蒼き鋼と鋼鉄のアルペジオ Cadenza   作:観測者と語り部

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前回までのあらすじ。

寝ぼけたヴォルケンクラッツァーを元の世界に送り返す。
霧の艦隊のパワーアップフラグ。
イ号403の正体って、ああっ!?
群像。未来を語る。目指すは宇宙と海底探査だ。


航海日記44 アタゴ輸送艦隊VS姿を忘れられた超兵器

 アタゴ率いる艦隊は、クマ級軽巡洋艦のキタカミとオオイを伴って、呉の海軍工廠から横須賀の海軍工廠に向けて移動していた。

 

 護衛には多数のアヤナミ級の駆逐艦が輪形陣を敷いており、その中心には専用の砲塔運搬艦のカシノがゆっくりと洋上を進んでいた。

 

 カシノの船体には各種センサーの防護処理がされた専用シートが被せられており、何を輸送しているのか外部から分からないようになっている。しかし、知る人が見ればそれが何を運ぶものなのか分かるだろう。

 

 他にも多数の霧の輸送艦艇がカシノに続いており、それらには膨大なナノマテリアルの資材が搭載、運搬されている。数にして特型駆逐艦級を三十隻以上は建造できる数だ。大戦艦に搭載するための重力子レンズも多数完成した状態で運ばれており、損失すれば霧の東洋方面艦隊にとって膨大な被害を受けることは想像にがたくない。失敗したらアタゴはナガトに想像もできない折檻を受けるだろう。だからこそ、アタゴを慕う艦隊の子たちは、警戒を厳重にする。

 

『――――』

『人間が攻撃してこないかって? 大丈夫よ。横須賀にいるヤマトの火砲が日本全域をカバーしてるから。いくらバカな人間でも迂闊なマネはできないでしょう』

 

 軽巡オオイからの量子通信に対して、同じように量子通信で受け答えするアタゴの躯体(メンタルモデル)。彼女はある事情から、人間に対して敵意にも等しい不信感を持っているが、任務には忠実だった。姉と同じで情に厚い所もそっくりだが。

 

 アタゴの両翼をキタカミとオオイがカバーし、彼女は艦隊の先頭を行く。それでも艦隊は霧にしては遅い速度でしか進んでいない。運ぶものが、運ぶものだけに。

 

「それにしても、これだけの資材何に使うのかしら。わざわざ呉工廠に近いところに建造ドックや整備ラインまで作って。ナガトは縁こそが大事なのですとか言ってたけど。超戦艦の予備でも作るつもり?」

 

 カシノが運ぶものをチラリとみるアタゴ。そこに搭載されているであろう兵装を見れば、それが何に使うものか明らかだ。この輸送任務も三度目で、それも最後となる。それが終わればアタゴは次の任務に就くだろう。できれば、蒼き鋼に付いたタカオを取り戻しに行きたいが、それは無理な相談というもの。すこしだけ、次の任務が煩わしかったが、自分はあんな自由奔放な姉とは違うと言い聞かせて落ち着く。自分は任務に忠実だと言い聞かせる。

 

 本当に頭にくる。大好きなタカオお姉ちゃんを誑かした千早群像。できることなら、この手でやっつけてしまいたい。でも、そんなことをすれば第二艦隊旗艦、ナガトからお仕置きを受けることが目に見えている。任務と自意識との板挟みが、アタゴを少しだけ苛立たせていた。

 

 その怒りを、艦隊速度が遅いことなのかと勘違いしたカシノ達。少し焦ったように艦の速度を上げたが、アタゴが何でもないように手を振ると、艦隊は落ち着きを取り戻した。

 

 艦隊は瀬戸内海を抜けて、鳴門海峡から紀伊水道を通る航路を通っているが、人類からの干渉はほとんどないようだ。偶に無人の偵察機が飛んでくるが、艦隊から得られる情報などたかが知れている。

 

 今は暫定的とはいえ同盟関係にあるのだ。向こうが攻撃してこない限り、こちらから何かするつもりはない。そして三度目の航海である以上。向こうもこちらが何をしているのか知っているだろう。

 

 そこから、万が一に備えて太平洋の外洋に出た後に、大回りするルートで霧の横須賀工廠に寄港すれば任務は完了する。わざわざ遠回りするのも、海岸線に住む人間をなるべく不安にさせないようにする為と、戦闘が起きた場合に備えて巻き込まないようにするためだ。

 

 本当に面倒なことだと、アタゴは思う。異邦艦隊さえいなければ、いまごろ自分たちは元の任務を静かに続けていたというのに。本当に忌々しい。人間も、異邦艦隊も。霧に変化をもたらすモノも。

 

 変化などあまり必要ないとアタゴは思うのだ。躯体(メンタルモデル)もタカオがいうから渋々実装しただけで、昔は嫌いだった。ただ、静かに姉妹たちと暮らしていければそれでよかったのだ。

 

 どこか憂鬱そうなアタゴをよそに、太平洋に出た艦隊は、横須賀港を目指して一直線に進み続ける。霧の艦隊を妨げる障害物もないので、針路を警戒する必要もない。楽なものだ。此処から少し離れた海域では日本を封鎖する巡洋艦隊が見回っているし、転移してこない限り、異邦艦隊も手を出せないだろう。

 

(―――?)

 

 しかし、違和感を感じる。なんなのか知らないが、物思いに耽っているアタゴが真っ先に異変に気付く。メンタルモデルを実装できる重巡洋艦故にセンサーなどのスペックも艦隊の中で一番秀でている。そして、なんだかんだで生真面目な彼女だからこそ気づいたのかもしれない。

 

 前方の進路に違和感があった。センサーに反応なし。船体各所の光学機器にも異常はない。それなのに何故、アタゴは何を不自然だと思ったのだろうか。

 

 何が不自然なのだ。前方の進路には何もない。景色はとても綺麗で、霧ひとつない青空と青い海は隅々まで見渡せる。

 

 でも、なんで何もないのに、海が波打っているのだ。まるで何かにぶつかったかのように波が飛沫を挙げている。いや、そこに何かいるの………

 

「………ッ!!」

 

 そこの事に気づいて、咄嗟に強制波動装甲(クラインフィールド)の出力を上げたのと、何もない空間から大出力レーザーやミサイル、巨大な主砲の火砲が火を噴いたのはほぼ同時。

 

 前面にクラインフィールドを展開したアタゴと、その後ろにいたカシノは無事だったが、シキナミやイソナミなどの駆逐艦と何隻かの輸送艦が損傷を受けた。別の輸送艦が一隻撃沈させられて、搭載されていたナノマテリアルが銀砂となって海上に流れだし、海に漂い始める。キラキラと洋上で輝く銀の砂。艦隊の損失の証。

 

「お前っ!!」

 

 切れたアタゴが128発もの侵蝕弾頭を最大火力(フルファイアー)でぶっ放す。オオイやキタカミなどの艦もそれに続く。

 

 空が侵蝕弾頭の軌跡で埋め尽くされ、山なりの弾道を描いて、見えない敵に降り注ぐ。何発かが命中したが、ほとんどが外れて海中に落ちた。途中で週末誘導を妨害されているらしい。小癪なと思いつつ、艦を斜めにして多数の多用途20.3センチ主砲からプラズマやレーザーなどの光学兵器を叩き込む。相手が誰であれ、船である以上は避けられない弾速だ。

 

 それも不可視のフィールドに防がれる。不自然に歪曲する光学兵器。ならば、主砲からレールガンを放てば歪曲した空間に阻まれ、砲弾は海面に吸い込まれて届かない。データにあった電磁防壁と防御重力場か。相手は異邦艦と判断する。

 

 敵の再度の斉射。荷電粒子砲が、エレクトロンレーザーが、墳進弾や対艦ミサイル、魚雷に。これでもかと降り注ぐ主砲弾が、アタゴの艦隊を襲う。それに対して今度は各艦で連携して、同時に多数の多重防壁を展開する。輸送艦は守られたが、攻撃で身動きができない。

 

「敵の火砲による攻撃から船体形状を予測。敵を超兵器クラスの大型兵器と判断。救援を要請するべきか……?」

 

 アタゴは一瞬だけ迷った。どんなに近い距離でも、一番近くにいるのが四隻からなる駆逐艦隊なのだ。たとえ駆けつけてくれたとしても、超兵器と思われる相手では、無駄な犠牲を生んでしまう可能性がある。それはアタゴ個人の感情としても、霧の艦隊から見た戦力低下の事情からしても避けたいところだ。

 

 ならば、ナガトの指揮下にある海域強襲制圧艦群の連中からの支援を要請するか。あのアカギやカガの火力ならいくら超兵器の防御力といえども、ひとたまりもないだろう。将棋にはまって熱中さえしていなければ。

 

『よし、支援要請を…………通信が………妨害……』

 

 思わずくそったれと某チビ潜水艦のように舌打ちするアタゴ。ハッキングを受けづらい量子通信に介入してくるジャミングとなれば、いよいよもって相手が超兵器だと確信せざるを得ない。よりによって輸送任務中に最悪の手合いに出会ったものだ。

 

 たった一隻でも膨大な搭載火器で、ひとつの艦隊を殲滅してくる相手だ。アタゴは背中に守るべき存在もあって、身動きが取れないでいる。敵の反撃も散発的だが、こちらも侵蝕兵器以外の有効打が決まらない。かといって重力子兵装を使えば、クラインフィールドが疎かになって艦隊やアタゴ自身に被害が出る。じり貧だった。

 

 カシノが我々を見捨てていけと、ふざけたことを言ってくるが、それこそ願い下げだ。艦隊を任された以上。アタゴたちは任務を全うする。それが霧の存在意義というものだ。命令には従わなければならない。たとえ、それが最後の一隻になってもだ。

 

 それに輸送艦隊に積まれているナノマテリアルは呉工廠で精錬された特別性のもので、替えが効かない。損失すれば、損失するほど、横須賀工廠での完成が遅れる事態となってしまう。それだけは何としても避けたい。敵もそれが分かっているから、攻撃の手を緩めようとしないのだ。

 

 サザナミが沈んだ。コアは無事だが、今は回収している時間も惜しい。

 

「クソ、どうすればいい? こんなときタカオお姉ちゃんならどうするんだろう」

 

 アタゴの艦尾甲板に被弾し、侵蝕弾頭兵器の垂直発射システムにいくつか損害を受けた。誘爆しないようにダメージコントロールを行ったが、火力の大幅な低下に頭が痛くなってくる。一度に打ち出せる弾頭は40発もないだろう。

 

 やはり、超重力砲を使うしかないのか。

 

 そこまで考えたときに、雲の合間から無数の光が降り注ぎ、見えない超兵器を完全に撃ち貫いた。

 

 爆散しながらも、巨大な船体を残して沈んでいく超兵器の姿。タンブルホーム型のステルス艦形が露わになり、先ほどまで苛烈な攻撃をしてきたのが嘘のように静まり返っている。敵は光学迷彩を搭載したステルス戦艦だったらしい。

 

「艦隊、損害報告を」

 

 アタゴは艦隊に指示を出しながら、艦橋に座り込んで考えた。今のはおそらく横須賀のヤマトからの攻撃に違いないだろう。ただの一撃で超兵器を破壊できる火力を持つのは超戦艦級の連中くらいしか思いつかない。

 

 問題は艦隊が受けた被害だろうか。運んでいるナノマテリアルは特別性で、何隻かの積み荷が海にあふれ出てしまっている。これらをかき集めるのは容易ではないし、回収班がくるのを待つしかないだろう。

 

 それは、横須賀工廠での作業が遅れることを意味していた。敵の目的はおそらく、建造されている霧の船の完成を阻止すること。もしくはできる限り遅らせること。

 

「こんなことなら、ハシラジマにいるアカシを連れてくるんだったな。失敗した」

 

 幸い、ユニオンコアに被害はなかった。コアさえ無事なら船体さえ作れば問題ない。ナガトからのお仕置きは免れないだろうが、艦隊の誰もが無事ならばそれでいい。

 

 それにしても、横須賀工廠では、どんな船が組みあがっているのだろうと、不思議に思うアタゴなのだった

 


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