蒼き鋼と鋼鉄のアルペジオ Cadenza   作:観測者と語り部

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航海日記27 集う!蒼き艦隊

 千早群像は硫黄島に建設された隠し基地の中で、超兵器に関する資料を読んでいた。

 既にアマハコトノは霧の超戦艦として行動を開始しており、群像と別れて北極海の入り口を封鎖している。

 

 ベーリング海峡を越えて、攻めてくる敵艦隊の数は脅威だが、それを軽々と抑え込む超戦艦に指揮された霧の日米連合艦隊。その力は圧倒的と言っていい。

 

 そして、北を抑え込むために、南洋諸島を始めとする領海が手薄になっているのも、また事実。

 南北から挟み撃ちを受け、消耗戦を挑まれる状況が続くと、来るべき超兵器決戦で負ける可能性が出てくる。

 それをさせない為に、蒼き鋼の遊撃艦隊が結成されるという訳だ。

 

 アドミラリティ・コードの命令によって海洋を封鎖をしなければならない霧の艦隊は、それを解釈することによって、何とか戦えている。

 

 侵略による海域の占有を始めた敵艦隊に対して殲滅行動を行い、再び霧の艦隊による海上封鎖を再開するために。

 

 しかし、その命令によって霧の艦隊が自由に動けないのも確かなのだ。

 いっそ呪いともいえる命令は、強力な強制効果を持っていた。

 艦隊を自由に領海から動かせないのは、同時に自由な作戦行動の妨げにもなっている。

 

 コトノによれば、それに対してヤマトとムサシが一時的なコードの書き換えを行おうとしているらしい。

 

 命令の一部を書き換え、艦隊を自由に動かせるようにすることで、元凶がいると思われる北極海に侵攻。敵の中枢を一気に叩くのが最終的な目標になる。

 

「群像。戦術ネットワークに重要そうな情報がアップされた」

「空間モニターに表示して見せてくれ」

 

 群像を手伝い、超兵器や各地の戦況に関する情報をまとめていたイオナが、新たな情報を空間モニターに表示する。

 

 そこには地中海において、イタリア海軍が霧の艦隊を助けるために、戦闘を支援したという内容だった。

 

 沿岸都市を狙った超兵器の攻撃を防ぐため、広域にクラインフィールドを展開して都市を守ろうとしたヴェネト達。

 

 それに対してイタリアを始めとする海軍も、積極的にミサイルなどの攻撃を迎撃し、敵の異邦艦隊に対して反撃を開始したらしい。

 

 来たるべき霧との艦隊決戦に備えて、温存していた最新の艦艇まで持ち出し、人類でも対応できる相手に攻撃。

 時には霧の艦隊に戦術的な作戦行動を提案しながら、地中海に面する国々を守り切った。

 

「なるほど。朗報だな」

「そうなの?」

 

 イオナの言葉に群像は頷いた。

 

「ああ、未だに霧に対して、憎しみや恨みを抱いている人間は多い。この状況を利用して、霧の艦隊を攻撃しようとする動きは、どこの国にもあった。だから、霧の艦隊を援護して、一時的な休戦や協力体制が嘘偽りでないと表明したこの結果は大きい」

 

 実際、日本国内でも政府が世界情勢を公開し、未知の敵に対して霧と共同する事を表明したにも関わらず、一部の軍閥で霧を攻撃しようとする動きがあったらしい。

 

 一時的とはいえ停戦協定を結び、困窮する国内の支援まで行っている霧の艦隊。

 それに対して攻撃を行えばどうなるか。答えは火を見るよりも明らかだった。

 

 人間と同じように、人類に対して不信感を持っている霧が多いのも、また事実。

 そうなれば、第三勢力の異邦艦隊を無視して、三つ巴の戦争に発展した可能性は高い。

 結果として真っ先に滅ぶのは人類同士で殺し合いもしている人間のほうだ。

 

 それを阻止するために上陰次官を初めとする官僚。

 そして17年前の大海戦を経験した北良寛や軍人たちが、積極的に状況阻止に動いている。

 説得を行い、それが不可能であれば、相手が行動を起こす前に武力による鎮圧も辞さない。

 これは、どこの国においても同じ状況であった。

 

 そんな中で、イタリアが霧と共闘した事実を、全世界に向けて公表したことは、霧と人類の共同路線を証明する歴史的快挙となる。

 

 海上封鎖を行い人々を苦しめる霧を恨んでいる人間も多いが、紛争や困窮を押し付ける国を恨んでいる人間も多い。

 

 状況次第で人々の心はどちらにも傾くなかで、この情報はまさに僥倖とも言えた。

 

 ボロボロになった大戦艦ヴィットリオ・ヴェネトの上で、人々と躯体(メンタルモデル)が手を取り合い、抱き合っている姿を映した画像まで公開されているのだ。後ろには一部が崩れてしまったが、無事な都市の姿もある。真実を告げる証拠としては充分だろう。

 

 飢えの苦しみから人を救うために、霧の艦隊は支援活動を続けている。

 そこに人々を守るために、戦ってくれている状況を世界中に公表すればどうなるか。

 少なくとも国を恨んでいる人々の心は、霧の艦隊に付くのは明白だった。

 

「この躯体(メンタルモデル)、ヴィットリオ・ヴェネト?」

「それがどうかしたのか?」

「ヴィットリオ・ヴェネトが恥ずかしがっている理由が分からない」

「案外、イタリアの国や人々が気に入っているのかもしれないな」

「そうなの?」

「ただの予測さ。気になるなら本人に聞いてみるといい」

「分かった。今度聞いてみる」

 

 イオナと会話を続けながら、群像はさらに資料を読み続けた。

 戦う前に敵の情報を収集するのは、艦を預かる艦長として当然の義務だ。

 その情報を元に戦術を組み立て、艦隊を勝利に導いていく。

 それが、ひいては自分を支えてくれているクルーや躯体(メンタルモデル)の安全につながる。

 

「さすがヒュウガだな。敵の情報が、こんなに詳しく書いてある」

「ん。でも、イオナ姉さま。ご褒美に寵愛を下さいませって抱きついてくるのは勘弁」

「はは、彼女なりのコミュニケーションなんだろう。後で労ってやらないとな」

 

 レパルスが持ち帰ったあらゆるデータを解析したのは、霧の中で随一の技術力を持つと自称する大戦艦ヒュウガの躯体(メンタルモデル)だ。

 

 コトノからデータを受け取った群像が、さらなる情報を求めたとき。イオナ姉さま、お任せくださぁい(ハート)。と情報解析の役を買って出た。

 

 そして戦闘データから敵の長所と弱点ともいえる欠点を導き出した。

 

 特に大戦艦プリンス・オブ・ウェールズが最後に送ってきた粗い画像データから、もう一隻の超兵器を割り出し。偵察衛星や巡洋戦艦レパルスが観測していたデータと併用して敵の正体と能力の秘密を探り当てたのは大きい。

 

 もう一隻存在した超兵器の名は、超巨大双胴強襲揚陸艦デュアルクレイターで間違いない。

 

 こいつの能力が厄介で、この世界に転移する異邦艦よりも早く、自らの艦内で"建造"を行っているらしい。一部の観測装置が捉えた画像を元に割り出し、後部ハッチから艦艇が発進するのを確認している。

 

 転移反応もなしに海域に現れ、東洋分遣艦隊を包囲した正体は、これが原因とみて間違いないだろう。

 

 同時に観測されたデータから、敵は今まで霧が沈めてきた異邦艦の構成素材を流用しているとの事で、それを元に建造や武装の再構成、弾薬の補給。果てはハリマが見せた船体の超再生を行っているという。

 

 デュアルクレイターの能力はそれの補助ではないか。というのが、ヒュウガの予測だ。

 

 事実かどうかを確認するため、コトノから群像に貸し出された403が501と共に、隠密潜水行動による作戦前の偵察を行っている。

 

 報告次第では、超兵器の優先順位を変更し、戦術を練り直さなければならないだろう。

 

 特にデュアルクレイターの能力は脅威だ。

 ヒュウガの話では、敵は蓄積された戦闘データを元に、それに対抗するための艦艇を建造するかもしれないそうだ。

 現に敵の異邦艦は徐々に霧に対抗するように、性能が上昇し続けている。

 それを即座に反映し、短時間で建造するデュアルクレイターは真っ先に潰さなけれならない。

 

 もはや強襲揚陸艦というより、巨大な動くドッグ艦だなと、群像は思う。

 幸いなのは、他の超兵器と比べれば戦闘能力は低いということだろうか。

 ハリマのような防御力と攻撃力はなさそうだ。

 それを補うための超巨大双胴戦艦なのだろうが。

 

 超巨大強襲揚陸艦が建造した艦艇を元に、広範囲な索敵網を展開し、超巨大双胴戦艦によるアウトレンジ攻撃を行う。

 接近してきても、超兵器の火力と防御力で、敵艦隊を削り倒す。

 その損傷を別の超兵器が修復する。

 まさに鉄壁と言える布陣。

 

 突き崩すには、陽動や奇襲による作戦行動が不可欠になる。

 

「艦長、派遣されてきた霧の増援が硫黄島に寄港しました」

「よし、代表の躯体(メンタルモデル)に挨拶に行く。イオナ」

「了解。群像と共に挨拶に行く」

 

 部屋に直接呼び出しに来た、幼馴染の織部 僧(おりべ そう)に応え、群像は港湾施設エリアに行く。

 そこにはコトノによって派遣されてきた蒼き鋼の艦隊と共同する援軍が来ている。

 彼女たちも、躯体(メンタルモデル)を持ち、心を得た存在だ。

 作戦を行う前に挨拶と自己紹介を済ませておくのが礼儀だろう。

 

 いずれは霧と人類が互いを分かり合い、手を取り合って共に生きていく。

 それがコトノと群像の理想とする世界なのだから。

 

 そうして、居住区画から港湾区画を訪れた群像を出迎えたのは、あまりにも特徴的な艦橋を持つ船の姿であった。

 

 バコダ・マストと形容されるそれは、あらゆる戦艦と比べても圧倒的な異容。もとい艦容を持って群像を出迎え、彼を見上げさせるには充分であった。あまりにも、あまりにも違法建築な姿である。

 

 しかし、そんな形でも霧の大戦艦である事に変わりはない。群像は甲板から、ふわりと降り立った躯体(メンタルモデル)に向き直ると、にこやかな笑みを浮かべて彼女を出迎えた。

 

「ようこそ蒼き鋼の艦隊へ。大戦艦フソウを歓迎する」

「私なんかが援軍に来て、ごめんなさい。一応、大戦艦フソウです。霧の艦隊の戦艦やってます。一時的で、小規模しかない派遣艦隊ですけど」

 

 そう、援軍に来たのは大戦艦フソウとヤマシロの二隻を旗艦とする艦隊。

 奇しくも、かつて西村艦隊と呼ばれた編成の、ナガト率いる第二巡洋艦隊所属の船たちだった。

 

 さっそくのネガティブな物言いに、群像も苦笑を隠せない。

 元はヒュウガ率いる第二巡洋艦隊所属であり、その性格もヒュウガ本人から伝え聞いていたが、相変わらずの様子らしい。

 

 史実では欠陥戦艦と評されたように、彼女たちも超戦艦クラスの機関を試験的に搭載したことで、膨大なエネルギーの演算制御がままならず。それによって性能をうまく発揮できないのが、コンプレックスの原因だとコトノは言っていた。

 

 言わば全ての霧の戦艦のテストベッドというべき存在。

 彼女の機関データを元に、建造された霧の戦艦の機関出力は最適化されている。

 

 それを考えれば光栄なことだと、誇らしげにすればいいのだが、度重なる戦闘で散々な結果しか残せていないので、本人たちのメンタルは文字通り"ウツ"ってるらしい。

 

 だが、欠陥戦艦と揶揄されようとも、人類側からすれば立派な戦力だ。

 群像としては、霧の艦船はどのような船でも大歓迎である。

 要は使い方次第なのだ。

 

「悲観することはない。世界的に広がる戦線のおかげで、戦力の配分に余裕がない。そんな状況でも、君たちのような立派な戦艦が来てくれた。俺たち蒼き鋼としては充分心強い」

「立派な戦艦だなんて。お世辞でも嬉しいです。どうぞ、ヤマシロ共々よろしくお願いしますね」

 

 フソウの躯体(メンタルモデル)が差し出した握手を、群像は握り返す。

 援軍が合流した今、蒼き鋼の艦隊は出港準備を完了したも同然だ。

 先導役には修理を終えた巡洋戦艦のレパルスと駆逐艦ヴァンパイアが買って出た。

 

 陣容として艦隊旗艦に群像率いるイ号401を置き、直属艦としてタカオが護衛につく。

 

 その援護を行うのが、船体を取り戻したハルナ。

 ようやく、かつての威容を取り戻し、船体と躯体(メンタルモデル)を手に入れたキリクマならぬ、キシリマ。

 そして姉妹艦のイセから逃げるように、船体を取り戻した航空戦艦仕様の大戦艦ヒュウガだ。

 加えて別働隊として陽動役のフソウ艦隊が加わる。

 

 合計にして大戦艦を5隻という凄まじい規模の艦隊だった。

 群像が信頼されているという証であり、同時に超戦艦一隻でも、北方方面を抑えられるという証明でもある。

 それほどまでに、大戦艦と超戦艦の間には、隔絶たる戦力差が存在する。

 

 霧の艦隊である彼女たちが束になっても、ヤマトとムサシには触れる事すらできないだろう。

 

 だからこそ、南方における早期決着を霧の艦隊は狙う事ができる。

 群像の蒼き艦隊が南シナ海とマラッカ海峡を取り戻し、コンゴウ率いる黒の艦隊は総力を持って、ソロモン方面に進出。

 新たな超兵器反応に接近し、確認次第撃滅する手はずだ。

 

 ここに来て霧と人類の聯合艦隊は防御を捨て、攻勢に転じる。

 

 そこに欧州英国派遣艦隊と太平洋派遣艦隊すら加わり、オーストラリア、インドネシア方面を始めとする南洋海域は、膠着状態を打ち崩す激戦区になろうとしていた。

 




みんな大好き第四次ソロモン海戦が始まるよ。
なお、複数の超兵器がいる模様。
?『本艦の性能を発揮するには水上艦は不要 我々だけで貴様を海の藻屑にしてくれる!まっすぐ向かって来い!』

色紙を開封したら嫁イオナとムサシの奴だった。
そして届いたサントラのジャケットで、作者は二度泣く。
Cadenza~終焉~を聞いて、さらに泣く。

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