もう一度、もう一度、もう一度、もう一度
まだ、まだ、まだ、まだ
何度でも、何度でも、何度でも、何度でも
いつまでも
■→
◆
──────世の中には救いようの無いゴミが多すぎる
他人を蹴落として
他人を踏み台にして
他人を道具にして
他人を使い潰して
他人に押し付けて
他人から搾取して
他人を騙して
他人を消して
他人を始末して
他人を殺して
そんなゴミ同然のヤツらが、何故か陽の光の下でのうのうと生きている
誰かを傷つけ、害してきた者が善き人々の上に立ちまるで神にでもなった気で、掌の上にいる虫を潰すように簡単に殺す
何故だ
何故善き人が死に、奴らが生きている
何故だ
何故人の為に尽くした人が奴らに潰される
何故だ
・・・俺の仲間が死んだのに、奴らは生きている
何故だ
何故
何故
何故
・・・・・・ある時、ふと思った
本当に死ぬべきは誰か?
・・・そんなの決まってる
本当に死ぬべきなのは・・・
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薄暗い地下鉄のような場所。本来常人が来るような場所ではなく、ある鍵の役割を果たすモノを介さなければ存在すら知りえないそこは不気味な瘴気に包まれ、まるでこの空間自体が死んでるかのような冷気の漂う未知の異界。
人々の集合的無意識によって形作られた迷宮。ある者たちには『メメントス』と呼ばれたその場所で、静寂とは不釣り合いな慌ただしい足音が響き渡る。
「はっ・・・!はっ・・・!!」
どたどたと慌ただしい足音を立てながら走るのはスーツに身を包んだ小太りの男。顔を青くしながら分かれ道だらけのメメントス内を駆け回っているその男の瞳は、金色に輝いていた。
つまるところこの男は現実世界に存在する小太りの男の影法師、
まるで、誰かから逃げているような。
パシュッ
その例えは正しかった。
「ぎゃあぁあぁああぁ!?」
小さく乾いた音が鳴ると男の足に激痛が走る。途端に力が入らなくなり無様に転がると足を抱えて悲鳴をあげた。弾丸が足を貫いたようでドクドクと赤黒い血のような液体が溢れ出ている。これではまともに立つことも出来ないだろう。
「ヒ、ヒィ、ヒィィ・・・!!」
だが男は何としてでも逃げようと這って移動を始めた。後ろから迫る死神から逃れるために必死に腕を動かし、残った片足も使って虫のように這いずりながらも逃れようとしている。
しかし死神は余りにも残酷で、当たり前に冷酷であった。
パシュッ
「ァ、ガァアァアアァァッッ!?!?」
残った片足にも弾丸が打ち込まれ男は絶叫を上げる。男とは真逆に消音器(サプレッサー)によって出来うる限り殺された発砲音が2度鳴り今度は男の両手に風穴が空いた。
激痛によって最早身体を這いずることも出来ずただただ焼き付くような痛みに脳を蝕まれ、瀕死のカエルのように地面に倒れる事しか出来ない男に死神が近づく。
「ひ、ひぃ・・・!!??」
死神が男の目の前まで来た時、メメントス内を照らしている極わずかな光がその死神の姿を照らした。
そこに居たのは正しく
全身を黒1色に包み込み、今にも溶けて消えそうなその影はゆらりと地につきそうな程長いコートを揺らして男の前に立っていた。
その右手には硝煙を上げる
「なんで、なんでこんなことに・・・!?」
ガタガタと体を酷く震わせながら影を見上げる男。そんな男を仮面のような、否、事実影が付けている仮面の無機質な瞳が氷のように冷ややかな視線を向ける。
ヒィッ!と小さな悲鳴を零した男は痛む手足を無理やり動かしてその額を地面に押し当てた。
「た、助けてくれ!頼むぅ!命、だけは!助けてくれ!金、金なら幾らでも・・・ッ!!」
そう言って無様に地に額を擦り付ける男のセリフを最後まで聞くことも無く影は全く興味が無いと言うように男の頭をサッカーボールのように蹴り上げ、壁に叩きつける。
ガベッ!?と潰れる声を出してぶつかった男に影は一切の慈悲無く追撃として、2発、男の腹に弾丸を撃ち込んだ。
「あっがぁぁあぁぁっ!?」
再び走る激痛に男は絶叫を上げる。だがそれを遮るように男の口に何かがねじ込まれる。ダクダクと体の至る所から黒い液を流しながら燃えるほどに熱かった傷が冷え切って感じるほど恐怖に染まった瞳で影を見た。
どうして自分がこんな目に遭わなければならないのかと訴えるように。そんな瞳を見た影はゆっくりと男に顔を近づけるとようやくその固く閉じていた口を開いた。
「横領、薬物、恐喝、売春、殺人・・・ザッと出してもこんな感じか。これで満足だろ?」
男とも女ともとれないノイズがかった影の言葉に男はサッと血の気が引き更に顔を青くした。何故それをと聞こうにも拳銃が邪魔で発声出来ない。まぁしたとしても影がその質問に答えることは無かっただろう。
「教えてあげようか、俺が今どんな気分か」
男を狙う理由を雑に語り終えた影がゆっくりと見せつけるように引き金に指をかける。
「昔さ・・・・・・まだ俺がガキの頃、虫を捻り殺した事があるんだけど・・・
それと同じ気分だよ」
「や、やめッ・・・!!」
パシュッ
男は命乞いの1つもまともに出来ず、やがて燃え尽きるようにメメントスから消滅した。
「・・・・・・。」
それを見届けることも無く、影は身を翻し足音を響かせながらその場を去っていく。
静か過ぎるメメントスの中を歩く影はふと足を止めて自分の顔に、正確には仮面に手を翳すとそこに宿る力の一つを呼び起こした。
「『アルハザード』」
そして姿を現したのは腸のような触手の塊が渦巻き、円盤の形をしたおぞましいペルソナ。時折『ia・・・ia・・・』と声なのか怪しい音を出しながらギュルギュルと空中で回転していたアルハザードはその触手を何本か影に垂らし、その先を体に突き刺すように一体化させる。
すると影の前にジジッ・・・とホログラムが浮かび上がり何かの地図を映し出す。それは今現在のメメントス全体の地図であった。
このアルハザードは本来存在しない筈の力、
ほんの少しの間、その地図を見ていた影はいくつかのポイントを指定すると触手を頭へ突き刺して脳内に直接インプットし、そこへ向けて移動を開始する。
「
影がそう呟くとアルハザードの触手が彼の足元に円を描き、深淵を創り出す。そのままその沼のような深淵に沈んでいきトプンッと頭まで浸かるとまるで最初から無かったかのように影と深淵は姿を消した。
そして影が再び姿を現したのは初めに指定していたポイントであった。
瞬間移動、いや空間転移と言った方がいいか。この特異な空間であるメメントス内を自由に移動することが出来る。その異常性をメメントスを知る者ならば理解できるだろう。
そんな異常な方法でポイントに移った彼の前には先程消した男と同じように金色の目をしたスーツ姿のシャドウがいた。
影は何も言わずに男に向けて銃口を構える。用なら分かり切ってるだろうと言わんばかりに。
「な、なんだお前は!?いきなり現れて!」
喚く男に対して無言で影は何の躊躇も無く引き金を引いた。乾いた音と共に発射された銃弾は男の腹を捉え、血と絶叫を撒き散らした。
「ガァァァ・・・!?お、お前・・・私に攻撃する意味が分かってるのか!?私はかの名高き煤木財閥の・・・ッ!!??」
叫びながら男はその体を変形させ、その身を異形へと変貌させる。ゴキゴキと骨格を変えて鬼のシャドウ『フウキ』へと変わった直後、アルハザードのメギドラによって凄まじい勢いで後方へ吹き飛んだ。
ドガンと壁に打ち付けられたフウキは1度跳ねると今度は飛んできたアルハザードの触手によって四肢を貫かれて再度壁に打たれ、抵抗出来ぬよう縫い付けられる。
激痛に身を攀じるフウキにゆっくり近づき、見せつけるように銃を額に密着させ・・・
「ぐぁ・・・!?こ、この化け物め・・・!今に見てろ、お前の命など私の命に比べれば小石もどうぜッ!?」
フウキが全てを語り終わる前に撃ち、何の感情も無く命を終わらせた。
「屑が命を語るな・・・まぁ、俺の言えたことじゃないが」
薬莢が落ちる音が虚しく響く中、そう言って自嘲気味に笑う。
余りにも軽く引かれる引き金。今の影にとって命とは鉛玉より重く、引き金よりも軽いものだった。
「・・・次だ」
そう呟いた影は再びアルハザードの深淵に沈み次のターゲットの場所へ移動を開始した。彼が消え、誰も居なくなった空間に硝煙の匂いだけが張り付いていた。
ズ、ズズ・・・
やがて、影が全ての標的を狩り尽くした頃。薄暗く廃れて廃墟のような駅の改札口に黒い塗料をぶちまけたような深淵が現れる。アルハザードの力でメメントスの入り口にまで帰還した影であった。
影はコツコツと足音を鳴らしながらナイフに付いた赤黒い液体を払って改札口を通り抜けるとアルハザードを引っ込める。
そしてそれを開く前にチラリと横の何も無い空間へ目を向けた。だが
未だに治らない癖に自分で自分に辟易する影は寂しげな目をしながら扉から外へ抜けていった。
そして抜けた先はビルとビルの隙間、影が闇を濃くする裏路地。そんな場所にズズッ・・・と影から這い出てきた先まで影であった青年は、顔が見えないほど深くパーカーを被っていた。
外は雨が降っており、メメントスから出てきた青年を容赦無く濡らす。しかしそんな事気にせずに青年は手元に握ったモデルガンを少しばかり見つめてカバンに仕舞うと光の差し込む表路地に向けて歩き始めた。
その時、漸く彼の顔を光が照らしその容姿を確認することが出来た。
整った顔、恐ろしいほど白い肌、前髪だけでも分かるくせっ毛、そして伊達メガネに隠された深く絶望に染まった光無き眼。
彼の名は『雨宮蓮』
嘗て心の怪盗団のリーダーを務め、強きをくじき弱きを助ける正義を貫いた青年であった彼は今、裏社会において猛威を振るう
授かった異能を使いどんな小さな悪も見逃さずその命を刈り取る者。誰にも悟られず、影と共に死を贈る死神。
その特質から彼はこう呼ばれていた
『シャドウ』、と。
それは皮肉にも彼が敵として戦っていた者達の総称であった。
我は影、虚ろなる我