蒼き鋼と鋼鉄のアルペジオ Cadenza   作:観測者と語り部

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航海日記30 奏でられない主旋律

 サウスダコタ率いる南洋諸島殴り込み艦隊は圧倒的だった。

 

 特に大戦艦の背後に控えている強襲海域制圧艦群は、いずれも精鋭。

 補給艦と組み合わさって圧倒的な制圧力を見せつける。

 

 広域に渡る侵蝕兵器の嵐。

 雨のように降り注ぐそれは、展開する異邦艦隊を容赦なく粉砕し、消滅させていく。

 

「サウスダコタ姉さん。戦域に新たな敵艦隊の反応が」

「わたしの出番っ! 全・弾・発・射!!」

「ちょっ、レディ・レックス!?」

「そして8インチ砲を抱えての突撃である。えへへ、わたしの8インチ砲。毎日欠かさず磨いてきた8インチ連装砲」

 

 僚艦一隻の突発的な行動に狼狽える大戦艦インディアナ。

 そんな彼女を尻目に突出していく空母型の艦船が一隻存在する。

 飛行甲板の上には、400シリーズやズイカクと同等の幼い容姿をした躯体(メンタルモデル)がいた。

 

 少女の名は強襲海域制圧艦の一隻、レキシントン級の一番艦レキシントン。

 

 彼女は甲板上に供えられた垂直発射管を高速展開。順次どころか全弾一斉射を行い、態勢を必死に立て直そうとする異邦艦隊に、さらなる追い打ちを掛けていく。

 

 インディアナにとっては、それだけでも度し難いのに。彼女はあろうことか、その高速性を活かした突進まで行った。

 

 先頭を行くサウスダコタに並び、甲板上に設置された二つの連装砲を展開して重力子ビームを連射。重巡洋艦にも引けを取らない火力を発揮し、戦艦のような戦いを初めてしまう。

 

「レキシントン! 貴女は強襲海域制圧艦! 後方からの制圧支援が任務でしょうっ!?」

「違うもんっ! わたし、戦艦だもんっ! アカギやカガのライバルだもんっ!!」

「そ、れ、は、元っ、でしょうが!! いいから、後方に下がりなさい!」

「はっはっはっ、いいぞレキシントン。そのまま一緒に突撃だ。ついでに超重力砲で敵艦隊を薙ぎ払ってしまえ」

「らじゃー!」

「もう、やだ。この艦隊……総旗艦アイオワ。インディアナは疲れました。役目を果たす事が出来そうにありません………」

 

 やった~~!! と喜び舞って、武装を乱射しまくるレキシントンの様子に、それを許可するサウスダコタの笑い声。

 

 引き止め役にして、艦隊の参謀でもある大戦艦インディアナは、遠い目をしながら明後日の方向を向くしかない。

 

 パナマに帰りたい。切実に、そう思わざるを得ない。真面目に戦うのが馬鹿らしくなってくる……

 

 レキシントンは元巡洋戦艦である。しかし、海上封鎖を行うに当たって、広範囲をカバーするには空母。すなわち強襲海域制圧艦の力が必要で。だから、彼女は戦艦から空母に改装した経緯を持つ。

 

 だが、バトル・レックスとまで呼ばれた誇り高い戦艦でもあるレキシントン。戦艦だった頃の情熱は、空母になっても忘れることができず。愛用の8インチ連装砲塔を、いつまでも大切にしている。壁のような煙突の内部には重巡洋艦クラスの超重力砲まで備えていた。

 

 おまけに空母になったことで、彼女の躯体(メンタルモデル)は幼くなり、肉体に引っ張られるように精神も幼くなってしまっている。

 

 それ程までに、戦艦としての自分に未練があるらしい。

 

 インディアナにとっては知ったことではないのだが……今のところ、作戦に支障はないし、問題ないのかもしれない。

 

 最悪、妹のシスターサラに止めてもらえば良い。あの物静かで、大人しい。双子のような躯体(メンタルモデル)は怒ると一番怖いのだから。

 

"駆逐艦ベンハム轟沈"

「真下にいるサーゴにコアを回収させろ! 何事か?」

"射程外から大口径の高速飛翔体による直撃を受けた模様。かなりの大型主砲です"

 

 周辺の哨戒に出ていた駆逐艦が一隻轟沈したという部下からの報告。

 

 サウスダコタはすぐさま、回収役の潜水艦にコアの回収を命じ、冷静に周囲の状況を確認していく。

 

 どうやら、敵も反撃に出てくるらしい。

 

「レーダーにノイズの反応が……ノイズ反応、急速に増大中! 姉さん!!」

「超兵器とやらのお出ましか。討って出るぞ」

"先の攻撃の分析が完了。超高性能の誘導砲弾。駆逐艦ではクラインフィールドを貫通されます"

「問題ない。アレを起動させろ」

 

 サウスダコタは続々と届く部下の報告に、ひとつの焦りも見せることなく冷静に対処する。

 

 敵が射程外から超々射撃を行うことは、レパルスによる先の報告で知っている。

 

 それに対抗するための策もちゃんと用意してきた。サウスダコタではなく、アイオワからの贈り物であったが。とにかく対策は用意はした。

 

 ならば、あとは使うだけだ。

 

 超巨大双胴戦艦ハリマでなくとも、敵味方の遠距離攻撃、すべてを封殺する手段を。

 

「こちらヨークタウン。例の装備を使用します」

「黒の艦隊は? ズイカクは?」

「それは後回しだよ。ビッグE」

 

 レキシントンを始めとする強襲海域制圧艦群が、飛行甲板に新たな艤装を展開し、周辺海域に向けて、粒子のような高出力ジャミング波が展開される。

 

 それだけで異邦艦隊のレーダーを始めとする電子機器は使用不能になった。

 

「強襲海域制圧艦は、我ら大戦艦よりも機関の出力が桁違い。故に展開されるジャミングの出力も半端ではないとアイオワは言っていたぞ。妨害専用の装備を使えばこのとおりだ。もっとも我々も"目"を潰されてしまうのだがね。はっはっはっ!!」

「おーい、自慢になってないぞ。サウスダコタ」

「そう言うなワシントン。私もよくは知らんのだからな。あっはっはっ!」

「まあ、私も、人のこと言えないんだけどね。えっへん!!」

 

 サウスダコタとワシントンが揃って笑い声をあげる。

 彼女たちが言うように、このジャミング装置は、霧の艦隊にも影響を及ぼすほど強力なものだ。敵味方を識別できるほど甘くはない。

 

 だが、未知の性能を発揮する超兵器に影響を及ぼすには、こちらも全力でなければ意味はない。そう考えたアイオワによって用意された装備であった。

 

 これにより敵味方を通して、レーダーなどを併用した遠距離攻撃は著しく精度を落とす。

 ミサイルなどの誘導兵器も、レーダーと併用した電探射撃も意味を為さなくなる。

 

 要するに、攻撃を当てるには目視による近距離の殴り合いをしなければ為らないということ。

 

 欠点ばかりが目立つ装置だが、どうせ超兵器の発するノイズによって、こちらの電子機器は封殺される。

 

 ならば、相手も同じか、それ以上の状況に陥れてやれば良い。

 

 そんな単純明快な発想だが、クロスレンジでの殴り合いを得意とするサウスダコタやワシントンには関係ない。

 

 むしろ、遠距離からちまちまと削り取られるよりは、互いの生死をかけた至近での砲撃、雷撃戦のほうが性に合っている。

 

 霧側としてはむしろ望むところであった。

 

「あの、サウスダコタ姉さん。黒の艦隊や、東洋艦隊は……?」

「ん? いたな、そんな奴らも。だが、あいつ等も優秀な奴らだろう? 自分で何とかするはずだ。むしろ、そうしろ」

「……あとで小言を受けるのは、私なんだけどなぁ」

 

 ただし、範囲が超広域なので、南西諸島に展開する全艦隊を巻き込むのは避けられない。

 

 同時に作戦を行っている三つの艦隊も、今頃レーダーなどの索敵装置が使えなくなっているだろう。

 

 偵察機を利用した弾着点観測射撃などもっての外だ。

 霧の艦隊と異邦艦隊は無人機を利用しているので、彼らからの光学映像を受け取ることも難しい。

 

 それを覆せるのは超戦艦並みの電子性能・索敵性能に特化した船だけだ。

 

 コンゴウやウォースパイトに苦言を呈される未来を想像し、インディアナはさらに胃を痛めた。

 

 見かねた重巡ソルトレイクシティの躯体(メンタルモデル)が胃薬を渡してくる始末だ。部下のさり気ない労りに、思わず涙まで零れそうである。

 

「なに、心配するな。その欠点も含めて、ヤマトや例の艦長が布石を打ったのだろう? 目を潰されるのは奴らだけさ」

 

 それはそうだが、物事には手順というものも存在するのだ。

 もうちょっと、独断専行を控えて。こう、周りとの連携を考えてほしい。

 せめて事前に連絡をしてくれれば、同僚に対する不平不満も……

 

 そんな絶対的に不可能な願いはきっと叶えられないのだろう。

 インディアナの苦労はまだまだ続いていく。

 

「旗艦より全軍へ! 敵の攻撃を恐れるな、我に続けっ!」

「各艦は密集陣形を取り、クラインフィールドの防御能力を高めろ!」

「敵艦隊の奇襲に対し、火力の集中で持って反撃する!」

 

 サウスダコタとワシントンの躯体(メンタルモデル)による号令に、霧の米艦隊が応え、一糸乱れぬ艦隊運動を展開する。

 

 大戦艦を先頭として、左右を重巡洋艦が固め、陣の内側に強襲海域制圧艦と駆逐隊が続いていく形は、一つの矢のようであった。

 

 サウスダコタの隣にいるレキシントンは例外だが。

 

 サウスダコタが言うように、たとえ超兵器が突っ込んできても、集中砲火で落とせる艦隊規模を展開している。

 

 ハリマの遠距離による大火力攻撃も、クラインフィールドを貫通するには至らない。或いは大艦隊同士の撃ち合いになるかもしれないが、その時は接近して水雷戦隊を突入させ、乱戦に持ち込む。

 

 どんな状況に陥ろうと、即座に反撃して返す。距離を取って逃げようとも、艦隊は高速性を発揮して追い詰め、包囲網をさらに狭める。

 

 大戦艦(ウェールズ)一隻、落としたくらいでいい気にならないで欲しいものだ。

 

 人類を海洋から追い出した霧の力の一端。まだまだ、こんなものではない。

 

「超兵器反応さらに接近。サウスダコタ、ついに来るよ~~」

「ふっふっふっ、何隻でも掛かってくるがいい。我々は無敗だ。返り討ちにしてやる」

「サウスダコタ姉さん。それ、慢心だから……」

 

 調子に乗るサウスダコタとワシントンの二隻をたしなめるインディアナ。

 やがて、島影から現れた超兵器に対し、正確無比な閃光が撃ち出されたのだった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 超巨大ホバー戦艦(アルティメイトストーム)の一隻は困惑していた。

 

 自らに意思があるのか、知らない乗組員でも搭乗しているのか、分からないが。彼らには確かに思考できる意志が存在し、それに従って新たな艦隊に攻撃を仕掛けた。ここまでは良い。

 

 その小島のような、巨大な船体に似合わず、60kt以上の高速で移動し。島々の陰に身を隠しながら、新型巨大砲AGSによる超遠距離からの精密砲撃を仕掛ける。そして駆逐艦を一隻撃沈した。

 

 その後に何らかの妨害攻撃を受けて、レーダーや電子観測機器が使用不能になり。味方との相互通信を利用した情報の伝達と共有もできなくなった。遠距離攻撃の為の目を潰されてしまったのだ。

 

 敵がそう来るなら、今度は高速性と陸上移動可能な走破性を持って、島を乗り越え。予想外の方向から奇襲と一撃離脱を繰り返す。アルティメイトストームは、そうやって豪州に展開する艦隊を翻弄してきたし、それは確実に通用すると判断した。

 

 敵が観測に使っている偵察機や、潜水艇が機能を失っている様子を、目視で確認し。敵も自らの妨害波で、索敵装備を使えなくなっている様子だったからだ。

 

 そうして島を勢いよく乗り越え、敵艦隊の懐に飛び込んで、陣形を掻き乱し。敵艦隊に痛打を浴びせて、時間稼ぎを行う。筈だった。

 

 囮となった同型超兵器の僚艦が火を噴いて沈黙。次の瞬間には押し潰されるように集中砲火を受けて轟沈した。敵の重力兵器によって超兵器機関ごと消滅したらしい。

 

 何故、攻撃を受けている? 敵は超兵器のノイズと自らの妨害波で、死角や索敵範囲外を確認できないはず……

 

 そう疑問に思っているうちに、さらなる攻撃がアルティメイトストームに着弾し、船体の耐久力を一気に損失。内部の構造体と甲板上の推進装置を破壊されて、浮力を失ってしまう。

 

 結局、アルティメイトストームの二隻は自分たちが何されたかも分からないまま、侵蝕兵器と超重力砲の集中砲火で消滅した。

 ティモール海を出て、東洋艦隊を迎撃している超巨大高速空母アルウスも、そう長くは持たない。

 

 だが、アルティメイトストームを失おうが、アルウスが轟沈しようが関係ない。所詮、奴らは量産型である。真の超兵器を前にすれば、赤子も同然。せいぜいデュアルクレイターと連携するハリマ程でなければ話にならない。

 

 快進撃を続ける霧の艦隊に対し、バンダ海に微量な超兵器反応を有する戦艦の群れが立ちはだかろうとしていた。その姿は、大和型戦艦とモンタナ級戦艦に酷似していたのである。

 

 その背後で、島が動いていた。




ねんがんのアルスノヴァ・オフィシャルアーカイブスinカデンツァをてにいれたぞ。

スペック見て、超戦艦に勝てる気がしない。ページをめくる。
……ヤマトの髪型がすごいことになってた。

ムサシのスペック
Class YAMATI-Class Super Battle Ship
Leqth263.0m  Beam38.9m  Draft20.915m
Displacement:69220tons
Mental model:DeltaCore Hyper TaskModel×2
Propulsion:Graviton Engine/Type-G×720(Super High Mobility Unit×2)
Maximum Speed:more than 75knot(Surfaced)
              38knot(Submerged)
Test depth:1200m Structure:Nano Material
Sensor:SONAR(Sound/Graviton Active/Passive)
     :Phased Array Radar System
     :Composite Sensors
     :External Cameras
     :Wafer-scale lntegration 4dimension analysis system
Armor:Wave Motion Compulsory Conversion Device Armor
Armament:Main Gun:460mm/50mm 3 Barreled Complex Active Turret×3
     :Super Gravity Cannon,:Focused Gravity Unit×16
     :Large Focused Gravity Unit×8
     (4Dimension Space Curvature Displacement System)
     :155mm/200mm 3 Barreled Complex Active Turret×2
     :Mirror Ring System
     :533mm torpedo tubes×20(Under Water Line)
     :127mm 2-Barrel Charged Particle Beam Launcher×6
     :25mm 3-Barrel Pulsar gun×50
     :25mm Pulsar gun×2
     :13mm 2-Barrel Pulsar gun×2
     :Vertical Launche System×72
     :Graviton Beam Ram×1
     :Passive Decoy System

先生、読めないっすw

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