リリカルなのはStrikerS AfterStory ~蘇る緋色の弾丸~ 作:皆川誠司@GPS
また、最後の方にちょっとだけ視点が切り替わります。
「ふぅ、疲れた」
自室に備え付けられているシャワーで身体を流し、下着姿でベッドに寝転がる。
デバイスルームでカミングアウトをした後は、割り当てられた自室で荷解きとパーソナルデータの更新。
気付いたときにはお昼を2時間ほど過ぎており、遅めの昼食を済ませて隊舎を1人で見学していた。
「明日からか」
はやて経由でなのはから渡された資料を見る。
内容は新人達のデータだ。
「スバル・ナカジマ、ティアナ・ランスター、エリオ・モンディアルにキャロ・ル・ルシエか」
名前を一通り読み上げて今までの訓練内容を確認する。
パッと見た感じでは、主に体力錬成と戦略・戦術訓練、後は実戦訓練を中心に行われていたようだ。
「てことは、私の役目は魔力の底上げだよな」
いや、底上げと言うよりは効率のいい魔力の使い方を教えるって方が正しいのかな。
いずれにしても、まずは実力を見てみないことにはわからないな。
幸い、明日の早朝訓練はなのはのプランでやるとのこと。
午前に模擬戦をして、午後からはデータを纏めて、久々にやる仕事としてはタスクが多いなぁ。
「……眠い」
大きなあくびが出た。
時計を見ると、時刻は21時を少し過ぎた頃。
普段ならもうちょっと後に寝るのだが、さすがに今日は疲れた。
もう寝ようと思い、ベッドの横にあるテーブルに置いている写真立てを取る。
写真には私と同じ髪色の男性とピンクのロングヘアーの女性が写っている。
死別した父さんと母さんだ。
「おやすみ」
挨拶をして写真立てをテーブルに戻す。
それは、もう何年も行っている日課だった。
(ピピピピ、ピピピピ)
時計のアラームの音が耳元で鳴る。
寝ぼけ眼で時計を止め、ベッドから起き上がった。
「うーん……はぁ」
グッと伸びをして立ち上がると右目を起動する。
徐々に視界が広がる事を確認しつつ、洗顔と歯磨きを行い時計を見た。
時刻は4時45分、いつも通りの起床時間だ。
「さて、ちょいと散歩でもしますかね」
昨日支給された教導隊の制服に着替える。
ドバーニ二佐が気を回してくれたんだろう、サイズはピッタリだった。
「うん、昔とおんなじだ」
なのはとの違いは下半身。
教導隊制服は伸縮性のあるスカートになっている。
そのさらに下、靴下に関しては規定は無く、なのははニーソックスを好んで着用しているが、私は専ら白いタイツを着用していた。
「よし、OK」
髪にブラシを通して、最後にゴムで纏めたら、デバイス端末のメダルを持って部屋を後にした。
隊舎のエントランスに行くと、赤い髪の男の子がいた。
「おはようございます」
「はい、おはよう」
元気に挨拶をしてくるこの子は、確か昨日資料で確認したエリオ・モンディアルだ。
「もしかして、今日から教えていただける教官の方でしょうか?」
「フィリア・アルヴィスよ。フィリアでいいわ」
しゃがんでポンポンと頭を撫でる。
135cmだっけ? 資料で確認はしてたけど、本当にちっちゃいわ。
「午前の訓練でまた詳しく話すから、まずは早朝訓練を頑張ってね」
「はい! よろしくお願いします」
ポケットに入っていた飴を渡し、そのまま外に出た。
外はまだ少し薄暗かった。
「だいぶ寒くなってきたね」
何度か深呼吸をすると冷たくて澄んだ空気が肺を満たす。
そのまま演習場のある方へ向かう。
しばらく歩くと、海の上に作られた演習場が見えてきた。
最新式の演習場で、街や森、岩場や別の管理世界にある浮遊岩礁まで再現できるらしい。
と、しばらく説明書を確認しながら見ていたら、目の前でシステムが起動した。
「はえ~、すごいなコレ」
演習場に現れたのは廃墟の街。
さらに、その街に降りていく4つの影か見え、その内の1人はさっき会ったエリオだった。
「現場から離れてた間に色々変わったんだなぁ」
そんなふうに見惚れていると、後ろから魔力反応を感じ、反射的にバリアを張る。
魔法弾が飛んできた方向を見ると、入院用の服を着た1人の女の子が立っていた。
「相変わらず、良い反応するな」
ニッコリと笑う女の子。
青い瞳に赤い髪、口元には八重歯が覗く彼女は、はやてに仕える守護騎士の1人、ヴィータだ。
「いきなりご挨拶ね」
「まぁこれくらいは防ぐって思ったからな」
ヴィータはそのままスタスタと隣に来た。
てか、回復には時間がかかるって聞いてたのに出歩いて大丈夫なの? このちびっ子は。
「今、出歩いて大丈夫かって思ったろ」
おっと、顔に出たか。
「アタシは頑丈なんだよ、他のやつらと一緒にすんな」
「左様でございますか」
思ったより元気でよかった、これならなのはと同時期に復帰できそうだ。
そのまま、一緒に新人達の訓練の様子を眺める。
「でも、フィリアが代わりでよかったぜ。オメーならアイツらを任せられる」
演習場に顔を向けたまま話を続ける。
「アイリスのねーちゃんもガルドのおっちゃんも、適性は問題ないって言ってたしな」
「それは過大評価ってやつよ」
右目を押さえながら自嘲する。
適性に問題がなかったらあんな事にはならないのよ。
「評価なんて他人が決めることだろ? 少なくともあの2人が認めてんだから胸張れって」
バシバシと背中を叩かれる。
「うっ……いてぇ」
胸を押さえるヴィータ。
「大丈夫? やっぱりまだ無理なんじゃない」
「みてぇだな、わりぃ」
苦笑いを浮かべるヴィータを抱える。
こんなに軽くて華奢なのに、頑丈だからって無茶しすぎなのよアンタは。
「肩を貸してくれれば歩けるよ、下ろしてくれ」
「却下。肩を貸すにしたって、アンタと私じゃ身長差がありすぎるんだからこっちの方が早い」
「んだよ、クソッ……」
口を尖らせるヴィータ、私はそのまま隊舎の入口まで移動する。
エントランスまで戻るとシャマルと遭遇した。
「ヴィータちゃん、大丈夫?」
下ろしたヴィータに慌てて駆けよるシャマル。
「部屋に行ったらもぬけの殻で、心配したんだから」
「わ、悪かったよ」
半泣き状態のシャマルに対してバツの悪そうなヴィータ、これはいい薬ね。
「窓の外にフィリアが見えたからつい」
え? 私のせいなの?
「だからって、ヴィータちゃんは絶対安静なんだから勝手に出歩いちゃだめ」
「だから悪かったって」
今度はビシッと叱られるヴィータ。
相変わらずいい姉妹って感じだ。
「フィリアちゃん、連れてきてくれてありがとう」
「お構いなく」
シャマルに手を握られて礼を受ける。
昨日とはうって変わって、眉間に皺もなく怒っている感じはない。
「じゃあ、私は一度部屋に戻るよ」
「うん。あ、8時から朝食でその後朝礼だから、食堂に来てね」
「あいよー」
手をヒラヒラと振りながらエントランスを後にした。
ーーーヴィータsideーーー
フィリアを見送り、シャマルとアタシの部屋に向かっていた。
「なぁシャマル、あれだけフィリアに怒っていたのに何かあったのか?」
「えっ? あー、えっと……」
歯切れが悪い、もしかして。
「右目の事か?」
「えぇ、そうね……って、あれ?」
あぁ当たりか、まぁどこまで聞いてるかは知らねえが事情を知れば態度も変わるわな。
「ヴィータちゃん、知ってたの?」
「あぁ、知ってた。ちょうど教導隊での研修初日だったからな」
と言っても、到着した時はすでに集中治療室に入った後だったから、顛末はガルドのおっちゃんに聞いたんだけどな。
「この話を知ってんのは誰が居るんだ?」
「……後はシャーリーね」
なるほど、んじゃ少なくとも3人は知ってるって事か。
「他の連中、特にはやて達には内緒にしとこうぜ? でもって、フィリアに何かあったらアタシらでフォローしてやろう」
「そうね……フィリアちゃんがみんなの将来のために内密にしたって言ってたもの」
お互いに決意をしながら部屋に戻った。
その時に廊下で聞き耳を立てていたやつが居ることも気付かずに……
公式設定ではエリオは130cm未満っぽいですが、ちょっと成長してます。