【仮題】雪柱の男   作:窮鼠猫を噛み噛み

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上弦の壱

 

 

刀を携えた男2人が対峙すれば、始まるのは己の剣技と誇りをかけた死合のみ。睨み合う最強の称号を持つ鬼の剣士と、剣の才能を持ち剣の極地を夢見る鬼狩りの剣士。いざ尋常に始まると思われたがそこに、水を差す者がいた。

 

「俺を鬼にしてくださぁあい!!」

「……まだ生き残りが……いたのか…」

「何言ってんだ……」

 

丸腰の状態でそう叫ぶ家成に鬼は淡々と、白叡は呆れた反応をする。

家成は動きを止めた2人を見れば走って山を降り、土下座する勢いで鬼へ懇願する。

 

「俺にその血をください!」

「おい、自分が言ってる意味わかってんのか!死ぬぞ、さっさと離れてろ!」

「うるせぇ分かってるよ!」

 

白叡は家成に言うが全く聞く耳を持たず怒鳴り返される。

この男は他の隊士が逃げ惑い白叡が立ち向かう中、1人だけ安全な場所を見つけて隠れていたのだ。誰かを助けようとする気も全くなく、自分だけが助かることだけに思考を巡らせていたのだ。そして()から逃れられる唯一の方法が鬼となる(人を捨てる)ことだと、2人の会話から聞き取って動いたのだ。全ては自分だけが生き残るために。

 

「そもそも俺は鬼殺隊になんかやりたくなかったんだよ。たまたま俺に才能があって、金が沢山貰えるって言うから入ってやってたんだ!今までだって自分の命だけ守りながら鬼を殺して甲まで来たんだ!だがよぉ、どう足掻いたって死ぬしかねぇ相手が命が助かる方法をくれたんなら、四の五の言わずにそれに縋るしかねぇだろ」

「……………」

「お前が断ったんなら俺が貰って鬼になってもいいだろ?」

 

家成はつらづらと言葉を並べては本音を言う。それに対して白叡は特に何も反応せず、無表情に見るだけ。上弦の壱も特に何もせず2人のやり取りを眺めているだけだったが、会話が終わりに見え漸く口を開いた。

 

「お前は……鬼になるのか…?」

「ヒッ!はい、俺を鬼にしてください!」

 

急に話しかけられ悲鳴を上げるが、家成は直ぐに平伏して懇願した。鬼は完全に家成へ意識を向けている。そう判断した白叡は最高速度で斬りかかる。

 

「シィ!!」

「………む…速い……だが拙い」

 

完全な死角からの不意打ちだったが、鬼は刀で確りと受け止める。白叡は防がれたことに舌打ちをして追撃へ動き出すが、鬼は更に一歩早く白叡の刀をいなして体勢を崩させ横凪を放つ。

凄まじいその威力に白叡の身体は紙のように吹き飛ぶ。鬼は追撃に向かわず、ガラクタの山に再び激突するのを視認してから家成の方へ向き直る。

 

「………いいだろう……お前にあの御方の……貴重な血を与える……」

「あ、あぁありがとうございます!!!」

「一滴たりとも零すな……零したその時、お前の首と胴は泣き別れだ」

「っ!!」

 

鬼が許容したことに家成は安堵の息を着くが、鬼の最後に殺気を込めた言葉に震え上がる。鬼はそれを気にせずというか関係なく血を滴らせる。家成はどうにか震える手でそれを受け取り摂取する。

 

(て、手が震えて上手く……出来ない!落ち着け俺……せっかく手に入れた生き延びる機会だ!ゆっくり……そう、ゆっくりだ!ゆっくりーゆっくりー)

 

家成は「ふぅー」と深呼吸しながら、掌で作った受け皿に溜まる血を零さないように全神経を集中させる。しかし何ともついていない、突如吹いた強風が片膝を立てるようにして不安定な体勢で血を受け取っており、更に生死を賭けた行動に身体が緊張し意識をそれのみに集中している家成を襲った。

 

「あっ!しまっ……………」

 

不安定な体勢は不意に吹かれた強風に煽られて呆気なく横に傾いた。そして両手で受けていた血液を零さないようしていたが、人間の無意識な反射神経によってその手を離し自身の身体を支えようと手を伸ばす。しかし家成意識は血を零したことを理解して声を上げるも、その瞬間に胴と首が切り裂かれる。

 

「……零すな……と言ったはずだ」

 

家成を一瞬で切り捨てた鬼は分かりにくいが怒りの乗った声で言う。そしてまた背後に立つ男の方へ振り返りながら言う。

 

「……やはり…お前が鬼になるべきだ……。人の身体で……それの域ならば………鬼になればもっと…強さを手に入れられる」

 

2度目の白叡に対する鬼への勧誘。白叡は荒い息をしながらも、心底嫌そうに顔を歪めて変わらず拒否する。

 

「だから……なるわけねーだろ。舐めんな、鬼剣士」

「……………」

「俺は人間のままで剣の頂を目指す!」

「下らん気位だ……。ならば……その夢を抱いたまま………死ね」

「うおおぉぉあああっ!!」

 

動いたのは白叡だった。白叡は咆哮と共に鬼へ切り掛る。鬼はそれに対して刀を構えるのみであった。が、しかしその気迫は依然増しておりまったく隙がない。

 

『全集中 雪の呼吸 奥義弐番 雨露霜雪(うろそうせつ)!!』

「ぬん!!」

 

不規則な足運びから放たれる白叡の鋭い斬撃を、鬼の刀は真っ向から相殺する。しかし白叡にとってこの程度想定の範囲内で、怯むことなくその歩法から技を繰り出す。

しかしそれらの攻撃を尽く相殺し、あまつさえ一撃必殺の反撃を繰り出してくる。更に加えるならば鬼はその場から1歩も動かずにそれらをやってのけている。

 

(格が違うのは最初からわかっていたこと。だからこそコイツは逃げない。そこに付け入る隙はある!!)

(この小僧……なかなかどうして鋭い太刀筋だ。やはり殺すのは惜しい………)

「シィ!!」

「………」

 

激しく火花が散る。白叡は一度距離をとるが、全身に切り傷が目立ち満身創痍だ。

傷口は熱を持ち、出血により視界が若干ボヤけ全身が重く感じる。

だがそれでも白叡は刀を手放さない。依然刀の柄はしっかりと握られており、その双眸はもの前の()に向けられている。

 

「まだだ………」

 

足は動く、視界はボヤけるが見えないわけではない。

 

「切り裂け……」

 

血が流れすぎている。だが刀は触れる。

 

「否、それ以前に負けるわけにはいかない!」

 

ただ一つのことに特化しているからこそ、それで負けるわけにはいかないという矜持がある。例えそれが最強の相手()であったとしても、例え自分が遠く及ばない相手だと知っていても、この矜持を曲げること、折られることはありえない。

ヒュオオオッ!と冬の寒風の様な音を鳴らしながら大きく息を吸う。日輪刀を立てて頭の右手側に寄せ、左足を前に出して八相の構えをとる。

 

『全集中 雪の呼吸 奥義捌番 月華氷刃(げっかびじん)!!』

「凄まじい威力………その剣技に敬意を表し……私の一撃で屠ってやろう」

 

白叡の使う技の中で最も威力が高い技を容赦なく振り切る。行為力の技を繰り出すために溜め時間が長く動きも単調になる。今までこの技を見たもの防御や反撃をとってきたが、その尽くを切り伏せてきた白叡にとっての切り札と言える技。

今までの技より格段に威力の違う斬撃に、鬼は眉をピクリと動かすも、回避や防御をする素振りも見せず正面から対峙する。

 

『月の呼吸 参ノ型 厭忌月・銷り(えんきづき つがり)

 

白叡の渾身の袈裟斬りと、鬼の月輪の斬撃を纏わせた横薙ぎがぶつかり合う。 その瞬間、2人を中心に衝撃波が不要湖を襲う。

 

「(全集中の呼吸!?)っ、うぉぉおおおお!!」

「………ぬん!!」

 

拮抗するのも一瞬、白叡の一撃は呆気なく払われてしまい体勢を仰け反らされていしまう。そして鬼の2連目の横薙ぎが間髪入れず、隙だらけの白叡を襲う。

 

「ッッギィッ!!」

 

攻撃を食らう直前に日輪刀で防御姿勢をとるも、纏われた不規則な斬撃の前には意味もなく吹き飛ばされる。勢いがなくなり地面に倒れるまでどれほどの距離を跳ばされたのか分からなかった。分かったことは自分の技が負けたこと、身体中をズタズタに斬られたが五体満足であること。そして二撃目を受けた時に日輪刀は刀身の真ん中から折れてしまったこと。

 

(動かねぇ……。クソがっ)

 

力の入らない手で土を握る。呼吸は絶やさず続けるがその度に肺に激痛が走る。指先から段々と脱力していき、体が熱い様な寒い様なそんなよく分からないように感じる。どれだけ頭で立ち上がろうとしても、ピクリとも動かない。

そんな白叡に鬼はゆっくりと刀を片手に歩み寄る。

 

「……中々良い技だった。あと数年あれば……もっと楽しめたかもしれんな……」

(………何言ってるか聞こえねーよ)

 

鬼は地に伏してなおこちらを睨みつける白叡に賞賛の言葉を送る。そしてゆっくりと刀を振り上げた。

 

「………フッ!」

 

白叡の目からはその動作が酷く遅く見える。手足の感覚もなく眠気に似た何かが瞼を重くするが、頭は非常に冷静でいつも以上に洗礼されている気がする。確定的な死を前にして冷静で、ただただ「もっと刀を振りたかった」とそれだけを考えていた。

そして振り上げられた刀は無情に振り下ろされる。

 

(綺麗な剣筋だ……。俺の首を寸分違わず切り飛ばされて即死だな。あーくっそ、もっと強くなりたかった)

 

そっと瞼を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「寝てんじゃねぇぇええええ!!!」

 

 

 

 

突如轟く咆哮と共に、振り下ろされた鬼の刀はへし折られた。鬼の刃は白叡には届かずそれを鬱陶しそうに割って入った男へ拳を放つ。

 

「フン!」

「どりゃあああ!!」

 

その拳を躱して思っきり蹴り飛ばした。モサっとした黒髪に死んだ魚の目をし、青緑色を基調とした羽織を着た白叡のよく知る男。

 

「……柱か」

「どーもどーも……うちんとこのガキを虐めてくれたようで…………俺が天誅しちゃうぞ」

 

その男こそ霞柱 左右田泡沫だった。

 

「し……しょう…………?」

 

 

 




〜〜大正コソコソ噂話〜〜

白叡は事前に上弦の壱との交戦を日和号を飛ばして知らせていた。そのため柱を急遽増援に向かわせることが出来、間に合うことができた。
因みに左右田は今までにないくらい血相を変えて走っていたらしいぞ。
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