【仮題】雪柱の男   作:窮鼠猫を噛み噛み

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だいぶ急ぎ足で書いて文字数がエラいことになった窮鼠猫を噛み噛みです。

誤字脱字が恐らく目立つと思いますが3話目どうぞ!


少年の決断

 

 

 

あの後白蓮は泣き疲れて眠ってしまい、事態の収拾が着く頃には昼を過ぎていた。隠の者たちが物の見事に宿舎や庭に着いていた血液を落とし、壊れた壁や床を直していた。

迷彩の好意で左右田は一泊する事になり昼食もご馳走になった。今は隠の案内で迷彩は白夜のいる病院に向かった。今は白叡、白蓮、左右田と生き残った門下生らしかいない。

そんな中、左右田は暇を持て余していた。

 

「事後処理の報告も済んでやる事ねぇんだよなー」

 

鉢特摩邸の廊下を鼻をほじりながら歩く。ふと廊下の突き当たりに稽古部屋の戸を見つければ中に人の気配を感じた。そっと戸を開ければ銀髪の少年が正座していた。

白叡はポツンと道場の真ん中で静座し双眼を目を閉じている。

これは剣道の稽古前後に行われる「黙想」と言われるものである。「正座」で座り、「無念無想」の境地へ求める「黙想」を行い、「静座」によって心を静める。これは心王砕氷流の「心王」の部分に当たり、「無心」から成る「王道」へ至る最も重要なものだ。これは「心王砕氷流」がかつて「砕氷一鞘流(さいひょういっそうりゅう)」と言う殺人剣の流派だった頃から受け継がれている。

左右田は息を呑む。11歳の少年は微動だにせずしんとした張り詰めた空気を作っている。自他ともに認めるいい加減な人間である左右田ですら、呼吸音すらはばかられる程のものだ。

 

(おいおい、ガキのくせになんて存在感してやがる!)

 

左右田の額から汗がツーっと流れ、頬を通って顎から垂れる。

 

「左右田……さん。どうしたんですか?」

 

不意に話しかけられ少し驚く。白叡は左右田の方へ身を返して閉じていた目は開かれていた。気付かれていたのだと思えばこれまた吃驚する。

 

「い、いやぁ……なんか気配するなーって思ってよ」

「そう…………。ねぇ、左右田さん」

「なんだ?」

「刀持ってた……ましたよね?俺と試合してください」

「はあ?何でだよ……めんどくせぇ」

 

白叡の急な頼みに左右田は心底嫌そうな顔をする。機微を返して道場を出ようとする―――

 

「…………おいおい、危ねぇじゃねーか」

 

左右田は()()()()()()()()()()()を首を傾けて避ける。壁に激突した木刀はカランカランと乾いた音を響かす。そして床を踏み込む音と空を切る音と、木刀同士がぶつかり合い音が響いた。

 

「おいおい、躾がなってねぇな……」

「…………防げると思ってた」

 

背後から殴りかかった白叡の木刀を、左右田は軽口を叩きながら拾った木刀で身を守った。白叡はそれに驚いた顔をせず淡々と告げれば、左右田は「可愛くねぇの」とボヤく。

 

(しかし今の踏み込み、まさか『呼吸』を使ったってのか?威力が11歳のそれじゃねぇぞ)

(防がれるのは分かってたけど、平然と受け止められた……。やっぱりこの人は強い)

 

互いに距離をとって睨み合う。白叡は「心王砕氷流」の構えを、左右田は我流の構えをとって円を描くようにすり足で動く。

 

「ボウズ、その呼吸誰に習った?」

「……自然と覚えた」

「は!なるほどな!」

 

今度は同時に踏み出し木刀を振るう。一撃、二撃、三撃、互いに技を繰り出しては互いの技を防ぐか躱す。白叡は左右田との力の差を、左右田は白叡の年不相応の実力に吃驚していた。

だがそれでも押されているのは白叡だった。白叡が剣の才能あったとしても左右田との年の差は8年程だ。それを加味したとしても白叡にとって左右田の強さは異質だった。「心王砕氷流」の門下生の中で、長男の白蘭が1番強かった。しかし白叡のその特殊な呼吸法を使えば勝つことが出来た。勝ち越すことはなかったが呼吸法を使えば7割の勝率はあったと思う。

 

(この人、俺の技を全部軽々と防いでる。白蘭兄さんでも苦しそうに防いでいたのに……)

(拙いながら呼吸法を使ってやがる。鬼を殺せたってのはやっぱ事実らしいな。だが、()()()()()使()()())

 

左右田から『フウウウウ』という呼吸音が発生する。

 

「ハァ!!」

「シィ!」

 

白叡の気迫の篭もった渾身の一撃を放つ。しかし左右田はそれをいとも簡単に弾いた。白叡は木刀を弾き飛ばされ、自身も吹っ飛ばされる。受け身をとって床を転がり起き上がれば、木刀の剣先を眉間の前に突き出される。

 

「…………参りました」

 

白叡は小さく負けを認めると左右田は木刀を引く。白叡は俯いたまま荒い呼吸をしている。対して左右田は涼しい顔のまま道場を出ていく。出ていく時にふと白叡の方を向けば、俯いて目元は見えなかったが、口角が上がっているのが見え笑っていることがわかった。

左右田はすぐ視線を外し道場を出ていった。

 

 

―――――

 

 

 

同日の夜。左右田は与えられた部屋の縁台で煙草を片手に月を眺めていた。

今日一日は割と濃厚な一日だったと左右田は思う。隠の連中は既に解散してまた別の任務へと出ていった。

 

「…………どうしたボウズ」

 

ふと無遠慮に向けられる視線に気づいた左右田は、唐突に口を開き、覗きをしている人物に声をかける。すると襖を開け白叡が部屋に入り、背を向ける左右田の背後に正座した。

 

「……左右田……さんに一つお願いしたいことがあ……ります」

 

たどたどしい敬語で話す白叡に左右田は顔を向ける。彼の表情は大きな決心と覚悟を決めた瞳で左右田を見ていた。

 

「いんや、ダメだ」

 

まだ内容も言っていないのに断られた白叡は素っ頓狂な顔をする。それを見た左右田はしたり顔で続けた。

 

「鬼殺隊に入りたいって頼みに来たんだろ?」

「どうして……」

「何で分かったかって?自慢じゃねぇが、俺は今まで多くの鬼を斬ってきたし人々を救ってきた。今回は救えなかったがな。だが鬼から救われて身内が殺されたやつは大体言ってくる。『俺も鬼殺隊に入りたい。家族の仇を討ちたい』ってな」

 

煙草を再度吸えば薄く細く煙を吐き出す。左右田は黄昏れるように再度月を見た。短くなった煙草を灰皿に押し付けて火を消すと言葉を続けた。

 

「だから仇討ちなんて馬鹿なこと考えんな」

「…………別に仇討ちが目的じゃない」

「あれ?違うの?」

 

左右田はキメ顔で言うと白叡はキッパリと否定する。すると左右田はキメ顔からアホ面へと変化させ「普通はそういう流れじゃないの?」と1人慌ただしくしている。暫くしてから白叡は口を開く。

 

「……俺には刀を振ることしかできません」

「…………」

「初めて真剣を握った時も、鬼になった兄を斬った時も何も思いませんでした。お父さんと白蘭兄さんが死んで悲しかったけど、涙は一切出なかった。俺はお姉ちゃんの言うように化け物なのかもしれません」

「んな事……」

「ないって言えますか?家族が死んで涙も流さず、人を切っても何も思わない俺は、本当に人間って言えるんでしょうか」

 

白叡の独白に左右田は黙って言葉を返さない。懐に入っている箱からもう一本煙草を取り出せば、火をつけて煙を吸う。白叡はただ黙って自虐的な笑みを浮かべながら俯いた。11歳の少年を打ちのめすのに、余りにも現実という名の理不尽は酷なものだった。鬼となった兄、その兄が父親達に牙を剥き、その兄を自分の手で殺した。守りたかったはずの物に拒絶され、肉体的と言うより精神的なダメージの方が遥かに大きい。

左右田は憂う様に煙を吐くと静かに言葉を発する。

 

「人間だよ、お前わ。本当にバケモンだったらんな事で悩んだりしねぇよ。お前はお前の守りたいもん守り切ったんだろ。なら俺は家族を救ったって胸張ってりゃいいんだよ」

「……」

「俺にも両親と弟がいる。恐らく今も生きてんだろうな。けど、アイツらが死んだって聞いても、俺はなんも思わねぇんだろうな」

「……どうしてですか?」

「家族と思ってねぇから……かな。分かんねぇなー。好きでも嫌いでもなく、ただひたすらどうでもいいんだろうな。ほら、世の中にこんな奴もいるんだぞ?家族の事をちゃんと想ってるお前は、化け物じゃねぇよ」

 

あっけらかんと笑いながら左右田はそんなことを言った。今まであまり多くの人と関わって来なかった白叡には、左右田はとても不思議に思えた。少なくとも家族にはいなかった種類の人種。

 

「お前はまだガキだ。んなそうそうに自分の人生つーか、そう言うもん決定する必要ねぇだろ。もっとガキらしくのびのびしてりゃいいんだよ」

 

左右田はそう言って白叡から視線を外す。また外を眺めて煙草を吸う。

左右田は15歳の時に家出をして成り行きで鬼殺隊になった。それから約5年と少し、修行期間を抜けば3年と少し、鬼殺隊として鬼を切り人々を救ってきた。その間に何人もの仲間が死ぬのも見てきた。あるものは跡形もなく食われ、あるものは惨い死に方を、あるものは仲間の死に絶えきれず自殺した奴もいた。中には全身がボロボロになっても生き延びて、一生寝て暮らすことを余儀なくされた奴もいる。

そんな血なまぐさく危険な世界にこの少年を引き入れることを容易く容認はできない。この世界の残酷さを知っているが故の判断だった。

 

「左右田さん。俺を鬼殺隊に入れてください」

 

それでもこの少年は頭を下げて懇願する。目的は復讐じゃない。ただ化け物の自分がここにいてはいけない。家族に対する引け目からくるそんな自虐的な動機。それでも白叡の瞳には強い意志がこもっていた。

 

「そんな理由で生き残れるほど生温くねぇぞ」

「承知の上です」

「二度と家族に会えねぇかもしれねぇぞ」

「覚悟は出来てます」

 

色んな聞き方をするが全て「承知している」、「覚悟の上だ」等の言葉で返される。ここまで諦めが悪いと言うか、頑固な白叡に左右田は頭を悩ませる。白蓮の癇癪を止めた時の白叡の着眼点というか考え方は、最早11歳にできるものではないと思っていた。故にそれなりに聞き分けが良いと思っていたが、これほどまで頑固な奴とは思いもしなかった。

 

「はぁ……。なんで鬼殺隊なの?剣道場の息子だから?身内が鬼になったから?」

「俺には刀を振ることしかできません」

「あれれー?なにこれ時間戻っちゃったのかな!?時間警備員さん!時間逆行しちゃったよ!」

「……?急にどうしたんですか?」

「どうしちゃったんでしょうね!」

 

何故と聞かれたのでもう一度同じ言葉を返すと、左右田が急に意味のわからないことを大声で言い出す。白叡は至って冷静に首を傾げると何故か怒鳴られた。

するとスッキリしたのか、落ち着きを取り戻すと左右田は再び口を開く。

 

「分かったよ。決めんのはお前自身だし……。だが俺が連れてくには条件がある」

「条件?」

「そうだ。家族に、お前の母ちゃんにちゃんと話して納得させることだ」

「…………わかりました。ありがとうございます」

「明日の午前にはこの街を発つ。期限はそこまでだ」

 

左右田の出した条件にコクリと頷くと部屋を出ていく。直ぐに迷彩の元に向かったのだろう。ドタドタと廊下を走る音が聞こえる。左右田は溜息をついてはやれやれと気だるげに煙草を吸う。

左右田は自分が出した条件の達成はほぼ不可能だと確信している。自分でダメならその母親が止めればいいのだ。どこに好き好んで我が子を死と隣り合わせな危険な場所に向かわせる親がいるものか。

親にこっぴどくダメだと言われ落ち込んでいたらこう言ってやろう。「お前が大事だからそういうんだ」と。

白叡が出て数十分後。左右田は煙草の火を消して用意されている布団に入る。

 

「明日になれば気も変わって諦めるだろ」

 

 

―――――

 

 

翌日、申の刻。

左右田は鉢特摩家から発つため門に来て迷彩らの見送りを受けていた。

 

「この度はありがとうございました」

「いえ、俺達はそんなお礼を言われるようなことはしてませんよ。そう言えばあの二人は……?」

「申し訳ありません。あの子達、部屋に閉じこもって出てこないんですよ」

 

左右田は迷彩の御礼に首を横に振る。ふと白叡の姉、白蓮の姿がないと気付き尋ねれば迷彩は申し訳なさそうに言った。左右田はそれに苦笑いを浮かべると「まぁ仕方ないよな」と思う。何しろあんなことがあって気不味くないわけがない。それに言ってしまえばこう言うのにも慣れている。

白叡の事に関しては「流石母親、ちゃんと息子を止めたんですね」と少し感謝の視線を送る。

 

「大丈夫ですよ。心の傷って奴はそう簡単に癒えませんから……。ああ、今回の件の事後処理は全て我々がしました。今後も変わらずこの町で暮らしていけるでしょう。息子さんの入院費も全額負担しましたので御安心ください」

「本当に何から何まで……ありがとうございます」

「いえいえ、遅れてきた我々にはこのくらいしかできませんから。それでは俺はこれで失礼します」

「はい、お世話になりました。どうかお達者で」

 

左右田は荷物を持って鉢特摩家を後にする。心王砕氷流の道場から町は少々離れた距離に位置しており、昨晩の騒ぎを聞いたものはいないようだった。朝からせっせと働いて活気があり、昨晩にまさかあんな惨い事件が起きたなど彼らは考えもしないだろう。そもそもあの道場の門下生らの約半数近くは、家出等の理由で住むところがない子供たちだったそうだ。中には亡くなった門下生の遺族がこの町に住んでいるが、隠のおかげであの家に悪評がついてまわることもないだろう。それに迷彩は葬儀は少人数でこじんまりと行うと言っていた。

 

「おっちゃん。みたらし団子五つ」

「あいよ!」

 

町の端にある団子屋に寄っては腰をかける。隠は御館様からの命令で情報操作を行ったらしいがどのような内容なのかは知らない。

 

「御館様の事だ。裏工作は完璧にするだろうな」

「はい、みたらし団子五つ!」

 

団子を受け取り食べながら迷彩の子供たちのことを考える。次男の白夜は重症を負って傷跡は残るものの命に別状はなく、今も入院しているが数日で退院できるそうだ。しかし1番心配なのは長女の白蓮だ。彼女は良くも悪くも真っ直ぐで責任感のある正確なのだろう。全く関わったことの無い左右田だが、昨日の彼女を見れば何となく分かる。家族の死には恐らく立ち直れるだろう。迷彩がそこら辺をしっかりするだろうから。しかし危惧するべきなのは彼女の弟。末っ子の白叡に放った言葉を後悔し自己嫌悪で押し潰されないかが心配だ。

 

「でもまあ……俺が心配しても何も出来ねぇよな」

「……何が心配なんですか?」

「何って……お前の姉ちゃんのことだ……よ……?」

 

ふと呟いた独り言に返事が返ってきてなんの違和感なしに答えるが、そのつい最近聞いたことのある声に疑問が生まれすぐ隣を見る。

すると隣には件の末っ子の白叡がみたらし団子を食べていた。左右田は唖然としたまま白叡を見ていると、彼は左右田を不思議そうに見ながら2本目の団子を手に取って食べ始める。

 

「お、お前!いつかはそこにいやがった!?」

「……?団子を受け取った辺りからですよ?」

 

左右田の質問に白叡は疑問口調で答える。左右田は「なにしれっと団子食ってんだよ!」って言葉を飲み込み、何とか平静を保ちながら次の質問を投げる。

 

「じゃ、じゃあなんでここにいるのかなぁ?俺がお前ん家出る時お前いなかったよね!?」

「はい、部屋で準備をしていたら先に行ってしまったので追いかけてきました。焦りましたよ」

 

そう言うと白叡は自分の隣に置いてある荷物の入った風呂敷を叩く。しかし声色も表情も平坦で変わらないため本当に焦ったのかどうか疑問だが。

いや、そんなことはどうでもいい。なにしろ左右田は、この少年が自分の隣で団子を食っていると言う出来事に、目を白黒させてそれどころでは無いのだから。

 

「ま、まさか……お前…………」

「ああ、お母さんからはちゃんと許しを得ました」

「お母さーーん!!」

 

急に叫ぶ左右田に白叡は珍妙なものを見るような目を向ける。しかし左右田は叫ばずにはいられなかった。なんせこの男は白叡を鬼殺隊に入れる気はサラサラなかったからだ。母親に任せれば大丈夫だろうと思っていたのだが……。左右田はどうするか悩む。悩む前に白叡は左右田の言った条件を満たしているため本来なら動向を認めるのだが―――、

 

(おいいいい!!どうするよ!無かったことにして帰らすか?いや、言っても勝手についてきそうだし!あーくそ、めんどくせぇ!)

 

 

―――――

 

 

昨晩、左右田との会話を終えた白叡は早速、母親の元へ向かった。

トントンと、戸を叩いて「白叡です」と名乗る。母の迷彩から許可を貰うと彼女と父の寝室へ入る。母は既に布団を敷いて寝巻きに着替えていた。

 

「どうしたの?白叡」

「お母さん……少し大事な話があるんだ」

 

布団の上で迷彩は聞く姿勢を取ると、白叡もその正面に正座で座る。何かを決心したような表情の白叡だがなかなか話し出さない。故に迷彩が促すと白叡は口を開く。そしてまたしばらくの間が空いた。白叡は目を閉じて言葉を続けない。そしてようやく目を開け、力強く母親をその双眸で見つめる。

 

「お母さん。俺は、左右田さんについて行って鬼殺隊に入りたい」

 

さほど大きな声ではなかったが、静寂が支配していた部屋の中ではその声はよく響いた。

迷彩と白叡は互いに互いの目を見ていた。迷彩も整った顔を凛とした表情で黒曜石のような瞳で白叡を見る。また白叡も幼さが残る割に整った表情を固くさせて彼女の視線を受け止める。

 

「……………どうして?」

「……え?」

「どうして、その様な考えが浮かんだの?理由は?」

 

しばらくの沈黙のあと漸く口を開く迷彩だが、その声は無機質と言うより鋭い刃のような冷たさを帯びていた。それに驚きついつい間の抜けた返事をしてしまう。しかし白叡の反応を意に返さず質問を続ける。

 

「それは…………俺が……白蘭兄さんを殺した……化け物だから…………」

「だから?……何?」

「だ、だから……こ、この家には、いちゃ駄目……」

 

迷彩の剣幕に負けて白叡の声はたどたどしく、しりすぼみに小さくなっていく。先程の覚悟や決意の篭っていた瞳は、ただひたすら天敵に怯える子兎のようだ。

迷彩は激昂していた。息子の言い分に激昂していた。白叡は知っている。この状態になった母はあの父でも止められないほど恐ろしい。

 

「そう、それが理由ね。化け物の自分がこの家にいる資格が無い……そう言いたいわけね」

 

迷彩は淡々と独り言を呟く。しかしやはりその言葉も冷たく温度を感じられない。

 

「なら辞めときなさい。そんな気概で行っても鬼殺隊に迷惑がかかるだけよ」

「……っ!」

「嘘でも人を助けるため、なんて言ってたらよかったかもしれないけど……。その程度の気持ちなら辞めなさい」

 

迷彩の言葉に白叡は完全に黙ってしまった。迷彩も話は終わりだと言わんばかりに床につこうとする。

 

「嫌だ……」

 

それは小さな声だった。外で鳴く虫の声にもかき消されるほど小さな声だった。しかし迷彩の耳にはしっかり聞こえており、寝ようとしていた布団から手を離す。

 

「嫌だ、鬼殺隊に入りたい」

「だからどうして?」

「…………もっと強くなりたい」

「…………」

「もっともっと強くなりたい。鬼殺隊に入ったら強くなれる気がするんだ。人を救いたいとかよく分かんない……けど、強くなりたい」

 

発される言葉は幼子のわがままそのものだった。それでも白叡は、今度こそはっきりと声に出して話す。

人を救いたいや仇討ちなんて大層な理由ではなく、ただただ白叡の本音。迷彩は今日家を空けている間に、2人が手合わせをしていたことは知っている。だからもしかしてとは思っていた。しかし白叡から出た言葉は「自分は化け物だからこの家にいちゃ迷惑がかかる」と言った内容だ。それを白叡が建前で言ったわけでないことも理解している。昔から剣ばかり振っていた息子だがしっかり優しさも持っている。それ故に出た言葉なんだろう。

 

「俺は、剣ばっかり振ってたから、それ以外に出来ることなんてない。だからこそ剣を振ることで人を救えるならやってみたい。そしてもっともっと剣技を極めたい」

 

時代錯誤の願望。これが戦国時代に武家の子として産まれていたら、誰もが抱いたものかもしれない。だが今では廃刀令が出され、人が人を切り合う時代は終わったのだ。しかしそんな現代に剣に魅せられ、剣の才を得た白叡。最早現代に生きる剣士のいる鬼殺隊こそ、白叡が心底望む場所なのだろう。

 

「だからお母さん。俺は鬼殺隊に行きたい!」

 

白叡は最後のダメ押しと力強く言い放つ。もうこれ以上言うことは無いと、白叡は口を閉ざし覚悟を決めた瞳で迷彩を見る。迷彩をそれを受止め見つめ返す。

数秒後、迷彩は「ふっ」と小さく息をついた。そして、

 

「わかったわ、白叡。鬼殺隊へ行ってきなさい」

「っ!ありがとうお母さん!!」

 

白叡は正直これでもダメだろうと思っていた。だが迷彩は許可を下し、白叡は喜びを顕にし頭を下げて礼をする。

 

「ですが……一つだけ約束があります」

「約束……?」

「絶対に私より先に死なないこと……。これだけは守ってもらいます。いいですね?」

 

迷彩は口調を改めて約束事を口にする。白叡はそれを「心王砕氷流道場」の当主代理としての言葉だと認識した。だから白叡も、

 

「はい!」

 

道場の門下生として誠意の籠った返事を返す。迷彩はその返事を聞いて小さく微笑んだ後、白叡へと飛びつくように抱きしめた。

 

「絶対だから。母親より早く死ぬ親不孝な息子に育てた覚えはないからね。何時でも帰って来ていいから……。貴方がどこに行っても、私たちは家族でここが貴方の家だから……ね」

「…………はい」

「貴方は化け物じゃないから。私とあの人の自慢の息子だからね」

「…………うん」

 

今度は母親としての言葉を白叡は受け取る。母は本当は許可なんてしたくなかったろう。それさそうだ。それでも迷彩は白叡の覚悟を受け取って送り出す決断をした。

白叡に母の親心を本当の意味で理解は出来ないだろう。でもそれでも、迷彩はこの決断に後悔はなかった。

 

 

―――――

 

 

「なるほどな。まぁしゃーねーか。約束は約束だしな」

 

団子屋を出た左右田は言うと歩き出す。その隣には白叡がついて歩いている。左右田の目論見通りとは行かなかったが、志が変わっただけでも良しとする。少なくとも前向きな理由や願望があれば、この薄暗い世界で生き残る為の糧になるだろう。

 

「んじゃ、とりあえず行きますか」

「はい!」

 

白叡は一度、我が家のある方へ振り向く。小さく「行ってきます」と言えば、もう白叡が振り返ることは無かった。

ふと聞こえた「行ってらっしゃい」という声を背にして。




いやー人の感情を言葉で書くって難しいですね!ニュアンス的なものは頭に浮かびますがどうしても言葉に出来ない。プロの作家さんはやはりすごいと感じた窮鼠猫を噛み噛みでした!

〜〜大正コソコソ噂話〜〜

鉢特摩家の中で迷彩がヒエラルキートップなのは揺るぎないことらしいぞ!?寡黙で厳格な白兵(父)でさえ顔を青くするほど怒れば怖いとか……。
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