ホウエン地方は何処も思春期   作:秋月月日

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 二話連続投稿です!


黒光りした固い物にときめく優等生

 ジムリーダー・ツツジの性感帯を三つ答えよ。

 そんな問題を提示されたカナタは――過去最大級に混乱していた。

 

(なにこの問題、なにこの問題!? こんな事を公衆の面前で質問してくるのも大概だけど、この問題に今から俺が答えなくちゃならないってのが一番の問題な気がする!)

 

 性感帯? せいかんたい? セイカンタイ? ははっ、どんどん混乱が増してきたぞ!

 予想の遥か斜め上方向を“しんそく”で通り抜けたツツジの問題に頭を悩ませるカナタ。まさかナギとハルカ以外にも思春期な奴がいたなんて……しかもまさかそいつがジムリーダーだったなんて……ッ!

 しかし、いつまでもこのまま黙っているわけにはいかない。どれだけ問題文の内容が酷かろうが、これはジムリーダーへの挑戦権をかけた大事な問題。恥ずかしさとか納得のいかなさとか関係なく、カナタはこの問題の答えをツツジに提示しなければならないのだ。

 凄くやるせない気持ちになりながらも、カナタはツツジの身体を凝視する。

 茶色に近い黒の髪はツインテールに纏められていて、如何にも真面目そうな容姿が制服のような衣装でさらに昇華されている。ナギ程ではないにしろ胸のサイズはそこそこで、くびれもしっかりと存在する。特に桃色のタイツに覆われた美脚が芸術的だ。無駄のない美しいラインを描く脚線美。これでスクールの講師だというのだから驚きだ。生徒達、本当に授業目的でスクールに通ってんのか……?

 ゴクリ、と固唾を呑み、カナタは羞恥心を心の奥に仕舞い込む。

 そして一気に酸素を吸い、二酸化炭素を吐き出すと同時に自らの答えを言い放つ。

 

「さ、鎖骨と脚と胸!」

 

「正解ですわ! 見かけ通り、かなりのムッツリなんですのね!」

 

『やーい、カナタのムッツリスケベー!』

 

『因みに、私の性感帯は乳首と耳だぞー!』

 

「このやるせない気持ちをテメェらにぶつけてやろうか!?」

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 とにもかくにもジムリーダーへの挑戦権を獲得したカナタは、岩のバトルフィールドのトレーナーエリアに案内された。バスケットコートの様な造りをしているバトルフィールドの中には巨大な岩が二つ程鎮座している。おそらく、あの岩をどう扱うかがバトルのポイントになるのだろう。

 羞恥心とプライドをガリガリ削られたことで若干涙目なカナタはキッ! とツツジを睨みつけ、

 

「俺はアンタに絶対に負けない! っつーか絶対に許さねえ!」

 

「あらあら。どうやらわたくし、嫌われてしまったようですわね? ――しかし、それがまた興奮しますわ!」

 

「やべえこの人、ナギさん以上の逸材だ!」

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

「形式はシングルバトル、使用ポケモンは二体! ポケモンの交代は挑戦者にのみ許可されます!」

 

 委員長然とした審判の少女の指示を受け、カナタとツツジはほぼ同時のタイミングで頷きを返した。

 カナタはホルダーからボールを手に取り、肩の上にいるキモリに声をかける。

 

「キモリ、お前は先輩のバトルをよく見とけ。その中で相手の動きを解析し、自分なりの動きをイメージしておくんだ。いいな?」

 

「きゃもっ!」

 

「オーケー。良い返事だ」

 

 ここで自己主張が激しくないのは結構助かるな、とカナタは自分に懐きまくっているキモリの評価を何段階か上げた。キモリはプライドが高い事で有名なポケモンなのだが、どうやらこのキモリにはその常識は当てはまらないらしい。プライドよりも何よりもカナタの指示が優先、という事だろうか?

 スイッチを押してボールのサイズを大きくし、バトルフィールドに勢いよく放り投げる。

 

「ドククラゲ、お前の出番だ!」

 

「―――ッ!」

 

 鳴き声と呼べるかどうかも分からない咆哮を上げ、ドククラゲがその姿を現した。

 うねうねと無数の触手をうねらせるドククラゲ。五歳の誕生日の日に両親からプレゼントされたメノクラゲを丹精込めて育てて進化させたこのドククラゲは、云わばカナタの一番の相棒。普段はキモリに相棒としての位置を奪われてしまっているように見えるが、カナタが最も頼りにしているポケモンこそがこのドククラゲなのである。

 新米トレーナーの手持ちにしてはやけに強力なドククラゲ。

 そんな場違いなポケモンの出現にツツジは驚いたような表情を浮かべ、

 

「しょくっ、触手プレイの予感が……ッ!」

 

「女の子が鼻血を噴き出すんじゃありませんはしたない!」

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 ジムトレーナーの活躍で止血を終えたツツジは「お手数をおかけしましたわね」とお嬢様風な態度で一礼した。一切の無駄のない謝罪にカナタは思わず萎縮してしまう。

 頬を朱く染めながらちらちらとドククラゲを見つつも、ツツジは本来の仕事に意識を四割ほど傾ける。

 

「それでは次は、わたくしがポケモンを出す番ですわね!」

 

「どんなポケモンだろうが俺のドククラゲがノックアウトさせますよ!」

 

「触手で?」

 

「実力で!」

 

 もう何なんだこの人! とカナタは痛む胃を抑えながら困惑する。このキリキリとした痛みと戦いながらツツジと戦わなければならないというこの状況。何で俺はジムリーダーから精神攻撃を受けているんだ……ッ!?

 苦悶の表情でも何とか痛みを我慢するカナタ。ここでこんなふざけた胃痛に負ける訳にはいかない。この先には更なるストレスが待ち受けている事は考えるまでもない事なんだ!

 

「その真剣な面持ち。どうやらわたくしも本気で戦わないといけないようですわね」

 

 真剣というよりもアンタのせいで苦しんでんだよ、とは流石に言えないカナタにツツジはとびっきりの笑顔を向ける。

 そして腰のホルダーからボールを取り出してスイッチを押し、バトルフィールドに掲げるように放り投げた。

 

「あなたの黒光りした固さを示しなさい――イシツブテ!」

 

 ツッコまない、ツッコまないぞ……ッ!

 限りなくアウトに近いアウトどころか普通にアウトなツツジにキリキリと胃が痛むカナタは脂汗を流しながらも拳をギュッと握り、フィールドに現れたイシツブテを目視する。

 イシツブテ。

 その名の通り、石の礫のような外見をしたポケモンだ。人の頭より少し小さいぐらいの石の塊に石の腕が生えていて、塊の表面には目と口が見て取れる。どうやって浮いているんだろうとか、何で石なのに動けるんだろう、とかいうツッコミは野暮というヤツだ。ポケモンは人間の常識では語れない。不思議だからこそのポケモンなのだ。

 互いのポケモンが出揃ったのを確認した審判は両手に持った二つの旗を上に掲げ、

 

「それでは――バトルスタート!」

 

 戦いの火蓋を切って落とした。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

「…………」

 

「どうかしたんですか、ナギさん? 何処か納得のいかない風な顔をしてますけど」

 

「いや、特に何か問題があるという訳ではないのだが……」

 

「ないのだが?」

 

「ツツジが私のキャラを上塗りしている様な気がしてな」

 

「なるほど、それはゆゆしき問題ですね! でも大丈夫です、ナギさん! 私に考えがあります!」

 

「ほぅ? その考えとやらを聞かせてもらっても良いかな?」

 

「はい! まずですね? ナギさんには大人の色気というものがあります。ツツジさんもアダルティな先生風なキャラですが、ナギさんはそれ以上の逸材――巨乳で積極的な美人お姉さんというキャラクターを持っているんです!」

 

「それが一体どういう風に打開策に繋がるんだ?」

 

「簡単ですよ。カナタは巨乳好きで年上好きです。そして、ナギさんはその条件を満たしている。つまり! ナギさんは毎晩かけてカナタに裸でアタックすれば良いのです! そうしたらあら不思議! ナギさんのキャラはどんどん濃くなっていく!」

 

「おおっ! それは素晴らしい名案だな! 早速今夜、部屋に戻ったら試してみよう!」

 

「私も応援しています! 目指せ、最強のエロお姉さん!」

 

「おーっ!」

 

 ツッコミ不在警報発令中。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 シリアスを平気でブレイクしている観客席から離れたバトルフィールド。

 バトル開始の合図の直後、最初に行動をとったのはジムリーダーのツツジだった。

 

「イシツブテ、ドククラゲに向かって“たいあたり”です!」

 

「ドククラゲ、防御して返す刀で“バブルこうせん”!」

 

 両手で地面を殴る事で凄まじい速度で突っ込んでくるイシツブテを無数の触手で絡め取り、ドククラゲは超至近距離で“バブルこうせん”を放った。――しかし、イシツブテは自身の球体を最大限に駆使する事で拘束を抜け出し、ドククラゲの顔面に渾身の“たいあたり”をお見舞いした。

 

「大丈夫かドククラゲ!?」

 

 カナタの心配そうな言葉にドククラゲは触手を振る事で応える。まだ大丈夫、俺はまだまだ戦えます。そんな意志表示をしてきたドククラゲにカナタはほっと胸を撫で下ろす。

 

「わたくしのイシツブテはタイプ相性ぐらいで怯みませんわよ?」

 

「そうみたいですね。……ですが、流石に致命傷にはなるはずだ。ドククラゲ、イシツブテに“からみつく”攻撃!」

 

「くっ、まさかそんな技を覚えているなんて! イシツブテ、なんとか振り解きなさい!」

 

 ツツジの指示通りに身体を我武者羅に動かすイシツブテだったが、ドククラゲの拘束は先ほどとは比べ物にならない程に強固になっていたため、逃げだすどころかどんどんと触手が腕に絡まって悪状況になってしまっていた。両腕が拘束されたイシツブテに、脱出の手段は存在しない。

 触手が絡まったせいで黒い塊のようになってしまったイシツブテにカナタはニィィッと口角を上げ、

 

「超至近距離でもう一度“バブルこうせん”!」

 

「あぁっ、イシツブテ!」

 

 ただでさえ天敵である水タイプの技を超至近距離でお見舞いされたイシツブテはドククラゲの触手から解放された直後、地面に力なく崩れ落ちた。目はぐるぐると回っていて、戦闘不能になってしまっているのは誰の目から見ても分かる事だった。

 

「イシツブテ、戦闘不能!」

 

「くっ……戻りなさい、イシツブテ」

 

 ボールから放たれたビームがイシツブテに直撃し、その身体がボールの中へと戻っていく。

 ツツジは悔しそうに顔を歪めながらも次のボールをホルダーから取り出し、

 

「イシツブテを触手と水攻めによる快感地獄に放り込むなんて凄まじい戦術でした! しかし、わたくしの本当の実力はここから! 硬きことアレの如し――顕現なさい、ノズパス!」

 

「いろんな意味で失礼すぎるぞアンタ!」

 

 フィールドに現れたノズパスが申し訳なさそうに頭を下げたのを見て、「あぁ、コイツも苦労してんだなぁ」と思ってしまった自分がなんだか凄く情けなかった。

 

 

 




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 次回もお楽しみに!
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