【仮題】雪柱の男   作:窮鼠猫を噛み噛み

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雪柱就任

白叡が目覚めた日の夜。煉獄兄弟は白叡が起きている姿を確認すると目尻に涙を浮かべて喜んでいた。その2人は日が暮れる前に煉獄邸へ帰路に着いた。今は鉄穴口と白叡の2人きりで夕食の用意をしていた。勿論白叡は安静を理由に1つも手伝わせて貰えていない。

またしても暇を持て余している白叡は、ふと目覚める時に見た不思議な夢を思い出した。

 

「ねえ鉄穴口さん……。師匠に友達っていたんですか?」

「ん?……急にどうしたんだ?」

「いえ、夢と言うか………俺が目を覚ます時に夢に出てきて……」

「夢?ほお、その夢とやらを聞かせてくれないか?」

 

白叡は鉄穴口に自分が見た夢を話した。最初は興味本位に聞いていた鉄穴口であったが、白叡が話す顔の見えない鬼殺隊士の話をすると難しい表情を浮かべた。

 

「金髪、方言……まさかな…………」

「心当たりがあるんですか?」

「……そうだな。君の言うその男の特徴と一致する奴を1人知っている」

「それは誰なんですか?」

「男の名は校倉鱶丸(あぜくらふかまる)。かつて泡沫の唯一の友だった男だ」

 

そして鉄穴口は話し始めた。彼女が知り得る左右田と校倉という二人の男の話を。

 

 

―――――

 

 

「師匠らしいですね……」

「そうだろ?あの二人はいつもいがみ合う割に仲が良かった」

 

話を聞いた白叡は微小を浮かべながら言う。それに鉄穴口も笑いながら同意した。白叡は今まで1度も自身のことを語ろうとしなかった左右田の昔話を聞けて嬉しかった。そのためか、いつも澄ました顔をしている白叡の口元が綻びる。

 

「あーそうだった。日中は色々とバタバタしていたからな。目覚めたら伝えようと思っていたが、すっかり忘れていた。新しい日輪刀、あと暫くで完成するはずだ」

「!本当ですか!思いの外早かったですね」

「ああ、きっと私一人ではこんなに早く完成できなかっただろうな」

「……?」

「里のいろんな鍛冶師に助力を借りたのさ……。勿論鉄を打ったのは最初から最後まで私だがな」

 

刀を鍛える過程の話をする彼女の顔は非常に楽しそうで、白叡もまた興味深そうに聞いている。刀の仕組みの詳細から拘り、それと刀にあまり関係の無い里の鍛冶師達のこと。刀身は完璧に完成されており、あとは柄付け等の工程だけで半日あれば終わるらしい。と言っても白叡は暫くの安静期間があり、それなりの期間眠っていたため身体能力の回復をしなければならない。

 

「刀を完成させるのは復帰が決まった前日だ。じゃないと目を離した隙に無茶しそうだしな。わかったか?」

「……………わかりました」

「ん。身体機能回復も私が見ている時だけだ。傷が完治すれば1人でやっても構わんが、暫くは不自由だと思え」

 

話を聞くにつれて白叡の表情は無と言うより空っぽになっていく。白叡は、確か昔にもこんなことを言われた気がしていた。あれは白叡が稽古にのめり込みすぎて高熱を出した時だったか、姉の白蓮が白叡に説教をして1週間まともに木刀を握らせてくれなかった。普段は可憐で優しい姉が白叡に対して初めて見せた般若顔は、弟にしっかりと恐怖として刷り込ませていたようだ。

白叡がそんなことを思い出しているのを知る由もなく、渋々とだが素直に了解した白叡に鉄穴口は満足そうにしている。

白叡はそっと溜息を吐いては、退屈になりそうな明日からの数日を憂いたのであった。

 

 

―――――

 

 

白叡が目覚めてから2週間と3日、漸く医者からの完治を言い渡された。その日に合わせて年に2度の柱合会議への出席を、産屋敷あまね直々に通達されて今は産屋敷邸にいる。

悲鳴嶼含めた柱は姿勢正しく正座をしており、見る人間から取れば非常に殺伐とした雰囲気を感じるだろう。

 

「じゃあ次の議題だけど、前霞柱の継子の長い療養が終わって無事に復帰した。それに当たって新たな柱に就任してもらうつもりだよ。まぁ、恐らく皆誰のことかわかってるだろうけど挨拶は大事だからね」

 

当主である耀哉の前置きの後に待機していた白叡は呼ばれる。丁寧な所作で部屋に入れば柱達は一斉に白叡へ視線を走らせる。普通の隊士ならば萎縮してしまいそうな状況でも白叡は堂々と耀哉、現柱達に向けて一礼する。

 

「階級(きのえ)鉢特摩白叡。長期の療養より復帰致しました」

 

耀哉の前で片膝をつけて頭を垂れる。柱達はその堂々とした白叡に感嘆の眼差しを向け、耀哉もまた友人の復帰に喜びを含んだ頬笑みを浮かべる。

 

「無事で何より、よく復帰してくれた。さて、ここに呼んだのは他でもない。新たな柱………雪柱となることを受けてくれるかい?白叡」

「……はっ、謹んで拝命いたします」

 

深々と頭を垂れて白叡は返事を返す。耀哉は満足そうに笑みを零すと、その様子を見ている柱達に向けて問う。

 

「ありがとう。皆も異存はないね?」

「「はっ」」

「では、鉢特摩白叡を鬼殺隊の要である『柱』に任命する」

 

その言葉に現柱達及び白叡はいっそう深く頭を垂れる。こうして新たに『雪柱』が誕生した。その後の会議もつつがなく終わり白叡は、自信が家主となった屋敷への帰路に着く。と、そこに悲鳴嶼の姿があり、白叡は彼の目の前で足を止めた。

 

「鉢特摩。新たに雪柱への就任おめでとう」

「ありがとうございます悲鳴嶼さん」

 

悲鳴嶼は岩柱としての忙しい任務の合間を縫って見舞いに来ては白叡の機能回復を手伝っていた。彼は左右田を殿として置き去りにした事を泣いて謝罪をしてきた。自身は恨まれても仕方ないと自虐的に言う彼に、白叡はそうではないと言葉をぶつければ更に泣き始めてしまったのはつい一週間前だ。

 

「新しい日輪刀か……」

「……はい、俺の為に鍛えてくれた最高の業物です」

「そうか……それはよかった」

 

悲鳴嶼は白叡が腰に携えている日輪刀を見やる。白叡は1度刀身を顕にしながら、まるで新しい玩具を見せびらかす子供のように言う。そんな白叡に悲鳴嶼は少しばかりの安心と微笑ましいものを感じる。

その後2人は少ない言葉を交わし、白叡は再び帰路に着いた。

 

 

―――――

 

 

復帰して直ぐ白叡に与えられた任務は柱となったことで与えられる担当地域の警邏だった。白叡は左右田の担当地域をそのまま引き継いだ。白叡は山中を凄い速さで走る。今日も警邏区域を駆け抜けて、既に鬼を見つけては斬っていた。

 

「今日はやけに多い。………今度は3体固まってるな」

 

走りながら3つの鬼の気配を感じ取る。その鬼達も白叡の気配を感じ取ったのか警戒態勢をとる。

 

「鬼狩り!?速い!」

 

3体のうちの長身の蜂を彷彿とさせる見た目の鬼が慌てふためくように叫ぶ。左側に立つ鬼2体は白叡を視認して視線を鋭くするや直ぐに戦闘態勢に入った。

 

「ハッチ、落ち着け」

「……一斉に行くぞ」

 

1番小柄で蝶のような見た目をした鬼が咎めると、真ん中に立つ長身で細身の蟷螂のような鬼が目配せする。白叡は既に抜いた日輪刀を攻守一体の中段構えで相対した。

 

『血鬼術 爪合わせ』

『血鬼術 撒菱指弾』

 

蟷螂のような鬼と蜂のような鬼がそれぞれの血鬼術を発動して白叡に攻撃を仕掛けた。蟷螂のような鬼、刀螂(とうろう)は爪を30センチほど伸ばし貫手を、蜂のような鬼こと黄蜂(きばち)は撒菱を放つ。

 

「連携……珍しい」

 

白叡は同時攻撃を仕掛けてきた鬼達を見ては、一瞬物珍しそうにするも思考を戦闘へと戻す。鋭い爪による貫手を刀で受け流せば、迫る撒菱は首を傾けてかわす。撒菱はまるで銃によって放たれた弾丸のような威力で背後の木へめり込む。

 

「オラァ!!」

「っ………」

 

2つの攻撃を捌いた白叡に、蝶のような見た目の亜華羽(あげは)が頭上から奇襲し拳を振るった。白叡は後ろに飛び退きトンットンッと軽々と後退して距離を開ける。

 

「俺っち達の連携を躱すとわな」

「かなりの使い手、柱か?」

 

3鬼は1度集まって陣形を組む。それを白叡は見ながら頭の中で考察を組み立てる。

 

(爪の鬼による近接戦闘と蝶のような鬼の奇襲と撹乱。そして1番後ろの遠距離攻撃。単純だが厄介だ)

 

『雪の呼吸 一式肆番 牡丹雪(ぼたんゆき)

 

白叡は空高く飛んで自由落下に乗せて斬撃を繰り出す。3鬼はそれをしっかりと飛び退いてかわす。しかし白叡は避けられることは最初から分かっており続けて二撃目を放つ。

 

『雪の呼吸 一式陸番 回雪(かいせつ)

 

着地した時の右足を軸足として身体を回転させ、その遠心力を利用した回転斬りを放った。これはある意味白叡の必勝パターンでもあり、この2つの剣撃でいくつもの鬼を葬ってきた。

 

「っ!!……爪合わせ!!」

「なっ!?」

「っ!!刀螂さん!!」

 

そして今回も今までの例に漏れず鬼の頸を切り裂く。1番手前の刀螂は仲間を守るために血鬼術を発動させて防御するも、白叡の鋭過ぎる斬撃に全ての爪とその頸を切り裂かれた。だが刀螂の行動が幸いして白叡の斬撃は微妙に残りの2体の頸から逸れた。

 

「剣筋が逸れたか……」

 

だがその程度で白叡の斬撃が止まるはずがなく、続けて手首の返しを利用した変幻自在の剣技紅雪(こうせつ)を放つ。

 

『血鬼術 足軽』

 

亜華羽は血鬼術で自身の重さを消し、まるで蝶のように舞うようにヒラヒラと白叡の剣撃を紙一重で避けていく。その最中に仲間の黄蜂を遠くへ押して突き放す。

 

「亜華羽さん!?」

「ハッチ、お前は逃げろ!オイラは時間を稼ぐ!」

「でも………!」

「オイラ達が束になっても、柱には勝てねぇ」

「柱!?……そんな………」

「いいからいけハッチ!」

 

黄蜂はそのまま逃げていく。亜華羽はそれを見送ると迫る白叡の攻撃を避ける。

 

「身軽だな……。まるで体重が無いようだ」

「そうさ。オイラは血鬼術で重さを意のままに操れる!」

 

亜華羽は得意げに言えば、木々をまるで蝶のように身軽に飛び回る。

 

「刀螂さんの仇!!」

 

『足軽拳法・紋黄蝶』

 

速度に任せた正拳突きを放つ。白叡はそれを半身でかわせば、小柄かつ体重を無くした状態から想像以上の威力で地面が抉られた。落ち葉が巻い白叡の視界を悪くする。白叡は日輪刀を振って舞った葉を振り払い更なる追撃を避ける。

 

「なるほどな。確かに蝶のような舞だ」

「何っ!?」

 

白叡が悠長に感心したように呟いていたと思えば、突如として背後に現れた白叡の気配に亜華羽は吃驚する。

 

「だが、舞うと言う分に雪も同じか?」

「な、何故!?」

「何、お前の動きを参考にさせてもらっただけだ。そんな驚くことは無いだろ」

「グッ!」

 

そのまま白叡は背後から亜華羽を切り付ける。あまりの斬撃に威力に亜華羽の身体は叩きつけられるように地面に落とされる。体重を無くしているため落下ダメージは少なかったが、手足は曲がらない方向へと曲がってしまっていた。

 

「ガハッ!」

「………」

 

白叡はそのまま亜華羽の頸を切ると、逃げた鬼を追う。その動きはまるで空を蹴って飛んでいるかのようだ。

 

「なっ!?もう追いついてきた!」

「随分と逃げたな……」

 

白叡は黄蜂を視界にとらえた瞬間に全力で木の幹を蹴って、一瞬で背後に迫る。

 

「クソ!撒菱指弾!!」

「っ……」

 

いきなり振り向いて黄蜂は撒菱の弾丸を放つ。しかし白叡は刀身を斜めに突き出して、その弾道を逸らし躱す。

 

『雪の呼吸 一式壱番 紅雪(こうせつ)

 

そして弾道を逸らしたまま、流れる様な動きで頸をはねた。白叡は地面にフワッと着地すれば、日輪刀に付着した血を払って落とす。

 

「うん……良い切れ味だ。刃こぼれ一つもない」

 

白叡は刀身を目の前に掲げてじっと見れば満足気に鞘に納める。取り敢えず白叡は隠がいる方へ目配せすれば、また暗い森の中を駆けていった。

 

 

 

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