蒼き鋼と鋼鉄のアルペジオ Cadenza   作:観測者と語り部

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航海日記36 超兵器要塞

「なぜ……私を庇った。ワシントン……」

 

 黒焦げになった船体と躯体を晒したワシントンに対するサウスダコタのつぶやき。

 

 見るも無残な姿となったワシントンは、子供らしい感情を表すこともない。システムを守るために自閉モードに移行し、再起動を掛けている状態だ。場合によっては、メンタルモデルの復旧も難しいかもしれない。

 

インディアナも、ノースカロライナも同じような状況だ。

 

「どうせなら、いつものように……私を囮にすれば良かっただろう……」

 

 大戦艦はサウスダコタを除いて船体が完全に崩壊した。幸いにもユニオンコアは無事だったが、重巡洋艦の中にはコアのデータを損失したメンタルモデルもいる。黒の艦隊が別方向から駆けつけ、敵の動向がそちらに引き付けられなければ、艦隊は全滅していただろう。

 

「すまん……皆、私のせいで………」

 

 後方の支援艦隊から派遣された救援部隊に保護されたサウスダコタの呟きは弱々しく消えた。自らの判断ミスがいくつもの躯体(メンタルモデル)を殺したのだ。悔やんでも悔やみきれなかった。アイオワは自分を責めはしないだろうが、酷く悲しむに違いない。

 

 せめて、残された黒の艦隊と蒼き鋼の艦隊が、敵を討ってくれることを祈るしかなかった。

 

◇ ◇ ◇

 

「まさか、ここで、こちらの旗艦装備を使うことになるとはな」

「艦隊旗艦。システムに不備はございますか?」

「問題ない。機能動作、システム感度、共に正常に稼働している」

 

 僚艦であり、忠実な副官でもあるヒエイの問いかけに、コンゴウは威厳を伴いつつ、静かに呟いた。

 

 イ号403と出会った時よりも、躯体(メンタルモデル)の姿形を大きく変えたコンゴウの出で立ちは、ヤマトのような豪奢な紫のドレス姿となっていた。

 

 それに伴い、船体は神社の鳥居のような装置が搭載され、かつ上下に分かれて展開している。左右にはナノマテリアルを積んだ輸送船型カートリッジを搭載するバルジを展開し、艦の中央から薄黄色に輝く403の船体が、左右のユニットから吹き出すナノマテリアルによって徐々に形成されていく。

 

 これが、大戦艦が積んでいる超重力砲を廃し、転送装置のようなシステムに換装した。新たなコンゴウの姿である。

 

 初めにコンゴウ率いる黒の艦隊が行ったことは、換装した旗艦装備を使って、臨時指揮下に置いた403と501のコアを転送し、船体を再構成すると共に、新たな超兵器に向けて偵察に送り出すことだった。

 

 さすがに人を乗せている401は転送できないので、急ぎ戦域に急行するよう指示している。

 

 次に同型艦であるハルナとキリシマも旗艦装備で呼び寄せ、最後にヒュウガのコアを乗せたタカオを転送。黒の艦隊最大の戦力を展開する。

 

 もっともヒュウガに転送の旨を伝えると、イオナ姉さまと共にいると言って、合流した401にコアの状態で乗船してしまった。恐らく病的なまでにヒュウガを愛する?イセと出会うのを避けたかったのだろう。コンゴウは溜息を吐くしかなかった。

 

 黒の艦隊よりも規模の大きい南洋諸島殴り込み艦隊が、壊滅的被害を受けた以上。迂闊に攻撃を仕掛けるのは愚策。まずは敵の情報を収集することが先決である。その為に隠密行動に長ける403を先に呼び寄せ、その上で迎撃態勢を整えなければならない。

 

 場合によっては用意しておいた切り札を使う。というよりその可能性が高い。

 

「久しぶりだな、403」

「肯定。すぐに出発する」

「ああ、期待している」

 

 そして挨拶もそこそこに、403は徐々に黒の艦隊へと接近してきている超兵器の所に発進した。

 

 急速潜航し、光も届かず底も見えない水面の奥に消えた403は、凄まじい速度で艦隊から離れると、各種センサーの反応が消えていく。ソナーが捉えている航行音も、いずれ海中でかき乱されて、消えるだろう。

 

 こうやって、味方の目すら欺くのだから、敵が捉えようとしても並大抵のことではない。

 

 情報収集して幾つか分かった事だが、敵は一番近く。かつ規模の大きい艦隊に対して優先して追撃するということが分かっている。

 

 次に量産型超兵器戦艦を建造し、それを転移させることで、霧の艦隊の懐に潜り込ませるという戦術。さらに混乱した隙をついて、核弾頭に匹敵する高熱量のミサイルで味方諸共、敵艦隊を吹っ飛ばす戦法も躊躇わないということも分かっている。

 

 ただし、欠点もあるとコンゴウは各種データから予測していた。

 

 まず、量産型超兵器戦艦の建造に時間が掛かるということ。これは霧の艦隊が捉えている超兵器反応の観測結果を、戦術ネットワークで共有した結果、分かったことだ。現在、巨大な超兵器反応の周囲には三隻ほどの小さな超兵器反応しかない。

 

 そして、ヒュウガの分析では、艦隊を異邦から転移させているのではなく、空間と空間を繋げているのではないか。または、コンゴウの旗艦装備と同じように、物質を分解・再構成することで艦隊を転送しているのではないかとの事だった。

 

 また、転送を行うには膨大なエネルギーを必要とする筈だった。従って、転送する艦隊の建造が完了するまでは、次の攻撃は行われない可能性が高い。転送できる範囲は不明だが、少なくとも300km以上は確実だろう。先の戦闘で転送できた範囲は300kmだったのだから。

 

 そこで、ノイズによる妨害電波を退けながら、千早群像と相談を行い。黒の艦隊は賭けに出る。まずは壊滅した南洋諸島殴り込み艦隊の第一艦隊の離脱する時間を稼ぐため、あえて敵超兵器の目を引き付ける。

 

 そして他の潜水艦を凌駕する性能を持ったイ400型を使い。場合によっては強行偵察で、敵の戦闘能力を評価する事も視野に入れていた。こちらは、まだ敵の超兵器の正体すら掴んでいない。しかし、可能であれば敵の建造機能を妨害し、転送装置が外付けだった場合は、それも破壊させる。

 

 よって奇襲能力に特化した403が、まずは一撃を加える手筈になっていた。

 

「コンゴウ暇だよ~~!!」

「煩いぞマヤ。少し黙っていろ」

「ねぇねぇ早く突撃しようよ!! 敵が近くまで来てるんだろう? 私も、早く戦いた~~い!!」

「面倒くさい……ヒエイ、任せるぞ」

「ハッ、コンゴウ様。お任せを」

 

 だが、黒の艦隊は一癖も、二癖もある連中ばかり。素直に大人しくしている訳もなく、約二隻ほどは不満を述べて騒ぐのを止めなかった。暇で暇でついにはピアノを弾きながら暇を訴えかけるマヤに、艦橋の上でぴょんぴょん跳ねながら、同じように暇を訴えかけるアシガラ。

 

 コンゴウは再び溜息を漏らす。

 

 ついには面倒臭くなって、ヒエイに全部丸投げし、生真面目なヒエイが躯体(メンタルモデル)の二人を規律で締め付けに掛かる。黒の艦隊のいつもの光景だった。

 

「生徒会の服装……クマノとスズヤからも不評だったのに変わらなかった」

「生徒会長が決めたことだ。艦隊旗艦からも異議がない以上、早々変わらんさ」

「ぶ~~、前の和服のほうが良かったのに」

「ずずぅっと……あら、この茶葉は美味しいわね。今度からこちらにしようかしら」

 

 同じく待機任務中のハグロも愚痴をこぼし、姉のミョウコウがたしなめる。ナチは艦隊の様子を見ながらも、呑気にお茶を飲む。

 

 こんな個性豊かな連中を纏めなければいけないのだから、コンゴウが匙投げるのも無理はなかった。あっちで騒げば、こっちも騒ぐ。真面目に対応していてはストレスマッハ。メンタルモデルを実装してからというもの、トラブルばかりだ。

 

 もっとも、ヤマトがかつて言っていたように、戦術というものに対して理解を示していなければ、霧の艦隊は早々異邦艦隊に駆逐されていただろう。

 

 向こうは霧の艦隊の絶対防御をぶち抜く火力を持っている。まともにぶつかり合えば負けるのは数の少ないこちらだ。それを見越していたのだとすれば、ヤマトの。いや、裏で手を引くアマハコトノの慧眼も間違っていなかったということか。

 

 たとえ、その真意が別にあるのだとしても。

 

(ふむ……メンタルモデルと自ら思考する能力。それは私たちにとって本当に必要なのか、どうか。まだ、考える余地はあるか)

 

 メンタルモデルを実装させたヤマトとコトノの真意を探りつつ、コンゴウは考える。思考を続ける。この状況と打開するために。今後の行方を決めるために。

 

 効率を考えれば、超戦艦専用の旗艦装備であるアマテラスユニットを使えばいい。勝負は一瞬で決まる。

 

 だが、あれは、あまりにも強力すぎる兵器だ。下手すれば海底に地殻変動をもたらしかねない。使用にはヤマトとムサシの二隻による承認が必要だし、威力を逃すためにミラーリングシステムを併用しなければならないのも欠点だった。

 

 あれは文字通りの最終兵器なのだ。天を割り、海を蒸発させ、大地を焼きつくし、世界を破滅させる。ある意味で核兵器よりも性質が悪い超級の戦略兵器。だから使用するのは最後の手段だった。

 

 それを使わずに勝つとなると、黒の艦隊の勝算は限りなく低いだろう。向こうは戦術核兵器に等しいミサイルを何百発も放ち、距離を無視して転移ゲート越しに攻撃を放ってくるのだ。超重力砲の射程内に近寄る前に、こちらが全滅する可能性が高い。

 

 ならば、黒の艦隊以上の戦力で以って当たればいい。その為の手筈も既に整えつつある。あとはタイミングを見計らうだけ。

 

「既に次の一手は打ち込んだ。頼んだぞ。403」

 

 正体不明の超兵器によって艦隊が全滅するか、霧の艦隊が超兵器を打ち滅ぼすか。全ては403の行動に掛かっていた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 この作戦で何度目かになるか分からない偵察行動だが、既に403と501の行動は手慣れたものだった。

 

 少なくとも南洋諸島が、異邦艦隊でひしめいていた時よりも、遥かに楽であると断言できる。

 

 しつこく追跡してくる対潜装備を満載したハンターキラーの連中も、鬱陶しい対潜ヘリや対潜哨戒機の連中もいないからだ。

 

 コンゴウ率いる黒の艦隊とは離れた位置で展開する403。

 

 既に敵超兵器との相対距離は50kmまで縮んでいたが、戦術ネットワークで共有しているレーダー情報では、相手が気付いた様子はなかった。

 

「ステルス型の偵察ユニットを射出する」

"Ja(了解) 小型潜水艇を射出。目的地、超兵器反応の中心点"

 

 まずは、使い捨ての無人機を射出し、偵察させる。

 

 さすがに超兵器相手に単艦で挑むほど、403も無謀ではない。まずは様子見に努めるのが先決だった。

 

 敵が空間転移に似た攻撃を仕掛けてくる以外、何をしてくるのか分からず、不用意に動けないというのも大きい。

 

 やがて、無人偵察機が敵の超兵器の姿を捉えたとき、403は珍しく感情を露わにする。

 

「驚愕……」

 

 相手の姿はまさに、その一言で言い表せるくらい巨大で、異様な姿をしていた。

 

 航行に適さない五角形の船体。甲板に展開されるアングルドデッキは無数の艦載機の代わりに、多数の戦略爆撃機が展開している。さらに周囲を睥睨する多数の主砲に、至る所に展開する巨大なVLS。それらを守るように設置されたおびただしい数の対空機銃や高角砲。そして空を睨み付けるミサイル発射システム。極めつけに後部のハッチから発進する大和型やルイジアナ級を模した超大型戦艦。

 

 もはや船というより、ひとつの要塞とでもいう姿。あるいは島と言い換えてもいいかもしれない。まさに化け物だ。

 

 ヤマトから受け取ったデータによれば、相手は超兵器要塞ストレインジデルタに酷似している。

 

 量産型だった超巨大高速空母アルウスや超巨大ホバー戦艦アルティメイトストームの"機関"を取り込んで具現化したオリジナルの超兵器。

 

 そこにオリジナルだった、超巨大双胴戦艦ハリマと超巨大双胴揚陸艦デュアルクレイターの性質を取り込んだ。この戦いにおける異邦艦隊側の切り札だった。

 

 しかし、疑問も残る。これだけの戦力をたった一隻で展開して見せるのに、なぜ悠々と403の接近を許したのか。それが理解できない。

 

 自分が超兵器の立場なら、もっと周囲を警戒する。なのに、ここまで無防備だったのは何故だ。なぜ、対潜警戒、対空警戒を怠っている。

 

 そもそも、なぜ403は相手の性質や誕生の経緯がわか……

 

「驚愕し、た……なん、で……?」

"Schwester(お姉ちゃん!?)"

 

 501のコアが呼びかけるのと、403が胸を押さえて、驚いたように目を見開くのは同時。片膝を付き、コアの演算力が低下し、艦の操艦が鈍るほど403は影響を受けていた。

 

 超兵器が403に接触してきている。概念伝達にアクセスしようとしている。戦術ネットワークを閲覧しようとしている。

 "彼ら"は"彼女たち"を知ろうとしている? 403を知ろうとしている? 403の内側を覗こうとしている?

 超兵器が霧に、403にハッキングを仕掛けようとしている。

 

「や、めて……」

 

 先の転移装置を利用した攻撃の理由。彼らがそれを使って"ゲート"を開くための実験データを収集していた理由。

 そもそも、この海域における戦闘行為自体が全て実験にしか過ぎないという真実。先の攻撃で観測した霧の艦隊の損害データと、メンタルモデルを実装した彼女たちの感情の動き。

 

 人間らしさを得た代償に感じてしまった理解不能な感情という"モノ"。

 

 兵器としての超兵器側の存在理由。同質に近いかもしれない霧の艦隊の存在理由。

 アドミラリティコードと究極超兵器。すべてを滅ぼさんとする超兵器の意思。人を大陸に閉じ込めんとするアドミラリティコードの意思。

 兵器という本質は我々と同じ。故にその性質を染め上げ、その"兵器としての"能力を模倣する。

 人間に近いメンタルモデルなど不要と判断。

 

"Schwester(お姉ちゃん!) Schwester(お姉ちゃん!!)"

「やめ、て……や、め……て………」

 

 501が何度呼びかけても、403に対する侵食が止まることはない。

 うわ言のように否定の言葉を紡ぎつ続ける403は、まるで心を無くした人形のようにも見える。そして超兵器の意思がさらに流れ込んでくる。

 

 403のコアを染め上げようとする超兵器の意思。全てを滅ぼそうとする超兵器の意思。それらが流れ込んでくる、

 

 あえて目的とデータと意思を流し込むことで、403のコアを刺激し、我々と近い意識に染め上げ、同調させ、共鳴させる。

 

 そうすることで、403の中に眠る無垢でしかない本当の"彼女"の目覚めを促し、内側に眠るもう一人の存在をも引き上げる。

 

 そして、怒りと憎しみに、やめ、染まった"もう一人"が、やめて、目覚めれば、無垢な彼女は潰され、違う、霧の艦隊を内側から、私は…………!?

 

 突如、発令所内に響き渡る爆音。403のパッシヴソナーが捉えた破砕音だ。

 偵察用の潜水艇から観測した映像データを見やれば、誰かが超兵器に攻撃を仕掛けている。

 ストレインジデルタもそれに対して反撃を開始する。

 

「はぁ……はぁ……私は……私?」

"大丈夫、お姉ちゃん!?"

「そうか私は……うん、問題ないよ501。状況認識を再開するね」

 

 もう一度、空間モニタを見やれば、そこには高速で動き続ける見慣れない戦艦の姿があった。

 

 霧の艦隊ではない。403を含む彼女たち特有の紋章光(イデア・クレスト)が存在しないからだ。

 

 だとすれば人類に近い存在の船だと思うが、その姿は異様である。

 

 艦首に高速回転する巨大なドリル。両舷に高速回転するデュアルソー。

 

 80cm近い主砲。小型の砲塔型レールガン。レーザー主砲。怪力線照射装置。大規模イプシロンレーザー発射装置。88mmバルカン砲塔。

 

 どちらかといえば超兵器が属する異邦艦隊側に近い存在。

 

 呼称するなら超弩級ドリル戦艦といった所だろうか。

 

"報告。付近に転移反応の痕跡を確認"

「確認するけど。あれはさっきの瞬間、この世界に現れたの?」

"データ上はそうなると思われる。選択権を403に委任"

 

 501の言葉は、この場における判断を委ねるということだ。分析結果を信じるなら、ドリル戦艦は異邦艦隊と同じように転移してきた存在。なら、超兵器と同じ"敵"として攻撃するか、それとも同じ敵と戦う"味方"として援護するか。どちらか決めねばならない。

 

 そして答えは決まっている。

 

「援護を開始するよ。この場における最優先事項は超兵器の観測。可能であれば破壊することだから」

"Jawohl(了解!) Feuerschutz(援護するね!)"

 

 今ここに、謎のドリル戦艦と霧の潜水艦のタッグが結成された。

 




さて、問題です。超兵器ストレインジデルタのお家芸は何でしょう?

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