テスト期間やら卒業研究やらで執筆が遅れました(´TωT`)
今回も急ぎ足で書いたので今まで以上に駄文ですがどうぞ!
あれから数ヶ月後。ある一報を知らされたのは白叡が任務に出ている時の事だった。
いつも通りに鬼を討伐し帰路につこうとした時、彼方から日和号とは違う鎹鴉が一通の文を持って飛んできた。文の差出人は煉獄杏寿郎と書かれていた。
「杏寿郎から?普段なら帰ってきた時に送ってくるのに……」
白叡が鬼殺隊として任務に出るようになってから、毎度任務から帰ってくる度に文が送られてきた。しかし今日は珍しく帰る前に送られて来たことに少し疑問に思いつつも手紙に目を通した。
「………」
やれやれ、どうせ『帰ってきたら是非手合わせを!』といった内容だろうと、快活な友人が顔を思い浮かべながら開かれた文には、ただ短く書かれた一言だけだった。
白叡の表情はあまり変化はなさそうだが、どこか哀愁漂う表情をしている。そらも束の間、白叡は何かをじっと堪えるような思い詰めた顔で、文を落としたことにも気づかないほど帰路を走っていった。
気づかず落とされた文には、震えるような字が並び、所々濡れた後が着いていた。
“母上が亡くなった”
白叡は表情はあまり変わっていないものの、焦る思いで疾走していた。確かに出会った頃から杏寿郎の母、瑠火は病を患っており現代医学では直せない不治の病だと聞いてはいた。しかしあまりに急な訃報に流石の白叡も焦る。数日前から槇寿郎の様子がおかしくなったことを白叡は感じており、それが瑠火の病のことが原因なのかは分からない。しかし今の槇寿郎の精神状態では何をするか分からない。
白叡は走りながら日和号を左右田の元へ飛ばす。取り敢えずはいち早く煉獄邸へつかねばと、更に走りを加速させた。
―――――
左右田も瑠火の訃報を聞き、白叡が知らされる前に煉獄邸へ訪れていた。出迎えたのは長男の杏寿郎で、普段の明るさが見えなかった。案内される途中に左右田は、荒らされた部屋を見た。
「相当荒れてんな……」
「………申し訳ありません。父上は母上が亡くなった日からからあんな状態で……」
「構わねぇよ。心中お察しって奴だ……」
部屋へ入れば、いつも上半身だけ起こして出迎えていた瑠火の姿はなく。眠ったように仰向けで、微動だにしない彼女の姿が視界に入った。
「………葬式はどうすんだ?」
「父上もあの状態なのでできるだけ親族だけの小規模で行うつもりです」
「そうか………じゃあ今のうちに挨拶しとかねぇとな」
左右田はそう言うと瑠火のそばに正座すれば、左右田は両手を合わせ黙祷する。そこに白叡が飛ばした日和号が飛んできた。左右田の代わりに杏寿郎がやり取りすると、飛びさっていった。
左右田は目を開き立ち上がると、もう少しで白叡が来ることを伝える。すると左右田は突如部屋を出て行く。杏寿郎は左右田のいきなりの行動に困惑気味にどうしたのか尋ねる。
「決まってんだろ。客来てんのに放ったらかしのおっさんに文句言いに行くんだよ」
「よもや!それは困ります!」
「んだよ。本気にすんな、ちょいと話したいことがあるだけだ」
「いやいや、今の父上はそんな状態じゃ……」
「ワッセローイッ!!!」
左右田は杏寿郎の制止を振り切り、槇寿郎の私室の戸を謎の掛け声と共に蹴破った。杏寿郎は声を出すことも忘れて唖然とする。
「何か凄い音がしたけど何が………って何?何でこんなことになってんの」
そこへ戸の破壊音を聞き、家主の許可無く慌てて入ってきた白叡は、全く現状を理解出来ず困惑していた。更に言うと、戸を蹴破った左右田を含め眼前に現れた3人を、槇寿郎はただじっと睨むだけだった。
―――――
白叡が煉獄邸へ到着しまず最初に聞こえたのは、何かが壊れる音だった。突然のことに白叡は挨拶も忘れ屋敷の中へと入る。すると屋敷の廊下で唖然としている杏寿郎と、槇寿郎の部屋のある戸が破壊されているのが見えた。更に室内には戸を破壊した犯人であろう師の姿と、それを睨みつける部屋主の姿だった。
暫くの沈黙。杏寿郎は唖然とし、左右田は不気味なくらい真顔で、槇寿郎は睨みつけ、白叡はポカーンとして、四者四様と部屋の周りが混沌としていた。やがてその混沌を作り出した男が口を開く。
「たく……。随分と酷でぇ様だな。散らかしまくってんじゃねーか」
「散らかしたのお前だろ!」と白叡は思わず言いそうになるが、既で我慢し口からその言葉は出ることはなかった。しかし、戸を蹴破る前から部屋は散らかっていたのだろう。槇寿郎のものと思われる書物が散乱している。
「炎柱ともあろう男が………こうまでなるとわねー。足の踏み場もねーや」
左右田は無遠慮に部屋へ入り、散乱した書物を踏まないように歩く。睨むだけだった槇寿郎は漸く口を開いた。
「お前には分からんだろう……。失ったもんの悲しみを……」
「おっさんの泣き言なんか聞きたかねーよ。あんたがそんなんじゃ、瑠火さんも逝けるに逝けねーぞ」
「おい師匠。それはなんでも―――「黙れ!」――っ!」
歯を食いしばり、左右田を見ているようで見ていない双眸をギラつかせながら、槇寿郎は唸るように声を出した。それに左右田はいつも通り適当な様子で返す。しかし些か不謹慎なその言い方に白叡が咎めようとするも、槇寿郎の怒りの号砲でかき消された。
「貴様に何が分かる!?あいつが目の前で苦しんでいても、自分は何まできなき無力さ!なんで瑠火だった!あなんであいつが死ななきゃならない!」
槇寿郎の虚しさを孕んだ声に、静寂が空気を支配する。暫く居心地の悪い沈黙が続くかと思われたが、左右田がその沈黙を破った。
「………白叡。杏寿郎連れて違う部屋行ってろ」
「え?ああ……分かった。行こう杏寿郎」
「父上……」
左右田は白叡に言うと、白叡は杏寿郎を引っ張っていく。杏寿郎は去り際に槇寿郎を悲しそうな表情で一瞥を投げるが、槇寿郎はそんな杏寿郎の方を見ることは無かった。そんな2人がいなくなるのを左右田は確認すると、はぁっと息を吐く。
「こっから先はガキに聞かせらんねーからな。2人きりにさせて貰ったぞ」
「…………」
「てめぇの大事なもん失ったらそりゃつれーよな。鬼から救えなかった見知らぬ奴の死体見ては苦しそうな面してたアンタが、目の前の愛した女一人救えなかったらそうなるわな」
「……分かるものか」
「分かんねーよ。んなもん簡単に分かるなんて言えてたまるか。簡単に分かるって言う奴は、大体詐欺師か接待飲酒店の厚化粧の女だけだ。……でもよ、俺らは鬼殺隊、それも柱だ。んな所で腐っててどうするんだよ」
槇寿郎は何も答えなかった。元々、左右田自身が誰かを慰めたり勇気づけたりするのが苦手だ。自分でも気持ち悪く思うし、そう言う人格じゃない。だからこれは左右田なりの励まし方。左右田は槇寿郎のことを普段から「おっさん」だの「クソ親父」だの口悪く言っているが、言葉には出さないものの柱の中で誰よりも尊敬している。
「………どうせ俺が戦ったって意味は無い」
「あん?」
「これ以上俺は強くはなれん……」
「んだよ、らしくねぇ」
「所詮俺達が使う呼吸法なんぞ、日の呼吸の劣化版でしかない!」
槇寿郎の実力を左右田はよく知っていた。柱であることから強いの言わずもがな、その柱の中でも相当な実力者だ。そんな男の弱気な発言に、左右田は真剣な表情を崩した。鬼の驚異から人々を救うために磨き上げた己の技術を劣化版と称した。
「始まりの呼吸……。1番初めに生まれた呼吸にして最強の御業!所詮俺達の呼吸は日の呼吸の贋作でしかない!お前のもそうだ!所詮俺達がどれだけ足掻こうが、日の呼吸を使う才能を持った剣士が鬼を全て倒す!才能のない俺達は所詮犬死するだけだ」
「……………そこまで落ちぶれたかよ、おっさん」
左右田は小さく言った。彼の目は酷く冷えており、槇寿郎を見下ろしていた。
「才能がどうした?始まりの呼吸がどうした?んな事で俺が剣を握らねぇ理由なるかよ……。てめーがやんねーんなら俺がやる」
「……………」
「じゃあなおっさん。俺はアンタに憧れに似たもんを感じてたが、気のせいだったみてーだ。酒に逃げんのは勝手だが、ガキ共に当たんじゃねーぞ」
左右田は完全に槇寿郎から興味が失せ部屋を出て行った。情熱に溢れたあの男はもう居ない。左右田は言い様のない虚しさを誤魔化すために早々に部屋を出て、移動させた白叡を迎えに行った。
―――――
瑠火が亡くなった翌年すぐの柱合会議。産屋敷耀哉の口から、炎柱 煉獄槇寿郎が引退したことを告げられた。聞かされた柱達はそれぞれ惜しむ声を上げた。しかし左右田は特に反応することも無く、「やはりそうか……」とそんな表情を浮かべていた。
「やっぱり槇寿郎さんは柱を辞めましたか……」
「ああ……。余程堪えたのだろうな」
現在、白叡は昨年岩柱となった
「師匠の様子が?」
「そうだ。何時ものようなちゃらんぽらんな様子ではなく、氷のように冷たく、刃のように刺々しい雰囲気だった」
悲鳴嶼に言われ白叡はあの日のことを思い出す。左右田に言われ早々に別の部屋へと杏寿郎を連れて行ったため、その後あの二人が何を話したのかは白叡は知らない。
しかし帰ってからの左右田の様子は少し変であった。いい加減でダメ人間な様は変わらないが、槇寿郎の話を頑なにしようとはしなくなった。
「師匠は槇寿郎さんを尊敬してましたしね。そんな人の萎れた姿を見て、少なからず衝撃を受けたんでしょ」
「師弟関係として付き合いが長いからこそ分かるというものか」
「そうですね。まあ分かるだけで、どうも理解はできませんが」
白叡は淡々と無表情で言った。左右田がなぜ槇寿郎に対して失望を感じているのは理解出来るが、なぜ失望してしまうのかが理解できないのだ。白叡にとって他人は他人でしかない。その他人の中でも自身との関係性の濃淡はあれど、所詮は他人であり別人なのだと思っている。それは家族や友人、師と仰ぐ左右田であっても例外なくだ。
別に薄情者という訳では無い。しかし他人と自分の間に一歩、二歩離れた所で接してしまっているのだ。これは意識的と言うより無意識にである。幼少期には稽古ばかりに熱中しすぎて、他人とのコミュニティを作らなかった弊害と言えるだろう。
「心配なんだな……」
「……まぁ、あまり弱さを表に出さない人ですからね」
悲鳴嶼の言葉に白叡は、この日漸く無表情を崩しはにかむ様にして微笑を浮かべた。それだけで白叡の優しさが垣間見えた。普段は年不相応の落ち着いた雰囲気と、奇妙なぐらいに動かない表情筋からは想像できないあどけない顔を、時々奇跡に近い確率ですることがある。因みに左右田のいい加減な言動には、しょっちゅうゴミを見る目で見ているのだがそれは別として。かれこれ5、6年の付き合いになる耀哉でもそう滅多に見たことは無かった。
しかし生憎と悲鳴嶼は盲目であるが故に、その奇跡を見ることは出来なかったが、見えてないが故の知覚能力で察する。
「普段はちゃらんぽらんのくせに、やる時はやりますからね……。ホント、すぐに女性に手を出すし。この前なんか帰りが遅いと思えばその日出会った女性の家に寝泊まりとか―――――」
白叡は次から次えと師である左右田の愚痴を零し始める。聞いた話では担当の刀鍛冶の女性と2人で、左右田の愚痴を言い合ってはストレスを解消しているのだそうだ。影で弟子にこれほどの愚痴を言われている左右田に悲鳴嶼は、泣きながら心の中で合掌するのであった。
〜〜大正コソコソ噂話〜〜
白叡はよく悲鳴嶼の元で徒手空拳の稽古をつけてもらっているぞ。最初は左右田が面倒くささ半分で勧めたが、今では粗相を犯すと白叡に殴られると後悔しているらしいぞ。