツルの半裸が真横に存在しているこの状況はハルカにとって凄くマズイものだったりする。とりあえず今すぐにでも過ちを起こしたい気持ちでいっぱいです。
マグマ団のアジトを捜してホウエン地方の西側に来たハルカたちは流星の滝でマグマ団たちと戦闘を行った。勝負の結果はハルカたちの勝利となったものの、後から合流してきたマグマ団のリーダー・マツブサに隕石を持ち出されてしまい、試合に勝って勝負に負けた、としか言えないような結末を迎えてしまった。
その後、必死にマグマ団を捜索したが彼らの姿はどこにもなく、どうしようもない二人は渋々次の街であるフエンタウンにやってきた、という訳だ。
ちゃぷ、と鼻の下までを温泉に沈め、ハルカはぶくぶくと息を吐く。
(早くユウキを助けないといけないんだけど、情報が全くと言っていいほどないんだよね……ここはホウエン地方の最西端と言っていいような位置だし、そろそろ違うところを探さなきゃいけないのかなぁ)
【紅色の玉】との融合素材として連れて行かれたという点から、事態がかなり切迫している事が分かる。――しかし、急ぐにしても情報があまりにも欠如しすぎているため、動こうにも動けない状況だ。ここは一旦体を休め、もう一度情報収集に乗り出すべきだろう。
だから、今は温泉でミツル君の半裸を堪能する。これは羽休めでのイベントだから仕方がないのだ。
「ぶくぶくぶくぶくぶくぶく……」
「は、ハルカさんが潜水艇のように沈んでいく!?」
☆☆☆
エアームドによる粛清でカナタを取り戻したナギはカナタを背負った状態で、ツツジとアスナと合流した。
「ナギ! 何も言わずにそのカナタ様をわたくしに渡しなさい!」
「はいはーい。いい歳こいて子供みたいなわがまま言うのはやめましょうねー」
「あ、アスナ!? あんな無防備なカナタ様に触れられるのは今しかないんですのよ!? カナタ様の柔肌を堪能できるのは、今この瞬間だけなのですわよ!?」
「知らねえよ」
ツインテールを逆立てて叫ぶツツジにアスナの冷たい叱責が飛ぶ。
ギャーギャー騒ぐジムリーダーコンビをあえて視界から外し、背中で穏やかな寝息を立てているカナタを見ながらナギは女神のような母性溢れる笑顔を浮かべ――
「うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」
「はいナギ先輩もそこで壊れない!」
スパーン! とアスナの平手がナギの頭を軽く払った。
☆☆☆
マグマ団のアジトはミナモシティ横の巨大岩の中にある。
そんな、今の状況を打破するべき情報を集めてきていたのは予想外にも一番の問題児であるツツジだった。
アスナの右ストレートにより左頬が大きく張れているツツジは一行を海の方へ連れていきながら、情報収集までの流れを自慢のように話し始めた。
「わたくしのエロさと美貌で男共をノックアウトさせ、腕を絡めながら『マグマ団のアジトの場所、知りませんかぁ?』と頭が悪そうに聞くだけで簡単に情報が集まりましたわ」
「うっわこの優等生予想外にもビッチだった」
「まぁ今になって思い返せば、ツツジは学生時代に教師たちに何故か気に入られていたなぁ……まさか、そのような裏があったとは」
「…………うわぁ」
「ふ、風評被害ですわ!」
必死に弁明を始めるツツジに、二人は汚物を見るような目を向けていた。
☆☆☆
マグマ団のアジトは意外とすぐに見つかった。
ミナモ海岸の一番北の岩礁に紛れる形で大きく存在している大岩に、人が行き来するための入り口が取り付けられていたのだ。それはパッと見ではただ岩に穴が空いてるようにしか見えないが、よくよく見てみると穴の向こうに妙に機械染みた生活空間が確認できる。どうやら彼らはボートか何かを使ってアジトと外を行き来しているようだ。
やっとの事で起きたカナタを先頭に、彼らはアジトに最も近い岩陰へと身を隠す。
「……さて、ここからは海を通って行かなきゃだな」
「しかし、人が泳ぐと無駄に水飛沫が上がってしまうので、ここはポケモンを利用する方が良いと思いますわ」
「となると、“なみのり”が使えるポケモンが必要な訳か……」
「アタシは炎タイプのポケモンしか持ってませんし、ナギ先輩とツツジさんも“なみのり”を使えるポケモンを所持してません。となると、カナタくんのドククラゲに頼るのがベストな選択と思うんですが……」
尻すぼみながらも最適な選択肢を提示するアスナに、カナタは小さく頷きを返す。
確かに、この一行の中で水ポケモンを所持しているのはカナタだけだ。しかも、“なみのり”が出来て且つ四人を運ぶ事が出来るポケモンとなると、カナタのドククラゲがベストであることは明白な事実。これ以外に良い案など浮かぶどころか考える事すら不可能だろう。
しかし。
しかし、ですね。
カナタのドククラゲには――というか、カナタのドククラゲに関しては、ある一つの問題が浮上する訳でして。
「つ、遂に合法的にドククラゲに接触する機会がキターッ!」
「神様ありがとう! 今度からは毎朝きちんと祈りを捧げることにしますわ!」
「「…………」」
岩陰に隠れながら感極まって燥ぐバカエロジムリーダーコンビに、カナタとアスナは二人揃って沈黙に包まれる。正直、アジトの目の前で叫び喚くのはやめていただきたいのだが、こうなってしまうのはドククラゲが案に含まれた時点で予想が出来ていた事だ。ぶっちゃけ、止めようがない事も分かってました。
しかし、このまま騒がせておくわけにもいかない。ここで存在がマグマ団にばれてしまっては、全ての行動が水の泡になってしまう。
そういう訳で、アスナとのアイコンタクトで彼女たちの粛清方法を考え付いたカナタはボールからキルリアを静かに放ち、
「キルリア、あのバカ二人を“ねんりき”で黙らせろ」
《合法的にライバルを減らすチャンスが来たってことッスね! えいやぁーっ!》
「「あぎゅっ!?」」
遠距離で首を絞められたナギとツツジは空気を求めて暴れるが、しばらくした後に人形のように力なく崩れ落ちた。
さぁ、ユウキ救出作戦のスタートだ。
ダイゴ「今回、君たちに集まってもらったのは他でもない」
カゲツ「ンだよ突然。唐突に話を始めるとオレたちも追いつけねェだろうが」
プリム「まったくね。本当、元チャンピオンはいつもいつも急展開なんだから」
フヨウ「…………流石は背後霊がメタグロスなだけはある」
ゲンジ「うむ。しかし唐突だからこその元チャンピオンじゃからな」
ダイゴ「話を逸らすのもいいけど、時間もないから早速本題に入らせてもらうよ」
フヨウ「…………背後霊が」
ダイゴ「今回、君たち四天王にこんな要望メッセージが届いたんだ」
カゲツ「ンァ? ついにオレたちの悪の魅力が伝わったって事かァ?」
プリム「違うわよ。ついにホウエン地方のみんなが美少年同士のカップリングの素晴らしさに気づいたに決まっているじゃない」
フヨウ「…………きっと、新たな心霊スポットが見つかった」
ゲンジ「ふむぅ。正直、予想は出来んのぅ」
ダイゴ「無駄な部分は省いて伝えるけど、要は君たち四天王に『漫画のような四天王』の真似をして欲しい、ということらしい」
四天王『『…………』』
ダイゴ「台本は僕が予め作っておいたから、これを読むだけでいいよ。ああ後、その様子はちゃんと録画して、ポケモンリーグのオープニングセレモニーで流すからそのつもりでね」
―――四天王準備中―――
カゲツ「は、ハハハハ! ここまでよく来たな! しかし、貴様なんぞにやられるオレでは――うがぁああああああああッ!?」
フヨウ「…………カゲツは、四天王の中でも最弱の存在。私こそが、この中で最きょ――うぎゅぅっ!?」
プリム「ウフフフフ。前の二人を倒したからと言っていい気にならない事ね。私の氷の応酬にあなたみたいな汚物が勝てる訳が――いやっ、そこはらめぇえええっ!」
ゲンジ「うはははは! よく来たなぐぶるわぁああああっ!?」
ダイゴ「…………今年のポケモンリーグで、四天王の立場も危うくなっちゃうかもなぁ」
四天王『『テメェのせいだろうが責任とれや元チャンピオン!』』
その後、ポケモン協会から『元・現チャンピオン&四天王のグラビア特集』なる本が出版され、まさかの売り上げ百万部を迎えたのだが、それはまた別のお話―――。