【仮題】雪柱の男   作:窮鼠猫を噛み噛み

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御館様

 

 

煉獄邸に赴いた日から数日後。白叡はひたすら鍛錬に打ち込んでいた。人生初の友人である杏寿郎とは文通を始めた。ここ数日、左右田は任務のため屋敷にはおらず、自分一人で鍛錬するしか無かった。そもそも左右田が論理的な指導をしないため特に変わりないのだが、強いて実践稽古ができないことがネックだった。そのため白叡は、実家から出る時に持って来た『心王砕氷流』の指南書を取り出す。これは白叡の祖父が書き残した物で、白叡が7歳の誕生日に貰ったものだ。『心王砕氷流』の精神から剣術の型まで丁寧に書かれている。

それを引っ張り出しては穴が空くほど目を通す。

 

「心王砕氷流の型に霞の呼吸を合わせる……」

 

言葉にするのも、頭でイメージするのも簡単だ。しかし身体は全くそれらと同じようにトレースできない。よく分からない違和感。ここ最近、思いっきり剣を振ることが少なくなっておりフラストレーションが溜まる一方だった。

 

「…………そもそも俺と師匠の呼吸法の種類が違うのか?そう言えば、槇寿郎さんに見せてもらった炎の呼吸は呼吸音が違ったな……」

 

唯一の友の父親にして「炎」の呼吸法を使用する炎柱の彼に一度、炎の呼吸の型を見せてもらっていた。その時、呼吸によって発生する音が違う事にすぐに気づいた。前のめりになり過ぎて頭から抜け落ちていた。

 

「そうか、『心王砕氷流』で『霞の呼吸法』を派生させるんじゃない。俺の我流の呼吸法でその2つを派生させるんだ」

 

思い立ったが吉日。即座に中庭に飛び出して木刀を握る。いつもやっている呼吸法で空気を肺に送り込む。血液が循環し筋肉が程よく緊迫すれば、木刀を握る手に硬すぎず脱力し過ぎずの程よい握り具合。血液が活発に循環され体温が高くなる。しかし頭は澄み渡っており、意識も冷静だ。

 

「ヒュオオオ」

 

まるで吹雪の凍てついた風のような音を出す呼吸音。庭にある岩の若干凹み脆そうな部分を見据えて構える。

脳内でイメージするのは、左右田が見せた『霞の呼吸』の壱ノ型 垂天遠霞(すいてんとおがすみ)。『霞の呼吸』の突き技で『心王砕氷流』の突き技の型とトレースさせる。

グッと構えた姿勢から放たれる突き技の剣筋は、寸分の狂いもなく狙い通り岩を粉砕した。

 

「………………で、できた」

 

ここ数ヶ月で一番の出来。白叡は突き技を放った体勢から戻し、木刀と自身の手を見ながら呟く。岩は綺麗に破壊、と言うよりは割れており、瓦礫の断面は刀で切られたような綺麗なものであった。生憎と木刀の剣先は折れてしまっていたため、白叡はすぐさま木刀を変えて『心王砕氷流』にある他の技を試す。

この日は只管剣を振り続けて夕食を作るのを忘れ、また破壊した岩を見られ、任務から帰ってきた左右田に酷くドヤされた白叡であった。

 

 

―――――

 

 

白叡が弟子入りしてから1年が経った。既に白叡は己自身の呼吸法を完成させ、その練度も高められていた。呼吸法の名を『雪の呼吸』と白叡が命名した。この『雪の呼吸』は型の数が多いのが特徴で、放たれる技には冷気が纏われており切り口には霜が走ることから名付けられた。

閑話休題、現在白叡は早朝から左右田に連れられてある目的地に向かっている。

一応何度かどこに向かっているのか尋ねたが、「いいところだ」や「まあまあ、着いてこいよ」等としっかりとした返答が返ってこず、白叡は諦め顔で後ろを着いて行っている。

ふと視線を前方へ向けると、自分達の住む屋敷や先日行ったばかりの煉獄邸よりも大きく、立派な屋敷が見えてきた。

 

「この立派な屋敷が目的地ですか?」

「そうだ。今からお偉いさんに会いに行く。……言ってなかったか?」

「いや、聞いてないですよ。初耳ですよ」

「じゃあ今言った」

 

白叡はあんぐりと口を開けて前を歩く男を見つめる。次いでにイラッと来たので「早く言え!」と貫手で小衝く。左右田は小衝かれて痛そうなリアクションをとるが、白叡は無視してさっさと屋敷の敷地内へ入っていく。

すると屋敷の門を通って行くと1人の美しい女性が立っており、こちらを視認するなり洗練された所作でお辞儀してきた。左右田もその女性に気づき立ち止まると深く頭を下げ、その隣で白叡も戸惑いながら左右田と同じくお辞儀した。

 

「お待ちしていましたよ、左右田さん」

「態々お出迎えありがとうございます。あまねさん」

「ええ、全く……。本来なら会議以外で貴方に敷居をまたがせたくないのですが、当主の指令ですので仕方なく……そう仕方なくです」

 

左右田にあまねと呼ばれた女性のかなり毒を含んだその言い様に、白叡は唖然として2人を交互に見る。

 

「師匠、何したんですか?異常なまでに嫌われてますよ」

「な、何でもねぇよ」

「ふふふ。ただ、婚礼前の私を()()()()()()()ですものね。なんでもありませんね」

「うげっ!!」

 

白叡は左右田のいい加減な性格、ひいては女性関係については非常にいい加減な人間だと認識している。そのため絶対に原因は左右田にあると決め付け、何があったのか聞くが勿論左右田は答えない。しかしあまねは上品に笑みを浮かべながら敵意丸出しに口撃する。

更には弟子の呆れたような視線からゴミを見る目に変わり、左右田のメンタルをガリガリと削っていく。

 

「うちの阿呆が失礼しました。コレの弟子の鉢特摩白叡と言います」

「ご丁寧に。私は産屋敷家当主、産屋敷耀哉(うぶやしきかがや)の妻、産屋敷あまねと申します。では当主も待っておられますので、どうぞお入りください」

 

白叡は歳なりに丁寧に挨拶すると、あまねは左右田に対する態度と全く違う雰囲気で返す。あまねに案内され屋敷の廊下を歩く。普段ならうるさい左右田も若干緊張した様な表情で歩いている。廊下を突き当たりまで歩くとあまねは腰を下ろし呼びかける。

 

「お2人を連れて参りました」

「ありがとう。2人を通してあげてくれ」

 

襖の向こうからは白叡とあまり歳の変わらない位の男の子の声が聞こえた。しかしその声はとても穏やかで、スっと耳に入ってくるような心地良さを感じる。

許可が出たあまねは襖を開けるなり2人に入るよう目配せする。

 

「『霞柱』左右田泡沫。参じました」

「うん、よく来てくれた泡沫。それで、隣にいるのが泡沫の弟子かな」

「はい。鉢特摩白叡と言います」

 

部屋に入るなり左右田は頭をたれ、白叡も慌てて真似をするように頭を下げる。ほんの一瞬しか相手の顔がみえなかったが、声の通り見た目もあまり自分と歳の開いてない少年だった。

 

「顔を上げてもらって構わないよ。私は産屋敷家当主の産屋敷耀哉。先代当主から受け継いで鬼殺隊の最高管理者だ。一応泡沫の上司となるのかな」

 

左右田と白叡は正座をして座ると、その脇からあまねは耀哉の隣に座る。

あのダメ人間の左右田が畏まるほどの相手なのかと最初は疑問だったが、たった一瞬の立ち振る舞いというか、その雰囲気に白叡は納得した。

 

(なるほど……この人が師匠の言っていた御館様か……)

「―――――彼と2人でゆっくり話してみたいんだけどいいかな?」

 

彼はそう言うと白叡を見て微笑む。白叡はじっと耀哉をじっと観察して見ていたため途中の会話を聞いておらず、急に目が会い微笑まれ咄嗟に目を逸らす。

あまねと左右田は耀哉の提案に頷くと2人揃って部屋から出て行った。会話について来れてない白叡は焦った顔で左右田を見るが「失礼なことすんなよ」と言い残しただけだった。

 

「さて2人になった事だし、色々話そうじゃないか。泡沫が私と同世代の子を弟子にとったと聞いてね。色々と話してみたかったんだ」

「そうなんですか……」

 

先程までの雰囲気とは少し変わって、年相応な柔らかく幼い雰囲気になり白叡へ話しかけた。しかし白叡は極端に相手との意思疎通が苦手だ。そのため強ばってついつい先程の雰囲気も相まって畏まってしまう。

 

「そんなに畏まらなくてもいいよ。敬語も要らないから。そうだ!私の事は是非耀哉と呼んで欲しい。私も白叡と呼ぶから」

「え?あー……うん。じゃあ耀哉、よろしく」

 

なんだか既視感を覚えた白叡は耀哉の提案にすんなりと応じる。白叡が快い返事を返せば耀哉は何処かほっとするような表情と笑顔を浮かべる。

耀哉もまた自身の家計の事情等の影響で友人と呼べる相手がいないのだ。故に年に2度行われる柱合会議(ちゅうごうかいぎ)にて柱達が『左右田が子供を弟子にとった』と言う会話を耳に挟んだ時、興味が湧き会ってみたいと思った。

産屋敷一族はとある理由により代々病による短命を宿命づけられており、現当主にして齢13歳の耀哉もその例外ではない。身体が弱いために刀を振ることができない彼は、自分と1歳しか変わらないのに刀を振っている少年の話が聞きたかったのだ。

 

「白叡はどうして鬼殺隊に……いや、剣を振るんだい?」

「うーん…………まだよく分からないかな?俺の家は剣道場だから小さい頃から剣振ってたんだ。まぁ……だから取り敢えず強くなりたいから、かな。耀哉は?」

「…………私は、私の一族の悲願を達成する為に……だ」

 

それから耀哉は話し始めた。鬼の始祖、鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)について。産屋敷一族は無惨と古来より大きな因縁があり、そのせいで一族の子供達は皆病弱で生まれてすぐ死んでしまう呪いを背負わされたこと。

それらを話している時の耀哉の表情は怒りそのものだった。それでも鬼殺隊に所属する隊士らを誇りに思っており、また自分の代わりに剣を取って命を懸けて戦う彼等には、申し訳なく思っていると話していた時は哀愁を漂わせていた。

 

「耀哉は鬼殺隊が好きなんだな」

「え?」

「え?違うの?」

「いや、うーん……好きとは違うんじゃないかな」

「そうなのか……。でも鬼殺隊は耀哉の刀だな」

 

白叡があっけらかんと言えば耀哉は一瞬ポカンとするも、白叡の言った意味を理解して嬉しそうに微笑む。

 

「じゃあ白叡も私の刀になるのかな?」

「まあ、お前の友達として刀を振るのは悪くない。耀哉の悲願とやらを叶えれる位強くなってやる」

 

2人は互いに笑みを浮かべては日が暮れるまで様々なことを話した。年相応に話す2人をあまねと左右田がこっそり覗いていたのを、この2人は全く気づいてはいなかった。

 

 

―――――

 

 

産屋敷邸へ言った日から約半年経ち、白叡の13歳の誕生日を迎えた歳の2月中旬。白叡は刀を携え、白を基調とした着物を着て屋敷の玄関に立っていた。この日、遂に白叡は最終選別を受ける事となり、左右田は眠そうな顔で送り出しているところだ。

 

「まあお前の実力なら死ぬことはねぇわ。適当に7日間生き延びてさっさと帰ってきやがれ」

「ああ、師匠。ここで死ぬ訳にはいかないからな。大切な約束がある」

「んじゃあ行ってこい。バカ弟子」

「行ってくる、アホ師匠」

 

最後に軽口を叩きあい、白叡はまだ日が登らない夜道を駆けていく。

最終選別は藤の花が年中咲いている藤襲山で行われ、藤を嫌う鬼が十数人ほど閉じ込められているという。 そこで7日間生き延びることが出来たものが隊士として任命される。

白叡は全集中“常中”によって高められた脚力で風のように走る。そんな中、白叡の心中は穏やかではなかった。

 

(初めて俺の呼吸法を存分に使える!なんだか楽しみになってきた!)

 

技の練度を上げるため何度も反復練習はしたし左右田との実践稽古も行ってきたが、やはり本物の命のやり取りとなれば雰囲気やそういったものは違ってくる。白叡には一切の恐怖がなく急ぎ足で走り、気付けば目的地の山へと到着した頃だった。

 

(意外に人数いるんだな……。女もいる)

 

着くなり白叡は当たりを見渡すと、自分と同じく受験者がぞろぞろといた。あるものは緊張したような、あるものは不敵に笑うもの、あるものは素振りをしているものもいる。

白叡も集中力を高めるためその場に正座し黙祷を行う。

雑音と雑念の一切合切が意識から切り離される。スっとその場に一人の女性が現れる。白叡はその人の気配を感じ取れば黙祷をやめ、刀を持って立つ。女性、産屋敷あまねは暫く参加者らを見渡した後、ゆっくりと口を開き話し始めた。

 

「今宵は最終選別にお集まりくださってありがとうございます。この藤襲山には鬼殺の剣士様方が生け捕りにした鬼が閉じ込めてあり外に出ることはできません」

 

あまねはそう言ったあと、少し息継ぎをして続きを話す。

 

「山の麓から中腹にかけて鬼共の嫌う藤の花が一年中狂い咲いているからでございます。しかし、ここから先には藤の花は咲いておりませんから鬼共がおります。この中で七日間生き抜く。それが最終選別の合格条件でございます」

 

聞かされていなかったのか、それとも改めて言われ緊張したのか、若干空気がどよめく。そんな中白叡は静かに佇んでいた。そして一瞬だけあまねと目が合い、彼女はほんの少しだけ笑みを作る。

 

「それでは、行ってらっしゃいませ」

 

あまねのその声と共に最終選別は開始された。

 

 

―――――

 

 

最終選別が始まってすぐ、白叡は山の中を駆けていた。すると早速、一体の鬼が白叡目掛けて飛びかかってきた。

 

「人間!肉ッ!肉ぅぅぅっ!!」

「鬼……理性がないのか」

 

白叡は鬼を視認すると「ヒュオオオ」と呼吸する。抜刀し鬼を双眸で捉え、右足を軸足とし飛びかかる鬼の攻撃を半身で躱す。

 

『雪の呼吸 奥義肆番 雪泥鴻爪(せつでいこうそう)

 

躱した勢いのまま体を回転させ鬼の背後に周り頸を切り落とす。さらに2体の鬼が飛びかかってきた。白叡は流れるように体勢を戻し重心を落とし、グッと構えた姿勢から高く跳躍する。

 

「ガァ?」

「何処に消えた…………ッ!」

 

眼下に見える2体の鬼は、白叡を見失い困惑している。

 

『雪の呼吸 一式肆番 牡丹雪(ぼたんゆき)

 

跳躍が頂点に達し重力に従い地面に引っ張られるように落下する。その勢いに合わせ刀を振り下ろす。地面を叩き割るような高威力の斬撃を放てば、地面はその衝撃を受け歪な形で隆起する。鬼は踏ん張ることが出来ず隆起された地面に押し上げられる。

 

『雪の呼吸 玖番斑雪(まだらゆき)

 

右脇構えから左切上げ、右切り下ろし、左切り下ろし、右切上げの4連撃を放つ。2体の鬼は四肢と頸を切り裂かれ、そのまま絶命した。それを視認すると白叡は刀を納める。辺りには鬼はいないと分かると、白叡は水のある場所を探して再び走り出したと共に、ちょっとした物足りなさを感じてもいた。

結局その後、特に強い鬼も現れることも無く7日間を乗り切った。2日目以降かやは趣向を変えてより実践的な型の稽古をすることにした。4日目頃からは鬼達は一切襲ってくることはなく、寧ろ白叡を恐れているようだった。

7日目の朝、白叡は最初に集合した麓へ降りる。

一番乗りなのだろうか、他に誰も人の姿は見えなかった。

 

「…………まさか、あの程度で全滅はないよな」

 

淡々とした口調で言えば、あまねが姿を現した。

 

「7日間の最終選別お疲れ様でした。これにて最終選別を終了と致します」

 

結局白叡の後に来たのは2人だけだった。肩で息をして、顔は泥だらけだった。反面白叡に汚れはなく余裕な表情を浮かべていた。

その後はトントン拍子にことは進んだ。隊服の採寸に自身の日輪刀を鍛えるための鉱石を選ぶ。後に鍛冶師が刀として届けてくれるのだとか。

 

「皆様には鎹鴉(かすがいがらす)をお付けします」

 

あまねがそう言えば、空から3羽の鴉が飛んできてそれぞれよ肩に止まる。

 

「ワタシハ日和号(びよりごう)ヨロシクネ」

「鉢特摩白叡だ。よろしくな」

 

白叡は左右田の鎹鴉を知っているため、鴉が喋ることに驚くことは無かったが、他2人は知らなかったのか「鴉が喋ってる!」と驚いていた。

その後解散となり、それぞれの帰路につく。白叡はあまねの方へ一度頭を下げてから屋敷へと向かった。

この日を機に、白叡は鬼殺隊の隊士となったのだった。

 

 

 

 

 

 

 




〜〜大正コソコソ噂話〜〜

白叡の誕生日の日に槇寿郎はほんの出来心で春画を見せたことがあるらしいぞ。しかしそれを白叡が瑠火の前で話してしまったことにより、槇寿郎の持つ全ての春画が燃やされてしまったとか。
その時に作った焼き芋はとても美味しかったと杏寿郎と白叡は大喜びだったらしいぞ。
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