優希の死から10ヶ月
20XX年8月某日
「・・・・・・・・・・・・・」
私は無気力になっていた。最愛の人を失うと言う事は此処まで堪えるのかと言う事を始めて知った。
「優希も・・・木村も、加藤も高本も・・・張も・・皆逝ってしまった。」
私は飾られている写真を見て言った。あの優希の葬儀後再び戦地に戻った矢先に木村がそして平壌攻防で加藤・高本・張の3人が死んだ。
「{良い人から神様は先に連れてくと言うけども本当なのね・・・}」
あれ以降何も描く気が起きず私は只々無気力で無意味な1日を過ごし続けていた。そんな日の夜だった。
夜
真珠 アトリエ
「・・・・本当の事も言わずに・・・・なんで・・・」
気付けば私は泣いていた。よく言われる「失って初めて気づく」というのはあっていると思っていると
「色彩の女王がどうかと思って見に来てみれば・・・」
声が聞こえ振り返ると、そこには会いたくて会いたくて仕方がない人がいた。次第に涙が目にたまり
「な・・・なんで・・・」
私が言うと
「なんで・・・と聞かれると俺も「お盆だから?」としか答えようがない・・かな」
私の前にはあの葬儀の時のように海上自衛隊の制服姿の紛れもない「一ノ瀬優希」が若干の呆れ顔と共に立っていた。
そのまま私の隣に座り
「絵・・・描かなくなったんだな。」
まっさらなキャンバスを見て優希は言い
「描けるわけないでしょッ」
言い私は
「なんなの、防衛大学卒業してから私を捨ててからどこをどう踏み外せばあんな所に行きつくのッ」
優希を怒鳴り
「なぁ・・・真珠あの「豚野郎」がすんなりと返すと思うか?あそこまで俺達の祖国を舐めるような「豚野郎」が」
優希は言い
「それでも、私は貴方に生きていてほしかった。生きてさえいれば・・生きてさえいてくれれば・・・」
私はまた泣きだしてしまう。それに対し
「悪い事をしたとは思う、真珠を騙した事も、「特殊部隊」の事もでも道はそれしかなかった。「大の虫を生かすには小の犠牲はやむを得ない」という言葉があるだろう?」
優希は言ったが私は涙を拭きつつ首を振り
「私にとって貴方は全てだった。学生の時も「周り全部敵」の私にとって貴方は唯一の味方、ううん唯一の理解者・パートナーだった。いつも私を励まし私が間違えれば叱ってくれて、それでいて周りとの防波堤に何度もなってくれた。甘えていた自覚はあった、でも私にとって「貴方が絵を描く原動力になっていた」の、貴方に喜ばれたい、貴方が私の傍に居てくれれば何もいらないそう思っていたのに・・・・」
すべを吐き出した。優希は
「真珠はもう立派に一人でやってるじゃないか・・・いやひとりじゃない・・な。竹本先輩に小川さんに色々と真珠を見守り支えてくれる人は居る。俺の役目はとうにおわっていたんだよ。」
優しく笑い私に言い
「俺は最後のその瞬間まで自衛官であれたことに特殊部隊員であれたことに誇りを持ってる。多くの人を・家族を救う事が出来た。俺は後悔していない。自分が間違いを犯した自覚は十二分にある。最愛の人を偽り・裏切った。でもそうしてでもやらねばならぬ「任務」だった。」
優希は凛とした表情で言った。私は思った
「{ああ・・あの時優希は既にこうなる事を・・・自分の死を予感していたんだ}」
と感じてはいたが
「でも・・・私は思ったよりもダメな人間だったみたい。貴方が殉職してから10ヶ月筆をとっても何も書けない。インスピレーションもわかない・・・」
言い
「ねぇ、優希教えて、私は貴方の居ない世界でどう生きていけばいいの?何を生きがいにして生きていけばいいの?・・私・・わたし・・分からないよぉ・・・」
優希は私を見て
「今は確かに時間が必要かもしれない・・・「過去」と割り切るまでに。それにな真珠・・・」
優希はそのまま再び立ち上がり、アトリエの窓を開ける。
「人は生まれた時から既に「終わり」に向かって歩みだしてるものだ。それがいつ来るかわ誰にもわからない。神様くらいだろうな。その「命の終わり」が訪れるのを知るのは」
優希は振り返り言い
「お前はまだ生きている。お前の言葉を借りるが生きてさえいれば何でもできる、楽しい事もいっぱい待ってる。そして幸せも」
言った。
「・・・・・・・・・・・・」
私はだまって聞き
「俺は真珠の・・お前の絵願わくば・・また見たいな。世界にその名が轟いた「色彩の女王」の絵を」
優希は言った。
「無責任だと思うけども俺は言うよ。俺は信じてる、こんな所で燻ぶるお前じゃない必ず立ち直る。また走り出せると」
私を励ますように言い、私も
「優希・・・私は確かにまだ「そっち」に行く事は出来ない。でも・・でも天命を全うしてそっちにいくまで「待っててくれるかな?」」
私は優希に言い
「本来なら、もう死んだ人間の事など忘れろと言いたいところだが・・・」
優希も私を見て
「俺みたいなやつが言える立場ではないのは重々承知してる、でもお前を待って居たい、次に来世があるなら、お前に許されるなら今度こそお前と共に一生を共にしたい」
優希は言ってくれ、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
私の頬を涙が伝い
「あっちで浮気しないでね・・・気の遠くなるような時間かかるけど」
私は苦し紛れに言ったが
「俺に時間の概念はもう存在しない。気長に待ってるよ。それに時々見に来るよ。真珠にはもうこうして見えないかもしれないけどね」
優希は言い
「そろそろ時間だな・・・・・」
そう言うと。
「じゃぁ・・・な、「頑張れ、真珠」」
そう言い残して消えて言った。
翌日
「はッ!!」
目を覚ますと既にまた1日が始まっていた。しかし、何かが違う気がした。自分の中で決定的な何かが違うと感じた。起き上がり机を見た時「昨日の邂逅が幻ではない証拠」があった。たった一言だったが
「「頑張れ、真珠」」
その筆跡は紛れもない優希の物だった。最愛の人の筆跡を間違えるほど私も愚かではない。
「・・うん・・・がんばるよ・・・・私がんばるからね「優希」」
その時、私の脳裏に次の絵画のインスピレーションが沸いた。
「!」
これは優希が私の為に最後のプレゼントをくれたと思い私は10ヵ月ぶりにキャンバスにむかった。そしてのちにその絵画に作名を付けた時の名は一言「奇跡」と付けたのだった。