周回プレイヤージョーカー君   作:文明監視官1966

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生きてます(満身創痍)

いつも感想&誤字修正ありがとうございます!

1ヶ月以上も空いちゃった・・・ユルシテ・・・ユルシテ・・・

一応言っておくと竜司はノンケです。

蓮?あぁ・・・そういう時もあったね(両刀)

今回も駆け足早足いーとーマキマキー


Let's take back what's dear to you/Part2

即寝落ちしてベルベットルームにカチコミかけた蓮。その際に行ったスーパーヒーロー着地の時に出た音に驚いちゃったカロリーヌは自分からまさかあんな声が出るとは思わなかった恥ずかしさで1コンボ。

 

隣でそれを聞いて顔だけ背けて笑わないよう我慢してプルプル震えているジュスティーヌに気が付き2コンボ。

 

蓮の可愛いなぁとでも言いたげな優しい笑顔を見て計3コンボの羞恥をくらったカロリーヌは顔を真っ赤っかにして「貴様ァァァ!!きさ!きさっ!貴様ァァァ!!??」と警棒をブンブン振り回しながら暴走。

 

それを何とか収め、檻の横で涙目になって体育座りをして拗ねているカロリーヌに何故か持ち込んでいたキャラメルを上げてご機嫌を直してもらい、何とかイゴールの話が始まった。

 

正直毎回同じ内容を話すので飽きてほぼ聞いてない。ペルソナの話と異世界ナビについての説明に適当に返事を返しながら明日の朝食はパンにしようかなと考えてるとあっという間に夢から覚める時間になっていた。

 

「時間だ、帰れ。早く帰れさっさと帰れこのあんぽんたん。」

 

「次はチョコレートを所望します」

 

不機嫌そうに蓮を少し赤くなった目で睨みながらシッシッと手を振るうカロリーヌともう餌付けされ始めているジュスティーヌ。そんな2人に手を振りながらなら次はチョコレートを持ってくるよと言って蓮は牢獄の中から逆バンジーのようにはじき出された。

 

そして鎖だらけの青い空間を抜けると牢が閉まる音と共に現実世界に意識が戻り、ベットの上で目が覚める。やはり残る若干の疲れを振り払いながら体を伸ばし意識を覚醒させる。

 

「帰りにチョコ買って帰るか」

 

喜ぶ双子を想像しながらホクホクとした表情で制服に着替え、鞄を持って下に降りる。勿論、惣治郎はまだ来ていない。顔を洗ってから店内を軽く(当社比)掃除して次に店前の掃除に入る。

 

ササッと砂利などを掃き、窓を拭いてメニュー表も綺麗にする。最後に札もピカピカに拭いてからうん!と満足気に頷き、店内に戻った。

 

その後は朝食作りだ。ベルベットルームでイゴールの話をBGMに考えていたものを手短に手際よく作っていく。その為にまずキッチンからトースターを引っ張り出してきて汚れを取ってからそこにバターとグラニュー糖を塗ったパンをぶち込む。

 

その間に冷蔵庫から野菜を取りだし、洗って食べやすい大きさに切り水気をとってそこにドレッシングをかけサラダを作る。更にウィンナーを焼き、じっくり○トコトのコーンポタージュをそれっぽい皿に移し、出来上がったシュガートーストも皿に乗せて完成。

 

美味そうなそれっぽいモーニングの出来上がりだ。

 

「いただきます」

 

全ての食材に感謝を込めて礼をしてからシュガートーストを口に運ぶ。キツネ色になるまでトーストされたそれはサクッ!といい音をたてて口に含まれると温かさと程よい甘さが広がる。それだけで思わずう〜んと唸ってしまうほど幸福を感じる。この単純で素朴な作り方なのにこれほど美味いものが作れてしまうのだから料理というのは奥深い。

 

まだまだ料理について学べることはある。それらを覚えていくのが楽しみでならない。行ったことない国の食べたことの無い料理とかも食べてみたいなと思いながら温かいコーンポタージュを飲んでいるとふと、()()()()()()()()()()()()()()()などとマイナスな事を考えてしまった。

 

いつかはルブランを継ぐかもなんて考えていた日々もあったがそれも叶わず、一定より先に進めず繰り返す途中。未来に行く事など本当に出来るのか。

 

・・・いや、止めよう。そんなこと考えてもキリがないと言うことはとっくの昔に分かっている。分かっているがルブランという心休まる場所にいるとふとした瞬間にほんの少し闇がこぼれてしまう。ここらで思考を切り替えておこう。いきなり頭を本物に近い威力を持つ改造銃で撃つなんて事はしない・・・とも言いきれないしなんなら過去にやらかしてるので自分自身に気をつけなければならない。

 

(未来は自分で切り開くものだ・・・ってね。フェザーマン第23話より。)

 

好きな戦隊の名言を思い返しながら自分を制しているとドアの鈴が鳴り店に惣治郎が入ってきた。

 

「おう、店の前がえらく綺麗だったんだがまたお前が・・・って美味そうなの食ってんな」

 

「おはようございます、外は俺がやっておきました。これは自分で作った朝食で・・・あ、佐倉さんも食べますか?」

 

「いや、俺ァ家で食ってきたからいい。またの機会にしておくよ。」

 

そう言いながら上着と帽子を脱ぎ、汚れないように隠すといつものエプロン姿に着替える。また綺麗になってんなと店内を落ち着かない感じでキョロキョロと見回しながらカウンターに入るとテレビを点けた後、豆を取りコーヒーを作り始める。

 

「時間もあるし掃除の礼だ。食後のコーヒーでもつくってやるよ。」

 

「!ありがとうございます!」

 

さっきまで歳をとった熟年の紳士のように落ち着いた様子だったのにコーヒーを作ってやると言うとカレーの時のように年相応に明るくなった顔を見てやっぱりチグハグな奴だなと父性を刺激されながらも手馴れた動作でコーヒー豆を選ぶ惣治郎。

 

急いで朝ごはんをかき込んだ後、朝特有の少し冷えて爽やかな空気が漂う中コーヒー豆を挽いている音が店内に小さく木霊する。

 

それを豆の挽いた匂いを楽しみつつまるでプレゼントを待ちわびる子供のような顔でワクワクしながら見つめる蓮。この状況を傍目から見れば自分の子供にコーヒーを作って上げている父親というようなほのぼのとした親子の図に見えたことだろう。2人共眼鏡だし、容姿もどことなく似ているからきっと余計にそう思われる。

 

これを未来で仲間になる画家志望の彼が見たのなら「これはいい絵だ」と言って手でフレームを作った後、スケッチをし始めていたに違いない。それほどまでにここの空間は暖かく、緩やかだった。この人達まだ出会って3日しか経ってないんですけどね。

 

そうしているうちにコーヒーが出来上がり、コポコポと心地いい音を響かせながらカップに注ぎ湯気の上がるそれを蓮の前に出した。

 

「ほらよ、飲みな」

 

「いただきます!」

 

カップを丁寧に持ち上げそれをまず1口飲む、のではなく最初に香りを楽しむ。鼻腔に満ち満ちる独特の香りを一頻り堪能した後にカップに口をつけクイッと傾けてコーヒーを飲む。

 

 

 

その時、蓮に電流走る・・・!

 

 

 

「お、おい。どうした?急に固まって・・・」

 

目をひん剥いて固まった蓮に惣治郎が困惑して話しかけるがそれも蓮の耳には届いていなかった。

 

それもそのはず、蓮は今宇宙にいたのだ。

 

正確に言うならそれは比喩表現で愛してやまないルブランコーヒーを口にした事で自分の世界に入り込み、湧き出る感情の処理が追いつかない状態であった。

 

大量分泌され駆け巡る脳内物質。極限まで集中した意識。ただ舌に残り喉を通るこの一瞬を体感何時間もかけて堪能する。少しの香りも逃がさぬよう、少しの旨みも見逃さぬよう。

 

そうして現実の時間に換算して約10秒、目をひん剥いたまま固まってたホラーな絵面からようやく時が動きだしゆっくりとカップを皿に置いて一息ついた。

 

「美味しいです」

 

「お、おう、そうか・・・」

 

本当に幸せそうに言ってきた蓮に惣治郎はドン引きしながらもなんとか返事を返した。それも気にせずにもう一度コーヒーを飲んで満足気に頷き惣治郎に笑みを向ける。

 

「この香りに柔らかいコク・・・ブルーマウンテンですか?」

 

「!へぇ・・・意外だな、(つう)だったか。当たりだよ。」

 

 

 

────────────────────

 

 

『説明しよう!!』

 

ジャマイカ産、ブルーマウンテンとは!

 

この豆の生産地、ジャマイカは豊かな自然に豊富な雨量、強い寒暖差、水はけの良い土壌などコーヒー栽培には好条件の揃った凄い国だ!

 

ブルーマウンテンは栽培地である山の名前で数々の厳しい基準をクリアした高品質豆に与えられる豊かな香りと柔らかなコクを持つ人気ブランドなのであーる!

 

 

────────────────────

 

 

「なんだ今の」

 

「気にしないで下さい、それよりも・・・」

 

割り込んできた解説をスルーしてコーヒーの感想を言おうとする蓮だったが彼にしては歯切れが悪く一瞬言葉に間が空いた。今、彼の心には濁流が生まれていた。

 

「ん?」

 

「佐倉さんの淹れてくれたコーヒー・・・今まで飲んだものの中で断トツに美味しかったです」

 

そんな正直な感想を言う前にルブランコーヒーを飲んだことで心から安心し、僅かに揺れて理性や自制心から複雑な気持ちが零れ落ちてしまった。故に言葉に間が生まれた。しかしそれを吐露する訳にも行かない。自分はまだ未熟だなと思いながら誤魔化すかのようにカップを両手でギュッと握り締めながらそう言った蓮に惣治郎は急な褒め言葉に若干照れくさそうに腕を組んでそっぽを向いた。

 

「ハ、そうかよ。そりゃどーも・・・ところでお前学校は間に合うのか。」

 

羞恥を誤魔化すために露骨に話題を逸らした惣治郎。それに深追いせずチラッと時計を見てからまた優雅にコーヒーを味わい出す蓮。

 

「はい、もう少し余裕があるので。皿を洗って片付けたら出ようと思ってます。」

 

「そうか、なら皿は俺に任せてお前はゆっくりしてな」

 

「えっ、いや、自分で片付けますよ」

 

「いいから座っとけ」

 

そう言って微笑みながら蓮の使った食器を片し、洗い始める惣治郎。なんという気遣い。彼がモテる理由が存分に分かるくらいカッコイイ行動であった。きっと彼には蓮の不安が見えていたんだろう。これには魔性の男EXである蓮も思わずトゥンクしてしまう。

 

ここで引き下がらないのも何だがやな感じなので惣治郎に言われた通り、時間まではゆっくりと彼の淹れたルブランコーヒーをまるで宝物を見つめるように、愛おしそうに、大切そうに味わっていた。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

「それじゃあ行ってきます!!」

 

「おう、今度は遅れるなよ」

 

「はい!」

 

そんな静かだがとても有意義な時間を過ごした蓮は雨だと言うのに元気100倍どころか1億倍くらいチャージされめちゃくちゃウキウキしながらルブランを飛び出しついでに札を裏返してから傘をさして秀尽に向かっていた。その光景をルブランに向かう途中偶然目撃した武見は開発中の頭に効く薬でも渡そうかと思ったくらいドン引きしていた。

 

その後渋谷駅から乗り換えてガタンゴトンと揺れる電車の中で上機嫌に座って本を読んでいる蓮。タイトルは作者でも理解が出来ないほどとても難しい専門家などが読むような本・・・と見せかけてそのカバーの下は作者も大好き岸○露伴の小説シリーズ『岸辺○伴は叫ばない』を熟読していた。

 

(血栞塗・・・興味深い話だ)

 

人間の際限ない好奇心というものを題材にした作品であり、岸辺露○という人物の貪欲さに触れる作品でもある。独特な言い回しや表現も素敵でどこか消えぬ謎に引き込まれるまさに『奇妙』な話だ。気になる方は是非購入してその目で確かめて欲しい。そして次に『岸辺露伴は戯れない』を買い、岸辺露伴は動かないとジョジョ4部全巻を買って見て欲しい。きっとその頃には立派なジョジョラーになってる事だろう。

 

そんな作品を読む事に夢中になっていた蓮は自分の隣に自分と同じ秀尽の生徒が座っていることに気がつかなかった。血栞塗を読み終わった頃に視線の横にスカートの柄が写った事でようやく気が付いた蓮はなんとなくチラリと横を見てその生徒を見た。

 

 

視線の先にいたのは見惚れてしまいそうな程綺麗な赤髪を真っ赤なリボンでポニーテールにしており、整った顔は活力と優しさに満ちていて一目で朗らか性格だと見て取れた。一見、華奢に見える体は鍛えられ引き締まっているスポーツマンの体型であり、この細さだと恐らくは新体操など美しさを見せる競技の選手だと思われる。

 

最後に全体像を見れば正にお手本のような優等生と言うような誠実で清らかなオーラに満ちていた。

 

しかしここで蓮の頭に疑問が過ぎる。

 

(こんな生徒、秀尽(うち)にいたか?)

 

そう、蓮は今までのループの中でこの女子生徒を見た事がなかった。何度も調査しどこの組に誰がいるか、どこの部屋に何があるかなどほぼ全て記憶している蓮だがそれでも彼女の事を見た記憶は一遍たりとも無かった。こんな可憐な少女だ、一目見れば忘れるはずが無い。

 

だが、奇妙な事に彼女を知っている気もするのだ。何故かどこかで会ったり、見たり、話したりした様な・・・漠然とした感覚だが確かにそんな気がする。けどそれがいつ何処で起こったのかはてんで思い出せない。

 

蓮の中では会ったことがあるが、無い。知っているが知らないという矛盾した感覚がせめぎ合っていた。

 

「あの」

 

そうしていると彼女が話しかけるようにそう声を発した。蓮は自分が話しかけられたと思い、しまった、ジロジロと見すぎたかと少し焦ったがそうではなく目の前に立っているおばあさんに掛けた声だったようだ。彼女について考えていて全く気がつかなかった。この満員電車の中で立たせてしまっていたとはと蓮が配慮が無かった事を恥じている間に彼女はおばあさんに席を譲ろうと立ち上がっていた。

 

「どうぞ、直ぐに降りますから」

 

「いいのかい?じゃあ・・・」

 

彼女の親切に甘え席に座ろうとした瞬間、蓮は不届き者の気配を察知する。彼女が席を空け無人になった一瞬にぬるりと動きそこに座ろうとする目が死んでいるサラリーマン。疲れ果てた体を癒す為僅かな睡眠を取ろうとどんな席も逃さない熟練のその動きを蓮は見逃さなかった。

 

ブチッ!(カットイン)

 

唐突なカットインが入ると蓮はサラリーマンの腕を取り、目にも止まらぬ早業で流れるように自分と入れ替わり蓮が座っていた場所、つまりは一個隣の席へ座らせた。体重移動を利用した素晴らしい身のこなしである。しかも上手い具合に立ち上がった為周りに迷惑もかけていないという無駄に無駄の無い動きであった。ワザマエ!

 

え?そうはならんやろ?なっとるやろがい!(暴論)

 

「どうぞ」

 

「っ!?」

 

勿論、何が起こったのか理解できないサラリーマンは困惑したが目の前でニッコリと微笑む蓮を見て何も言わずペコリと小さく頭を下げてこの空気から逃げる為に直ぐに寝始めた。このサラリーマンも地味に肝が据わってんな。

 

まぁこうしてサラリーマンに席を譲った事でおばあさんは無事に席に座る事が出来た。別に蓮がおばあさんに席を譲れば良かったのではとは言ってはいけない、いいね?

 

「ありがとねぇ、お嬢ちゃん。それと貴方も。」

 

「い、いえ当然の事ですから」

 

ゆったりとしたおばあさんの感謝の言葉に戸惑いながらそう言った少女に同意して蓮も頷く。そんな2人を見てそうだと何か思い出したように荷物を探ると中から飴を取り出してそれぞれに何個か手渡した。

 

「これ、お礼よ。良かったら食べて」

 

「わぁ!ありがとうございます、おばあちゃん!」

 

「ありがとうございます、レディ」

 

「あら、お上手ね」

 

 

『蒼山一丁目〜蒼山一丁目〜』

 

そうしているうちに駅に着いたらしく、手を振るおばあさんに軽く手を振り返しながら電車から降りる蓮と少女。コロコロと口に含んだおばあさんに貰った飴ちゃんを転がしていると隣にいた少女が急に蓮へ頭を下げてきた。

 

「あの、さっきはありがとうございました!」

 

そう言って笑顔でお礼をしてきた。こちらは当たり前のことをしただけだと言うのに何と真面目で素直な少女だろう。やはり誠実な優等生というイメージは間違いなかったようだ。

 

「気にしないでくれ」

 

「いえ、そういう訳にはいきません。私だけだったらきっと座られちゃってそれまでだったでしょうし・・・それに秀尽学園の2年生の方ですよね?私、1年生なので先輩に失礼はマズいかと思いまして」

 

「あまり年功序列は固く考えない方がいいと思うよ、気苦労の方が多いし俺は気にしない。」

 

「え、そういう・・・ものでしょうか?」

 

「そんなもんそんなもん」

 

ある程度は意識してあとは適当にやるのが1番だと持論を述べながら歩く蓮に子犬のように少女はついて行く。目的地が同じなので一緒に登校するという形になったのでナチュラルに歩幅を合わせつつ歩いているとここで蓮は少女の名前を知らないことにようやく気がついた。

 

「自己紹介がまだだった、俺は秀尽2年の雨宮蓮だ。よろしく。」

 

「雨宮先輩ですね!私は芳澤かすみと言います!よろしくお願いしますね!」

 

元気よくハツラツとして自己紹介をした少女、かすみはニコッと見惚れてしまうほど可愛い笑みを浮かべた。それを見て蓮は何故か尻尾をブンブンと振る子犬を連想する。こう、屈託のない笑顔や態度を見ていると何となくそれを思い返してしまうのだ。

 

「それにしてもあの先輩の動き凄かったですね!こう、無駄がないというか洗練されてるというか!」

 

「鍛えてますから」

 

シュッ、口に出しながらと顔の前で手首を回して敬礼のような仕草をするとかすみはだからか〜!とポンと手を打ちながら納得する。いや納得するかそれで。

 

「じゃあ先輩は何かスポーツとかやってるんですか?」

 

「いや、特にはやっていない。大体はできるけど。そっちは何をやってるんだ?」

 

何か、ではなく何をと言われ何かしらのスポーツをやっているという事を確信しているような言い方にかすみは驚いたように蓮を見た。

 

「え?分かるんですか?」

 

「あぁ、体は鍛えられ引き締まっているし歩き方を見たら体幹もしっかりしてる。それに柔軟性も高そうだ。線が細い事を考えると・・・バレエか、新体操辺りか?」

 

「えぇっ!?凄い!当たりです!」

 

服の上から見てどれほど鍛えているかを見抜き、歩き方から体幹や柔軟性を見抜いて更に取り組んでいるスポーツを当ててくるという普通の人にやったらドン引きされるような超高度な観察眼にも引かず寧ろ凄い!と尊敬の眼差しを向けてくるかすみ。それにちょっと機嫌が良くなりふふん、と得意げに笑う蓮。微笑ましいがやってたことは変態染みていた事を忘れてはならない。

 

「先輩の言う通り、私新体操をやってるんです。」

 

「新体操か・・・そういえば手を付けたことが無かったな」

 

「なら是非やってみて下さい!ちょっと柔軟がキツイけど楽しいですよ!」

 

「考えてみるよ」

 

そうして他愛のない話をしているといつの間にか学校に着いていたのでここらで彼女と別れる事にする。すると別れ際にも「それでは先輩!また!」と頭を下げて言っていたがやはり体育会系とだけあってそういったのは抜けないのだろうかと考えた。余り固いのもやりにくさを感じるなと思うと同時に会った時から感じていた既視感についても改めて考えてみる。

 

(ぬぅ・・・話した感じ彼女とどこかで会ったという感じはしない。あれだけ特徴的なら忘れるはずもないしな。だがやっぱり違和感は抜けない・・・うーむ、一体なんなんだろうか。)

 

頭を捻って考えてもやっぱり何も出てこないのでため息を吐き仕方なく頭の片隅へ保留して教室に向かう。

 

 

蓮が来た途端に緊張で行き詰まる教室の中をスタスタと歩き杏におはようと挨拶してから着席する。急に話しかけられた杏は吃驚した様子で固まっていたが少ししてから小さな声で「・・・おはよう」と返してくれた。可愛い。

 

その後は特になんの変哲もない授業を聞き流しながら受けていた。だってもう内容全部頭に叩き込んであるし、知識の泉になるくらい勉強してるし、聞かなくてもテストなんてオール満点が取れるくらいだし。いざとなったらオンラインがある(メタ)周回プレイヤーを舐めるなよ。

 

まぁ成績が落ちるのは何となく嫌だから真面目な顔して傍から見たら勤勉に見えるように意識してるけど。

 

しかしこれをやっても内心を見透かしてきてるのか牛丸はチョークを投げてくる。だがこれをノートを書きながら人差し指と中指の2本で難なくノールックキャッチ。不敵な笑みを浮かべながらチョークをそこそこの速度で投げ返すと鼻を鳴らしながら手で掴み取りチョークを粉々にして「少しはやるようだな」と呟く牛丸。あれ?この作品いつの間に学園バトル作品になったんですか?

 

そんな突っ込みをホームランと共にどこかへ打ち飛ばすと始まるチョークとチョークの応戦。それを繰り返していると何故か芽生える教師と生徒の友情。最後にはお互いの実力を認め合い、笑顔で握手。何事も無かったかのように授業が再開した。なんだったんだあの時間は。

 

そうして時は流れあっという間に放課後。昨日に続き今日も濃い一日を経験してぐったりとしたクラスメイトを放って蓮が教室を出ると先に出ていた杏が顎に絡まれていた。

 

「あぁそうそう、例の転校生には気を付けて・・・チッ・・・まぁいい、気をつけて帰れよ」

 

「・・・はい、ありがとうございます・・・失礼します」

 

話している途中で自分を見ている蓮に気が付き杏に聞こえない程度に小さく舌打ちすると話を切り上げ体育教官室へと戻っていく。それに気が付かない杏は小さく言いたくもない礼を言ってからその場を去っていった。

 

(相変わらずあからさまな態度だな)

 

何故あんな様子で他の生徒達に気が付かれないのか皆目見当もつかない。余程節穴でもないと直ぐにボロに気がつくと思うが、そんなにこの学校には脳内お花畑が多いのだろうか。

 

なんて考えながら校門まで行くとその影からひょっこりと竜司が現れ、軽い挨拶をしてきた。

 

「よっ、レーンレン」

 

「竜君」

 

「え?何その呼び方、天然幼なじみ系美少女かよ。って!そうじゃねぇ!昨日のアレ、やっぱどうしても気になってよ。調べるの付き合ってくんねぇか?」

 

パンッ!と手を合わせて頭を下げる竜司に蓮はまぁ元からそのつもりだしと考えながら優しく微笑んでその頼みを了承する。

 

「あぁ、勿論だ」

 

「ホントか!やっぱお前良い奴だぜ!そんじゃあ早速駅から道を辿って・・・」

 

「その事なんだが」

 

「?なんだよ?」

 

1度駅の方に戻って昨日の朝通った道から調査しようと歩き始めた竜司を引き止める。不思議そうに首を傾げる竜司に蓮は自分のスマホを指さしてあたかもたまたま見つけましたと言うように演技しながら説明する。

 

「実は昨日の夜、色々調べてたらそれっぽいのがあったんだ。」

 

「マジで!?ナイスだぜ蓮!で!?どんなだ!」

 

「どうやらこの変なアプリが原因だったらしい。」

 

蓮がスマホの画面を見せると竜司はそれを覗き込む。「ほらこれ」と蓮が示すアプリのアイコンを見ると赤と黒の変な目玉のような不気味なデザインに竜司は若干頬をひくつかせた。

 

「これが?」

 

「あぁ、これはナビアプリらしくてあの時間に起動していた。竜司も聞いただろ?最後の方に『帰還しました』って声。」

 

「あ、確かに。つーことはこれであそこに・・・パレスに行けるってことか?」

 

「恐らく」

 

それを聞いて竜司は少し迷う素振りを見せた。最初の潜入で酷い目に合ってるからやや恐怖が強まってるのだろう。だが頬を両手で叩いて気合を入れて迷いを消し去り、覚悟を決めた顔で蓮と目を合わせ頷いた。

 

「うし!うじうじしてても仕方ねぇ!使ってみるか!」

 

「よしきた」

 

それに応えて蓮はポチッと変なアプリ『異世界ナビ』を起動する。すると画面いっぱいにアイコンが広がり自動的に目的地が入力されていく。1度入ったパレスの侵入条件をバックアップし、次に潜入する時にはオートに行ってくれるのだ。いちいち入力する手間が省けるからアイツにしては気の利いたシステムを入れてくれたものだ。

 

そう考えながら眺めているとスマホから音声が流れ始める。

 

『カモシダ・・・シュウジンガクエン・・・ヘンタイ・・・シロ・・・ナビを開始します』

 

そんな機械的な音声と共にスマホの画面が乱れ始めそこから世界に干渉する波がたち始める。その波は世界に揺らぎをもたらし周辺を包み始めると今度は現実世界を塗り替えるように赤と黒の模様が波紋のように辺りに広がり始める。

 

「な、なんだぁ!?」

 

竜司と蓮がそれに巻き込まれてから完全にそれが収まると世界は一変し、昨日も訪れたおどろおどろしい紫色の空の下に佇む怪しいラブホっぽい城がある不気味な世界、『カモシダパレス』へと潜入していた。

 

「お、おぉ・・・!ほ、ホントに来れた・・・!」

 

「どうやら成功したみたいだ」

 

「あぁ、みたいだな・・・って!うぉお!?お前また服変わってんぞ!」

 

驚きながらもまたここに入れた事に喜んでいる竜司が蓮の方に振り返ると蓮は前に最後まで身を包んでいた不思議なかっちょいい服に身を包んで『蓮』から『ジョーカー』へとなっていた。

 

「ふむ、快適だ」

 

「気に入ってんのか・・・?つーか妙に様になってんな。着慣れてるっつーか、違和感ねー。」

 

キュッと手袋を締め直すジョーカーをまじまじと見る竜司。確かに彼の言う通りジョーカーの服装はかなり様になっていた。まぁ蓮がテンションを上げて相応の振る舞いをしているからなのだが。こういうのは形に合うようはっちゃけるのが大事だとジョーカーは語る。

 

竜司がいーなーと言うような目でジョーカーを眺めていると急に物陰から声が聞こえた。

 

「おい」

 

「うぉぉおぉッ!?」

 

その声に驚いて飛び引いた竜司。そんな彼に対してやれやれと言った感じにため息を吐きながら声のした物陰から出てきたのは前回、脱出の際に世話になった不思議猫のモルガナであった。

 

「騒ぐな馬鹿、奴らに気づかれるだろ」

 

「おめぇのせいだろうが猫!」

 

「だから猫じゃねー!モルガナだ!そんなことよりお前ら何やってんだ?折角逃げ延びたのにまた正面から来るなんて。シャドウ共もザワついてるぞ。」

 

モルガナがクイッと顎で扉のちょっとした隙間から中を覗いてみるように指示すると蓮と竜司は片目を閉じて城の中を見てみた。城の中には確かに前に蓮達を捕まえた兵士達が警戒態勢にはいりながら人数多めに巡回していた。

 

虫一匹見逃さぬと言うような鬼気迫る雰囲気に加え城の中から聞こえてきた叫び声に竜司は少し顔を青くした。

 

「な、なんだ今の声?」

 

「捕まってる奴隷だろうな、鴨志田の命令で調教されてんだろ。珍しくない、ここじゃ毎日こうだ。ましてや昨日お前らに逃げられたからな、さぞ荒れてんだろうぜ。」

 

モルガナは耳障りなものを聞くように顰めた顔で片耳を抑えながらそう説明すると竜司は何かを思い出したようでハッとして目を見開いた。

 

「奴隷・・・?そうだ!俺達以外にもいたよな!捕まってる奴!あれ全員ウチの生徒だった!つーことは・・・!あの野郎ッッ!!」

 

つまりは、そういうことだ。

 

その事に気がついた竜司は昨日見たボロボロの生徒の姿を思い出すと血が出るのでは無いかというほど手を握り締め、歯を食いしばって城の頂上を睨めつけると思い切り助走をつけて扉にタックルをかます・・・・・・直前にジョーカーに襟を掴まれて止められた。

 

「ぐぇっ!?」

 

「落ち着け」

 

「そうだぜ、見つかったらどうすんだ。後先考えずに行動すんなよ。」

 

呆れるようにそう言ったモルガナにぐうの音も出ない竜司はジョーカーのおかげで少し冷えた頭を振って興奮を抑えると今度はモルガナの方へ向き直ってある事を頼んだ。

 

「なぁモナモナ!」

 

「モルガナだ!」

 

「モルガナ!お前この声の奴らがどこにいるか分かるか!?」

 

それを聞いて言いたいことを察知した大方の事情を知っているモルガナは目を細めて竜司を見る。

 

「連れていけってか?・・・まぁ案内してやってもいいけどよ。」

 

「ホントか!」

 

まるであまり意味の無い事をしようとする愚者を見るような目だったがある狙いがあったモルガナはこれを好機と見て条件を出した。

 

「ただし、こいつも一緒に来るってんならな」

 

チラリと目線をジョーカーへと移す。このパレスの中核にある物を入手するために必要となる強力な助っ人として十分な力をジョーカーから見出していたモルガナは恩を作ることによって自然な流れでパレス攻略の駒としてジョーカーを扱える条件を繰り出した。

 

ジョーカーに竜司の不安そうな目線が向けられるが彼が断るはずもなく秒で了承した。

 

「いいぞ」

 

「蓮・・・!ありがとな!」

 

「よし、決まったなら行くぞ。時間が惜しい!ついてこい!」

 

計画通りと言った感じに蓮達に見えない角度でニヤリと笑うとダバダバと走って前回に脱出で使った通気口の中へ軽い身の子なしで登っていく。モルガナ曰く、怪盗が正面から入らないのは基本中の基本と言う事だが竜司はピンとこないで何言ってんだこいつという目で見ていた。

 

蓮が華麗に跳んで登り、竜司が不恰好によじ登るとまたあの嫌な感じの空気が漂ってくる。モルガナ達が先へ進む中、思わず立ち止まり顔を顰める竜司だがここで止まっていられねぇとモルガナ達の後を追う。

 

 

さて、ここから先は完全なる敵地。求めている情報を得る為には影に潜み、音を忍ばせなければならない。詰まるところ潜入ミッションだ。

 

潜入、と言うからには勿論敵に見つからずに目的地へとたどり着く必要がある。見つかればしつこく追い回される事間違い無し。パレスの雑魚兵は質より量で攻めてくるため厄介な事極まりない。

 

故に地味だろうが何だろうがこうして物陰に潜んだり、カバーによって慎重にクリアリングをして進んでゆく。竜司は若干不格好な事に不満を持っているが状況が状況なので我慢しているようだ。

 

大広場の中を見回し、警備が全員違う方向を見ていることを確認して出来るだけ音を殺し一気に駆け出す。それを細かく繰り返して何とか地下にまでたどり着く事が出来た。

 

「げ!」

 

しかし地下に入って少し進んだ通路、ザアザアと激しく水が流れる音が響くそこには警備が一人道を塞ぐように佇んでいた。ギリギリでそれを発見したジョーカー達は壁に身を隠し警備が移動しないか観察する。だが警備は一向にそこから動かず、動いても少し移動しただけだったり向きを変えただけだったりとその場から離れる気が一切感じられない。

 

「こりゃ戦闘は避けられないな・・・」

 

「みたいだな」

 

「よし、丁度いいし戦闘の基礎を教えておくか」

 

「基礎ぉ?」

 

「あぁ、シャドウの顔を見てみろ。」

 

モルガナに言われて竜司は檻の中を見ている兵士シャドウの顔を見てみる。シャドウの顔面には無機質な人の顔を模した気味の悪い仮面が張り付いておりそれがシャドウの不気味さに拍車をかけている。

 

「仮面がついてんな・・・気持ち悪ッ」

 

「あれを背後からの不意打ちで剥がすんだ。そうすりゃどんなシャドウも前後不覚になり一瞬隙が生まれる。そこを先制攻撃して仕留めるんだ。分かったな?」

 

「ああ」

 

モルガナの簡潔で丁寧な説明に軽く返事をして手袋を締め直すジョーカー。その手にはいつの間に取り出していたのかミセリコルデをクルクルと回転させて構えていた。

 

「なるほど、あれを剥がせばいいんだな!」

 

「お前は見学だよ!ペルソナが使えないんだからな。準備はいいなくるくる頭!さぁ行くぞ!」

 

意気揚々に突っ込もうとする竜司を引き止めて引っ込めさせるとモルガナとジョーカーはお互いに合図もなく完璧なタイミングで物陰から音もなく飛び出し、低い姿勢で影を駆けると一気に距離を縮め接敵する直前に赤い軌跡を描きながら跳躍。その肩に飛び乗ると抵抗する間もなく顔面の仮面を無造作に引っ掴み、力づくで引き剥がした。

 

『ナッ!?ヌォオッ!?』

 

ベリベリベリィッ!と嫌な音をたてながら剥がれた仮面をその勢いのまま投げ捨てると肩を蹴ってシャドウの体勢を崩しつつ距離をとる。支配の象徴である仮面を失った事で兵士は正体を現し、鎧から赤と黒の液体を吹き出しながら中から花に体がついたようなシャドウ『マンドレイク』が出てくる。

 

モルガナの言った通り混乱してフラフラと揺れるマンドレイクにジョーカーの後ろにいたモルガナが速攻を仕掛ける。

 

「ハァッ!」

 

自身の持つサーベルと出現させたペルソナ『ゾロ』のレイピアで同時に攻撃して隙だらけのマンドレイクを切り刻んだ。断末魔をあげる暇もなく倒されたマンドレイクは黒い霧のようになって爆散し、地下の空気へと溶けていった。

 

一切の反撃どころか反応も出来ず消えたマンドレイクを後目にモルガナはジョーカーの足をその肉球でポンと叩き賞賛の言葉を送る。

 

「へッ!やっぱりやるなお前!文句無しの動きだったぜ!」

 

「そっちこそ流石だ、スマートな攻撃だった」

 

「あったりまえだろ!吾輩は百戦錬磨の怪盗、モルガナ様なんだからな!」

 

ムッフーン!と自慢げに胸をはるモルガナを自然と撫でているといつの間にか先に進んでいた竜司が牢の中を見て何やら叫んでいた。モルガナを抱えて近づいてみるとやはり牢の中にいたはずの生徒(シャドウ)がいなくなっている事に驚いていたようだ。

 

「何で誰もいねぇんだよ!前はいたのによ!」

 

「おい、落ち着けパツキン。見張りに気付かれ・・・」

 

「いや、他にも居たよな・・・あっちの方か!?」

 

「あっ!おい!・・・たく、人の話を聞かねぇ奴だな・・・ってか!お前も何ナチュラルにだっこしてんだ!下ろせコラー!」

 

ここにいた生徒(シャドウ)は修練場と言う名の拷問場に連れて行かれているのでいないのだがそれを知らない竜司はドカドカと忙しく走りながら奥の牢へ走っていってしまう。しかし少しすると竜司は焦りながら戻ってきた。

 

「や、やべぇ!足音が近づいてくる!かなりの数だ!」

 

どうやらシャドウ達がこちらに向かってきているらしい。多分、というか絶対竜司が騒いでいたことが原因のためモルガナはジト目で竜司を睨んだ。

 

「どう考えてもお前のせいだろ・・・仕方ない!あの部屋に隠れるぞ!ひとまずやり過ごすんだ!」

 

「よし」

 

「いや下ろせよ!」

 

モルガナが牢の真反対にある何故か歪みの薄い部屋を指差す。言わずもがな『セーフルーム』である。

 

このセーフルームとはパレスの干渉が薄い場所、つまり主の支配が弱い場所である。ここにはシャドウ達も侵入どころか気が付くことすらしづらく、ジョーカー達にとっての安全地帯、すなわち『セーフルーム』なのである。それを説明された竜司は頭を捻っていたが部屋の中が揺らぎ内装が変化して目を見開く。

 

「ここ、教室か?」

 

「ああ、これでここが主の心が生み出したもう1つの現実ってことが分かったろ。」

 

「んん・・・よく分かんねぇけど、鴨志田の野郎が思ってた以上に糞って事はよーく分かったぜ!あの野郎学校を自分の城だと!?巫山戯んのも大概にしやがれ!」

 

怒りに身を任せて椅子を蹴り飛ばす竜司。嫌悪感を隠そうともしないその態度にモルガナは何かワケありかと察する。

 

「余程鴨志田って奴が嫌いらしいな」

 

「嫌いなんてもんじゃねぇ!全部あいつのせいだ・・・!」

 

「・・・何があったか知らねぇが情で突っ走るのはやめとけよ、そこら中手下だらけだから下手したら死ぬぞ。そいつみたいに覚醒してなきゃな。」

 

竜司の絞り出すような悲痛な声に気まずくなったモルガナは話題を逸らしてジョーカーの格好について触れる。すると竜司も一旦怒りを潜ませてジョーカーの方をみた。

 

「・・・そういや何なんだよこの格好、知ってんのかモルガナ」

 

「だからモルガナ・・・あってた。おほん、簡単に説明するとそれはペルソナと同じパレスの影響を弾く強い『反逆の意志』が形になった物だ。その姿はまさにお前自身の『反逆のイメージ』なのさ。」

 

「つまり防護服であり、戦闘服でもあるって事だな」

 

「まぁそんな感じだ!」

 

ジョーカーがそう言うとモルガナは「やっぱり分かるやつだな!」と満足気に頷くモルガナ。ただ一人よく理解していない竜司は今度はジョーカーからモルガナへと目を移した。

 

「何となく分かったけどよー、じゃあお前はなんなんだよ。服よりそっちのが謎だわ。」

 

「なんなんだとはなんだ!吾輩は人間だ!正真正銘、人間様さ!」

 

失礼な物言いにプンスコとご立腹なモルガナ。しかしその姿は猫・・・にもあまり見えずだが人間と言えば決してそうは見えない。じゃあ何に見える?と聞かれれば辛うじて「猫?」としか言えないような不思議な見た目をしているため竜司の目が節穴とかそういう訳では無い。ただ単にデリカシーが無いだけである。

 

「本当の姿ってやつを失っちまっただけさ・・・だからこんな姿になってる。・・・多分、きっと。」

 

「いや多分て・・・」

 

「だが元に戻る方法は知っている。ここに来たのもその下調べの為だ。捕まって拷問されちまったが・・・吾輩も鴨志田にはお礼してやらなきゃ気が済まない。絶対な!」

 

ギリギリと悔しげに歯を食いしばりながら手をゴキゴキと鳴らす素振りを見せるモルガナ。その姿はとても殺る気に満ちていた。余程鴨志田による拷問を根に持っているようだ。プライドの高いモルガナだからこそやり返し、いや!倍返ししなければ気が済まないのだろう。これで竜司とモルガナの利害が互いに一致していることが分かった。

 

後はそろそろシャドウも離れてる頃なので休憩を終えて修練場に向かうだけだ。

 

「行くなら急ぐぜ。新人、お前の力存分にあてにさせて貰うぞ。」

 

「今回はお前ばっかりに苦労させねぇよ。家から()()持ってきたかんな。」

 

そう言って笑うモルガナに「任せろ」と微笑みながら返すジョーカー。既に信頼関係が築けているらしい。そんな2人を見て竜司もカバンを漁ってある物を取り出す。

 

「じゃん!どうだこのショットガン!中々リアルだろ?」

 

「確かにな・・・どうしたんだこれ?」

 

「前に蓮が使ってたモデルガンが本物みたいに撃ててただろ?それなら俺も戦えるなって思って一応持ってきてたんだよ!」

 

どーよっ!とドヤ顔をしながら前にカッコイイからという理由でとあるミリタリーショップで買ったショットガン『レビンソンM31』を胸にかまえる竜司。しかしそんな竜司にモルガナはまた呆れたようにジト目を向けた。

 

「いや持ってきたのはいいけどよ・・・お前シャドウ相手に近接戦出来ないのになんで射程距離の短いショットガン持ってきたんだよ」

 

「・・・・・・あ」

 

「まぁ無いよりもあった方がいいか。威力もあるし、念の為使えるようにしとけよ。」

 

「お、おぉ!任せろ!」

 

意外にも罵声は控えめにフォローしたモルガナに竜司もちょっと困惑しながらも返事をする。鴨志田をシバくと言ってるにも関わらずに何も持たずにこの城に来たのだとしたらモルガナは豊富な語彙から放たれる弾丸のような罵詈雑言を吐き散らしていただろうが、しっかりと身を守れる物を持ってきていた為に意外と感心していた。

 

そこに無い頭でよく考えたじゃねぇかという見下しが付くが。やはりこの2人、あまり相性が良くない。

 

「持ち場に戻ったようだ」

 

ジョーカーは少しだけ開けたドアの隙間から外を覗き見張りが戻った事を確認する。

 

「よし、そろそろ行くか。奴隷達は修練場の方にいると思うから見張りが居ないうちに急くぞ!」

 

シュババッと素早く移動する2人とダカダカと忙しなく走る竜司。すぐ先の牢にいた見張りのシャドウを隠れてやり過ごしながら修練場へと着実に進んでいた。

 

更に地下に入り、話し合っている見張りを奇襲し敵シャドウへと変貌させた所で派手に暴れずアサシンのように静かに仕留める為にミセリコルデで喉笛を切り裂き、速やかに沈黙させる。

 

戦闘音を聞いて道の角から現れたシャドウに対してはR.I.ピストルで狙撃し、顔面の仮面を破壊。怯んでる隙に大きく前転で接近し、現れたインキュバスの顎下に銃口を突き付け迷わずトリガーを引いて発砲。あっという間に消滅させた。

 

より効率的に、よりスムーズに。これパレス攻略の基本である。

 

「お前・・・実は殺し屋とかねぇよな?」

 

「親父はもっと上手く()る」

 

「殺し屋一家かよ!?・・・ってそれキ〇アじゃねーか!」

 

「にしてもあの動き見事だったぜ・・・流石、吾輩が見込んだだけあるな!」

 

エンカウントしても騒ぎを大きくする前にシャドウ達をぶっ倒して進むジョーカー達はそれからも大きな障害にぶつかることなく修練場へと辿り着いていた。

 

扉の前に居座っていたシャドウをモルガナがガルで扉ごと吹き飛ばし、消えていくシャドウを踏み越えながら中に入るとそこにはまた扉があり、何故か怪しい色の光で照らされていた。しかも上を見ると安っぽい布に『鴨志田愛の修練場』と巫山戯た事が書かれて飾られておりかなり異様な雰囲気となっている。

 

「糞みてぇなもん掲げやがって・・・!」

 

「自己愛塗れの拷問部屋の間違いだろ」

 

センスの欠けらも無いと酷評しながらその扉を開けて見ると先の通路からただ事ではない悲鳴が響いてくる。急いでその悲鳴の元へ駆け出すと橋を超えた所に柵で中が見える様になっている部屋があった。どうやらそこから悲鳴は聞こえてきており、監視に気をつけながら覗いてみるとそこにはさっきの旗がある部屋よりも更に異常な光景が目に飛び込んできた。

 

「んだ、これ・・・」

 

そこには兵士が警棒のようなものを持ってバレーのネットを掴ませた秀尽のジャージを着た生徒達の臀を思い切り殴打していた。その勢いは相当なもので棒が当たる度に地面を鞭で叩いたような痛々しい音が部屋全体に響いている。

 

そんな光景を見た竜司は少し呆然としたが隣の部屋から聞こえてくる悲鳴に気づき、今度はそちらへ向かう。隣の部屋では後方へ動く床を走らされる生徒がおり、床の先ではおびただしい棘の着いたローラーが勢いよく回っている。転べば一瞬でミンチだろう。しかも走り疲れて水を求める生徒を嘲笑うかのように動く床の先に水の入ったヤカンを吊るしているという外道ぶり。

 

竜司はクソみたいな光景に目眩がするが更に隣から聞こえてくる悲鳴に走って中を見に行っていた。

 

そこでは生徒を両手足を縛った状態で逆さまに吊るし、そんな無抵抗な状態の生徒に向けて壁にある大砲からバレーの球を豪速球で打ち出して直撃させるという最早修練ですらない暴力的過ぎる光景が広がっていた。

 

「これは・・・」

 

「おいおい、頭のヤバい奴だとは思っていたがここまでとはな・・・」

 

心底胸くその悪い光景の連続にモルガナも顔を歪める。それもそうだ、ここは鴨志田の認知世界。奴が認識する現実が形になった場所。つまり目の前の異様な光景も現実を元にしたもの。鴨志田によるバレー部員達に日常的な暴力が行われているという決定的な証明に他ならない。

 

 

修練と称して部員を殴り、水を飲ませず走り続けさせ倒れた者には罰を与え、棒立ちにさせた生徒に向けて遊び感覚でスパイクを当てる。この拷問を現実に当てはめれば恐らくそんなところだろう。

 

それに気がついた竜司は頭に血が登り、激昴しながら近くにあった樽を蹴り飛ばす。

 

「クソすぎんだろッッ!!」

 

「おい!落ち着けって!見つかるぞ!」

 

「落ち着けるか!お前が言ってた通りならコイツらバレー部の奴らは現実でも似たような目にあってるって事だろうが!クソ!どっからか開けられねぇのかコレ!」

 

「おいバカ!気持ちは分かるが冷静に・・・ん?」

 

幸い、中にいた兵士達は拷問に夢中でこちらの音には気が付かなかったが近くにいたバレー部員には聞こえていたらしく、怪我を抑えながらのそのそと近づいて柵越しに話しかけてきた。

 

「やめろよ・・・ほっといてくれ。逆らったってどうせ無駄なんだから・・・。」

 

「は!?」

 

「そうだ・・・!大人しくさえしていればお前らみたいに処刑されずに済むんだ・・・!分かったらとっとと消えてくれ・・・!」

 

その表情はとにかく必死であり、目からは光が消え失せている。ただただ鴨志田を恐れ、従順にしてその怒りの矛先が自分達に向かないよう己を殺し理不尽に耐え、しかし逃げるという選択を失った『奴隷』。抗う事も忘れ、去勢されたように大人しく道具に徹するその姿は情けないと言えないほど痛ましい。

 

「恐怖と暴力による調教か・・・あそこまで鴨志田を恐れてるのを見ると普段から相当な体罰を受けてるみたいだな」

 

「許せねぇ・・・!そうだ!証拠としてここを写真に・・・って!スマホ使えねぇ!」

 

竜司がスマホを取り出してカメラを起動しようとするが全く動かず画面すら点かない。どうやらこっちではスマホは使えないようだ。竜司はジョーカーの方を見るが彼もダメだったようでフルフルと首を横に振る。

 

「おい、これ以上は見つかっちまうぞ。そろそろ戻った方がいい。」

 

「ちょっと待ってろ!今、アイツらの顔覚えっから!」

 

急かすモルガナにそう言って柵に張り付いて中にいるバレー部の生徒の顔を一人一人覚えていく竜司。それだけ記憶力があるなら勉強にも生かせるのではというのは野暮だろうか。

 

「うし!これで全員覚えたぜ!」

 

「ならさっさとずらかるぞ!着いてこい!」

 

そうして修練場から出てきたジョーカー達は再び、セーフルームのある階へと戻ってきていた。そのまま橋の方へ走ろうとした3人だったが奥の方でガシャガシャと鎧を鳴らしながら走る兵士を見て急いで物陰へと隠れる。

 

「修練場近くの兵から定期連絡が途絶えた!賊が入り込んでいる可能性が高い!各員、警戒を高めろ!」

 

どうやら連絡係の兵士を倒した事で地下にいる事がバレてしまったようだ。パレス内部の警戒が上がっていくのを感じる。叫んで走っていく兵士を見てモルガナが舌打ちした。

 

「チッ!長居し過ぎたか・・・急いで脱出するぞ!」

 

「ああ、行こう」

 

ジョーカーはこの先の重要な出来事に向けて気を引き締めるながら手袋を締め直す。大きく()から外れていない為、恐らく大丈夫だろうが油断は出来ない。あらゆるイレギュラーを想定して動かなくては。そう考えながらチラリと竜司を見る。

 

認知による補正の入っていない彼はやはりやや辛そうに走っているが自分の責任であるという自覚があるため愚痴ひとつ零さず着いてきている。

 

この世界で初めての友人、最後まで自分のそばに居てくれた親友。彼をこの道へと進ませるのに少し罪悪感が湧くが彼には道理を吹き飛ばす力がある。ならばそれを飲み込み彼を心の底から信じよう。

 

 

最善の未来のために、どうか力を貸してほしい。

 

 

ジョーカーはポケットの中にあるスポーツウォッチを握り締めながらそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「急げ!もう少しで出口・・・ッッ!?」

 

 

「あ?どうしたんだ・・・よ・・・!?」

 

 

「これは・・・!?」

 

 

 

 

 

 

 

「侵入者だと聞いて来てみれば、また貴様らとはな・・・」

 

 

 

そして、広間へと戻ってきたジョーカー達を待っていたのは・・・

 

 

 

「2度も同じ過ちを繰り返すとは、救い難いな!」

 

 

 

 

すね毛の汚い鴨志田(変態)と、それに付き従う広間を埋めつくすほどの圧倒的なシャドウの群れであった─────。

 

 

 

 




竜司覚醒と言ったな、あれは嘘だ(土下座)

次はちゃんと目覚めるから・・・(震え声)

蓮君、メンタルが鬼強いと言っても絶対的なセーフティゾーンで信頼しきってる人の大好きなコーヒーを飲みゃあそりゃ気持ちも揺れ動くってもんよ。

あと総治郎は魅力だけカンストしてると思う。魔性の男を通り越して魔性そのものじゃないかな。

付かず離れずだけど心は掴んでるって感じのやり取りは蓮より上だと思う。熟年のタラシは年季が違う(確信)
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