【仮題】雪柱の男   作:窮鼠猫を噛み噛み

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三途神社の鬼

 

 

三途神社。出雲の山深くにある神社でかつては由緒ある神官がいたが、明治時代初頭に身分制度の改革によって行き場を失った元武士が山賊となって神社を襲撃した。それにより神官らは皆殺しにあい、蔵も幾つかが半壊となる大惨事であった。神社を根城とする山賊らから奪還するため当時の政府は警察隊を派遣したのはその2日後であった。警察隊が突入して彼等を出迎えたのは、山賊ではなく至る所に染み付いた赤。血と肉塊から発生される激臭に何人かの警官が嘔吐する程の凄惨な光景だったとか。

 

「当時の警官が見た死体は神官と山賊の2つ。だが、死に顔は山賊の方が酷かったそうだ。まるでこの世のものでない化け物でも見たような………そんな恐怖で歪んだ顔のまま死んでいたんだって……」

「………」

「警官は総出でことの真相に当たったけど、山賊を皆殺しにしたヤツの手がかりも痕跡も出なかったそうだ」

「………」

「ていうのを耀哉………御館様から聞いた」

「あ、なるほど……」

 

白叡は耀哉から事前に聞かされた情報を多くの鳥居が立つ千段の石階段を登りながらカナエに話す。神社に行くためには、この果てしなく長い石階段を登る以外に道はなく、それなりに場数を踏んだカナエですら額に汗をかいていた。

 

「そして数十年前。新たに長となった女が来てからは、心に傷を負った女達を保護しているらしい」

「へぇ、素晴らしいことですね。でもなんでそんなところに……?」

「………それと同時に、この神社に逃げ込んだ女を追ってきた男が来るみたいだ。そいつらもこの神社に向かったそうだが、男も女も二度と帰ってきたものはいないそうだ」

「え………」

「………村の近くって言っても、人が多く住んでいる場所からはかなり遠い。何より、男が消える噂と、このキツイ石階段だ。人の足が遠のくのも無理はない」

「つまり………鬼にとっては格好の住処………」

「可能性の話だけどな………」

 

一段一段、歪な凹凸のある階段を踏みしめながら登る2人。白叡が事前に聞いた話と自身の考察を交えて話す。カナエは白叡からの情報を流石は柱だと聞きつつ思ったより長く話せるんだと、割と失礼なことを考えていた。反面、白叡は石階段を登りながら修行に使えそうだと何処までもマイペースに考えていた。

そして漸く階段の頂上が見え始める。最後の鳥居を潜り、目の前には立派な境内が現れる。カナエは少し呼吸を荒くして疲れた脚を休めるようにして少し屈む。

 

「誰もいませんね……」

 

呼吸法のおかげですぐに息を整えたカナエが境内を見渡して言う。だが隣に息一つ切らさず立つ白叡が「いや」と小さく返す。すると白叡の言う通り、黒い巫女服を着て顔を模様の書かれた紙で覆う巫女が大勢姿を現した。そして何より目を引くのが、巫女が携えるに相応しくない刀の鞘が見える。

カナエは一瞬警戒するが、白叡は一歩前に出て黒い巫女の1人に話しかける。

 

「こんにちは」

「……………」

「……………」

 

白叡は礼儀正しく一礼して挨拶する。隣のカナエは目を点にしてポカーンとし、巫女達は白叡を怯えるようにして警戒しており今にも抜刀しそうな雰囲気である。

 

「あ、あの、私達は怪しい人でも危ない人でもないですよ」

「………!」

「………」

 

我に返ったカナエがそんなピリついた空気にすかさず笑顔で無害であることを主張する。巫女達はカナエを見ては互いに顔を見合わせている。

 

「皆さん、どうされたのですか?」

 

巫女達の後ろから今度は白の巫女服に黒の袴を着た、赤と緑の髪色をした2人が巫女らの間を歩いて前に出る。2人はカナエと白叡を特に白叡を視認した時に若干顔を顰めた。

 

「あなた達は持ち場に戻ってください。私たちで対応します」

「……はい」

 

白叡とカナエの前に立った2人は、近くの巫女にそう指示を出して巫女達は散っていく。彼女達も刀を携えており、2人も特に白叡を警戒するように視線を向ける。

 

「それで、ここになにか御用ですか?」

「あ、あの……」

「特にその男性の目的は?刀を所持しているようですが………」

「あ!別に襲いに来た訳じゃなくて……その………」

 

少々きつく問い質す様な口調で質問する二人に、カナエはアタフタしながら対応する。

 

「ここにはちょっとした調査をせよと派遣されていきた。危害を加えるのが目的じゃない」

「………警察……ということですか?」

「そんなところだ。それよりもあんたらの格好から巫女だと思うが……神主はどこだ?」

「………今は祈祷を捧げています。なので私たちが対応させていただきます」

「そこをどうかお願いします……。ここに訪れた男性と女性らが行方不明になっていると聞いて………」

 

全く警戒心を解かない2人にカナエは説得を試みるも、段々と語気は弱くなっていく。

軈て沈黙となりカナエは遠慮がちに、白叡と2人の巫女は見つめ合う。話は纏まったのか2人は視線を白叡とカナエに戻す。

 

「分かりました。長のところに案内しましょう」

「あ、ありがとうございます!」

「ただし、あなた一人でというのが条件です」

「!!ど、どうしてですか?」

「どうもこうも、これが私たちからできる最大限の譲歩です。嫌ならお引取りを」

「……………」

 

これ以上は交渉の余地はないとキッパリと言う彼女にカナエは悩み込む。そして白叡に意見を求めるよう視線を向ければ、今まで沈黙していた白叡が口を開く。

 

「それで構わない」

「……分かりました。念の為、刀は私がお預かりします」

「え……」

「悪いがそれは出来ない。帯刀は許可してもらう」

 

白叡が条件を飲むと赤髪の巫女はカナエの日輪刀を指さして言う。しかし今度は白叡がキッパリと言った。彼女らは1度顔を見合わせると渋々と言った感じに手を下ろし、案内を始めた。カナエは不安そうに白叡を見る。

 

「……無理をするな。危険と分かればすぐに逃げろ」

「………了解しました」

 

白叡なりに言葉をかけるがカナエの不安そうな表情は拭えない。白叡は連れていかれるカナエを見送りながら、どう暇を潰すか考える。ふと周りに視線を向けると、巫女達がいそいそと働いている。

 

「………俺を避けてるのか?どことなく怖がられているような………」

 

働く巫女達は、白叡が突っ立っているのが気になるのかチラチラと視線を向けるも、すぐに目を逸らしては距離を開ける。それを繰り返されれば流石の白叡でも自身が避けられているのが分かる。白叡はどうしていいかわからず取り敢えずのところ、邪魔にならないように階段の方へ戻り石段に腰を下ろす。すっと吹く風が揺らす木々の葉音をボーッと聴きながら目を瞑る。

 

 

―――――

 

 

一方のカナエは若干緊張した面持ちで2人の巫女の後を歩く。緊張しているのか、鼓動が早くなって落ち着かせようと何度も深呼吸をする。そんなカナエの様子に見かねたのか赤髪の方の巫女が声をかけた。

 

「そう緊張せずとも大丈夫ですよ。暁妃(あかつき)様は女性に酷いことはいたしません。貴女が斬りかかったりしなければ……」

「そ、そんないきなり斬りかかったりなんてしません!」

「………ならいいのですが」

 

赤髪の巫女はカナエにジト目を向けながら言うとカナエは慌てるように言い返す。それに緑髪の巫女は素っ気なく返した。そこでふとカナエは素朴な疑問が浮かび口にしようとするが、咄嗟に躊躇い口を閉じる。

 

「……何か?」

「あの……どうしてこの神社の方達は黒色の装束を着ているのかな……と思って………」

「……なるほど、確かに黒い装束を纏っている神社は他には聞いたことはありませんね」

「それは、また後々に暁妃様から話されると思います。その時に聞いてみてください」

「あ……はい」

 

それから一切会話はなく、無言で長い廊下を歩く3人。カナエは見た目以上にこの廊下の長さが長く感じ、なんだか不思議な気分になった。すると奥に見えた扉の前に到着し2人の巫女は立ち止まる。

 

「暁妃様。客人を連れて参りました」

「………通せ」

「はい………、どうぞ」

「あ、ありがとうございます。失礼します」

 

木でできた扉を開けられ中に案内されたカナエはおずおずと中に入る。中はロウソクの明かりで以外に明るくその部屋の奥に彼女らの言うこの神社の長、暁妃と思われる女性がいた。身長は170代と女性にしては高く、長く綺麗な黒髪を2つに纏めて結っている綺麗な女性だ。

彼女はカナエを見るなり邪気のない笑顔を浮かべる。

 

「ごきげんよう」

「は、初めまして!」

「ふっ………。そう緊張せずとも取って食ったりしないさ。あたしは今の三途神社の長をやっている巴暁妃(ともえあかつき)だ」

「胡蝶カナエです。あの……」

「まあそう急くな。君の容姿から何となく要件は察するが、千段の階段を上るのには疲れたろ。腰を下ろしてゆっくり話そう。2人とも酒を用意してくれ」

 

トントンと流れるように話を進める暁妃は対面にカナエを座らせ、案内をした2人の巫女に指示を出す。2人は丁寧にお辞儀をすると酒を取りに部屋から出でていく。

 

「え、お昼からお酒を?」

「む?もしや飲んだことないのか?」

「未成年なので………。いや、そういう事じゃなくて……」

「あたしは一緒に酒を呑めん相手とは、大事な話をしないことを主義としている」

 

カナエは吃驚しながらもしっかりと未成年で飲酒が出来ないと伝えるが、暁妃は意に返すことも無くきっぱりと言う。しかしその後に小さく笑みを浮かべては「少し口をつけるだけでいい」と言う。カナエは全く安心していないが反論しても無駄だろうと諦める。そうこうしている間に2人が戻ってきて一升瓶をそのまま持ってくる。暁妃は慣れたように受け取り、2人分のお猪口に透明の液体を注ぐ。

 

「では、乾杯」

「か、乾杯」

 

お猪口を互いに掲げて暁妃はグビっと1回で飲みほし、カナエは恐る恐る舌をチロっとつける。カナエは今まで感じたことの無い酒の味に顔を顰め、暁妃はそれを満足そうに眺めては2杯目を自分で注いで飲む。

 

「それで要件は、()のことについてかな?」

「……!!」

「鬼殺隊………鬼狩りの存在はあたしも知っている。そうか、ここ最近行方不明者が出る噂を聞いて来たのだな」

「………はい、その通りです。鬼の仕業かどうかの調査に来ました」

 

先程まで緊張と暁妃の言動に流されていたカナエは、いい意味で年不相応の落ち着いた様子でハキハキと話す。暁妃は「ふむ」と顎に手をやっては少々思考すると軽く笑みを浮かべながら了承の意を返した。

 

「分かった。調査に協力しよう」

「本当ですか!ありがとうございます!」

「………ただし条件として君と共に来た男を少々隔離させてもらう」

「え………!?」

 

カナエはつい嬉しそうにお礼を言うが、暁妃から出された条件を聞いて不躾な大声で吃驚した。

 

「理由はだな、この三途神社に関わる大事なことなんだ。君達も見た黒い巫女、黒巫女は男によって様々な傷を受けた女達が救いと安全を求めてここに来て、私が巫女となる代わりに守っている。心身傷を負った彼女らの恐怖の象徴とも言える男をうろつかせるわけにはいかないんだ」

「…………」

「理解してくれると助かるよ。食事と風呂の世話くらいはするさ」

「分かりました。聴取は彼にこのことを話してからでいいでしょうか?」

「構わないよ。話が終わればまたここに来ることだ。ああ、その時は連れの男も連れてきたまえ」

「…では、後ほど伺います」

 

カナエは暁妃の条件を呑み、白叡へこのことを報告しに部屋を退室する。そんなカナエが出ていったのを確認すると、今まで沈黙していた巫女の2人が口を開く。

 

「よろしかったのですか?」

「あの方たちは………」

「問題ないさ。それに、どんな男か見るだけだ」

 

暁妃を案じるように不安げな声色で言う2人に、彼女は優しく微笑みながら言いなだめる。そしてカナエが今しがた出ていった戸をじっと見つめていた。

 

 

―――――

 

 

カナエがこの神社の長に謁見をしに行ってから数十分が経ち、白叡は完全に暇を持て余していた。石階段の上で取り敢えず瞑想をしてはカナエが戻るのを待った。

 

「おまたせしました」

「………どうだった?」

「一応協力してもらえると……。そして聴取は白叡さんにも来て欲しいそうです」

「分かった」

「それと、協力する条件として白叡さんは私たちが寝泊まりする小屋に隔離するとのことです」

 

たんたんと会話を進め、さっさと聴取に向かおうとする白叡を制止するように暁妃から出された条件を話す。白叡は訝しげに立ち止まり「了承したのか?」と言った表情で振り向く。カナエは気まずそうに頷くと白叡はため息混じりに零す。

 

「なら、仕方ない……。それに理由はだいたい分かった」

 

報告は聞いたとスタスタと歩いていく白叡の協調性のない行動を尻目に、カナエは安堵の表情でびを先導した。

 

 

―――――

 

 

場所は再び戻り、カナエに案内されて長のいる部屋へ連れられた白叡は、左手をそっと柄に手をかける。カナエはそれに気付いておらず戸を2、3度叩けば返事が聞こえたのと同時に巫女がゆっくり戸を開けた。

カナエは2度目でも変わらず緊張して入る傍ら、白叡は堂々とした様子で入る。

 

「来たか。じゃあ早速話を―――」

 

暁妃が姿を現し話し始めた刹那、白叡は抜刀して目にも留まらぬ速さで斬りかかった。

 

「なっ!白叡さん!?」

 

突如とした白叡の行動に為す術なく、ただ驚愕の乗った声で名を叫ぶしかない。

 

(一撃で仕留める!)

 

『雪の呼吸 一式壱番 紅雪(こうせつ)

 

寸分たがわず暁妃の首を捉えた刃は、白叡の躊躇いの無い技により一閃された。誰もが急な出来事に唖然とし、カナエすらも反応どころか見ているだけだった。鮮血が飛び散り、部屋に血の匂いが立ち込める。

 

「………白叡……さん!?」

 

 

 

 

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