ホウエン地方は何処も思春期   作:秋月月日

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再会と邂逅

 アスナがホムラとのバトルを開始した頃、カナタチームとは別行動をとっていたツツジとナギは順調にアジト内を進んでいた。

 横から飛び出してきた団員を蹴り飛ばし、ナギは隣で団員の喉仏を手刀で殴りつけていたツツジに声をかける。

 

「なぁツツジ。本当にこの道で合っているのか? さっきから何故か団員の数が増加してきているように思えるのだが……」

 

「わたくしの選択に間違いがあるとでも? 先ほど、このアジト内のワープ装置の関係はすべて解明いたしました。故に、このアジト内でもう迷う可能性など、ゼロに等しいのですわ」

 

「だが、君のその自信は昔から信用ならないからなぁ」

 

「―――ほぅ?」

 

 ビキビキ、と額に青筋を浮かべるツツジ。

 前方から飛び出してきたグラエナと団員を回し蹴りで文字通り一蹴し、ツツジは隣で団員をアッパーカットで沈黙させていたナギに冷たい笑顔を向ける。

 

「やはり、そろそろ貴女とは決着をつけないといけないようですわね」

 

「そうだな。ちょうど私も、カナタの周りで媚を売る君がそろそろウザくなってきていたところなんだ」

 

「これで貴女を下して、カナタ様を私の物にする方が手っ取り早そうです」

 

 バチバチバチ、と火花を散らすジムリーダーコンビ。

 だが、忘れてもらっては困るのが、ここはマグマ団のアジトのど真ん中――いわば敵陣の中枢だ。周囲全てが敵だらけというまさに四面楚歌な状況下で仲間割れを起こすなど、もはや正気の沙汰ではない。

 しかし、ナギとツツジはそんな事実を団員ごと蹴り飛ばし、

 

「君なんかにカナタは渡さんぞ、この万年絶頂女!」

 

「カナタ様を誑かすのもいい加減になさい、このふた○り女!」

 

 とりあえず下ネタが酷かった。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 とりあえずはカナタ達と合流するべき。

 ホウエン地方の西側の探索を終えた末にそんな判断を下したハルカとミツルだったが、ここで一つの問題が発生した。

 ぶっちゃけ、あの四人がどこにいるのかなんて分からないよね、って話だ。

 

「ポケナビの通話機能でも何故か連絡が取れないし……私とユウキとカナタが持ってるポケギアでも連絡がつかないし……うーん、これはピンチかも」

 

「今のボクたちには飛行手段もないですし……これは本当に『詰み』な状況ですね」

 

「せめて、飛行機とかヘリコプターがあればねぇ」

 

 まぁ、操縦なんてできませんけど。

 しかし、操縦云々の話をさて置いたとしても、ヘリコプターとか飛行機などの移動手段が欲しいのは事実だ。今から陸を通ってカナタ達に合流するなんてあまりにも無駄な時間過ぎるし、そもそもその過程で彼らを探すのは至難の業すぎる。今必要なのは『カナタ達の居場所を知る且つ移動手段を確保する』ことだ。

 うーん、これはどうしたものか、と腕組みをして頭を捻るハルカ。

 と、その時。

 彼女の右と左から、ほぼ同時にこんな声が飛んできた。

 

「ぴっぴかちゅう!」

 

「お。そこにいるのはハルカくんじゃな――って、こんな所に美少年!?」

 

「「ん?」」

 

 突然の呼びかけに、二人は交互に顔を向ける。

 まずは、右の方。

 右から声をかけてきたのは、黄色い身体の小さなポケモンだ。尖がった耳と頬の赤い電気袋が特徴で、尻尾は階段のようにジグザグとしている。くりっとした目はとてもチャーミングで、元気いっぱいな表情がなんとも言えない魅力を醸し出している。

 次に、左の方。

 左から声をかけてきたのは、なんだかとてもスポーティでさわやかな印象を受ける青年だ。額に装着されたゴーグルと青っぽい髪が特徴で、無駄のない筋肉質な体はピチッとした黒の服と大きめの半ズボンで包まれている。小麦色の肌は彼が海辺に関係している事を顕著に表している。

 片や、見覚えのないポケモンで。

 片や、見覚えのある青年だ。

 まさかの板挟みに反応に困ったハルカはポケモンと青年の間で両手を広げ、

 

「わ、私の為に争わないで!」

 

「落ち着いてくださいハルカさん! 今の状況でその台詞は全く持って合ってない!」

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 キャットファイトでツツジを下したナギは周囲にいた団員たちをチルタリスの“りゅうのいぶき”で一掃し、アジトの更に奥へと進んでいた。因みに、右ストレート一発でノックダウンしたツツジは道端に放置してきた。気絶した人間を一人抱えた状態で先に進める程、ナギは余裕のある人間ではないからだ。背負う対象がカナタだったら話は別なのだが、そんな獲らぬ狸の皮算用はまたの機会にしておくことにしよう。

 

「それにしても……なんだか妙だな、この静けさは。人の姿どころか、気配すら感じられない」

 

 ここに来るまでの間に大量の団員たちを屠ってきたせいか、通路から人の気配が消失している。せめてポケモンぐらいは出てきてほしいものなのだが、その願いは叶えられそうにもない。

 右へ曲がって直進し、左に曲がって更に右折する。文字通り迷路のようなアジトを突き進んでいくも、段々と自分がどちらに向かっているのかが分からなくなってきている気がする。今から通る道は、本当に始めて通る道なのか。はたまた、実はすでに通った道で、自分はさっきから同じ道をぐるぐると周回しているだけではないのか。思考がループ状態に陥って行き、正常な思考が出来なくなっていく。

 

「……とりあえず、一旦落ち着くか」

 

 周囲に誰もいないせいか、先ほどから独り言が止まらない。というか、自分の声を聞いておかないと、混乱と焦燥で頭がどうにかなってしまいそうだ。まずはこの場で止まって落ち着きを取り戻し、もう一度この迷路にトライしよう。

 はぁ、すぅ、はぁ、すぅ、はぁ。大きく呼吸を繰り返し、体内の酸素を入れ替え――

 

「今のこの状況でなら、夢の露出プレイが現実に……ッ!?」

 

 無人の通路は無慈悲な沈黙を貫き通していた。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 アスナによって先に進む事が出来たカナタはサーナイトに団員たちを撃破してもらいながらも、ついにアジトの最奥と言える発着場へと到達した。

 発着場はどうやら海中に繋がっているらしく、見覚えのない潜水艇がぷかぷかと浮かんでいる。おそらく、あれがカイナシティで強奪された潜水艇なのだろう。

 しかし、カナタの意識はそんな潜水艇よりも大事なものに集中していた。

 それは、潜水艇の前にいる、複数の人間だ。数は三人で、その内の二人にはかなり見覚えがある―――というか、一人はずっと探していた人物だ。

 

「ユウキ! やっと、やっと見つけたぞ!」

 

「おおっと、これは予想通りのお客さんだねぇ。だけど、ここでユウキを渡すわけにはいかないよ」

 

「カガリぃ……っ!」

 

 同じ故郷出身の幼馴染みをやっとの事で発見したカナタはサーナイトと共に彼に近づこうとするも、彼を誘拐した張本人であるマグマ団幹部のカガリに行く手を阻まれてしまう。サーナイトの“サイコキネシス”で彼女を遠くへ吹き飛ばす、という手段を選ぶのは容易だが、それを行ったせいでユウキの命に危機が及ばないとも限らない。ここはあえて冷静に、この状況を打破する必要がある。

 

「ユウキをどうする気だ?」

 

「アンタにそれをわざわざ説明する義理はないね。たが、一つだけのヒントを上げるのなら―――ユウキは私たちマグマ団の野望を達成するために必要なカギだ、ということぐらいかねぇ」

 

「……太古のポケモン・グラードンを目覚めさせ、コントロールするためのカギってことか?」

 

「…………へぇ。もうそんなところまで調査済みって訳かい。これはまた、予想外な行動速度だねぇ」

 

 くははっ、とカガリはあまり面白くなさそうに笑う。

 そんな彼女に何のリアクションも返すことも無く、彼女の後ろにいた赤い髪の男は眼鏡をくいっと整え、至って冷静な口調でこう言った。

 

「カガリ。私はユウキと共に先に潜水艇に乗り込む。お前もその侵入者を撃破し、早急に潜水艇に乗り込め」

 

「了解です、マツブサ様」

 

「――――――マツ、ブサ?」

 

 思考が、止まった。

 カガリが呼んだ男の名に、凄く聞き覚えがあった。それも、そこまで昔の話ではない。ここ最近の、しかも、カナタにとって最も大切な人から聞いた名前だった。

 

 その男は、かつてナギを苦しめた男ではなかったか。

 

 その男は、かつてナギを裏切った男ではなかったか。

 

 その男は、かつてナギを傷つけた男ではなかったか。

 

 大人になったナギの心に、未だ深く大きな傷を残している、最低な男の名。世界中の海を干上がらせるためにマグマ団を組織し、陸地の神であるグラードンに魅せられたことで狂ってしまった、憐れな男。

 マツブサ。

 そんな、そんな現実を認識したカナタはもう、冷静な思考だとか、最適な打開策だとか、そう言った事はどうでも良くなってしまっていた。

 ただ、あの男を殺す。

 ただ、あの男を潰す。

 そんな、純粋且つ単純な本能によって理性が消し飛んだカナタは勢いよく地面を蹴ってマツブサの元まで全速力で駆けて行き、右手を大きく振り上げて目の前のクソヤロウを殴ろうと力を込める。

 

「ッ!」

 

 一瞬。

 カナタの持ち得る全ての力が込められた拳がマツブサに振り下ろされようとした――まさにその瞬間。

 

「その怒りに染まった表情、実に哀れだ」

 

 ズブッ、という鈍い音。

 それを認識した時には既に腹部から激痛が走り、カナタの攻撃の手が強制的に停止に追い込まれた。

 「……え?」と今の状況にはそぐわない声を上げ、カナタは自分の腹部を見下ろす。

 そこには―――自分の腹部に突き刺さる、一匹のポケモンの姿があった。

 異常な素早さに定評がある、特別な進化を必要とするポケモン。

 クロバット。

 追い付けるポケモン等存在しない、という逸話が存在するほどのスピードを誇るポケモンの翼が自分の腹部を貫いているのを確認した瞬間、カナタは膝から崩れ落ちた。

 腹部から血が流れ出るのに比例し、意識がどんどん遠のいていく。霞んだ意識の中でマツブサに向かって必死に右手を伸ばすも、マツブサはカナタに構う事無く潜水艇の中へと引っ込んで行く。それはユウキも同様で、カナタの声などには耳を貸さず、マツブサに続くように潜水艇へと入って行った。

 こんな、ところで。

 痛む腹部を抑えることもせず、流れ出る血液を止めることもせず、カナタはただひたすらに手を伸ばす。それが無駄な行為だと分かっているが、もはやこれぐらいしか彼には手段が残されていない。

 

「哀れだねぇ。実に哀れだ」

 

 そんな、気絶する直前のカナタの耳に、自分に立ちはだかっていた女の声が届いてきた。もう顔を上げて彼女の顔を確認する事も出来ないが、声だけは不思議と鮮明に聞き取れた。

 カガリは言う。

 今まさに深い闇の中へと落ちて行こうとしているカナタに、カガリは短くこう告げた。

 

「海底洞窟で待っているよ」

 

 と。

 

 




 ―――ナギとの戦闘後―――

ツツジ「――ハッ! わ、わたくしはまだ負けてはいませんわー!」

ツツジ「……って、既にナギの姿が無いですわね。あーもう、純粋な戦闘でわたくしがナギに勝てる訳がありませんのに……卑怯、卑怯ですわ!」

ツツジ「にしても、こんなに可憐で魅力的な美少女が無謀に寝ていたというのに、誰も襲わないんでしたのね。それはそれでかなり自分の魅力に残念ですが、別に構いませんわね」

ツツジ「何・故・な・ら! わたくしはカナタ様だけのものなのですから!」

ツツジ「あぁっ、愛しのカナタ様! わたくしの愛を受け取ってくださいませ~!」



アスナ「……今何か、凄くツッコまなくてはいけない気配を感じた」

ホムラ「テメェも苦労人なんだなァ……」

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