結局カナタとナギの二人でムロの洞窟に向かう事になった。
まず必要なのは食料と水分だろう。灯りは懐中電灯で何とかなるかもしれないが、食料と水だけは洞窟の中では決して手に入らないはず。一日分ぐらいの量は調達しておきたい。
そう判断したカナタとナギはポケモンセンターで一泊した後、ムロタウンの市場にやってきていた。
「島だから廃れてると思ってたけど、結構繁盛してんだなぁ」
「ムロは様々な地域から多種多様な物品を輸入しているからな。ホウエン一の貿易街であるカイナシティでも見られないほどの希少な水産物や果実などが手に入るらしい」
「へぇ。ナギさん、詳しいですね」
「ホウエン地方の町の全ての情報を集めておくことはトレーナーの基本だぞ?」
「うぐ……」
「はははっ。まぁ、そんなに気を落とすことはない。これから覚えていけばいいんだよ」
他者から見たらただの恋人同士のような二人。高齢化が進むムロタウンでも二人は変に浮いていて、周りにいる老人たちから凄く生暖かい視線を送られていた。気のせい気のせい、とカナタは現実逃避しながら歩を進める。
市場で売られているのは主に水産物のようで、食用のキバニアやコイキングなどがパックの中で虚ろな目をして並んでいる。その次に多いのは果実だろう。オレンやキー、モモンなどの木の実が所狭しと売られている。
ナギは傍にあった店に置いてあった木の実を一つだけ手に取り、キラキラした瞳でカナタに見せびらかしてきた。
「見ろ、カナタ! この木の実、長くて大きくて硬くてイボイボが付いているぞ! ちょうど良い感じで気持ち良くなれるかもしれない!」
「ノワキの実に土下座しなさい!」
☆☆☆
当初の目的を忘れそうだったナギを引きずり回しながらなんとか食料調達を終えたカナタは、島の北西にあるムロの洞窟の入り口へと移動した。
洞窟の入り口は人が三人ぐらい余裕で通れるほどの大きさだったが、光の加減で洞窟の中はほとんど何も見えない状態だ。懐中電灯持ってきて良かったなぁ、とリュックサックから懐中電灯を取り出しながらカナタは安堵の息を漏らす。因みにジュプトルはボールの中で強制待機だ。洞窟の中で逸れたら最後、再開できないかもしれないから。
「んじゃ、とりあえず行きましょうか」
「そうだな。早くしないと私たちが見る前に暗闇セッ〇スが終わってしまうかもしれないからな」
「一生見なくていいんだよそんなもん」
☆☆☆
「頭が痛い……」
「そりゃ俺が何度もハリセンで叩いてますからね。痛いのが嫌なら下ネタ言うな」
「出会った当初よりもカナタが厳しくなったような気がするのだが……」
「気のせいです」
頭を擦って涙目なナギにカナタの冷たい言葉が突き刺さる。ナギ一人だったらまだ何とかなっていたのだが、ハルカとユウキという二大ギャグマシーンが現れてからはカナタの胃痛の頻度が一時間に三回ぐらいになってしまっている。このままでは胃潰瘍でお陀仏だな、とカナタは凄く他人事のように心の中で呟く。
カツカツと靴音を洞窟内に響かせ、懐中電灯で足元と前方を照らしながら少しずつ前へ進んでいく。先ほどからちらちらと野生ポケモンの姿が確認できているのだが、一向にカナタ達に近づこうとはしていない。おそらく、カナタが持っている懐中電灯の光に怯えているのだろう。四六時中を闇で過ごすポケモンは激しい光を極端に嫌うらしいし。
ぴちゃん、とどこかで水が滴る音が洞窟内に響き渡る。雨水が地層を伝ってここに流れ込んできているんだろうか。それとも単純にこの洞窟の中に水源があるのだろうか。興味は尽きないが、今はそんなものを捜している暇はない。さっさとダイゴに手紙を届け、さっさとジム戦を行わなければ。
ぴちゃん。ぴちょん。ぴちゃっ。
ぴちゃん。ぺちょん。ぺちゃん。
「今の水音は私の愛液じゃないぞ! 嘘なんかついていないからな!」
「誰も聞いてねえし誰も聞きたくねえんだよそんな事」
☆☆☆
洞窟を突き進むこと体感時間で約十分。
先ほどまで聞こえてきていた水音がやみ、周囲の暗さが出入り口付近よりもいっそう深くなってしまった。ここからが洞窟の下層、という事だろうか。
ここら辺でいいかな、とカナタは動かしていた足を止める。
「とりあえず、ここで休憩しましょう。このまま(食事を)抜いてたら、(ダイゴの所に)達してしまいそうな勢いですし」
「い、今までずっと抜いてたのか!? くそっ、この私にばれないように抜くなんて、君は怖ろしい少年だな……ッ!」
「ごめん今のは俺が完全に悪かった! 今度からはきっちり全部の言葉を話します!」
☆☆☆
真っ暗な洞窟の中でシートを敷き、カナタとナギは市場で購入した食料をその上に拡げた。その際にカナタはリュックサックの中からランタンを取り出し、手元が見えるぐらいの明るさに設定して自分の傍にコトッと置いた。ランタンも持ってるなら使えよ、というツッコミが入るかもしれないので一応弁解しておくが、このランタンは懐中電灯の電池が切れたとき用の予備である。
オレンの実を手に取り、一口だけ噛んでみる。
ぷちゅ、という柔らかな感触の直後、口の中に奇妙な味が拡がった。
「うーん……辛くて渋くて甘くて苦くて酸っぱい……お世辞にも美味しいとは言えないなぁ」
「まぁ、オレンの実は珍味だと言われているしな。美味しい食べ物のジャンルからは大きく外れているのだろう」
苦虫を噛み潰したように顔を歪めるカナタにナギは小さく微笑み、手に持っていた木の実をシャクッと齧った。
カナタはオレンの実を指で突きながら、ナギに問いかける。
「それは何を食ってるんですか?」
「ズリの実だ。味は少し辛く、媚薬作用が含まれているらしい」
「今すぐ捨てろ! 今すぐにだ!」
☆☆☆
ひと時の食事休憩を終えたカナタ達はシートやランタンをしまい、再び洞窟の奥へと進み始めた。
――進み始めた、のだが……。
「か、身体が熱い、身体が疼く。頭がぼーっとしてきた……」
「さっきのズリの実って即効性なんですか!? いくらなんでも早すぎでしょう!」
「君のアレよりは遅いがな」
「勝手に俺が早漏だなんて決めつけんな!」
カナタのツッコミが洞窟内に響き渡るが、それを意に介さない程にナギの体調は最悪だった。――十割方自業自得である。
ふらふらと右に左によろめくナギ。顔は傍で見ると結構火照っていて、心無しか内股になってしまっているような気がする。凄い色っぽい、とカナタは無意識にナギに見惚れてしまいそうになっている。
いかんいかん、気を確かに持つんだカナタ。ここでナギさんに欲情するわけにはいかない。俺は普通、俺は常識人、俺は思春期じゃない……ッ!
――と思っていたら、
「っとと」
ふにゅっ、というイレギュラーな感触が右肩に走り、それと同時に予想外の重量が横からカナタに襲い掛かってきた。
カナタはびくんっ! と露骨に驚き、
「な、なななななな何してんですかナギさん!?」
「謝罪したいのは山々だが、ちょっと身体が言う事を聞かなくて、な……はぁ……はぁ……」
カナタの腕に横から胸を押し当て、カナタの肩に手を置きながらも必死に自分の体を支えようとするナギ。さっきは自業自得だとか言ってしまっていたが、流石にここまで容態が悪化するとは思わなかった。というかこの乳圧を何とかしないと俺がヤバい。特にナギさんが無意識に押し当ててるから上手く理性を保てない。くそっ、何でこういう時だけワザとじゃねえんだよこの人は……。
荒い呼吸を繰り返し、足をがくがくと震わせる。体温はかなり上昇していて、暗闇でも分かるほどに顔は火照ってしまっている。――ったく、しょうがねえ。
カナタはナギを自分から離し、リュックサックを身体の前面で持ち直す。
そしてナギから荷物を奪い、彼女の身体を一気に背中まで持ち上げた。
「んっ……」
「変な声出さないでください。とりあえずは体調が治るまで俺がナギさんを運びます。自業自得とか因果応報とか言いたいことは山ほどあるけど、とにかく今は俺の背中でゆっくり休んでてください」
「ああ、すまない、な、カナタ……」
「謝るぐらいなら端からあんな木の実を食うんじゃねえ」
ジト目で彼女を睨みつけ、溜め息交じりに進行を再開する。ナギはカナタよりも年上だが、スタイルが良いおかげで体重はそこまで重くない。逆に重さで言うなら前面で担いでいるリュックサックと肩掛け鞄の方が重大だ。地味にバランス取り辛いな、これ……。
――いや、問題なのはそこじゃないな。
(む、胸が背中に直接押し当てられて、どうしようもねえぐらいに意識しちまう……ッ!)
今は平静を保っているが、ぶっちゃけこのままだとヤバすぎる。ナギがもう少し貧乳だったらまだ良かったのに……何でこの人巨乳なんだよ。もう少しサイズ減らせよ。――まぁ、胸が大きい方が好みだけど。
ズリの実のせいで顔が火照っているナギと、ナギの胸のせいで顔が火照っているカナタ。互いに顔が火照っている事に変わりはないが、その原因が百八十度異なっている。というか、カナタに関しては性欲が原因だし。
そして、次の問題は耳元に吹きかけられている荒い呼吸だ。ただでさえ耳に息を吹きかけられるだけでも変な感じがするというのに、今回はその呼吸が荒いし吹きかけてくるのがあのナギだ。好意を持っているという訳ではないにしろ、無駄に意識をしてしまっているのは否めない。
カナタはギリィッと歯を食いしばり、理性と本能との戦いに身を投じ――
「あっ……んんっ! はぁ……はぁ……んっふぅぅ!」
「お願いします! 少しは我慢してください!」
☆☆☆
十割方ナギが原因で理性がガリガリと削られていたカナタは、ついにムロの洞窟の最奥までたどり着くことに成功した。
近くの岩壁にナギと荷物をゆっくりと降ろし、カナタは手紙を片手に洞窟最奥の小部屋へと足を踏み入れる。
小部屋の中は大小様々な岩がそこらじゅうに鎮座していて、岩壁には多種多様な石が仄かに輝きを放っていた。――すっげ、石が綺麗だと思ったのは初めてだ……。
いつのまにか感動していたカナタだったが、すぐに目的を思い出し、小部屋の中をぐるりと見渡した。
――いた。
小部屋の一番奥に、灰色の髪の青年がいる。何かを採掘しているのか、ピッケルで壁を叩く音が小部屋の中に響き渡っている。
カナタは小走りで青年に駆け寄り、彼の肩を叩こうと手を伸ば――
「くくく……君は可愛いねぇ。あ、そっちの君も最高にキュートだよ。あぁ、何で石というのはここまで美しいのだろうか……あ、ちょっと待って。君も早く採掘してあげるから……」
あ、やっぱりこの人もダメな人だ。
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次回もお楽しみに!