蒼き鋼と鋼鉄のアルペジオ Cadenza   作:観測者と語り部

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航海日記39 ヴォルケンクラッツァーを止めろ!

 

「クソっ、間に合わなかったか」

 

 大戦艦ヒエイの悔しげな呟き。苛立ちと共に吐き出されたそれは、現れた超兵器に対する怒りでもあるし、403と501を助けられなかった自分に対する苛立ちでもある。

 

 403の反応が消えたことから、撃沈された判断しているが、この目で確認してない以上何とも言えない。超兵器の発するノイズはさらに強大になっており、味方との通信を阻害するばかりか、各種電子機器まで悲鳴を上げさせている。あれ自体がもはや強力なジャミング装置だ。照準すら砂嵐が紛れ込んでは、元に戻るといった事を繰り返している。

 

 それに今回は想定外の事態が多すぎた。島のように巨大な超兵器が現れたと思ったら、強力無比だった南洋諸島殴り込み艦隊を構成する戦艦、重巡洋艦の多数が沈んだ。そればかりか霧の艦隊の切り札の一つを切らされたうえ、さらに強力な超兵器が出現したときた。

 

 故にコンゴウは作戦の中止と戦略的撤退を決断し、ヒエイは黒の艦隊と太平洋派遣艦隊が撤退するための時間稼ぎを申し出た。試験的に次元空間曲率変位(ミラーリング)システムを搭載する彼女は、ナガラ、ナトリ、ユラのいずれか二隻と共同することで、一度だけあらゆる攻撃を無力化できる。当然、ヴォルケンクラッツァーの重力砲も例外ではない。

 

 艦隊は連携力が重視され、ミョウコウ、ナチ、アシガラ、ハグロの妙高型重巡洋艦四隻を筆頭に、タカオやマヤなどの高雄型重巡洋艦が補助に回る形だ。駆逐艦は超兵器が相手では無力に等しいので、今回の編成からは外され、コンゴウなどの大型艦を護衛しつつ共に撤退する。

 

 強襲海域制圧艦群は先の攻撃で弾薬が欠乏しており、艦隊支援はないに等しい。そんな中で撤退支援と足止めをしなければならない。目標は己の戦略的配置の重要性を無視してでも急行している超戦艦ヤマトの救援までだが、それまで持つかどうか怪しい。

 

 最悪、ヒエイは己の重力子機関を暴走させ、自爆してでも相手の足を止めるつもりだが、それは最後の手段だった。

 

「ミョウコウ、狙撃システムの方はどうですか?」

「ナチの広域索敵システムとの併用で何とか使用可能だ。当てはするが、精度は期待しないで欲しい」

「よろしい。まずは超重力砲よりも、さらに遠距離からの超々距離狙撃で一撃を加え、敵の射程外から牽制を行う。敵の注意を引き付けた後は、アシガラとハグロが島影から接近戦を仕掛け、タカオとマヤはそれの支援をしてもらいます」

 

 ヒエイが作戦の説明を行いつつ、その隣の離れた場所でミョウコウがバルジを展開。内部に格納された超長距離狙撃用超重力砲システムが両舷に展開され、砲身を回転させながら前後に引き延ばす。そして、艦橋の背後にある煙突が二つに割れると中から重巡洋艦クラスの超重力砲が浮かび上がり、両側に展開する狙撃砲のカートリッジとして装填される。

 

 手加減は必要ない。最初から全力の一撃を見舞わなければ、あの超兵器には通用しないだろう。

 

『ねぇ、ヒエイ。本当に大丈夫なの? 島もろとも私等、消し去られたりしない?』

「少なくとも奴の艦首がこちらに向いているうちは大丈夫よ。それに貴女の機動力なら直撃は避けられるでしょう?」

『ちぇ、簡単に言ってくれちゃって。ああ、面倒くさい』

 

 ハグロの疑問に答えながら、ヒエイはこちらの方向を目指して真っ直ぐ進んでくるヴォルケンクラッツァーから目を離さない。相手が重力兵器を使ってきても、すぐに無力化できるよう近くにはナトリとユラが控えている。

 

 二手に分かれたアシガラとハグロは、既にヴォルケンクラッツァーの背後に回り込んでおり、攻撃の合図を確認しだい突入する用意を整えている。ハグロの近くにはマヤが付き従い。アシガラの近くにはタカオが控えているが、タカオはアシガラを引き留めるのに苦労しているようだ。霧の中でも戦闘経験を積むことに貪欲なアシガラは、すぐに戦いたがるのが偶に傷である。ギャー、ギャーと騒ぐ二人の声が砂嵐交じりの概念伝達を通して伝わってくる。

 

「ソナー、レーダー共に正常に稼働中。ノイズによる妨害を受けているけれど、相手の座標位置くらいなら掴めます。続いてスポッティングデータを同期」

「スポッティングデータの同期完了。位置座標確認。照準誤差修正」

 

 そうしている間に狙撃砲のチャージを完了させたミョウコウが、ナチからのデータを受け取って、正確に狙いを定める。目標は超巨大戦艦ヴォルケンクラッツァー。

 

「超長距離狙撃用超重力砲……発射!!」

 

 ミョウコウの叫びと共に、両舷の狙撃システムが稼働。臨界まで圧縮されたエネルギーを解き放ち、真っ直ぐヴォルケンクラッツァーの元へと突き進む。普通の超重力砲よりも威力は劣るとはいえ、主砲の荷電粒子砲よりは遥かに高威力の攻撃。直撃すれば只では済まない。

 

「なんだと……」

 

 ミョウコウが冷や汗を流しながら驚愕する。超距離狙撃砲のエネルギーが目標の手前で拡散したのだ。

 

 ヴォルケンクラッツァーは避けることもせず真正面から攻撃を受け止めたばかりか、何事もなかったかのようにまっすぐ突き進み続ける。不可視の防壁を貫通するどころか、減衰させることも儘ならないのだ。純粋に威力が足りない。

 

 それどころか稼働させた重力砲を使って、同じように照射し返す。目標はもちろん射線上にいるヒエイ、ミョウコウ、ナチだ。

 

「ミョウコウ、ナチ、下がりなさい! ナトリ! ユラ!」

 

 迫りくる重力砲の濁流を防ぐため、ミョウコウ達の前に出たヒエイが、両舷に控えるナトリとユラと共にミラーリングシステムを起動させる。

 

 バルジを展開し、船体が上下に分離したヒエイから正八面体のエネルギー防壁が展開され、真上と真下に位相空間へと通じるゲートを作り出す。それによって超重力砲よりも遥かに強力な重力波エネルギーを分散させ、位相空間の彼方に逸らすことで、攻撃を無効化する。だが。

 

「くっ、防ぎきれないだとっ! この私としたことが見誤ったとでも……」

「生徒会長!!」

 

 あまりにも強力な威力かつ長い照射時間に、ヒエイの不完全なミラーリングシステムでは重力砲を相殺しきれず、漏れたエネルギーの余波でヒエイの船体がダメージを受ける。所々で爆発を起こし、細かなパーツが砕け、宙に浮かび上がっていた船体や重力レンズが浮力を無くしたように海に落着。海原を漂流する残骸と化す。

 

 周囲にいたナトリとユラも損害を受け、航行不能になり、ミョウコウとナチはクラインフィールドが飽和、消失する。

 

 そして、吹き飛ばされ、損傷したヒエイの躯体は、海中に叩き付けられ姿を消す。砕けたメガネと煤けた残骸となった生徒会日誌だけが海の上を漂っていた。

 

「何ということだ……ナチ、すぐに広域探査だ! 生徒会長を、ヒエイを探さなくては――」

「いいえ、ミョウコウ。ここはナトリとユラを曳航して撤退すべきよ。最悪、コアだけでも回収して」

「お前は我らの艦隊副官を見捨てろというのか!?」

「今ここで同じように攻撃を受ければ、今度こそ貴女と私も沈むわよ!」

「怖気づいたか!?」

「態勢を立て直すべきだって言ってるの!!」

 

 応答すらなく、妨害を受けている霧の索敵システムに、戦闘艦と比較して小さい躯体を捉えるのは難しい。見失ったヒエイを探すべきか、後回しにすべきか口論するミョウコウとナチ。そんな二人を怒鳴りつけたのは。

 

『ああ、もう五月蠅~~い!!』

 

 ミョウコウ型重巡洋艦の三番艦で、三女ともいえるアシガラだった。

 

『ミョウコウも、ナチも、さっさとヒエイを見つけてどっか行け! 時間は私とハグロが稼いでやるから!!』

『なんで私まで?』

『お前も栄えあるミョウコウ型の一隻だからだ!』

『ハァ。まあ、いいけど』

 

 そう言いながら既にアシガラとハグロはヴォルケンクラッツァーに接近していた。島影からタカオとマヤの垂直ミサイルが放たれ、ヴォルケンクラッツァーに侵蝕弾頭が降り注ぐ。その間に、二隻は全速力で背後から強襲する。

 

 ヴォルケンクラッツァーも黒の艦隊や、さらに奥に控える日本列島を目指して突き進みながら、片手間にハグロとアシガラに攻撃を行う。緑色に輝く16条のδレーザーがアシガラとハグロに照射され、80cm主砲の弾幕が降り注ぐ。

 

 その対艦レーザーや巨大な砲弾の合間を、アシガラはダメージ覚悟で躊躇なく突き抜け、ハグロは巧みな操艦で華麗に回避。お返しとばかりに両艦は前部主砲の荷電粒子砲二基四門をぶっ放す。だが、不可視の電磁防壁の前に光線はあらぬ方向に捻じ曲げられ、威力を拡散させられる。

 

「いくぞ超兵器。お前の相手は私だぁぁぁっ!!」

 

 アシガラの叫びと共に、左の船体後部に搭載されたカタパルトが稼働し、自由自在に動くブレードの柄の役割を果たす。そして臨界近くまでエネルギーを注ぎ込むと、瞬時に超巨大なエネルギーブレードが形成される。それはアシガラ自身の船体よりも遥かに巨大で、超兵器相手にも引けを取らない大きさを誇っていた。

 

「てりゃああぁぁぁぁぁ!!」

 

 そして裂帛の気合いと共に、己の船体を加速させた足柄は、超巨大エネルギーブレードを水平に展開。自身の船体でもって光刃を振りぬき、ヴォルケンクラッツァーの防壁と干渉しあって火花を散らす。

 

 その間にも超兵器の迎撃は続く。緑色をした多数のδレーザーが降り注ぎ、降り注ぐ80cmクラスの砲弾が展開するクラインフィールドを削っていく。逸らしきれなかった爆発のエネルギーが船体を揺らす。瞬時に飽和しかける強制波動装甲の防壁を、アシガラは歯を食いしばって維持する。一瞬だけでも攻撃を届かせる為だけに。

 

「負けるもんかっ! このまま突き破れぇぇぇぇ!!」

 

 50kt以上の速力で突き進む巨大な船体を、アシガラが追いかけ続ける形となった攻撃。アシガラの船体から繰り出される速力は、そのまま超巨大エネルギーブレードを振りぬく為の力となり、そして。

 

 アシガラの刃はついにヴォルケンクラッツァーの防壁を打ち砕き、抵抗を失ったエネルギーブレードが超兵器の装甲を瞬時に溶解し、切り裂いていく。そこは奇しくもドリル戦艦が付けた個所と同じ位置だった。

 

 そのまま振りぬいた速度を維持しながら、ヴォルケンクラッツァーを追い越し、超兵器の前方に離脱していくアシガラ。維持しきれなくなったエネルギーブレードは瞬時に消え失せ、臨界近くまで稼働していた左舷カタパルトが崩壊。銀砂となって消滅する。

 

「よっしゃあああ――しまった!?」

 

 そして、自身を追い越したアシガラの船体を消滅させるべく、無情にもヴォルケンクラッツァーの重力砲が放たれるのと、損傷個所から浸水して超兵器の船体が僅かに傾くのは、ほぼ同時。

 

 ノータイムでぶっ放された攻撃に気付いたアシガラは、慌てて急制動を掛けるが時既に遅しだった。

 

 浸水で傾いたせいでヴォルケンクラッツァーの照準がずれたのか、重力砲は直撃せずに済んだものの、離れた個所で炸裂した重力球は海水と大気を飲み込みながら、アシガラの船体を引き寄せる。しかも、アシガラは超兵器を通り抜ける形となった為、自ら重力球に突っ込んでいく形となっていた。

 

 即座に重力球から逃れるべく、アシガラは船体を急速回頭させ、エンジンブースターを全開にして離脱しようとする。だが、徐々に広がり迫ってくる重力球と、思いのほか強力な吸引力に焦りの表情が浮かぶ。

 

 そんなアシガラに追い打ちをかけるべく、ヴォルケンクラッツァーの主砲と多弾頭対艦ミサイル、無数のδレーザーが放たれた。何てことはない。最初からアシガラの船足を止めて、怒涛の攻撃を命中させるのが目的だったのだ。

 

 異常な連射速度で放たれる攻撃が次々と命中し、クラインフィールドが瞬時に飽和。重なるダメージによって、強制波動装甲に溜まるエネルギーを分散しきれず、船体が一瞬で破壊される。

 

 そして凄まじい衝撃波で吹き飛ばされたアシガラの躯体は宙に投げ出され、その身体も破壊の余波を受けて崩壊していく最中だった。右手以外の手足はなく、身体は銀砂となって塵に変わっていく。

 

(しまったなぁ……ミョウコウ、ナチ、ハグロ。ごめん)

 

 姉妹たちに心の中で謝りながら、アシガラは悔しそうに溜息を吐く。もはや重力子も出せず、躯体の再構成もままならない。万事休す。

 

 ゆっくりと進む時間の中で、悠々と突き進むヴォルケンクラッツァーの巨大な船体が見えた。どうやら、アシガラの与えた損害は既に修復済みらしい。アシガラの事は既に眼中にないのか、攻撃するそぶりも見せない。

 

 そして緑の光と、破壊の嵐の中。砲弾が着弾して噴出する海水とうねる海原の中。瞬時に迫ってくる緋色の船体が見えた。同時にゆっくりと近づいてくるハグロの顔と伸ばされた彼女の手が迫ってくるのも。

 

「私のスピードを舐めるなぁっ!!」

(なっ、てっ――ハグェェっ……)

 

 それを認識した瞬間にアシガラの感じる体感時間が元に戻り、凄まじいブースター音とハグロの渾身の叫びが聞こえるのは同時。アシガラの崩壊する躯体がハグロによって救い出されるが、90ktから繰り出される体当たりに近い衝突エネルギーで大ダメージを受けた彼女は一時的に意識を手放してしまう。

 

 助けてくれるなら、もうちょっと丁寧に扱ってほしいと思うアシガラであった。

 

「こっち向きなさいよ。このデカブツっ!!」

 

 そして片手間にハグロを迎撃するヴォルケンクラッツァーに、タカオが超重力砲で攻撃を仕掛ける。たとえ、攻撃が逸らされると分かっていても、何もしないよりはマシだった。それで注意が引けるのなら万々歳だ。

 

「うわあっ! おわあっ!」

 

 案の定、超重力砲の光は明後日の方向に逸らされ、お返しとばかりにタカオ目掛けて砲弾とミサイル、対艦レーザーの嵐が殺到する。迎撃できるものは迎撃し、防ぐことよりも回避優先で行動するが、超重力砲発射後の隙だらけなタカオでは完全回避が難しい。

 

「もうっ、タカオお姉ちゃんは無鉄砲なんだから」

 

 それをフォローするのは、いつの間にかタカオに合流して、背後に回っていた重巡洋艦のマヤだ。ありったけの迎撃ミサイルで多弾頭対艦ミサイルを撃ち落とし、迫りくる主砲とレーザーは、タカオの前に割り込んでクラインフィールドを全開にして防ぎきる。

 

 その代償としてマヤのクラインフィールドが一時的に飽和し、強制波動装甲だけの無防備な態勢となるが、既にヴォルケンクラッツァーからの攻撃は止んでいた。

 

 展開する霧の艦隊の必死の迎撃行動に対し、超兵器はあくまで必要最低限の攻撃しか行ってこない。まるで此方の事など眼中にないかのようだった。

 

「ああ、もうっ!! 全然足止めにもなってないじゃない。アイツを群像様の元に行かせるわけにはいかないのに……」

「超重力砲もダメ。侵蝕魚雷や侵蝕ミサイルの飽和攻撃もダメ。主砲の荷電粒子砲もダメ。ダメ、ダメ、ダメの三拍子で手詰まりって感じだね」

「かといってアシガラのように無理をすればこっちが沈められる。ハグロのような機動力がない私たちじゃ、迎撃の嵐を避けきることは難しい」

 

 駄目だとタカオは思う。どんなに全力を注いでも、あの超巨大戦艦の前では無意味だ。これでは千早艦長たちを逃すために残った意味がない。どうすればいいと焦るタカオだが、ふと、何かを感じてえっと顔をあげた。

 

「ヴォルケンクラッツァー。私たちが――フソウとヤマシロがお相手致します」

 

 そこには凛とした表情で立ち塞がるフソウとヤマシロの姿があった。そして彼女たちの躯体の足元では、既にバルジを広げ展開形態に移行する大戦艦フソウ・ヤマシロの船体があった。

 

 いつの間にそこにいのだろうか。そもそもコンゴウ達と一緒に離脱していたのではなかったのか。疑問がいくつも浮かんでは消えるが、問題はそこじゃなかった。

 

 フソウとヤマシロの船体から膨大なエネルギー反応を検出しているのだ。急速に上昇し続けるそれは、既に並みの大戦艦級を軽く超えている。ナノマテリアルで構成された船体が徐々に赤熱化し、周囲の海水を蒸発させて霧が発生しているほどだ。

 

 あきらかにフソウとヤマシロの出せる機関出力の理論値を超えている。展開形態に移行するだけで周囲の環境に影響を与えるほどの出力を出せるのは、タカオの知る限り強襲海域制圧艦群の連中か、それこそ超戦艦級の二隻しか知らない。

 

 ヤマトとムサシ。あの二隻しか。

 

 そんな二隻が立ちはだかり、快進撃を続けるヴォルケンクラッツァーの船速がついに止まるのだった。

 


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