ホウエン地方は何処も思春期   作:秋月月日

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 三話連続投稿です!

 今回は少しばかり、ナギが大人しくなってるかも。


幼馴染みはまさかの性癖

 ナギの先導で迷う事もなくトウカの森を抜けたカナタ達一行は、トウカの森近くにある波止場へとやってきていた。

 ここを訪れた目的はただ一つ。ムロタウンへの移動だ。

 

「にしても、次はムロタウンかぁ」

 

「二番目のジムがある事で有名だけど、それ以上にやっぱりムロの洞窟が有名らしいよ? なんでも、一番奥には凄く珍しい石が眠っているとかいないとか」

 

「進化の石だったら大歓迎なんだけどな。リーフの石とか水の石とか……」

 

「だね」

 

 わいわいと男二人で仲良く駄弁るカナタとユウキ。思春期ガールズの包囲網から脱出する事に成功したカナタの表情はユウキと出会う前より凄く明るくなっていた。それ以前は――まぁ、凄く疲労感でいっぱいでしたかね。

 ユウキと楽しそうに喋っているカナタをナギは彼の背後からジトーッと見つめ、

 

「……いいなぁ。私もカナタともっと話したいなぁ」

 

「嫉妬ってやつですね、ナギさん?」

 

「な、何が何で何だってぇぇーっ!?」

 

 ぷくく、と口を手で隠しながらニヤケ顔を作るハルカ。図星を突かれたナギは顔を紅蓮に染めてあたふたと露骨に焦りながら、ハルカに必死の弁解をする。

 

「わ、私は別に、嫉妬などしていない! い、言い掛かりはやめてくれないか!?」

 

「またまたぁ。さっき『いいなぁ。私もカナタともっと話したいなぁ』って呟いてたのを、私は聞き逃していませんよ?」

 

「そ、それは……」

 

「んもうっ、別に良いじゃないですかっ。もっと素直になりましょうよ、ナギさん!」

 

「素直に、か……」

 

 そうは言っても本当にそうは思ってないんだけどなぁ。現在になっても自分の思いに確信が持てないナギは困ったように頭を掻いた。素直な気持ち、というのが自分自身でも分からないからだ。

 ふむぅ、と顎に手を当てて考え込んでしまうナギ。

 その行動のおかげで何か思いついたのか、ナギはポンッと手を叩き、

 

「全裸になれば素直になれるかもしれないなっ!」

 

「そうですその意気です!」

 

「アッハッハ! そんなにハリセンが欲しいかこのバカコンビ!」

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 わいわい騒ぎながら波止場近くの小屋に入ると、そこには予想もしない光景が広がっていた。

 

「ピーコちゃん! ピーコちゃん! ほぅら、ワシを追いかけておいでーっ!」

 

「リキィッ!」

 

「はぁはぁはぁはぁ! やはりピーコちゃんは世界一可愛いのう!」

 

「リキーッ!」

 

 ……………………スチャ。

 

「カナタ。誰も止めないから思いっきりツッコんでこい」

 

「了解です!」

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 例のエロジジイ(ついでにピーコちゃん)をハリセンで叩きのめしたカナタはとても達成感に満ちた表情で額の汗を拭った。鬼のような形相でジジイを粛清していたカナタに他の三人が静かに青褪めていたのだが、ツッコミモードだったカナタはそんな彼らの視線には気づかなかった。

 頭頂に巨大なタンコブを乗っけたエロジジイは「あいたたた……」と呻き声を上げながらゆっくりと顔を上げる。

 

「お、お主はあの時の!?」

 

「御託は聞きたくねえ。さっさとムロタウンまで俺たちを船に乗せて連れて行け。さもなきゃ――次はそこの海に頭から埋めてやる」

 

「ひ、ひぃぃっ!」

 

 ハリセンを右手で弄びながらガンを利かせるカナタに、エロジジイは今にも卒倒しそうなほどに青ざめた顔で何度も何度も首を縦に振った。ジジイの後ろで目をうるうるさせているピーコちゃんが無性に気になったが、ポケモンには何の罪もないのでここはあえてスルーしておくことにする。

 老い先短い御老体を全力で脅迫している最中なカナタの後方で、ナギたち三人は顔を寄せ合いながらカナタに聞こえないようにヒソヒソと秘密会議を開始させる。

 

「(やっぱり本気でキレたカナタは怖いなぁ)」

 

「(カナタは通常時と怒り時のギャップが激しいですから……うぅっ。これじゃあ私のうら若き肉体に溜まりに溜まった性欲を言葉として発散できない!)」

 

「(それに関しては私も協力しよう。どうだ今夜、一緒に寝ないか? もちろん性的な意味で)」

 

「(是非に!)」

 

 勝手に意味不明な話題で盛り上がる中で意味不明な約束をするナギとハルカの傍らで、ユウキはカナタとエロジジイの攻防を眺めながら仄かに顔を赤くし、

 

「(いいなぁ……あのハリセン、結構痛いんだろうなぁ……ゴクリ)」

 

「「(え?)」」

 

「(え?)」

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 物理的な説得で船を出してもらえることになったカナタ達。カナタ以外の三人は頭を下げてお礼を言っていたが、エロジジイは「べ、別に良いのじゃ!」と露骨に震えながら三人の頭を上げさせていた。これはもう見るからにカナタがトラウマになってしまっている。

 そんな訳で船に乗り込み、甲板に移動するカナタたち。数分としない内に船は波止場を離れ、青く大きい海へと勢いよく発進した。

 徐々に速度を上げていく船の甲板の柵に体を預けながら、ナギは風で靡く前髪を手で抑える。

 

「ふむ。船というのは初めて乗ったが、意外と気持ち良いものなのだな」

 

「風が気持ち良いですよね。潮の香りも良いし、やっぱり海の上って最高だなぁ」

 

 ナギの隣でそんな感想を述べながら、カナタはぐぐっと背伸びをする。ハルカとユウキはカナタ達から少し離れた位置で海の上にいるポケモンを見て盛り上がっていた。

 遠くまで広がる海を満足気に眺めるカナタにナギは仄かに顔を赤くしながら小さく微笑み、

 

「ついにカナタも女の潮の香りが分かるようになったのだなぁ」

 

「分かってたまるか!」

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

「お、見ろカナタ! ホエルオーだ!」

 

「そうですね」

 

「お、見ろカナタ! ホエルオーが潮を噴いたぞ!」

 

「そうですね」

 

「ふふんっ。しかし、私の方がまだまだ大きく潮を噴けるぞ!」

 

「そうですね」

 

「…………もしかしてカナタ、怒ってるか?」

 

「いえ。あまりにも予想通り過ぎたんでツッコミを諦めただけです」

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 カナタの涼しい笑顔にナギが顔を引き攣らせている頃。

 ハルカとユウキは海の上を低空飛行中のキャモメとペリッパーの群れに盛り上がっていた。

 

「ユウキユウキ! 私、ペリッパーなんて初めて見た!」

 

「予想外に大きいね、ペリッパーって。タイプは水・飛行か……ムロタウンのジムは格闘タイプ専門だから、飛行タイプを捕まえておくのも良いかも……」

 

「おっ、ついにユウキがバトルですか? ポケモンゲットを始めちゃう感じですかぁ?」

 

「うん、まぁ。せっかくだし、キャモメだけでもゲットしておきたいなぁって」

 

 ムロタウンに着いてすらいないというのに既に次のジム戦の事を考えているユウキ。実は幼馴染みトリオの中で最もバトルに興味を持っているのがこのユウキなのである。その次がカナタ、最後がハルカ。――というか、ハルカの興味は他人の恋愛と下ネタに九割ほどを支配されているからそもそもカウントする事自体がおかしいのだが。

 ユウキはホルダーからボールを取り出し、自分の相棒であるヌマクローを甲板に顕現させる。

 

「よーっし。ヌマクロー、あのキャモメに“みずでっぽう”だ!」

 

「ヌマッ!」

 

 頬にあるオレンジ色の棘が特徴のポケモン――ヌマクローはユウキの指示に素早い反応を示し、一番近場にいたキャモメに渾身の“みずでっぽう”をお見舞いした。本当は水タイプ以外の技を使った方が良いのだろうが、甲板からの遠距離攻撃に適している技が“みずでっぽう”しかないので仕方がないのだ。一応は“マッドショット”という技があるが、アレは飛行タイプには効果がない技なのでここでは除外しておく。

 “みずでっぽう”が顔面に直撃したキャモメは怒ったように鳴き声を上げ、ヌマクローの上を越えてユウキに直接攻撃を加え始めた。選択された技は“つつく”。飛行タイプの超初歩的な技と言えば分かり易いだろう。

 服から出ている皮膚を鋭いくちばしでつつかれるユウキ。近くにいたハルカが慌てて止めに入ろうとするが、ユウキは彼女を右手で制した。

 

「大丈夫! これぐらいなんともない!」

 

「で、でも、流石に無傷という訳には……」

 

「そうかもしれない。でも、バトルに負傷は付き物だ。ポケモンが傷つくのが避けられない現実であるのと同じく、トレーナーが傷つくことも必然。……というか」

 

「というか?」

 

 何だ。ユウキの様子がおかしいぞ? 気のせいかもしれないが、どことなく頬が紅潮しているように見えるんだけど……。

 微かな違和感に首を傾げるハルカ。先ほどの波止場でのセリフの事もある。やはりこのユウキという少年、昔から目を着けていた通りに凄い逸材なのかもしれない。

 ゴクリ、とハルカは固唾を呑む。

 ユウキはキャモメの攻撃を両手で防ぎながら勢いよくキャモメを直視し、

 

「全くもって痛みが足りないんですけどォォォォォォォ!」

 

「くえぇっ!?」

 

「足りない! そんな痛みじゃ足りないよ! もっと激しく、もっと強く! 僕の身体をもっと痛めつけてくれ! そうすれば僕は、もっと気持ちよくなれるから!」

 

「凄いよユウキ! ついに私と同じ思春期に足を踏み入れたんだね!」

 

「ははっ。今さら何を言っているの、ハルカ? 僕は元々――」

 

 目をキラキラさせるハルカにユウキは清々しい笑みを向け、

 

「――真性のマゾヒストなんだ!」

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

「…………カナタ」

 

「何も言わないでください」

 

「いや、しかし。今のユウキの発言は……」

 

「何も聞かなかった事にしてください」

 

「凄いイイ声だったな、今の。本当に自分をマゾヒストだと思っている者にしか許されない大声量だったな」

 

「俺に厳しい現実を突きつけないでください」

 

「というか、結局は君の負担が増えただけだったというかなんというか」

 

「自覚があるなら少しは改善してください」

 

「………………私の胸を貸そうか?」

 

「~~~~ッ! な、ナギさぁあああん!」

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 一人の少年のキャラクターと一人の少年の心が激しくブレイクされた後、船は無事にムロタウンへと到着した。

 《青い海に浮かぶ小さな島》というキャッチコピーの通り、このムロタウンは106番水道と107番水道に浮かぶ小さな島である。ムロの洞窟と砂浜だけで構成されたこの島には、小さな集落が島の下方に一つだけ存在している。その中に二番目のジムがあり、カナタたちミシロトリオは本来はそのジムに挑むためにこの島に来る予定だったのだ。

 しかし、カナタにはジム戦より先にやるべき事がある。ダイゴに手紙を渡す、という大事な使命があるのだ。

 とりあえずはポケモンセンターに移動して手持ちポケモンを回復させたカナタ達は四人部屋を借り、中で会議を始めることにした。

 議題はもちろん――ムロの洞窟についてだ。

 

「ムロの洞窟の一番奥にいると思われるダイゴさんにこの手紙を渡さなきゃなんねえ訳だが……時間の削減とか手間の削減とかの為に、これからチームを二つに分けようと思う」

 

「チーム?」

 

 可愛らしく首を傾げるハルカにカナタは頷きを返す。

 

「俺達の本来の目的はムロジムへの挑戦だ。だから、この手紙を渡しに行くチームと先にジム戦を受けるチームに分ける。前者がどれだけの時間がかかるか分からない以上、後者は俺とハルカとユウキ、この三人の内から二人選出した方がベストだと俺は思う」

 

「それは私も賛成だな。君たち全員のバトルが見れないのは残念だが、時間短縮には持って来いの案だと思う。私はムロの洞窟のチームのようだから、もしこちら側のチームに入る事になった者はよろしく頼むぞ」

 

「「「了解です」」」

 

 何の文句も言わないなんて、やっぱりこの人はいい人だなぁ。……心は思春期過ぎてドン引きだけど。

 感心と落胆に同時に襲われたカナタは「はぁぁ」と溜め息を吐き、ちらっともう一度ナギを見る。――直後。

 船の上でのナギの胸の柔らかい感触が頭の中にフラッシュバックした。

 

「ッ! ッ! ッ!」

 

「ど、どうしたんだカナタ!? いきなりそんな、床に頭突きをするなんて……」

 

「マイブームです」

 

「い、いやでも、今のはちょっと変だったというかなんというか……」

 

「誰が何と言おうとマイブームです」

 

「そ、そうか……別に異常がないのなら、私は構わないのだが……」

 

 いやいや頭突きをマイブームとか言ってる時点で脳に異常がありますから。――と自分に自分でツッコミを入れてしまうカナタくん。やはりこのままではいろいろとマズイ。特にナギさんの乳。あれを克服しないと俺は一週間もしない内に死んでしまう。……克服、できるかなぁ。

 凄く今後が心配になっているカナタを心配そうに見つめるナギ。

 そんな二人を交互に見るや否や、ハルカは凄くニヤケ顔で――言い放つ。

 

「それじゃあ、ナギさんとカナタが洞窟チームという事で! 二人仲良く暗闇でセッ〇スしちゃいなYO!」

 

「「いやいや、物事には順序というものが!」」

 

「それ以前の問題だと僕は思うんだけど……」

 

 顔を真っ赤にしてずれたツッコミを入れるカナタとナギに、マゾヒス――もといユウキの鋭い指摘が炸裂する。

 

 




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 次回もお楽しみに!
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