蒼き鋼と鋼鉄のアルペジオ Cadenza   作:観測者と語り部

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航海日記34 超兵器ハリマの最期

「うらぁぁぁっ!!」

 

 何度目になるのか分からないヒュウガの咆哮。

 彼女の動きと連動するかのように降り抜かれるドリルアーム。

 

 ナノマテリアルで構成された超硬ドリルが、高速回転しながらハリマの船体を抉りこみ、重厚な装甲を粉砕していく。

 響き渡る甲高い音は、金属が発する悲鳴のようで、酷く耳障り。

 そんな光景が何度も繰り返されている。

 

 既にヒュウガとハリマの両艦は互いにボロボロであり、甲板上に展開している艤装はどれも無残な姿を晒している。

 

 所々に穴が開き、破砕され、マストや通信アンテナが折れ曲がり、主砲の砲身は折れるか、曲がるか、花咲かせるかで、無事なものは一つもない。

 

 甲板は爆弾でも落とされたかのような有様で、隅々まで穴だらけ。ミサイル発射管まで丁寧に破壊され、使い物にならない。あやうく誘爆しかけて、内側から崩壊しそうになったこともある。ヒュウガの航空甲板など、ガラクタ置き場のようだ。

 

 互いに船体の再生能力を持っている。しかし再構成した傍からハリマの副砲やロケット砲が粉砕し、タカオやキリシマ達が侵蝕兵器で相手を消滅させる。あるいは荷電粒子砲で消し去ってきた。主兵装は絶対に潰す。残るのは決め手に欠ける近接兵装のみである。

 

 超兵器の副砲は、巨大な船体に比例するかのように大きい。スペック以上の威力を持っている。

 対するヒュウガのドリルも、先端が折れても、全体がひび割れても、その度に再構成して、相手を何度も抉り倒す。

 

 時間はそんなに経っていないが、体感時間は何時間も過ごしたように感じられ、互いに殴り合った友情さえ芽生えそうな雰囲気だ。

 ヒュウガとしてはごめん被るが。

 

「ラウンドスリーってとこね!? いいかげん倒れなさいよ。このデカブツッ!!」

 

 艦橋の上で白衣を翻しながら、ヒュウガが左腕を振りぬく。

 すると、船外に展開するアームが連動するように、ハリマの再生した主砲を打ち砕いていく。

 副砲群の反撃を受け、クラインフィールドを貫通した砲弾が、ヒュウガの船体を傷つける。

 

 そして、ハリマの巨体がヒュウガを振り解き、それに食らいついたヒュウガが再びドリルで攻撃を仕掛ける。

 

「いくぞ、キリシマ」

「主砲、全砲門一斉射!!」

 

 ヒュウガが離れた合間を縫って、大戦艦ハルナとキリシマの主砲からビームが発射され、ハリマの装甲を分解する。

 しかし、何らかの防御力場に遮られた光線は、思うような威力を発揮しない。

 開いた装甲の穴をすぐさま塞いでいくハリマ。同時に浸水した箇所からすぐに排水が行われる。

 

「くっ、どれだけしぶといのよ。もうっ!」

 

 何度目かになるかも分からないヒュウガの悪態。

 少しずつではあるが、ハリマの喫水は上がってきている。

 度重なる損傷で浮力を失い、航行速度も徐々に下がってきているようだ。

 しかし、押し込まれているのはヒュウガ達のほうであった。

 

 大戦艦の中でも特に演算能力に優れるヒュウガが、自ら囮となって接近戦を挑んでいるのだが、すでに装甲を再生するためのナノマテリアルが尽きかけている。このままでは遠からず再生できなくなって、文字通り撃沈される。

 

 対するハリマは、集中砲火によるダメージを食らっているとはいえ、沈む気配がない。

 巨大すぎる船体。ましてや巨大な双胴船体である。

 予想以上の浮力を持ち、装甲も分厚い。多少の損傷ではびくともしない。

 

 自身の船体に貯め込んだナノマテリアルしか使えないヒュウガと、周囲に展開する護衛艦艇を直接取り込んで再生力にできるハリマの差が、ここにきてヒュウガを苦しめていた。

 

 せめて、ハリマの再生能力が衰えてくれれば、超重力砲による一斉射で、ハリマを完全消滅させる事が出来るのだが。

 

 そんな時、ヒュウガの前で、流動するかのように動めく、ハリマを構成する金属の流れが止まった。損傷個所を塞ぐように流れ込んでいたそれが止まったのである。

 

 つまり千早群像はやってくれたのだ。

 ハリマの再生能力を支えていた超兵器、デュアルクレイターを水底に沈めたに違いない。

 あとは撃沈まで、押し込むだけだ。

 文字通り二度と再生できないように、コアとなっている超兵器機関を消滅させれば、ヒュウガ達の勝利である。

 

「アンタ達!」

「群像さまの為に沈みなさいっ!」

「これで終わらせる……キリシマ!」

「分かってる!」

「ヤマシロ。いくわよ?」

「は~い。艦首超重力砲。発射用意」

「これが、ウェールズ達の手向けよ」

 

 ヒュウガの合図で、一斉に超重力砲を展開する大戦艦と重巡洋艦。

 船体から発光する紋章光(イデア・クレスト)と同じ輝きの重力子が収束し、空間を眩く染め上げて、各艦が一斉に超重力砲を放つ。

 だが、ハリマも只ではやられはせんと、残った火砲の全てをヒュウガに解き放つ。

 

 煌めく閃光が超兵器を撃ち貫き。

 遅れて降り注ぐ破壊の嵐が着弾すると、航空戦艦であるヒュウガの船体も耐え切れずに爆沈した。

 

 それは、それぞれの超重力砲が干渉しあって、凄まじい重力波で押しつぶされ、分解されていくハリマの最後の意地であった。

 同時に、霧の艦隊を苦しめた超巨大双胴戦艦が閃光に包まれて消えていく。

 あれでは超兵器の源である超兵器機関も跡形もなく消えているだろう。

 

「ヒュウガ!」

 

 重巡タカオの必死な叫び。

 元とはいえヒュウガは彼女の旗艦だった存在である。

 いくら元が兵器といっても、感情を得始めた彼女にとって、仲間の轟沈に思うところがあったのかもしれない。

 

「ヒュウガ……アンタ、こんなところで沈むなんて……」

『ちょっと、勝手に殺すな! イオナ姉さまがいるのに、死んで堪るかっての!』

 

 そんなセンチメンタルな気持ちに促されるタカオに、ツッコミを入れるヒュウガの叫び。

 どうやら無事なようだが、概念伝達を使用しているところを見ると、船体は完全に失われてしまったようだ。

 ブーストされたメンタルモデルの通信機能を使わずに、概念伝達を頼りにしているところからも、ヒュウガの状態が(うかが)える。

 

「ヒュウガ、無事なの!?」

『なんとかね。超重力砲同士が干渉しあって、空間位相に乱れが生じ始めてる。概念伝達通信が完全に使えなくなる前に、、回収して頂戴』

「ぶ、無事ならいいのよ。待ってなさい。すぐに助けてあげるから」

『お願いね~~』

 

 疲れたように呟くヒュウガに、タカオは恥かしそうに応じる。

 早とちりしてしまった自分の醜態が恥ずかしかったらしかった。

 もっとも、ハルナやキリシマなどは仲間の安否を気遣うタカオの様子に、微笑ましそうにしていたが。

 

 タカオが重巡洋艦である自らの船体を、ヒュウガの通信位置に近づけると、人が入れるくらいのタマゴ型カプセルが浮かんでいる。

 硫黄島でタカオや401を出迎えた時に、ヒュウガが入っていた多数の機能を有する万能ポッドだ。

 どうやら轟沈する際、自らの足場と補助として使っていたそれに、咄嗟に乗り込んだらしい。

 

 船体の爆風や、超重力砲による干渉を、いちばん近い位置で受けても無事だったのは、これのおかげだったようだ。

 もっとも、重力子機関が暴発していたら、横須賀でのハルナ、キリシマと同じように問答無用で分解された可能性もある。

 ある意味で間一髪だったという訳だ。

 

 後部甲板のクレーンを使って、ヒュウガの入ったポッドを釣り上げるタカオは、ふと新たな艦隊の反応を感じて、そちらに顔を向けた。

 

「東洋艦隊。霧の欧州英国艦隊が何故こんな所に?」

「大方、プリンス・オブ・ウェールズの敵討ちでもしに来たってとこでしょ。私たちが完全に沈めちゃったけど」

 

 タカオの疑問に、万能ポッドから出たヒュウガが答える。彼女は、そのままタカオの立っている艦橋の真下に移動してきた。

 

「ふん、余計なお世話だったって訳?」

「そんな礼儀知らずな連中でもないみたいよ。先頭の大戦艦なんて頭下げてるみたいだしね。感謝くらいはしてるんじゃないかしら」

 

 ヒュウガが言うように、近づいてきている東洋艦隊を率いるメンタルモデルが優雅な礼をしていた。

 艦の形状や、所属を示す紋章光(イデア・クレスト)を見る限り、あれは恐らく大戦艦ウォースパイトだろう。

 背後に控えている大戦艦は同じクイーンエリザベス級や、キングジョージ五世級。

 強襲海域制圧艦インドミタブル。それを護衛する重巡洋艦や軽巡洋艦。複数の駆逐艦などの姿もある。

 

 どの艦も等しく損傷を抱えており、どうやらインド洋から封鎖されたマラッカ海峡を強引に突破してきたらしい。

 報告では別の欧州艦隊が、ティモール海の入り口を抑え、超兵器とも一戦交えたと聞いている。

 行く先々で敵艦隊を打ち破り、短時間でハリマのいる海域まで突破してきた手腕は、素直に賞賛すべきだろう。

 

 それらが全て、東洋艦隊を任されたウォースパイトの手腕なのだ。

 

 もしも、敵になったとしたら侮れないだろうとタカオは考える。

 あの艦隊は損傷はしていても、損失を出していないのだから。

 

 どちらにせよハリマの轟沈は避けられなかったということか。

 あれだけの規模の艦隊が駆けつければ、いくら頑丈な超兵器でも耐えられない。

 ヒュウガ達が苦戦し続けても、東洋艦隊が止めを刺していただろう。

 

 現れた東洋艦隊を見やるタカオ達に近寄る戦艦が一隻。

 巡洋戦艦のレパルス。それに随伴する駆逐艦のヴァンパイア。

 今回の件における案内役で、蒼き鋼の艦隊が航路に迷わずに進んでこれた立役者の一人だ。

 

「皆様。今回の件は本当にお世話になりました。不在の東洋派遣艦隊旗艦に代わって、お礼を申し上げます」

「ああ、気にしないで。元は同じ霧の船でしょう。困ったときはお互い様よ」

 

 古めかしいメイド装飾に身を包んだレパルスのメンタルモデル。

 彼女は深くお辞儀をすると、代表として答えたヒュウガは軽い気持ちで手を振るい、礼に答えた。

 実際、彼女たちは超兵器を援護する護衛艦艇を多数相手に、足止めし続けた。

 

 圧倒的な性能差とメンタルモデルによる戦術まで加わった戦闘は、いっそ戦艦無双といっていいほど圧倒的。

 おかげでヒュウガはハリマとの接近戦に専念できたのだ。

 感謝こそすれ、責めるつもりは微塵もない。

 

「なら、申し訳ありませんが……」

「気にしないで。後方には黒の艦隊も控えているし、アンタ達、東洋艦隊は奪回した管轄海域の維持で忙しいでしょう?」

「重ね重ね、ありがとうございます」

 

 だから、役目を終えた彼女たちは、ここでお別れだ。

 東洋艦隊の役割は、インド洋と太平洋を結ぶマラッカ海峡の制圧を維持すること。

 後塵の憂いがなくなれば、蒼き鋼の艦隊も安心して、残りの異邦艦隊と戦える。

 その為にも、少なくない戦力であるレパルスとヴァンパイアはここでお別れだ。

 

 ゆっくりとタカオ達から離れていく二隻の霧の船。

 彼女たちを迎えた東洋艦隊は、やがて転身するとマラッカ海峡に向かって、水平線の向こうに消えていった。

 

「さて、私たちも千早艦長と合流しましょうか」

「っ、そうね! 群像さまも待ってるだろうし」

「アンタも相変わらずねぇ」

「別にいいじゃない…………から」

「何か言ったかしら?」

「何でもない!」

 

 ヒュウガにからかわれながらも、タカオは群像のいるであろう海域に船体を向ける。

 それに続くように、蒼き鋼となっている霧の艦隊も付いていく。

 しかし、それを許さない事態が差し迫っていることを、彼女たちは知ることになる。

 

「ッ……これはっ!?」

「どうやら向こうも差し迫った状況みたいね」

 

 タカオの驚愕に満ちた声と、ヒュウガの冷静な分析。

 彼女たちの躯体(メンタルモデル)に送られてきた時空間転送デバイスによる座標指定のコード。

 それは黒の艦隊旗艦であるコンゴウが、切り札の旗艦装備を使ったことを意味していて。

 

 何らかの緊急事態が発生したことを意味していた。

 




Cadenza見て筆力がブーストされる。
書き直したくなる衝動が、書きたくなる衝動に変わって、続きを執筆。

まあ、メンタルモデルの心の問題かいてたら、アレ、これアニメでコンゴウとイオナがやってたんじゃ、てなって没。

予定通りエンディングまで向かって走り続ける

あと、アシガラさんは心の癒し。

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