【仮題】雪柱の男   作:窮鼠猫を噛み噛み

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冥土の悪鬼

 

胡乱と工皿と共に、白叡はこの町に起きている失踪事件の犯人の目撃者が居る、2人の家へと到着した。

家に着くなり、2人の祖母(ともえ)は孫2人を見るなり温かく出迎える。すると白叡に気付いたのか「いらっしゃい」と声をかける。

 

「あなたに少し聞きたいことがあります。この子達の父親の、弟について教えてください」

 

白叡は一礼だけすれば前置きもなしに本題へと入る。一瞬呆気に取られた巴であったが、内容を理解すれば静かに「此方へ」と奥の部屋へ招き入れた。

 

 

―――――

 

 

通されたのは6畳ほどの和室で、白叡は巴と対面するように座っている。胡乱は工皿の面倒を見ながら、白叡と祖母の顔をチラチラと見て気にしている様子だ。

お世辞にも明るいとは言えない重たい雰囲気の中、話を切り出したのは白叡だった。

 

「それじゃあ聞かせてもらいます。貴方の息子のことを」

 

物怖じすることもなく、白叡は言う。巴からすれば白叡は孫と同じくらい年の離れた子供だ。この年頃の男の子は良くも悪くも元気で好奇心旺盛だ。この噂話に関してこの街に住む子供らは別だが、他所から来た子供らにとっては興味の対象だろう。しかし目の前にいる白叡からはそのような気が一切感じられない。好奇心ではなく、ただ淡々と質問している。

 

「…………分かりました。あの子の名は(ぎょう)。あの子達の叔父に当たります」

「暁さん……。彼がこの町に来たのはいつ頃ですか?」

「二月ほど前だったと思います。夜に急にやって来て、住むところがないから住まわせてくれって……」

「……なるほど。夜に隣町まで働きに出ているとお聞きしたんですが、どういう仕事かご存知ですか?」

「ええ、小説家として執筆活動しております。と言ってもつい数ヶ月前までは売れない執筆家でした。10年ほど前に定職にも付かず小説も書かずにいたあの子を、生前元気だった夫が勘当して追い出したんですよ。その間何をしていたのやら……」

「…………ありがとうございます」

 

巴から得られた情報を整理していく。決定的証拠がないため確信できないが、白叡は暁が鬼であると考えている。恐らく彼の父によって勘当を言い渡された暁は、紆余屈折の果てに()()に出会い鬼になった。確信はないが間違っていないだろう。

すると、いきなり和室の襖が開かれる。部屋にいる皆がそちらへ向くと、不健康そうに色白な男が立っていた。

 

「暁……」

「なんだ、お客さんがいたのか…………」

「もう起きたのかい?仕事に行くには早いだろ?」

「そうだね……。喋り声で目が覚めてしまったんだ」

 

そう話す彼は和室に入ってくる。部屋の位置的にはこの和室は北側にあり、障子も北側にあるが今は閉められており、更に裏にある大きな二階建ての賃貸住宅の影となっているので西日は射していなかった。白叡は暁の挙動全てを観察しようと、不快にならない程度に視線を向ける。

 

「彼はどうしたんだ?」

「あんたのことについて尋ねてきたんだ。例の化け物を見たって聞いたらしくてね」

 

巴が事情を説明すれば、暁は白叡を見る。その視線は爬虫類が獲物を狙う視線のそれで、じっとりと舐め回すように観察する。白叡は急に悪寒が走り、つい自身の左足の傍に手を伸ばし掴もうとする。しかし生憎と白叡は日輪刀を隠すため身に付けておらず、その左手は虚無を掴むだけであった。暫く、時間にして1分も立たないほどだが、白叡と暁の視線は交差する。

 

「これ、無遠慮に見るなんて失礼だよ」

 

しかし巴の暁を咎める声で交わっていた視線は解かれる。その視線が解放された白叡はほっと一息つく。

 

(あの程度のことで心を乱すなんて、まだまだ未熟だな……)

「悪い悪い。すまないな」

「いえ。大丈夫です」

「化け物を見た時のことか……。あれは月が綺麗な夜でさ、その日も書いた原稿を持って隣町に行こうとしてた時にさ、数軒隣の家の庭で化け物が人を襲ってるところを見たんだよ。身体は細長くて目が赤くてさ…………まるで御伽噺に出てくる人喰い鬼みたいだったよ」

 

暁は「あの時は心底恐ろしかった」と言いながら苦い顔をする。白叡は礼を告げるとスっと立ち上がる。

 

「色々とありがとうございました。そろそろ親が心配するのでお暇させていただきます」

「それはそれは……、本当に物騒だから気を付けて下さいな」

 

白叡はそれらしい理由を告げると、巴は見送りに腰を上げる。暁は「気をつけてね」と白叡に言えば、仕事の準備と部屋の奥へと消えていった。玄関まで来ると、工皿が白叡の羽織の裾を引っ張る。白叡は目線を合わせるためしゃがむと、彼女は白叡の耳に口元を当て小さな声で言った。

 

「それでは、俺はこれで」

 

白叡は歩いて去り、彼らの姿が見えなくなると路地へと入る。家を去る前に工皿が白叡に言った言葉。それのお陰で鬼が誰なのか確信できた。そして今夜、奴がどこの誰を襲うのかも。

 

 

 

『おじさん。今日はおいしいお肉を食べるんだって』

 

 

 

―――――

 

 

日が暮れて夜になった。先程まで住民が行き交っていた通りはしんと静まり返り、活気に溢れていた町の喧騒がウソだったかのようだ。

そんな中白叡は日輪刀を腰に携え、超人的な身体能力を使い町の中を風のように走っていた。途中で民家の柵から飛び上がり、屋根へと着地する。白叡は身を屈めると向かい側のタバコ屋を見る。

 

「時間的にはそろそろか」

 

時刻は午後8時。巴から聞いた話ではこの時間に街へ向かうらしい。すると時間通りに出てきた。洋服を見に纏い、頭には黒いハットを被っている。巴の見送りを受けて彼は隣町へ向けて歩き出した。

 

「…………後を付けるか」

 

白叡は見失わず、また気づかれないギリギリの距離を保ちながら後を付ける。タバコ屋からは大分離れたが町の出口までまだまだという所で突如、白叡の視線を振り切るように暁は走り出す。白叡も見失わないために気づかれるの承知で速度を出す。

 

「どう考えてもこの速度、人間の速さじゃない。しかも俺の視線に気付いてやがったのか」

 

白叡は追いながらも冷静に分析する。途中で暁は路地へと逃げ込む。白叡は屋根から飛び降りて追跡を続ける。すると路地の先は行き止まりで、追っていた暁は行き止まりの壁の方を向きながら立ち止まっていた。

 

「…………やっぱりアンタが鬼だったか。暁さん」

「それはそっくりそのまま返させてもらうぜ。やはりお前が鬼狩りだったか……。あまりにもガキだったもんだから俺様の直感を疑いそうになったぜ」

 

雲の隙間から月の光が差し彼の姿が照らされる。暁の夕方に会った時と雰囲気は全く違っており、忌々しそうに白叡を睨んでいる。

 

「どうして俺だと気づいた?」

「町民からの情報を聞けばあんたが一番怪しかった。そして実際に会った時に確信した」

「たくよー。ベラベラ喋られちゃあ参っちまうぜ」

「いいや、確信したのはアンタの言葉だよ」

 

理由を問われ白叡が答えると、ヤレヤレと肩を竦めながら呆れる暁。しかし白叡はニヤッと笑うと、自分が暁を鬼だと確信した理由を話した。

 

「あんたが言ったんだよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってな。他の人達は()()()やら()()と言ってたが、あんたは的確に鬼だと言った。それはあんたが実際に鬼を目撃したんじゃなくて、あんた自信が鬼だったからそう言ったんだ」

「………………きゃはきゃは!!まさか俺自身が正体を明かすようなこと言っちまってたとわなぁ!!」

 

暁は一瞬呆けた後、顔面を片手で覆いながら高らかに笑った。自身の失態を恥たり後悔する様子は微塵もなく、ひたすら愉快そうな笑い声が路地の中に響く。

 

「お喋りはこのくらいでいいだろう。俺は鬼殺隊として、お前を狩るだけだ」

「おいおいおいおい!お前はひょっとしちゃってこの俺を追い詰めたつもりになってんじゃねーだろうな?逆だぜ逆…………、俺がお前をここまで誘導したんだっつーの!」

 

確かに言われてみれば、この路地は刀を振るうには若干狭く、白叡の周りにだけ木箱や木材が置かれていて不利な立ち位置だ。白叡は抜刀した刀を下段に構え隙なく構えているが、左右の移動に制限がかかってしまう。

 

「お前に恨みはねぇが、ぶっ殺させてもらうぜ!」

 

お調子者な口調から一転、今度は殺気を滲ませた声色で話す。そして、血を蹴り一直線に白叡へと飛びかかった。

その速さは最終選別でいた鬼とは圧倒的に速さの違う攻撃だ。

 

「おらよォ!!」

 

しかし白叡は前後の足運びで相手の間合いを外し、暁から放たれる貫手や蹴りを身体の軸をずらす最小限の動きだけで躱す。貫手、回し蹴り、引っ掻きと全てを避けられ、暁は一度距離をとる。その表情は少しの驚きと愉悦を含んでいた。

 

「なかなかやるじゃねーの!ならこれならどうだ!」

 

暁は路地に置いてある木箱を蹴りで粉砕する。木箱の中に入っていた薬草だろうか、細かく生まれたわらや草が舞う。それが簡易的な煙幕となり、更に月明かりが入りにくい路地の奥から超スピードで突撃してくる。しかし、左右田や槇寿郎と言った格上と常に修行を重ねている白叡にとってそれは、余りにも遅く見えた。

 

『雪の呼吸 一式弐番 霜柱(しもばしら)!!』

「んなっ!?お前、俺が見えて……っ!!」

「油断しすぎだ!」

 

白叡は峰を右手で支え、下から飛び上がりつつ刀の腹で暁を斬り上げる。暁は予想外の返り討ちに驚愕し一瞬動きが止まる。勿論それを見逃すほど白叡は甘くなく、さらに追撃を加える。

 

『雪の呼吸 一式陸番 回雪(かいせつ)!』

 

峰を支えていた右手を持ち直し、横回転しながら刀を振るう。しかし場所が場所なため振り切ることが出来ず、超人的反射神経で上体を逸らし暁は白叡の刃から逃れる。

 

「礼を言うぜ鬼狩り。久しぶりに吃驚仰天というのを体験させてもらった」

「それはこちらも同じだ。人間辞めたらそこまで身体を逸らすことが出来んのかよ」

 

確かに白叡の言う通りでいくら体勢が崩れていたとはいえ、暁は下半身と上半身が90度近く反って躱したのだ。

 

「変も変さ、変でない方がおかしいって話だぜ。聞いて驚け見て驚けよ。俺は()()()によって人間を超えた力を手に入れた!俺の血鬼術を使えば今の攻撃を避ける所か…………アアァァァァ」

 

暁は意気揚々と語りは始めると、突如右手を口の中に突っ込む。唾液などの体内で分泌される開きたいの生々しい音を出しながら、体内から1本の刀を取り出した。

 

「アゥアァァァア…………とまぁ、これが俺の血鬼術ってやつだ!普通の鬼ならこんな見世物みたいに自分の能力を明かすことわねーんだがよ。きゃはきゃは、俺は鬼界隈でちょいと有名でな?『冥土の悪鬼』っつーんだよ。冥土の土産をあまりにも大盤振る舞いする接待好きの性格から、ついた名だーー」

「めいどの悪鬼?何か可愛い響きだな」

「あん?訳分かんねーこと言ってんじゃねーよ!………俺の血鬼術はこれだけじゃねーんだぜ?ここまでのは接待だ。『冥土の悪鬼』の悪い癖だと思ってくれ。こっからは本気で行っちゃうぜ!」

 

刀を1度乱雑に振り払うと白叡へと切りかかる。袈裟斬り、右薙ぎ、唐竹、刺突と荒々しく刀を振るう。しかし白叡はその全てを完璧に対処する。

 

「品の無い剣捌きだ……」

「ガキのくせに生意気だな!……(剣術じゃ分が悪い!こいつの強さは想像以上だぜ!)」

「しぶとい」

 

剣術という土俵において白叡より圧倒的に劣る暁は、全ての攻撃を躱され防がれる。また白叡の攻撃は視界の悪さと暁の超軟体という特性を使われ攻めあぐねいている。

 

「鉢特摩さーん!鉢特摩――うわ!」

「っ!!」

「ッ!?」

 

突如として聞こえてきた男の子の声に、白叡と暁はその動きを止めて声のした大通りの方を見る。そこには驚愕と言った表情を浮かべて尻もちを着いて転けている胡乱だった。

 

「チッ……オラァ!」

「グッ」

 

白叡は鍔迫り合いの状態から暁を蹴り飛ばすと、胡乱の元へと下がる。

 

「なんでここにいる!」

「叔父さんが出て行くのを窓から見てて、そしたら向かいの屋根に鉢特摩が見えたから…………」

「それで追いかけてきたのか?お前、馬鹿だろ」

「ば、馬鹿は言い過ぎでしょ!」

「たく……こんな所にきやがって、死にたくなかったら俺から離れんなよ」

 

白叡は胡乱を問い詰めると、彼は目に涙を浮かべて話す。しかし白叡の馬鹿呼びに胡乱は少し怒る。しかし今は命のやり取りをしている戦場だ。故に白叡はすぐに切り替えて胡乱を立たせて言い聞かす。

そして今の会話している隙を突いてこなかった暁の方へ向くと、暁は刀を飲み込んでいるところだった。

 

「悪いな。待たせたか?」

「……いやいや、俺の方こそ待たせちまったな」

「か、刀を飲み込んで……叔父さんが化け物…………!!」

「たくよお、お前もついてねーよな!知らなきゃ死なずに済んだってのによ〜お!彼奴らもたまたま見ちまったもんだから食わなきゃならなくなっちまってよ!」

「……お父さんとお母さんを……お前が…………?」

「そう言ってるだろーがよ。お前の両親は良かったぜ。『なんでも差し上げますから子供たちの命だけわ』ってよ!恐怖に震えて命乞いしてんのが、俺は好きでたまんねーんだよ。そうして俺はこう切り返すんだ『俺が欲しいのは命だけだでいい』ってな――――」

 

暁は饒舌に気分よく高らかに話す。胡乱は全身を震わせて俯いている。暁はそんな少年の様子を見て更に笑みを浮かべる。

しかし途端に表情を戻せば突如暁の身体が膨張する。

 

「本当は今夜、お前ら共々食うつもりだったが色々想定外ってやつだぜ。それに俺は鬼で剣士なんかじゃねぇ!凝ることに凝らねぇのも長生きの秘訣よ」

「っ!」

 

膨張させたまま暁は話し始めると口を大きく開き、体内から無数の手裏剣を放つ。白叡は胡乱を庇うようにして前に立ち、刀を振るって手裏剣を弾いて防ぐ。

白叡の右肩と左肘に刺さっただけで胡乱は無傷だったが、暁の姿は消えており白叡は小さく舌打ちをする。

 

「おい、俺は直ぐに奴を追う。お前は早く家に帰れ、いいな」

「……そんな……そんなまさか……」

「おいしっかりしろ!たく…………」

 

呼びかけても反応を示さない胡乱を見て、後を追うのを断念せざるを得なかった。

 

 

 

 




〜〜大正コソコソ噂話〜〜

白叡の大好物はアイスクリンで、稽古の合間に左右田に連れられ初めて食べた時にハマったらしいぞ。
その中でもバニラ味が特に好きで、1日5本以上食べる時もあるとか。
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