あ、ナギさんは今更なんで、あえてノーコメントで。
ジム戦を終えたはずのカナタ達三人は、何故か116番道路を駆け抜けていた。
というのも、ジムの外に出てから約一分後、ナギと合流したところで「ど、泥棒ーっ!」という叫び声が聞こえてきたのだ。最初は動揺していたカナタたちだったが、包みを抱えて走っていく男を追いかけていた中年男性を見たハルカが「あ、あなたはトウカの森の時の!」と男性に接触。男性から事情を聴かされたところでカナタとナギにも協力を要請し、三人そろって青の装束の男の後を追いかけ始めた――という流れだったりする。
雑草を踏み越えながら三人は足を全力で動かす。ボールの中が嫌いなジュプトルが手持ちにいるが、ジム戦の直後なので強制的にボールの中へと戻ってもらった。流石にこれ以上の無理はさせられないし。
「ナギさん! この先にあるのって、カナシダトンネルで間違いないですか!?」
「ああ! しかし、カナシダトンネルは現在工事中だから、シダケタウンへの通り抜けは不可能なはずだ!」
「という事は、トンネルの中に追い込んでしまえばこっちの事という訳ですね! カナタ、田舎育ちの脚力を見せてあげよう!」
「おうっ!」
そう言うや否や、ハルカとカナタの速度が一段階上がった。ナギは運動神経が抜群な方なのだが、ミシロコンビの速度に追いつくだけでやっとという様子だ。流石は田舎育ち、常に走り回って遊んでいただけはある。
と、そこに。
116番道路で自身のポケモンを育てていたトレーナーたちが目を光らせてカナタ達に接近してきた。これは考えるまでもない。彼らはカナタ達にポケモンバトルをしかけようとしているのだ。
しかし、今の彼らはバトルなどに身を投じている場合ではない。一秒でも早く窃盗犯を縛り上げ、盗難物を取り返さなければならないのだ。
さぁっ、どうやってこの局面を乗り切る!? 走りの速度を緩める事はしないながらもカナタは必死に思考を働かせる。
――と。
「奥義! “つばめがえし”!」
「ふぐぅっ!?」
「秘技! “にどげり”!」
「げふぅっ!?」
「「さぁカナタ、先を急ごう!」」
「通り魔が窃盗犯を追いかけるという危ない構図にぃっ!?」
☆☆☆
「あっ! あの海賊っぽい人がトンネルの中に逃げ込みました! どう料理しますか!?」
「よしっ、もはやあの窃盗犯に逃げ場などない! ここで一気に物理でフルボッコだ!」
「ジュンサーさぁーん! 窃盗犯が通り魔に殺されそうでーす!」
☆☆☆
「おぉっ、そこなお方、少しお待ちください!」
「っ! 新手か!?」
「ハイハイ違いますからまずはその握り拳を降ろしなさい! そしてハルカも右足に力を込めない!」
カナシダトンネルの入り口付近で声をかけてきた老人を救うための行動に身を投じるカナタ。対象があの窃盗犯ならあまり問題はないが、見覚えのない老人をタコ殴りにしたとあっては確実にジュンサーさんのお世話になってしまう事は確定的。いや確かにさっきもうすでに無関係なトレーナーたちを瞬殺してきたわけだが、それについては今は置いておこう。大丈夫、意識と一緒に記憶も刈り取られたはずだから……ッ!
物理ファイターガールズを後ろに下がらせ、カナタは笑顔で愛想を振りまきながら老人に声をかける。
「そんなに焦った様子でどうしたんですか? 良かったら、俺に話を聞かせてもらえませんか?」
「――ケッ。男には用はねえ。話を聞かせてほしかったら、そこの美人と美少女を公証人として提示するんじゃな!」
「………………」
「ま、待て、待つんだカナタ! 流石にそのサイズの岩での物理は危険すぎる!」
「そ、そうだよカナタ! ミシロタウンで最も常識人ないつものカナタを思い出して!」
「ええい、離せ! こんな大人、修正してやるぅううううううううううううっ!」
☆☆☆
本気でブチ切れていたカナタをハルカに任せ、ナギは謎の老人に優しい口調で話しかけた。
「それではご老人、お話を聞かせてもらってもよろしいですか?」
「おおっ! こりゃまた随分とめんこい女子じゃ! 特に乳! 乳が良――めぎょぉっ!?」
「ご老人。お話を聞かせてもらってもよろしいですか? ……ツギハコロス」
「ひゃ、ひゃいいっ!」
目の奥に殺気を宿らせたナギの活躍でかなり大人しくなった変態ジジイ。今のナギの行動を傍で見ていたカナタとハルカは「この人にだけは絶対に逆らわないようにしよう」と心の中で固く誓った。普段から怒らない人が怒ると、他とは比べ物にならない程に怖ろしい。
やけに脅えた様子の老人は全身を小さく震わせる。
「さ、先ほどこのトンネルに逃げ込んだ男が、ワシの可愛い可愛いピーコちゃんを連れて行ってしまったのじゃ! お願いじゃ! あの男からピーコちゃんを取り戻してきてはくれんかの!? 大丈夫、礼ならいくらでもする! 無賃で船に乗せてやっても良い! じゃから頼む。ピーコちゃんを助けてやってくれ!」
先ほどまでの失礼な態度は何処へやら。深々と――そのまま土下座にまで移行してしまいそうなほどに頭を下げる老人に、カナタは少しばかり動揺した。何だ。ただのエロジジイかと思ってたが、結構まともな奴なんじゃん。
どうせ盗難物を取り返さなくてはいけないし、ついでと思ってそのピーコちゃんとやらを助けてあげれば良いだろう。
そう判断したカナタはナギの後ろから老人を見つめ、
「分かりました。俺達にお任せください」
「あぁん? テメェにゃ何も言ってねえんだよこのタコ」
「………………」
「がふっ!? おぶっ!? ぐわらばぁあっ!」
老人に謎のコンボを叩き込むカナタを、ナギとハルカは止めることなく全力で応援していた。
☆☆☆
エロジジイをモザイク加工済の肉塊に変えたカナタ達三人は、カナシダトンネルの中へと足を踏み込んだ。そこまで長いトンネルで無いせいか中は結構明るくて見通しが良く、数多の岩陰にゴニョニョたちが身を隠してこちらの様子を窺っているのが確認できる。
そんな数多の視線を受けながら、カナタ達は奥へ奥へと進んでいく。
「あぁっ! ポケモンたちからの視線でゾクゾクする!」
「いっそこのまま脱いじゃいましょうか!」
「いっそこのまま走り抜けてくれませんかねぇ!?」
☆☆☆
カナシダトンネルを進んでいくこと約一分後。
カナタ達はついに青の装束の男を追い込むことに成功した。行く手を巨大な岩に阻まれた男は憎らしそうに岩を何度も蹴り付け、心底焦った様子でカナタ達をキッと睨みつけた。
「くそっ! 荷物を奪うだけの簡単な仕事だって言われてたはずなのに!」
「御託はいいからさっさとその荷物とピーコちゃんをこっちに寄越せ! お前に逃げ場なんてねえんだからな!」
「だ、誰が素直に渡すかよ!」
そう言うや否や男はホルダーからボールを手に取り、
「こうなったら実力でテメェらぶっ飛ばしてここから脱出してやる! へへっ、お前らが大人しくしてくれりゃ、こんな事にはならなかったんだぜ。くっくっく。そこの女二人も一緒にボスに献上すりゃ、俺の格も上がるってもんだぜ……」
「あー……いや、あんまりそれはオススメしねえかなー……」
「あぁん!? そりゃ一体どういう意味だ!」
「えーっと、その。別にバトルに関しては問題ねえんだけど……」
気まずそうに目を逸らしながら、カナタは自分の後ろにいる思春期コンビを指し示す。
「こ、これはアレですかね? 『悪の組織に捕まった正義の味方がーっ!』って感じの展開になっちゃうんですかね!? いやーっ! ついに私もレイ【しまった! 自主規制が遅かった!】されちゃうんだーっ! あぁっ、ちょっと興奮してきた!」
「私の【見せられないよ!】や【自主規制】や【ナギモザイク】を好き勝手に弄ぶ気なのか!? わ、私はそんな事には屈しないぞ! あぁでも、少しばかりは興味がある……い、いやいやっ、ここは大人の女性である私がちゃんとリードしなくては!」
「「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ!」」
「……みたいに無駄にやる気だから、流石に萎えると思うんだよね……」
「…………お前、苦労してんだな」
「…………うん。すっごく」
☆☆☆
「そ、そんな事はさておき、俺はテメェらをここでぶっ飛ばす! いけっ、ポチエナ!」
「また悪の組織っぽいポケモンを……」
黒い小型犬の様な外見のポケモン――ポチエナに苦笑しながらも、カナタはホルダーからボールを取り出す。ジュプトルはジム戦の時の疲れがまだ取れていない。――だったら、ここはアイツの出番だ!
「任せたっ、ドククラゲ!」
「「キタ――――――ッ!」」
「喜び勇んで二人揃って前に出るな! ハイそこ服を脱ごうとしない! ドククラゲが脅えてるだろうが!」
キラキラと目を輝かせながらドククラゲに近づこうとするナギとハルカを必死に羽交い絞めにするカナタ。またもや悪の組織の下っ端から同情の視線を向けられていたが、カナタは全力でスルーした。俺は認めない、苦労人の人生を歩まなければならない未来なんて俺は認めない!
巨乳と貧乳の前に立ちはだかる事で道を塞いだカナタは泣きそうになりながらもドククラゲに指示を飛ばす。
「ドククラゲ、ポチエナに“からみつく”攻撃!」
「わ、私にも! 私にもプリーズ!」
「いや待てハルカ! ここは年長者から先にが常識だろう!?」
「常識知らずが常識を語るなァアアアアアアアアアアアーッ!」
☆☆☆
ドククラゲの活躍でポチエナを撃破したカナタは目にも止まらぬ速さでドククラゲをボールに戻し、下っ端の男へと詰め寄った。
男は焦りの表情を浮かべながら後ろに下がるが、彼の行く手を阻むように鎮座していた岩に背中が接触してしまう。――つまり、ゲームオーバーだ。
「く、くそっ! 覚えてろよ! それとお前はこれから頑張れ!」
「これに懲りたら二度と悪事なんかするんじゃねえ! それと、うん、俺、これから頑張る!」
どこぞの青春漫画の一ページのようなやり取りの後、下っ端の男はカナシダトンネルから縺れ足で逃げ出した。男が先ほどいた場所には大きな包みとモンスターボールが残されていた。おそらく、盗難物とピーコで間違いないだろう。
カナタは包みとボールを拾い上げ、
「やっぱりピーコちゃんを外に出して、感動の再会的なシーンにした方があのジジイも喜ぶかな」
結構ガチで酷い事を言われたカナタだが、それでもやはり彼は優しく真面目な性格。いくら節操のないエロジジイでも、やはり少しは気を遣う。
ナギとハルカがドククラゲの入ったボールを奪おうとするのを全力で阻みながら、カナタは老人のボールを地面に向かって軽く放る。
ポンッ! という小気味の良い音がトンネル内に響き渡り――
「リキィイイイイイイイイイイイイッ!」
――筋骨隆々なゴーリキーが姿を現した。
「はいダウトォオオオオオオオオオーッ! このポケモンのどこにピーコちゃん的要素が含まれてるんだァアアアアアアーッ!? そしてそこの思春期ガールズも『もっこりキターッ!』って柏手打って喜ばない!」
「「あ、そーれ! もっこーりもっこーり!」」
「アッハッハ! お前らトレーナー失格だぁっ!」
必死にツッコむカナタの傍で、ピーコちゃん(ゴーリキー)がダブル・バイ・セップス・バックのポージングを決めているのがなんともシュールな空気を醸し出していた。
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