霧雨魔理沙という少女について。
以前も言ったと思うが、自称「普通の魔法使い」。金髪、青い目、白い肌。俺より3歳下、霊夢より1歳下の17歳。小柄な体格で、性格は明朗活発、好奇心旺盛で人懐っこい。
俺と魔理沙が知り合ったのは、今から4年前ぐらいになるだろうか。幻想郷一帯が赤い霧に包まれるという、通称「紅霧異変」の後ぐらいだったと思う。久しぶりに博麗神社に行ったら、霊夢の他にもう1人、見慣れない金髪の女の子がいて、すぐに仲良くなった、とか、そんな感じだった気がする。「霊夢の友達なら、私の友達だ。よろしく!」と言われたのが、強く印象に残っている。
魔理沙は、元々は普通の女の子だった。「霧雨道具店」という、人里ではかなり大きな道具屋の一人娘で、可愛がられて大切に育てられた、のだそうだ。その普通の女の子が、どうして魔法使いになったのかと言えば、ちゃんときっかけがあって、子供の頃、魔法の森の入り口のあたりで遊んでいたら、「魔法の師匠」に声を掛けられたのだ。
魔法の森のすぐ近くに「香霖堂」という道具屋がある。店主の森近霖之助さんは、以前霧雨道具店で働いていたそうで、魔理沙とも仲が良い。子供の頃の魔理沙は、よく香霖堂に遊びに行っていて、すぐ近くの魔法の森へも、探検に出かけていたのだという。危ないから奥には行かないように、と、霖之助さんからきつく言われていて、実際、森の入り口付近を散策してみる、といった程度だったようだが、それでも、普通の人間なら好んで立ち入りはしない薄気味悪い森の中に、大喜びで出かけていくあたり、昔から行動力と好奇心は旺盛だったのだろう。
さて、「魔法の師匠」に最初に声を掛けられた時、さすがの魔理沙も、かなり警戒したらしい。まともな人間ではないことが一目でわかったからだ。なにしろ、足が無くて、背中に羽が生えていて、ふわふわと空中に浮いている、という姿だったらしいから、これで警戒しない人間はさすがにどうかしている。「魅魔」と名乗ったその相手は、しかし、話をしてみると大変親しみやすく、魔理沙はすぐに友達になった。求めに応じて見せてくれる魔法の数々が、まるで夢のように美しかった、と、懐かしそうに魔理沙が話してくれたことがある。その後、魔理沙が魔法の森に出かけて行って、大声で名前を呼ぶと、魅魔はどこからともなく現れて、魔理沙の遊び相手になってくれたそうだ。
そんなことが何か月か続いて、ある日突然、「もう香霖堂へ遊びに行ってはいけない」と、魔理沙は父親から告げられることになる。魔法の森の中で、大切な一人娘が、得体のしれない妖怪と日々戯れている、と聞いていた親からすれば(魅魔のことを、魔理沙は無邪気に両親に話して聞かせていたらしい)、心配になってしまうのも無理はないと思う。もちろん、「はいわかりました」とは魔理沙は言わない。勝気な子だし、魔理沙にしてみれば、そんなに親を心配させるようなことは一切していない。普通に友達と遊んでいただけなのだ。「これからも遊びに行く」「駄目だ」と、父親と大喧嘩をした後、魔理沙はトイレに駆け込んでカギをかけて、閉じこもってしまった。ドアを叩いても声を掛けても、一向に反応がないので、父親はとりあえず放っておくことにした。そのうち出てくるだろう、と思ったのだろうが、そうはならず、魔理沙はトイレの窓から外に出て、魔法の森まで逃げていってしまった。子供なのに、大した決断力と行動力だ。
魔法の森で魅魔を呼び出して、魔理沙は事情を話した。魅魔に会えなくなるのは嫌だ、もっとずっと一緒にいたい、と言うと、「それじゃあ、私と一緒に来るかい?」と魅魔は言った。うん、と魔理沙はうなずき、こうして、魔法使いの弟子が誕生した。
恐怖や不安は一切感じなかった、と魔理沙は言う。わからずやの父親(まあ、当時の魔理沙にとってはその通りだろう)への反発もあったし、なにより、魅魔と同じような魔法を使えるようになりたい、という探求心は抑えがたかったのだ。一緒に来るかい、と魅魔に言われた時には、飛び上がるほど嬉しかったそうだ。
その後、魅魔に連れられて魔理沙は魔法の森の奥へと入っていき、やがて到着した何とも不思議な空間で、魅魔と一緒に魔法の修行に励んだ。魅魔は「魔界」と言っていたらしい。魔法の修行に一番向いている場所、なのだそうだ。実際、魔理沙の魔法の腕前は、見る見るうちに上達していった。「魔法の才能がある、って、魅魔様に何度も褒められた」と、魔理沙が自慢げに話していた。まあ、実際に才能はあったのだろうし、話を聞く限りでは、魔理沙は「褒めれば伸びるタイプ」だというのを、魅魔がよくわかっていたんじゃないかという気もする。魅魔と一緒に魔界で過ごした日々は、魔理沙にとって、大変充実した、忘れがたい時間であったようだ。
時が過ぎ、もう立派に一人前の魔法使いだ、との、魅魔のお墨付きをもらって、魔理沙と魅魔は魔法の森に戻ってきた。それからしばらくは、2人で、魔法の森にある魅魔の家で暮らしたそうだ。その家というのが今の「霧雨魔法店」で、つまり、あそこはもともと魅魔が住んでいたのを、魔理沙が譲り受けたような形になる。およそ半年ぐらい、魔理沙と一緒に魔法の森で生活してから、ある日突然、魅魔はいなくなった。「ちょっと出かけてくるから、留守番を頼む」と言って出掛けたきり、いまだに戻ってこないという。いったいどこへ行ったのか、皆目見当もつかないが、魔理沙は、魅魔がそのうち帰ってくると信じている。「魅魔様が帰ってくるまでに、宿題を完成させるんだ」とよく口にしている。宿題というのは、「賢者の石」というマジックアイテムを作り上げることらしいが、話を聞いている限り、完成までの道のりはまだ遠そうだ。
ところで、大事な一人娘がいなくなった霧雨道具店では、当然ながら大騒ぎになった。香霖堂に真っ先に問い合わせが来たが、霖之助さんは「知らない」と答えたそうだ。その後、魔法の森や人里でもできる限り手を尽くして捜索が行われたが、見つかるはずもなく、行方不明、ということであきらめざるを得なくなったようだ。
知らない、とは答えたが、本当は霖之助さんは事情を承知していたんじゃないか、と魔理沙は言うし、俺もそう思う。魅魔のこともよく知っていて、魔理沙を預けても大丈夫だ、との信頼があって、見て見ぬふりをしてくれた、といったところじゃないだろうか。そうじゃなかったら、自分のよく知っている子供が、妖怪と頻繁に一緒にいるのを知って、放っておいたりはしないだろう。魔理沙がいないときに、霖之助さんと魅魔で何か話し合った、というようなことも、もしかしたらあったのかもしれない。
魅魔がいなくなって、魔法の森で一人で暮らし始めてしばらく経ったころ、人里で、「霧雨道具店」の使用人と魔理沙がばったり出くわした。魔理沙の方で気づいて声を掛けたそうだが、行方不明、とばかり思っていた主人の娘の姿を見て、相手はびっくりした。すぐさま霧雨道具店に一緒に行き、久しぶりの親子の対面となったのだが、感動の再会とはいかず、また大喧嘩をして、魔理沙は店を飛び出し、それ以来現在に至るまで、一切何の交渉もないらしい。親の方では「家に戻ってきて商売を手伝ってほしい」と言うし、魔理沙は魔理沙で「これからも魔法の森で研究を続けるんだ」と言うしで、終始平行線だったようで、まあ、仕方ないのかな、という感じだ。「家出中の不良娘だ」と、時々魔理沙は自分で笑ったりするが、実家への拒絶感情というのも別にないようで、俺が霧雨道具店のうわさ話などを話すと、けっこう面白そうに耳を傾けてくれる。相変わらず霧雨道具店は繁盛していて、魔理沙の両親も元気でやっているようだ。