Tales of Vesperia 流砂で生き埋めはNG   作:ナイトフェンサーK

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戦闘シーンって難しいね。

TOV冒頭は地味にいろいろな思惑が錯綜してるから書かない訳にもいかない。
そんでザギ端折るのもそれはそれで問題がある。じゃけん戦闘書かにゃあいけんのじゃ。

本編の整合性図れないところはどんぶり勘定でいこうと思います。
要するにフィーリングです。

三話にしてようやく帝都の情報が出てくる。
えっ?帝都の設定?千年前?今作ではそういうものとして受け止めて下さい。

えっ?エステル?キュモールのせいです。

ぶっちゃけ、物語に異分子放り込んどいて影響が出ないってほぼあり得ないし。
その結果が、頭が回るっぽいエステル。

タイツに漢字あてたの自分が初めてなのでは?歴史的快挙、やったぜ


03 VSザギ ~孤高の暗殺者(02 の裏)

帝都ザーフィアスはなだらかな丘陵地帯に築かれた帝国最大の規模を誇る都市である。

都市中央に城がそびえ立ち、そこを丘陵の頂点として円状に街が広がる特徴は、城下町そのものと言えるだろう。

また、階層構造の都市であり、中央に近いほど身分が高いものが住んでいる。住民の大まかな区分として、上から貴族、市民、下層市民が存在しており、それに伴い、貴族街、市民街、下町市民街が展開している。

 

帝都中央のザーフィアス城からは町を一望でき、そこでは皇帝陛下が(まつりごと)を執り行う様子が見られることだろう。

しかし、現在、帝国に皇帝は存在しない。

五年前にクルノス十四世が崩御して以来、いまだに席は空いたままだ。空位が続くことで政治は混乱し、皇帝陛下に仕える二つの支柱――騎士団と評議会――は水面下での対立を深めていた。

 

そんな状況の中、次期皇帝候補の一人である少女は、脱獄犯と行動を共にしていた。

 

 

 

 ザーフィアス城城内・廊下

 

 

 

鈍く光を反射する暗色の床が、見るものの気持ちを引き締める。精緻な模様が刻まれた壁と縦向きに溝の彫られた円柱は、大きな石を加工して作られたのだろうか。伝わって来る冷たい印象は石材の特徴とも言えるだろう。城の内装を軽く見渡しただけでも、帝都の権力の凄まじさが感じられる。およそ千年に渡る帝都の繁栄は、テルカ・リュミレースに唯一存在する国家、帝国の力のほどを示していた。もはや、物理的な圧力が感じられそうな荘厳な城の廊下を、知ったことかと言わんばかりに二つの影が進んでいく。

 

コッコッコッ、と乾いた音が繰り返し響く。

小気味良く聞こえるそれは、廊下を進む二人が足早であることの証拠だった。

 

もっとも、足早である二人のうちの一人、長く伸ばした黒髪を揺らす青年――ユーリ――は、焦りとは無縁であった。つい先ほど牢を破ったばかりの脱獄者にして、騎士に追われる立場にある彼は、胆が据わっているのか、城内を我が物顔で進んでいる。

一方で、もう一人、澄んだ空を思わせる水色のドレスを纏った桃色の髪の少女はというと、焦燥感を滲ませて、前を歩くユーリに付いて行く。

 

余裕のある犯罪者と焦りを募らせる少女の組み合わせは、騎士に通報するべきか迷いどころであろう。ましてや、少女の方は、服装や身にまとう雰囲気からやんごとなき身分であることが窺える。やはりここは、大事を取って通報した方が良いのでは、と思うのも無理はない。

もっとも、その心配は無用のものだ。なぜなら、脱獄の罪で追われるユーリと高貴な身分故に追われる少女は、騎士に追われるもの同士で行動を共にしているに過ぎないのだから。さらに言えば、ユーリは道案内をしているだけである。フレンを探したいという少女の頼みを聞いて、彼の部屋へと向かっているのだ。

 

ユーリの余裕は道案内だからであり、少女の焦りはフレンに迫る危機を知ったからだ。

加えて、ユーリはフレンを信頼している。少女のまとう雰囲気からフレンの危機をなんとなく察しつつも、フレンならば容易く退けるだろうと信じているのだ。

 

「っし、着いたぞ。ここがフレンの部屋だ」

 

ちらっ、と、さり気なく、ドアプレートを見て部屋の主が誰かを確かめる。どうやら、ユーリの記憶にあるフレンの部屋の位置は、現在も変わらぬままのようだ。

そして、すぐさま扉を開けるユーリ。そのまま部屋の中に入っていく彼を、少女は慌てて追いかける。

 

「そんな……間に合わなかった」

 

自らの力不足を悔やむように短く告げる少女は、出会って間もないユーリでも容易に見て取れるほど意気消沈していた。ユーリとしては、彼女はフレンを心配し過ぎているように思ったが、同時に、親友の身を案じていることは分かっているので、多少気が紛れれば良いと思い、元気づけようとした。

 

「そう気を落とすなよ。フレンなら何があっても大丈夫だって」

 

「……フレンでも、今回ばかりはまずいかもしれないんです」

 

失敗した。さっきよりも落ち込んでいる。しかし、フレンでもまずいなんて想像がつかない。一体何があるというのだろう。

ユーリは考えながらも部屋を見回す。

四角い石のタイルが敷き詰められた床と、そのほとんどを覆い隠すように敷かれた美しい模様が浮かぶ絨毯は、深い緑、ともすれば青ともとれそうな色をしており、落ち着いた部屋という印象があった。机や箪笥、花が生けられた花瓶や鏡は生活感を醸し出し、大きなアーチ状の窓は、月明かりや結界魔導器(シルトブラスティア)の光を部屋の中に取り込む。窓に付けられたレースカーテンが光量を僅かに減らし、暗い室内を優しく照らしていた。

 

――しっかしフレンの部屋、ねぇ。前来たときとほとんど変わんねぇな。違いがあるとすれば荷物がやけに片付いているってことくらいか。部屋の位置取りも変わってなかったし、小隊長になったってんなら部屋も変わると思ったんだが

 

声に出さずに、ユーリはキュモールの言葉を思い返す。その中には、フレンが小隊長になっていたことと、巡礼のために帝都を――

 

――あっ

 

重大な見落としがあったことに気付き、思わずといった様子で声を漏らしたユーリ。フレンが知らぬ間に出世していたことも重要ではあるが、今はそれ以上に重要なことがある。フレンを探して部屋に来たが、そもそも彼は今帝都に居ないのだ。内心で、ドジっちまった、と反省し、悲壮な雰囲気を漂わせる少女におずおずと告げた。

 

「あー、言い忘れてたんだが、フレンは巡礼に出てるみたいだ」

 

――キュモールのやつが言ってたんだが、嘘じゃなかったみてぇだな

 

キュモールからの情報であると暗に示して言葉を足すユーリ。それを聞いた少女は困惑していた。

 

「……えっ?それ、本当です?フレンが、巡礼に……」

 

少女を悩ませているのは、情報の齟齬についてであった。

 

少女がフレンに刺客が放たれるであろうことを知ったのは、騎士たちの噂話――フレンについてのもの――を聞いたからだ。彼らの話によれば、フレンの暗殺を確実にするために依頼者がその道のプロを雇うことにしたようで、職業柄戦いに慣れているフレンでも危ないだろうと思ったのだ。だからこそ、フレンに伝えなければと彼を探していたのである。

ところが、ユーリによれば、フレンは既に出立していた、とのことである。しかし、少女はフレンの出立を知らなかった。巡礼に出ることは、先日、本人から聞いていたが、いつになるかはまでは聞いていない。とはいえ、ユーリの話の情報元がキュモールであるならば信頼できる情報だ。フレンが帝都にいないのは確実であろう。

そうなると、問題は、騎士たちの中で二つの情報が存在していることだ。フレンの出立を知るものと知らぬものがいるということは、騎士団の中で情報に隔絶があることを意味する。これは可能な限り避けるべきことだ。なぜなら、小隊が長期的に不在になることは、あらかじめ騎士団全体に知らせておかなければ、任務の持ち回りに影響するからである。小隊長の巡礼、及びその日程は全ての騎士に周知させるべき事柄なのだ。

ともあれ、今回の問題についてだが、考えることは簡単だ。ユーリが仕入れたキュモールの情報によって、フレンの出立は確定した。これによって、フレンの出立を知らないのは騎士の言動として不自然ということが分かっているからだ。

 

――思い出して。先ほど騎士に追われたとき、彼らは何と言っていた?確か……

 

――例の件につきましては、我々が責任を持って小隊長に伝えておきますので

 

少女の思考は加速し、先の出来事の一字一句が思い浮かぶ。あの騎士たちの不自然な言葉が彼女に光明をもたらした。

 

――やっぱり、あの騎士たちはフレンが帝都を発ったことを知らない、あるいは、知らないふりをしている。小隊長であるフレンの所在を知らないのは騎士として不自然だから、おそらく後者が正しい。でも、フレンが既に帝都を発ったと、彼らが私に教えてくれなかったのはどうして?もし教えられていたら私はどうしていた?……きっと部屋を出なかっただろう。私を城に軟禁しておきたいなら、そうする方が正しいはず。それをしなかったから、私は部屋を抜け出してこうしてフレンの部屋を訪ねている。あれ?……もしかして、私にフレンの部屋を訪ねさせるのが彼らの目的?じゃあ――

 

「ユーリさん。ここにいるのはまずいです」

 

「なんだよ急に」

 

「私たちがここにいる状況が、罠かもしれないんです」

 

「なんだって。罠?それはどういう」

 

ことだ、とユーリが言い切る前に、部屋の扉が蹴破られた。

 

――ッガ……ゥ……

 

重い木でできた扉が音を立てて倒れる。それは、(ナイトヘルム)を被った騎士には、鎧のすれる音でかき消されて聞き取れるかどうかといった絶妙な音量であった。これでは、城を警備する騎士たちがここに駆けつけるまでに時間がかかるだろう。邪魔者が入らないようにする。標的を始末するために、行動しやすい環境を整えるのはプロとして身に付いた技術なのだろうか。

 

暗い室内に、一つの影がぬるりと入り込んだ。

音もなく歩くその技術は、暗殺を生業とするものが修めるものに相違ない。

 

肌の露出をなくす黒い運動補助纏身布(ボディタイツ)に、乾いた血のような暗い赤色の布鎧(レザーアーマー)を身に着けた男は、片刃の剣を二つ腰に括り付けていた。紫がかった紅の髪を後ろに撫でつけ、金色のメッシュを入れたその男は開口一番、オレの刃のエサになれ、と口にする。常人とは異なる感性は、殺しの道の中で築かれたのだろうか。

 

「オレはザギ……おまえを殺す男の名、覚えておけ。……死ね、フレン・シーフォ……」

 

静謐な殺意をまとう男――ザギ――は、フレンを殺しに来た刺客であった。

 

――フレンを殺すっ!じゃあ、この人がフレンに放たれた刺客ということ?でも、フレンはここにはいない。ここにいるのは偶然会ったフレンの友人のユーリと、部屋を抜け出した私だけ。そして、騎士たちはフレンがいないことを知っている。……彼らの目的が私にフレンの部屋を訪ねさせることなら、ザギと出会うのは必然だ

 

刀と剣の衝突。今までに合計して7合。ユーリは刀身を守るために、ザギの剣筋を見定め、躱し、避けきれないものには刀を這わせ、いなす。剣を受けることは可能な限り避ける。刀を扱う戦いにおける基本に則り、神経をすり減らすような作業を繰り返す。二刀使いのザギは手数が多いが、ユーリは完璧に対応していた。

 

「オレはおまえを殺して自らの血にその名を刻む」

 

「それ最高に趣味悪いな」

 

「楽しく、楽しくなってきたぜ」

 

――まずい。見る限り、ザギには常識が通用しない。ユーリが何度フレンじゃない、人違いだ、と言ってもまるで取り合う様子がない。世の中には戦闘狂(バトルジャンキー)がいるとキュモールから聞いたことはあったが、あれがそうなのだろう、恐ろしいものだ。……そろそろ現実逃避を止めて、事実に向き直るとしよう。これは、私を殺す罠なのだ。フレンを探そうとする私の行動を見越して計画していたのだろう。私が何度訴えてもフレンに伝えてくれなかったのは、この部屋に私を誘き出すため。計画した人物は私を良く知っているようだ。でも、素直に死ぬつもりはない。ここにはユーリもいる。彼の援護に回れば、この窮地を脱することも不可能ではないはずだ

 

少女は意を決し、拮抗する二人の戦いに加わった。

 

少女の接近を感知したユーリは、刀を大きく薙ぎ払う。その意図は仕切り直し。ザギもまた、状況を理解し、意図を察して後ろに退いた。互いの距離が開く。およそ八歩というところか。

 

少女は、お手伝いします、と一言告げてユーリの右斜め後ろに位置取った。これは、ユーリの戦闘を見た少女が、互いの利き手の反対側をカバーしやすいようにと考えた結果である。左利きのユーリは左側を、右利きの少女は右側を担当することで、戦いに安定感を求めたのだ。人は利き手側で対応するのに長けているため、即席ペアの戦術としては妥当であった。

 

何人でもかかってこい、とザギは少女の参戦を上機嫌で受け入れた。楽しむことができる戦いが久しぶりだからか、気分の高揚が見て取れる。

 

いくぜ、と告げたその直後、ザギはユーリの目の前にいた。

 

気分が高揚したことで、ザギの動作のキレが向上したのだ。急激な変化は、ユーリの虚を突き、反応を一手遅らせていた。

それでも、僅か一手の遅れで反応できる辺り、ユーリの戦闘感覚は並ではない。

ユーリに迫る刃は、しかし、ユーリに届かなかった。

 

少女が持つ(レイピア)が、ザギの刃の軌跡に割り込み、針のような刀身を滑らせて(ガード)でしっかりと受け止めたからだ。

ユーリとの戦いを楽しむ様子から、初手はユーリを狙うだろう。当てずっぽうの考えが功を奏した。

 

ザギの片手が封じられた瞬間、ユーリの攻撃は放たれていた。

蒼波刃(そうはじん)。それは刀剣を振るうと共に、蒼く輝く衝撃派を放つ技である。衝撃波は速く、技が放たれた後から回避するのは至難の業と言えよう。

しかし、回避は難しくとも、来ると分かっているならば防御は容易い。二刀使いであるザギは、空いた方の手で即座に構えを作る。直後、放たれた衝撃波を受け止めた。

 

衝撃。それによりザギは後退することとなった。だが、距離をつめるのは彼にとって問題ではない。体捌きと重心移動を駆使し、一歩目から最大速度に乗ることができる彼にとって、むしろ室内は狭すぎるほどだ。

両手が自由になったザギは、二刀を握り直し、空いた距離を走破せんとして――

 

「スターストローク」

 

少女の放つ技がザギへと迫る。

スターストローク。それは、地を這うかのような衝撃波を斬撃と共に放つ技。しかし、その速度は緩やかで、距離があれば避けるのは戦の素人でもできるだろう。

見知らぬ技を警戒して足を止めたザギは、警戒する必要がないと判断し、即座に、ユーリとの距離をつめる。息をもつかせぬザギの連撃を、しかし、ユーリは完璧に対応していた。

確かに、ザギの動きは先ほどとは見違えるものだ。だが、一度目にしただけで、ユーリはそれに適応した。相手に合わせ、戦いの中で自分の動きを最適化する。ユーリの戦いの才能は、強敵を前に急速で磨かれていた。

 

「蒼波ぁ」

 

またしてもユーリの技、蒼波刃(そうはじん)が放たれる。

 

人の動きには限界がある。鍛えることで動作の可能、不可能は多少変動するが、それでも覆せない限界がある。その中でも、連続攻撃回数は戦闘において極めて重要な要素だ。一呼吸の間にできる動きは限られており、限界を迎えると、どうしても攻撃を止めざるを得ない。それはザギにも適応することだ。彼の怒涛の連撃は、一見すると絶え間ないように感じられるが、合間合間に、僅かに途切れるときがある。ユーリの鋭い戦いの嗅覚はそれを嗅ぎ取った。

 

僅かな動きの隙を突いた鮮烈な一撃は、防御する暇も与えず、ザギを廊下に吹き飛ばした。

 

これで終わるはずがねぇ、と警戒を解かないユーリのもとに、暗褐色の影が迫る。ザギだ。

再び始まる攻防は、まるで剣舞のように見えた。

 

すごい、と胸中でこぼした少女。

ユーリとザギの熾烈な戦いは、少女が介入する余地がないほどだ。

 

だが、それは直接的な戦闘に限っての話だ。

戦況を見極め、適切な補助をするのは可能である。

 

少女は、ユーリの支援としてシャープネスを発動した。

シャープネス。それは味方を補助する支援魔術。効果は物理攻撃力の向上。その実態は、攻撃の度に衝撃を上乗せする自動術式をまとわせる、というものだ。

 

ユーリは攻撃を受けないように立ちまわっている。それなら、防御力を向上させるバリアーよりも攻撃力を向上させるシャープネスを使う方が適しているはず。少女は戦況からそう判断した。

 

ユーリとザギの攻防はさらに激しさを増していく。その最中、赤い薄明がユーリの身を包む。彼は、この現象を知っていた。

物攻支援魔術(シャープネス)、か。ふつうに術技を使ってっけど、やっぱただの貴族のお嬢さんって訳じゃないのか、と少女の正体に思考を傾けながらも、ユーリはザギの連撃を凌いでいた。支援魔術の効果は永続ではないし、戦いを長引かせると、いずれ集中が切れてしまう。その前にザギを倒しきる、とユーリは決意した。

 

均衡が崩れる。

ユーリが攻勢に出て以来、ザギが守勢に回っていた。このまま押し切り、ザギの防御をこじ開ければ、戦いは終わるだろう。

だが、そのときが一向に訪れない。ザギがユーリの攻勢に適応してきているからだ。

このままじゃまずいな。埒が明かない状況に焦りを覚えるユーリ。

 

――ぴこっ

 

気の抜けそうな音が鳴る。同時に、体勢を崩すザギの姿。

決定的な隙を逃さぬユーリではない。

 

――もらった

 

「蒼波ぁっ」

 

放たれる蒼き衝撃派は、今日一番の輝きを見せて、ザギを吹き飛ばした。

さすがに、これで終わりだろう。

 

――ッハッハッハッハ

 

この短時間で何度も聞いた声が、徐々に近づいてきている。

 

「楽しいじゃねぇか。もっとやろうぜフレン・シーフォ!」

 

――おいおい、マジかよ。これでも終わんねぇのか。フレンもとんでもねぇやつに狙われてんな

 

そのしつこさに思わず萎えそうになるが、気力を奮い立たせるユーリ。どうしたものか、と考えたそのとき、新たに闖入者が現れた

 

「ザギ、引き上げだ」

 

――こちらのミスで騎士団に気付かれた

 

そう告げる人物は、闇に溶け込むような黒づくめの格好をしていた。目の部分だけ赤くなっている黒いゴーグルのようなものを装着している。闇に溶け込み、一対の赤いレンズだけが浮かぶのは、恐怖をあおることだろう。

 

ともあれ、会話から察するにこれで彼らは帰ってくれるようだ。

 

「オレの邪魔をするな。まだ上り詰めちゃいない」

 

そう言って、黒づくめの人物を攻撃するザギ。

 

――ん?雲行きがおかしいぞ

 

「騎士団が来る前に退くぞ。今日で楽しみを終わりにしたいのか?」

 

攻撃されたにも関わらず、言葉でザギを説得しようと試みる黒づくめ。

いいぞ、もっと言ってやれ、と内心で黒づくめを応援するユーリ。

 

――あっ

 

ザギが黒づくめに斬りかかる。連撃だ。

数秒後には、地に臥す黒づくめと、それを見下ろすザギという構図になった。

ゆっくりとユーリに振り返るザギ。

そして、音を立てず、ゆっくりと去っていった。

 

城で騒ぎを起こしていた彼らの話によれば、騎士団は彼らを探し回っているようだ。ここに来るのも時間の問題だろう。騎士に追われるユーリと少女は、戦闘で荒れ果てたフレンの部屋を去ることにした。

下町を目指すユーリと、フレンを訪ねるために帝都を出たいエステリーゼ――自己紹介で判明した――は、城を脱出するために共に行動することになった。どうやら、ユーリは方法に心当たりがあるようだ。

 

道すがら、エステリーゼは情報を整理する。

 

――危機は脱したけど、分からないことが多い。改めて考えると、今回のフレン暗殺計画は、かかったのがフレンじゃなかったことも含め、偶然機能したというように取れる。不確定要素があるからだ。

 

ちらっ、と横目でユーリを見るエステリーゼ。

 

――最大のイレギュラーはユーリ。彼に行動よっては、そもそもフレンの部屋を訪ねないこともあり得ただろうし、ザギを退けられたのも彼の力によるものが大きい。また、ユーリと出会う前に、私は騎士たちに捕らえられかけた。ユーリがいなかった場合、私はおそらく捕まって部屋に戻されたはずだ。それに、ザギを見た限りでは、フレンの部屋にいる人物を対象にした行動のようだった。彼がフレンの人相を知らなかったのは、依頼者の不備と言う他ない。あれほどの力を持つ暗殺者に、標的の詳細な情報を渡さないのは宝の持ち腐れだ。

 

杜撰に過ぎる。この違和感、フレンの件と私の件は別物、なのか。エステリーゼは思考の海に沈みこんだ。

 

――やっぱり、計画として見た場合、完成度が低すぎる。いくつかの意図が絡み合った結果の事故、だったのだろう。最低でも、フレンの暗殺を企てたものと私が部屋を出るように仕向けたものは別人だ。私の行動を予測してみせた人物が、あんなお粗末な暗殺依頼を出すのは考え難い。……駄目だ。裏で糸を引く人物の思惑が読めない。……とりあえず、今は生き残ったことを喜ぶとしよう。

 

情報の不足は現段階ではどうしようもないものだ。黒幕のことは棚に上げて、目下の課題について考えよう。城の脱出はユーリに任せるとして、フレンに会うにはどうしようか。帝都の外に出ることになる。……帝都の外か。城から出たこともないけど、少し楽しみだ。遊びに行く訳でもないから、ちょっと不謹慎かもしれない。

難しい顔をしていたと思えば、急に元気になったエステリーゼ。

そんな彼女を横目で見たユーリは、変わってんなぁ、貴族だからか、という感想を抱いていた。

 

 

 

 

 

その後、ユーリの心当たりは的中し、二人は無事に城を抜け出した。

これから長い旅が続くと知る由もなく、脱獄した青年と世間知らずなお姫様は共に下町を目指す。

輝く朝日が、二人を優しく照らしていた。

 

 

 

 

 

「ほう。ユーリ・ローウェル、か。イレギュラーではあったが、大筋に影響はない。報告は以上か?……そうか。ご苦労、下がって良いぞ」

 

静謐な部屋に浮かぶ一つの影は、かつての苦難を思い返すように、痛切に言葉をこぼした。

 

――大願の成就まで、あと少しだ







エステル「ピコハン」



 背徳の館にて

海凶(リヴァイアサン)(つめ)の赤眼A「あの後、がんばって騎士から逃げたんだ」
海凶(リヴァイアサン)(つめ)の赤眼B「マジで。ザギに斬られてたのに」
海凶(リヴァイアサン)(つめ)の赤眼A「あれマジで痛かった。ボスから手当でねぇかな」

ゴーシュ&ドロワット「いいから働け」



物語にキュモールの影響が出てます。のちのち触れることになる(かなぁ?)。
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