蒼き鋼と鋼鉄のアルペジオ Cadenza   作:観測者と語り部

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航海日記37 天体観測した日

 

 まず、先手を打つのはドリル戦艦。

 

 彼女は超高速で突進しながら、甲板で起動したイプシロンレーザーを照射する。一区画を丸々レーザー照射装置に改装した大規模兵装は、あらゆる船を貫通させるレーザーを解き放つ。それは霧の超長距離狙撃システムに匹敵する威力だ。

 

 だが、イプシロンレーザーの特性はあらゆる防壁を貫通させる事にある。つまり、超兵器が持つ電磁防壁は意味を為さないということ。光学兵器でありながら、光学兵器に対する防御システムを無効化することができるのだ。

 

 独特な照射音を響き渡らせながら、海上を貫く閃光が、ストレインジデルタの纏う防壁を打ち砕く。だが、ストレインジデルタの装甲はびくともしない。伊達に超兵器要塞と名乗っている訳ではない。その装甲は吸収したハリマの特性すら超えている。

 

 大規模光学兵器によって赤熱した装甲は、すぐに冷却され元通りに再生する機能が働く。その間に無粋なドリル戦艦を沈めんと、ストレインジデルタの甲板で無数のVLSが起動。大型の対艦ミサイルが連続発射され、白煙を引きながらドリル戦艦に降り注ぐ。近距離のため特殊弾頭ミサイルは使えないし、一斉射した影響で残弾はゼロ。再生産にも時間がかかる。

 

 それをドリル戦艦は多数のCIWSで迎撃し、イプシロンレーザーで薙ぎ払うことで消滅させる。それどころかストレインジデルタの懐に潜り込まんと加速。間違いなく艦首のドリルで白兵戦を挑むつもりだった。その間に80cm主砲。88mm連装バルカン砲塔。小型レールガン砲塔。多弾頭ミサイルVLS。荷電粒子砲塔。超怪力線装置。ありとあらゆる兵装が火を噴き、要塞の壁を打ち砕かんと殺到していく。

 

 目を見張るのは、その兵器の装填速度。46cm超える小型レールガン砲塔が重機関銃のごとく連射される。光学兵器は何度も再照射される。巨大な連装主砲は何度も火を噴きあげる。それでいて60kt以上で推進する船体はバランスを崩すことはない。

 

 傍から見れば異様な光景だろう。巨大な要塞に向かって、艦隊が集中砲火をしているほうが、まだ説明がつく。だが、それを成しているのはたった一隻の超弩級戦艦なのだ。しかも艦首にドリルがついて、両舷にデュアルソーが回転している。アンバランスな兵装と相まって異様な姿である。

 

 しかし、403から見れば頼もしい味方だった。

 

「501。今のうちにありったけの侵蝕魚雷をお見舞いするよ。準備は良い?」

"Ja Schwester(了解、お姉ちゃん!) でも、なんだか雰囲気かわった?"

 

 501のいう通り403はいつもと違う様子だった。目に見える姿は変わらないのに、感じる気配が違う。

 いつもは機械的で、だけどどこか人間味を感じさせるような性格だった筈だ。しかし、今の彼女はまるで別人のように性格が変わっている。

 感じる雰囲気も、儚さと優しさを併せた少女のようで。まるで、人間と喋っているような気するのだ。

 

「"私"は大丈夫だから、心配しないで」

"でも………"

「それよりも、今はアレを何とかするほうが先。その後で、またお話したりしようね」

 

 そこに一抹の不安を覚える501だったが、やんわりとはぐらかす403に押されて、追求することはできなかった。仕方なく操艦のバックアップに終始する。後で問い詰めれば良いだろう。霧にとって時間はいくらでもあるのだから。

 

 403はそんな501のコアが収められた台座に微笑みかけると、躯体の紋章光(イデア・クレスト)を発光させ、あらゆる演算に集中する。

 ストレインジデルタに水中から接近しながら、ドリル戦艦と同じ速度で推進する船体。後部のスラスターが勢いよく噴射され、装填を終えた魚雷発射管が解放される。

 さらにロックオンを妨害してくる超兵器のノイズをやり過ごし、侵食魚雷の弾頭に次々と目標のデータが入力されていった。

 

「目標、敵超兵器ストレインジデルタの推進装置」

"Jawohl(了解!) 全魚雷の諸元入力完了"

「発射!」

Feuer(発射!)

 

 まずは第一斉射。艦首にある魚雷発射管から八本の侵蝕魚雷が順次発射され、推進部が点火。ジェット推進を行いながら、超高速でストレインジデルタの真下目掛けて向かっていく。

 

 当然、ストレインジデルタも侵蝕魚雷を迎撃しようと、多弾頭ミサイルVLSを迎撃システムに転用し、対潜迎撃ミサイルを射出。401と戦ったタカオがそうだったように無数の迎撃弾が八本の侵蝕魚雷目掛けて殺到する。

 

 403は即座に侵蝕魚雷の弾頭制御装置に介入すると、501の補助と合わせて見事な回避機動を展開。いくつかの侵蝕魚雷が潰されたが、迎撃網を潜り抜け、時には自身の船体から無数のミサイルを援護射撃として使い、魚雷を命中させるための攻防を繰り広げる。

 

 ストレインジデルタも迎撃行動を展開するが、それを邪魔するのがドリル戦艦だ。巧みな援護で迎撃の手を潰し、自身に降り注ぐ弾幕の合間を縫って、攻撃と援護の絶妙なコンビネーションでストレインジデルタの邪魔をする。

 

 そして、迎撃を潜り抜けた三本の侵蝕魚雷がストレインジデルタの推進部に命中。さらに次々と発射されていく侵蝕魚雷は、連続攻撃となって何度も、何度も、同じ個所に正確に命中。分厚い防御の壁を潜り抜けて、推進部を破壊することに成功する。

 

 もちろんストレインジデルタにも再生能力は存在するが、修復までに足止め出来れば良い。霧の艦隊の本命は別にあるからだ。そのまま侵蝕魚雷を全弾叩き込んでいく。

 

 ここぞとばかりに、ドリル戦艦は船足を上げさらに加速。ストレインジデルタも展開していた量産型超兵器戦艦を、文字通りぶつけるつもりで向かわせる。しかし、圧倒的な瞬間火力を前に数分も持たずに爆沈。三隻いたルイジアナ級は一隻になり、それも迎撃する丁字戦法関係なしといわんばかりに突っ込まれ、ドリルで真ん中から船体を真っ二つにされて終わった。

 

 ならば、残骸もろとも爆砕してやるとストレインジデルタの攻撃が暴風雨のように迫りくる。対艦ミサイル。レールガン。61cm超兵器主砲。拡散プラズマ砲。カニ光線。α、β、γ、δ、εレーザー。荷電粒子砲にリングレーザー。多連装推進砲。速射砲。AGS砲。とありとあらゆる攻撃がドリル戦艦を襲う。展開されたアングルドデッキから戦略爆撃機が何機も飛び立ち、山ひとつ吹っ飛ばす爆撃が何度も何度も行われる。時には艦載機の対艦ミサイルや魚雷がドリル戦艦をさらにおいつめる。

 

 それを迎撃し、巧みな操艦ですり抜け、時には強引に突破して、ついにドリル戦艦はストレインジデルタに肉薄した。互いの重力防壁と電磁防壁が攻撃の応酬で干渉しあい、激しい紫電をまき散らす。そして肉薄されたストレインジデルタの装甲を巨大なドリルが削り、けたたましい金属音が響き渡る。金属同士が削りあって膨大な火花が散る。その間にも互いの火砲が火を噴いて、敵を粉砕せんと真っ向から殴り合いを展開する。

 

 もはや超兵器とドリル戦艦の周囲に安全な場所はなく。海上は吹き上がる水飛沫で満たされ、大気に響き渡る爆音と破壊音が止むことはない。それが止んだ時はどちらかが沈んだ時だけだ。

 

「501。仕上げに掛かるよ。"霧の全艦隊"へとデータリンク開始」

"海中海上探査レベルA。情報深度S。超兵器要塞の座標位置を各艦の火器管制システムに転送"

 

 その間に403がストレインジデルタを倒すための準備を整える。目標を観測し、座標データを入力し、各霧の艦隊へと伝えるために通信システムを展開。船体の至る所から通信アンテナ、ソナーシステム、解析システムが開き、巨大なふたつの衛星通信アンテナが船体から分離して展開される。すぐにストレインジデルタの攻撃の余波で破壊されるだろうが、一瞬でもデータを送り込めればよい。その為の時間はドリル戦艦が稼いでくれる。

 

「転送データ送信……受信確認! う、くっ――」

"衛星通信アンテナ全壊。船体ブレードアンテナ損傷"

「ダメージコントロール! 水密区画閉鎖! ダウントリム最大! 演算処理を迎撃システム稼働に最優先!」

"迎撃システムに処理優先。各種対潜弾の迎撃率を上昇"

 

 予想通りにストレインジデルタと飛び立った対潜哨戒機の攻撃を受ける403。

 向かってくる対潜魚雷を近接防御システムで迎撃し、降り注ぐ爆雷を深々度まで潜ることでやり過ごす。

 被弾箇所を予備のナノマテリアルで塞ぎ、応急処置を施す。損傷したパーツ切り離し、リンクの途切れた遠隔操作機器は廃棄。

 

「ドリル戦艦に通信。離脱要請して。艦隊からの全力攻撃が降り注ぐ」

"Jawohl(了解) 通信システムに介入する"

 

 その間に403が送ったデータの受信を、全世界の霧の艦隊が完了していた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「艦隊旗艦、403から正確な位置座標の転送を確認しました。いつでもいけます」

「分かった。タイミングを合わせ次第、攻撃を行う」

「了解致しました」

 

 ヒエイの報告にコンゴウは頷く。

 黒の艦隊の攻撃準備を整えさせていた彼女は、同時に401以外の蒼き鋼と合流し、残存する霧の米艦隊とも通信を行っていた。

 

 新たに出現した超兵器要塞とまともにやりあっては戦力がいくつあっても足りない。ならば、損害を最小限に抑えるためにも、被害の少ない攻撃方法を行うべき。そう判断したコンゴウは、各霧の総旗艦より提案されていた切り札を使うことにした。

 

 方法はいたって単純。人類の有する兵器の中でも最大射程を持つ弾道ミサイルを使った攻撃を行うだけ。

 世界各地に予め用意した霧の弾道ミサイルを各艦隊がコントロールし、弾着地点まで誘導。弾頭から切り離された大量の子機ミサイルを対象の超兵器地点まで観測艦(イ号403)が誘導する。もちろんミサイルの中身はすべて侵蝕兵器だ。

 要は強襲海域制圧艦による支援攻撃の大規模拡大版。それも全世界規模の同時多発攻撃なのである。

 

 これから行うのは霧の艦隊の中でも最大規模の攻撃となるだろう。既に各国への根回しも済んだとヤマトやムサシから報告を受けている。攻撃の誤認による混乱は最小限で避けられるはずだ。

 

 さらにダメ押しで近隣に展開する強襲海域制圧艦の攻撃も加わる。サウスダコタの命令を受けて後方に離脱したサラトガ率いる第二艦隊や、控えとして展開していたエセックス級のイントレピット、ホーネット、バンカーヒル、ワスプなどの支援艦隊。さらに黒の艦隊の指揮下にある新生・五航戦。

 

 これほどの攻撃だ。チャンスはたったの一度きり。強襲海域制圧艦に搭載するのも難しい大陸間弾道ミサイルは、準備にそれ相応の時間が掛かる。しかも、大量のナノマテリアルまで消耗するのだ。ある程度の継戦能力の損失は覚悟せねばならないだろう。

 

 だが、成功すればこれ以上の損耗は抑えられる。背に腹は代えられない。

 

『お待たせしましたコンゴウ。こちらの準備は整いました』

『我が緋色の艦隊も発射準備は整えました。あとはそちらの合図次第』

『太平洋艦隊及び大西洋艦隊も準備完了よ。サウスダコタ達の敵は必ず取る。だから、お願いね。コンゴウ』

 

 概念伝達通信からヤマト、ムサシ、アイオワの報告を皮切りに、次々と準備完了の旨を知らせる各霧の艦隊。

 それを聞いてコンゴウはコアの昂りを落ち着かせるように閉じていた瞼を開く。

 

「大陸間弾道ミサイル。発射」

「「「発射」」」

『『『発射』』』

 

 そして彼女の合図とともに、世界各地で弾道ミサイルが発射煙の尾を引きながら打ち上げられる。世界各地で流星群と勘違いされるほどのミサイルが、ひとつの超兵器を破壊する為だけに射出されていく。

 

 発射し、加速する段階で分離したパーツは、銀砂となって離散しながら、大気圏で燃え尽きて消えていく。その間にも加速する弾頭部分はやがて軌道変更を行い。ストレインジデルタのいる南洋諸島に向けて、大気圏に次々と再突入。

 

「サラトガより各艦へ。攻撃を開始してください。サウスダコタの仇を討ちます」

「やっと我々の出番なのだな。ショウカク、タイホウ、準備はいいか?」

 

 その間に各強襲海域制圧艦が、搭載された侵蝕兵器を使い切るつもりで、全力支援攻撃を開始。先制攻撃となるそれらはストレインジデルタの迎撃能力を飽和させるべく、全方位から牙を剥き、着弾直前に複雑な軌道を持って襲い掛かる。

 

 そして、霧のオーバーテクノロジーと超規模情報処理能力でコントロールされる弾道ミサイルは、一定の地点に達すると弾頭内部の子機ミサイルを次々と分離。多数の侵蝕兵器となって目標地点に向け、さらに加速。

 

"来たよ。お姉ちゃん"

「ありがとう501」

 

 それらを最終的に誘導するのが観測艦の役割を担っている403の役目だった。残った数少ない無人観測潜水艇をすべて発進させ、彼らの観測結果と自身のパッシブソナーの観測データを元に座標位置を割り出し、ミサイルをストレインジデルタに向けて誘導する。余裕があれば強襲海域制圧艦の攻撃も補助する。

 

 もはや、彼女の演算処理能力は一隻の潜水艦の枠を大きく超えていた。たとえ霧の中でも最大クラスの大きさを誇る特潜型だとしても、この処理能力は異常といっていいレベル。その代償として、彼女のコアは加速度的に消耗する。

 

「くっ、うっ……」

"頑張って、Schwester(お姉ちゃん!)"

 

 足元がふらつく。メンタルモデルの視覚情報から得られる映像がぶれる。超規模演算でコアが悲鳴を上げる。躯体はオーバーヒートしそうなくらい熱い。501の応援する声が徐々に遠ざかっていく感覚。苦しい。苦しくて辛い。

 

 だけど、ここで演算をやめてしまっては全てが無駄になってしまう。そうならない為にも、403は踏ん張って耐える。残り少ない演算リソースを回して、ミサイルの制御を行う。船体を半自立制御に切り替え、501に制御を代行させる。とにかく演算を続ける。

 

 ストレインジデルタはとにかく耐えた。まず駐留している戦略爆撃機を、ミサイル迎撃を行う要撃機に再構成して、とにかく迎撃させた。搭載するあらゆる兵装を迎撃システムとして稼働させ、大量の防空火器が近接防御システムとなって稼働する。空を埋め尽くすほどの弾幕が展開される。

 

 だが、旧東諸国のミサイル飽和攻撃を連想させるどころか、世界規模という想定を超えたミサイルの超飽和攻撃に、ストレインジデルタは圧倒されていく。

 

 侵蝕兵器が着弾した要塞並みに分厚い装甲は、重力波によって崩壊させられ、迎撃を行う兵装も破壊の嵐に飲み込まれて消えていく。飛行甲板である多数のアングルドデッキは火を噴き、無残に折れて、跡形もなく消し去られる。

 

 次の瞬間には外装された兵装の全てが沈黙。内部に搭載されたVLSなどのミサイル発射システムも、発射口が崩壊して無力化される。海に飛び込んだミサイルの一部が魚雷となって、ストレインジデルタの推進装置を粉砕。崩壊した動力部は再生する間もなく分解される。

 

 そのまま動くことも間々ならず破壊の嵐に曝されるストレインジデルタ。第六波、第七波、第八波と攻撃は続き、島のようにも見える巨大な船体を、完全に崩壊させるまで侵蝕ミサイルが着弾する。さらにドリル戦艦の攻撃も加わり要塞のような超兵器は、ついに火を噴きあげて沈んでいく。重要防御区画(バイタルパート)をぶち抜いたらしい。

 

 それでも、ここまでの攻撃に曝されて、耐えようとするなど、やはり超兵器としては規格外の存在だったようだ。

 

"終わったよ。お姉ちゃん"

「……はぁ~~~、ふぅ」

 

 全てを見届けていた501の報告を聞き、403は荒くなっていた呼吸を整えるように、大きく息を吐いた。どうやらいつの間にか"人間らしく"なっていたらしい。メンタルモデルに呼吸など必要ないというのに。

 

"大丈夫?"

「肯定……ちょっと眠る…おやすみ…………」

"ちょっ、Schwester(お姉ちゃん!?)"

 

 そして、いつの間にか無機質な、元の人形のような表情に戻った403は、頭からぶっ倒れるようにして、機能の大半を停止させた。どうやら色々と許容量をオーバーしてしまったようだ。

 

 超兵器の侵蝕といい、想定内の処理を超えた演算といい、403は無茶しすぎていた。これはその代償といえるだろう。まともな戦闘行為は不可能に等しかった。しばらく休まなければならない。

 

 だが、そうもいかない事態が起きてしまう。

 

"超兵器反応……えっ、超兵器反応確認!? お姉ちゃん、起きて!!"

「――っ、急ぎ……離脱、を………」

"……対象の該当データ、一件。嘘、これって、そんな……"

 

 501が驚愕したのも無理はないだろう。それは、ここには存在せず、北極海に身を潜めていると思われる超兵器だったのだから。しかし、無情にも、かつて副長と呼ばれた人物の声が、それの正体を告げてくる。

 

 すなわち、"超兵器ヴォルケンクラッツァー"出現と。

 




 あ……ありのまま今起こったことを話すぜ。俺はチートを使って、超兵器(エリアボス)を沈めたと思ったら、別の超兵器(ラスボス)(プロトタイプ)が出現していた。何を言っているのか分らry

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