幻想郷一般男子の日常   作:Jr.

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8月14日

 夜中にスマホが鳴ったのでびっくりした。知らない番号だ。

 「…もしもし?」

 「涼平?」

 「…ああ、霊夢か。こんばんは」

 「こんばんは。よく私だってわかったわね」

 言われてみるとその通りだ。そんなに特徴的な声というわけでもないのに、よく霊夢だってわかったな俺。いや、そんなことよりも、今俺は永遠亭にいるのに、こうやって霊夢とスマホで話ができているというのはつまり、

 「スマホの発信基地の工事が終わったみたいだね」

 「ええ。昨日今日と、河童たちがたくさん来て、なんだかいろいろやっていったわ。納屋に大きな機械を置いていって、後ろに大きなアンテナを据え付けていったのかな。

 本当に電波が届くようになったのか、試しに掛けてみたんだけど、どう、ちゃんと聞こえる?」

 「ああ、大丈夫。綺麗に聞こえてるよ。そっちはどう?」

 「うん、私の方も大丈夫」

 それはよかった。しかし、「基地」とか言うから、もっと大掛かりな工事なのかと思ったら、意外と短期間で済むんだな。

 「…」

 「…」

 「……」

 「……」

 「…霊夢?」

 「なに?」

 「いや、急に黙っちゃったから、いるのかどうかと思って」

 「私があまり話さないのは、いつものことだと思うけど」

 「うーん、まあ、その通りなんだけど…」

 のんきでおとなしいのが霊夢の性格だ。俺と神社で一緒にいる時も、特に何を話すというわけでもなく、縁側でお茶を飲みながら日向ぼっこをしている、というようなことがよくあって、俺もそれで窮屈を感じることもなかったのだが、

 「やっぱり、実際に会ってるのと、電話越しに話してるのじゃ、感じが違うな。黙ってちゃ間が持たない」

 「私はそうでもないけど」

 「そう?」

 「電話のすぐむこうに涼平がいるんだって想像するとね、なんだか落ち着くのよ」

 「…ちょっと試してみる」

 すぐそばに霊夢がいる、と、目を閉じて想像してみる…うん、なるほど、別に黙っていても大丈夫かもしれない。いやでも、

 「いや、せっかく電話を掛けてきてくれたんだから、何か話そうよ」

 そうね、と、霊夢の笑い声が聞こえてきた。

 「博麗神社でも、スマホを配ることにしたの?」

 「うん、私は別に構わないんだけどね。今、スマホを欲しがってる人がずいぶんたくさんいるらしくて。生産が追い付いていないらしいわ。だから、配るのは、たぶんもう少し先かな」

 「へえ…」

 「でも、何個かは置いていってもらったから。永遠亭の分、取りに来たら?」

 「ああ…じゃあ、鈴仙さんとてゐさん、師匠と姫様、四人分取っておいてもらおうかな。近いうちに取りに行くから」

 「うん、わかった」

 「……」

 「……」

 ヤバい、話題が尽きた。霊夢と電話で話すのなんて、久しぶりすぎて、どうも調子が狂うな。子供の頃は、けっこう普通に電話してた気がするけど。話題、何か話題を…ああ、でも、別に話すことが無かったら、電話を切ればいいのか、などと考えていると、

 「今夜は月が綺麗よ」

 「へえ、そうなんだ」

 「たぶんね」

 「…たぶん?」

 「今いるところからだと、窓がないからよくわからないの」

 「あのな…」

 「ちょっと確かめてみるわね」

 …まあ、霊夢なりに、頑張って話題を提供してくれたのだろう。電話の向こうで、霊夢が移動している気配がする。ついでに、俺の方でも外に出てみようか。

 「あら、本当にきれいな月」

 「本当だ」

 「あら、涼平も外に出てきたの?」

 「月が綺麗だ、って教えてくれる巫女さんがいたもんでね」

 霊夢の楽しそうな笑い声が聞こえた。

 満天の星空に、中空に浮かぶ青白い月。満月ではないけれど、神秘的な輝きで、なかなか良いものだ。夜の空を意識的に見るのなんて、考えてみたら初めてのことかもしれないな。

 「涼平のところからは、どんなお月様が見える?」

 「…間違いなく、霊夢が見てるのと同じだと思うけど」

 「そうなの?」

 本気で言っているのか冗談なのか、霊夢は昔からこういうところがある。

 「永遠亭のお姫様なら、こういう月を見て、さらさらと3つ4つぐらい、即座に歌を詠んでみせるんでしょうね」

 「ああ、そうかも」

 「涼平は、何か一首思い浮かんだりしない?」

 「名月や」

 「うん」

 「名月や…駄目だ、何も思い浮かばない。霊夢は?」

 「私もダメね」

 「神職は、和歌なんかの古典教養も豊かなものなんじゃないの?」

 「私はあんまり教わらなかったかな、そういうの」

 「ふうん…」

 「こうして月を見ていると、なんだか、永夜異変を思い出すわ」

 「ああ…、そういえば、今まで詳しい話を聞いたことがなかったけど、よかったら聞かせてくれないかな、永夜異変」

 「いいわよ。でも、ちょっと待ってね」

 「どうかした?」

 「家の中に入るから。外は、虫がいて大変」

 「…ごめん、気が付かなかった。永遠亭には、虫なんて寄ってこないから」

 「うらやましいわね」

 その夜、初めて永夜異変の様子を教えてもらった。かなり大変な事件だったと思うのだが、霊夢が話すと、いたってのんびりしたものに思えてしまうのが、なんだかおかしい。永遠亭で一緒に暮らしている人たちの、現在とは違う一面がいろいろと知れたのが面白かった。姫様ってそんなに力持ちなんだな。見た目は本当に深窓のお姫様という感じなんだけど。

 話しているうちに、何か変な音がするようになったので、スマホを見てみると、そろそろ電池が切れそうだ。気が付かなかったけど、ずいぶん長く話してたんだな。

 「霊夢、ごめん、そろそろスマホの電池がなくなりそうだ」

 「あら、そう」

 「霊夢の方は大丈夫?」

 「私は、電源につないで話してるから」

 なるほど、そういう手があるのか。勉強になった。

 電話してくれてありがとう、楽しかった、と言ったところで、ちょうど電池がなくなった。スマホを片手に、部屋に戻ろうとしたら、すぐ近くに鈴仙さんがいたのでびっくりした。

 「やーい、驚いた」

 「そりゃまあびっくりしますって…いつからいたんですか」

 「30分前ぐらいかな」

 「ずっとそこで話を聞いてたんですか」

 「勝手に聞こえてきたのよ。夜中に廊下で電話なんかする方が悪いと思うわ」

 「それはまあ、その通りかもしれませんが…」

 「私たちのことを話してたでしょう?」

 「ああ…永夜異変の時のことを、霊夢に教えてもらってました」

 「本人たちのすぐそばで、噂話をするのは、どうかと思うわ」

 「すみません」

 「さっきまで、師匠と姫様もここにいたのよ」

 「うわあ…」

 「私が呼んできたんだけど」

 「なにやってくれてるんですか…」

 「スマホ、だっけ?それで話してるところは初めて見るし、あんなに楽しそうにしてる涼平君を見るのは初めてだったから」

 えらく恥ずかしいところを見られてしまった。今後は気を付けないといけない。師匠と姫様にも、明日の朝謝った方がいいかもしれないな。

 近いうちに、鈴仙さんたちの分のスマホももらってきます、と言ったら、鈴仙さんは興味深そうな顔をしていた。

 

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