周回プレイヤージョーカー君   作:文明監視官1966

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お久しぶりです、私です。ウルトラマンZが最終回でしたね。ここ最近の作品でまじで大当たり枠だと思ってます。何から何まで最高でした、ウルトラ面白かったですぞ!!

とか何とか言ってるけどまた1ヶ月が経ってたよ・・・仕事関連でマジで心折れかけてました。このままだと月一更新とか月刊漫画かよって感じなので頑張って行きます。

後いつもいつも感想及び誤字脱字修正ありがとうございます!巻き寿司!


Let's take back what's dear to you/Part3

色欲蔓延るカモシダパレスへと侵入し、奴の悪事の証拠の一片を掴むべく地下へと向かいそこで修練という名の拷問される生徒達を発見したジョーカー達。

 

彼らの顔を覚える事で現実世界での手掛かりとなる情報を手に入れたジョーカー達は高くなる警戒度の中、1度撤退しようとするが広間へと出た所で待ち伏せていた鴨志田一行に囲まれることとなるのであった。

 

その数はザッと数えただけでも数十人。中には一般兵とは違い突出した強さを持つ上級シャドウの兵隊長も混ざっている。処刑場でジョーカー達を殺そうとした奴とはまた実力が違うらしく纏うオーラはその比では無い。気の所為でなければその鈍い金色の鎧は輝きを増している様に見える。恐らく、鴨志田がジョーカー達を殺す為に強化した個体なのだろう。

 

数による戦力差が大きいなんてもんじゃない、たった3人と比べればウサギとカメ、月とすっぽんレベルであった。

 

「なんだよこれ・・・なんで待ち伏せされてんだァ!?」

 

「くっ!仕方ない!一旦地下へ・・・んなっ!?」

 

想定外の事態に狼狽えるが状況を瞬時に理解したモルガナと流石に予想して無かった今まで1番で多い敵の数に内心冷や汗をかくジョーカーは前と左右を塞がれた今、唯一の逃げ道である地下へと再び戻ろうと振り返るとどこから湧いて出たのか通路いっぱいに文字通り兵士が詰まっており、とても下に行ける状態では無かった。

 

『オオォオォォオオォォォ・・・・・・』

 

無数の顔と腕が蠢いており、その中に入ってしまえば蟻地獄のように中へ中へと引きずり込まれもう二度と戻ることは出来ないのは明らかだ。倒して無理に通ろうとするにも数が多すぎる。きっとこの様子なら地下までシャドウが湧き出ているだろう。

 

やはり警戒度を高めてしまったのは失敗だったとモルガナは舌打ちを零す。広間に出てきてものの数秒程度だと言うのにあっという間に最後の逃げ道も潰されてしまった。

 

『オォオッ!!』

 

「うわっ!?」

 

「危ねぇッ!?」

 

前にいた兵士が3人を斬ろうと剣を振るう。シャドウが詰まって動きが鈍っていたので咄嗟に後ろに下がった事で3人は簡単にその危機は避けたが、下がった事で敵地の真ん中へ出てしまい結果的に更に追い詰められることになってしまった。

 

「ッ!!しまった!」

 

ジョーカー達が階段前から離れるとガシャガシャと喧しく音をたてながら湧き出たシャドウ達が素早く円陣を組み、完全にジョーカー達を取り囲んでいく。まるで蛇が獲物を絞めるように隙間なく周りを敵が埋め尽くしている。

 

「クソッ!完全に囲まれた!」

 

モルガナはグルグルと必死に逃げ出せる場所を探すが何処も彼処も兵士だらけで逃げられるような所は一切無い。いくら手練のモルガナとて数十人の敵と戦って勝てるかと言われれば間髪入れずに「NO」と答える。奇襲などで数を減らせるならばまだしも真正面から群に立ち向かうなど無謀の極みだ。

 

戦いは数を地で行く鴨志田達にモルガナはせめてもの抵抗としてサーベルを構えて冷や汗を流しながらいつでもどこからでも攻撃が来てもいいように体勢を変え続けながら敵を睨む。

 

ジョーカーも表情は冷静だが手に持つR.I.ピストルを握る力が若干強くなり、素早くリロードをして直ぐにでも撃てるようにしているのを見ると少し焦りを感じているらしい。今の今までこの場面でこの数の敵に囲まれてきた事が無いからだ。

 

これは正しく四面楚歌。行けども行けども映るのはシャドウの赤い瞳。それら全てが敵意を持って自分達を睨んでいる。こんな物量で攻撃されればただでは済まない。十中八九即死、良くて重体だろう。

 

しかも碌に装備も持ってきていないので怪我などすれば戦闘中に回復する事が出来ず直ぐに拘束され拷問の後に処刑される事だろう。完全に万事休すという状況であった。

 

どうにか打開できないかと焦る3人の前に手を叩きながら鴨志田が近づいてくる。とてつもなく腹の立つ顔のおまけ付きでだ。

 

「本当に馬鹿な奴らだ・・・折角俺の城から奇跡的にネズミのように這って生き返れたというのに、こうしてのこのこと自分から殺されに帰ってくるとは・・・」

 

くっくっくっとおかしくて仕方が無いと言うように肩を震わせながら攻撃を避けた際に床に倒れた竜司を見下している。その目は余りにも傲慢で、余りにも薄汚く、余りにも醜い我欲に塗れた下品な黄金色であった。

 

その瞬間、竜司の脳内にはかつて見た度重なる体罰の果てに自分達の部を潰した鴨志田の自分を玩具としか見ていないような、そんな馬の糞にも劣る程濁りきった瞳がフラッシュバックしていた。

 

「こッッの・・・野郎ォッッッ!!!」

 

その目は竜司がこの世で最も嫌悪する物であり、彼の激情を刺激するには十分過ぎた。

 

「うるせぇ!何が城だ!学校はてめぇの城なんかじゃねぇんだよ!」

 

倒れている姿勢から得意のクラウチングスタートの要領で走りながら立ち上がり、勢いを付けて全力で鴨志田を殴り飛ばそうと拳を振りかぶる。

 

中々の不意打ちだったが常人の状態である竜司の攻撃はシャドウ達にとっては余裕で対応出来るものであり、金色の鎧を着た兵隊長がドス黒い瘴気と共に一瞬で変貌したシャドウ、『アークエンジェル』が鴨志田の前に素早く立ち塞がり竜司の拳をその盾で軽く受け止めると鼻で笑いながらシールドバッシュによって吹き飛ばされてしまった。

 

「あがっ!?」

 

弾かれた際に拳の皮膚が擦れて血を出しながらゴロゴロと床を転がる竜司。ジョーカーとモルガナが竜司の側へ駆け寄ろうとするがその前へ兵士が割って入り剣を向けられ身動きを封じられる。戦力である2人を離すことでこの世界では無力な竜司を完全に孤立させられてしまった。

 

「邪魔だ!ペルソ・・・うぎっ!?」

 

このままでは竜司がなぶり殺しにされてしまうと感じたモルガナが無理にでも通ろうとゾロを呼び出そうとするが後ろから襲いかかってきた兵士によって首根っこを掴んで組み伏せられ形を成そうとしていたゾロが途中で分散して消滅してしまう。

 

「ぐっ」

 

「大人しくしていろ、首と胴体がお別れしたくなければな」

 

ジョーカーも同じく組み伏せられ床を舐めることになり、更に脅威として認識されているからか微塵も動けないように剣を向けられている。抵抗したりペルソナを出そうとすれば直ぐにでも切り殺すという無言の圧が見て取れた。

 

(そんなもの向けられなくても抵抗しないさ・・・今はな)

 

そう考えながら首に冷たい剣の切っ先を付けられているというのに焦りも恐怖もせずに冷静に抵抗の意志が無いことを示す為R.I.ピストルを投げ捨て両手を上げる。しかし、切っ先でペチペチと首を叩かれた為ため息を吐いてコートにしまっていたミセリコルデも投げ捨てる。どうやら相当に警戒されているらしい。

 

「んん〜・・・いい光景だ、なっ!」

 

完全に無力化された2人を見て上機嫌に笑みを浮かべた鴨志田はアークエンジェルを下げると傲岸不遜な歩き方で竜司へ近づき、痛みに悶えながらも鴨志田を睨むその頭を虫でも潰すかのように踏みつける。

 

「がっ!!・・・クソッ・・・鴨志田ァァァ!!」

 

激痛に意識が飛びそうになりながらも歯を食いしばり怨敵を睨みつける竜司を鴨志田は楽しそうに愉悦の笑みに顔を歪ませる。

 

「ハッ!喧しいな、『弱い犬ほどよく吠える』とはこの事よ。どうせ今回の侵入もお前の差し金なんだろう?なぁ、坂本ォ?」

 

「くっ・・・!・・・る・・・せぇ・・・!!」

 

心底腹の立つ顔でそう言ってくる鴨志田にぶん殴ってやろうと拳を握り締めるが押さえ付けられているせいで動くことが出来ない竜司。鴨志田はそれを嘲笑いながら両手を広げて更に煽り続ける。

 

「いやはやおめでたい奴だよお前は、流石は『裏切りのエース』と言った所か。今回は大事なお友達の命も潰そうとはねぇ。」

 

「ッッ!!テメェェェ!!!」

 

「裏切りのエース・・・?」

 

ジョーカーがまるで初めて聞きましたという様に小さく呟くと鴨志田はジョーカーを一瞬意外そうに目を見開いた後、ニンマリと気色悪く笑って竜司に視線を向ける。

 

「おいおいおい!坂本!お前まさか何も話さずにコイツらをここに連れてきたのか?ワッハハハハ!!こいつは傑作だ!」

 

ドッ!と鴨志田と共に兵士達も馬鹿にして爆笑する。一頻り笑った後、笑いすぎて出てきた涙を拭いながら下にいる悔しそうに顔を顰めている竜司を指差しながらジョーカー達に彼らの間にあった因縁の過去を話し始める。

 

「よく聞け、こいつはな、陸上部の()()()なんだよ。この俺の貴重で有難い指導が気に入らないからって暴力に走り、仲間を裏切り夢を潰した癖に1人のうのうと生きてるのさ。最低のクズにして恩知らず!正に『裏切りのエース』だよなぁ坂本ォ!!」

 

「なにが・・・指導だッ!あんなもんただの体罰だろうが・・・ッ!!テメェが陸上部の事気にくわねぇから・・・!」

 

「黙れ。目障りだったんだよ貴様らは!実績を上げるのは俺様だけでいいんだ!」

 

悔しげに涙を滲ませながらそう叫ぶ竜司に鴨志田は踏みつける力を強めて自分勝手な言葉を振りかざす。つまり鴨志田は自分の事は棚に上げ、その時に優秀な成績を残していた竜司や他の陸上部の生徒達の努力を踏み潰したのだ。

 

その歪んだ自己承認欲求は外道というのに相応しい。おおよそ人間とも呼べないような自己中心的な言動にモルガナはここまで下劣なパレスが出来た理由を垣間見た。

 

「クビになったあの監督も救えん馬鹿だ・・・正論並べて楯つかなければエースの足を潰すだけにしてやったものを・・・」

 

「なんだって・・・!まさかコイツ、あいつの足を・・・!!」

 

その言葉を聞いた瞬間、モルガナは心底理解した。鴨志田という男の救いようのない狂気を。そして竜司があそこまで鴨志田に対して深い憎悪を向けていた理由を。湧き上がってくる怒りと共に強く理解した。

 

こいつは人の心を捨てた本物の『悪党』であると。

 

「な・・・・・・!」

 

「もう一本の脚もやってやるか?どうせ学校が『正当防衛』にしてくるしなぁ!」

 

理不尽な権力。社会で生きる上でどうしても逆らえぬ絶対的な暴力は例え虚偽であろうとその人物が地位を持つ者であった途端にハリボテの真実を纏って正当化させられる。それはまだ学生である身の竜司には決して逆らう事の出来ない横暴であり、とことんまで絶望させるのに事足りる一言であった。

 

何も出来なかった自分に対する無力感と鴨志田に対する憎しみが溢れ出し、涙となって頬を伝う。

 

「クソッ・・・俺また負けんのかよ・・・!!こんなクソのせいで走れなくなって・・・陸上部も失って・・・!!ちくしょう・・・!!」

 

今の竜司には立ち上がる気力も脚も持ち合わせていなかった。鴨志田に壊された脚は真の絶望から立ち上がる力すらも奪ってしまったように感じたからだ。

 

そしてそれは事実であり、心の奥底に無意識に存在していた恐怖が竜司の体をまるでコンクリで固めたかのように重く重くこべり付き、更なる絶望へと沈めようとその心にのしかかってくる。

 

「おいリュージ!しっかりしろ!下を向くんじゃねぇ!」

 

「・・・言われっぱなしでいいのか、許せないんだろう」

 

拘束されながらも項垂れる竜司に奮起するよう声をかける2人。

 

しかし心を粉々に打ち砕かれる寸前まで追い詰められた竜司はただただ手を握り締めるだけで立ち上がろうとはしなかった、いや出来なかったと言うべきか。

 

「そうだよ・・・俺が、アイツに奪われたモン・・・もう返ってこねぇ大事なモン・・・!!」

 

竜司は本来ならば反骨精神に溢れる青年である。怪盗団の中で誰よりも血の気が盛んで誰よりも前線に駆け出し無意識下で皆を引っ張っていく特攻隊長のような役割も果たしていた。その無謀ながらも勇敢な背中は誰よりも頼りになるものだった。誰であろうと間違っているのならそれを真正面から否定し、真っ直ぐに立ち向かっていくのが坂本竜司である。

 

しかし彼の心は既に限界であった。脚を壊され、部を潰され、全てを奪われたあの日から周りから疎まれ孤独に過ごしてきた彼の摩耗した精神はこの日この時に覚醒するべき彼の中から反逆の精神を奪い去ってしまっていた。

 

「でも俺には何も出来ねぇ・・・ちっぽけな俺じゃあ何したってコイツに潰される・・・!俺は・・・俺はァ・・・!!」

 

地に伏しながら情けない自分に対して血が出るほど唇を噛み締める。それを見た鴨志田は堪らなく嬉しそうに愉悦に満ちた歪な笑顔を作って竜司を更に追い詰めようと口を開きかけた瞬間。

 

 

 

 

「ペルソナッ!!」

 

 

 

 

蒼炎と共に黒き反逆の風が広場の中に吹き荒れた。

 

 

それは恐ろしい事にジョーカーが自身のペルソナであるアルセーヌを召喚した余波であるが、たったそれだけでジョーカーを取り押さえていた兵士は断末魔もあげられずに消し飛び、彼らの周りを取り囲んでいた兵士達を吹き飛ばしシャドウになる暇も与えずに消滅させてしまうほどの威力があった。モルガナを抑えていた兵士ももれなく吹き飛び壁に激突して力尽きたのか溶けてしまう。

 

ブンブンと頭を振って顔を上げたモルガナが見たのは背後にアルセーヌを従えながら高貴な漆黒の羽根が美しく舞う中、心地いい靴音を鳴らしながら竜司に歩み寄っていくジョーカーであった。その歩き方はまるで絵画の中から飛び出してきたのかと思うほど気品に溢れたものであり思わず見惚れてしまう魅力があった。その優雅さと威圧感たるや兵士達が怖気付いて何もせずにただその歩みを見つめる程。

 

「くっ・・・!チィッ!貴様っ!」

 

黒い風に咄嗟に腕で顔を庇っていた鴨志田は開放されたジョーカーを見た瞬間、処刑の時に見せた力に警戒し大きく下がると自分の前に肉楯として兵士達を立たせた。咄嗟にその行動を取れるとは鴨志田の警戒心の高さや狡猾さが見て取れる。

 

しかしジョーカーは鴨志田など眼中に無く、真っ直ぐに竜司の元へ歩いていく。そして竜司の前に立つと片膝をつき優しい笑みを浮かべながら紅い手袋をつけた手を差し出した。

 

「れ、蓮・・・!」

 

今のジョーカーは竜司にとっては正に闇の中に差した光のように感じた。それはとても眩しく暖かくまるで太陽のような光だった。窮地に現れた太陽の如き英雄。まるで御伽噺の世界に入ったかのような気さえ感じていた。

 

そんな彼の手を取り立ち上がる竜司。1人では立ち上がれない彼をジョーカーは優しく引っ張りあげた。少し転びそうになりながらも立ち上がり、ジョーカーの瞳を照れ臭そうに見る竜司。

 

「その、すまねぇ蓮、また助けて貰っちまって・・・」

 

「フッ・・・」

 

申し訳なさそうにそう言った竜司にジョーカーは軽く笑って目を伏せる。まるで友達を助けるのは当たり前だろ?と言うような笑みだった。それを見て竜司もまた笑みを浮かべた。

 

「俺のせいでこんな目にあってるってのに・・・お前って奴は・・・!」

 

「竜司」

 

「蓮・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「歯ァ食いしばれぇッ!!」

 

 

「ぐぼへぇッ!?」

 

しかし残念ながらジョーカーはそこまで甘く暖かい男では無かった。手袋を締め直してから脚を踏ん張り勢いをつけ腰を捻り威力を最大限に高めた無慈悲な鉄拳が腑抜けた竜司の頬に突き刺さる。どこから見ても綺麗な右ストレートであった。

 

「ハァッ!?」

 

「なっ・・・」

 

凄くいい音を響かせながら竜司は宙を舞う。スローモーション演出が入りそうなその光景にモルガナだけでなく敵である鴨志田や兵士ですらまさかの鉄拳に唖然として固まっている。

 

頬を真っ赤に染めた竜司を含めジョーカー以外何が起こったのか分からず呆然としている中、ジョーカーは殴り飛ばした竜司のそばへと近寄るとその胸倉を掴み無理矢理立ち上がらせる。

 

「な、何すんだよ蓮!?何でいきなり殴ってきたんだ!?」

 

竜司の困惑は最もだ。助けて貰ったと思ったら殴られしかも胸倉を掴んで来るときた。正直傍から見たら意味が分からない。モルガナですら竜司の言葉にうんうんと頷いていた。

 

しかしキャラ崩壊すら恐れないジョーカーはそんなもん全部無視して竜司に語りかける。

 

「竜司、お前はそれでいいのか?」

 

「ッ!!」

 

「このまま何もせずただアイツの影に怯えて過ごす、本当にそんな事でいいのか?」

 

真っ直ぐと竜司の目を見ながらそう問いかける。その目は鴨志田とは違い良く澄んでおり、その中に確かな誇りと眩い光が映し出されていた。それを見た竜司は先程とは違いつい逃げる様に目を逸らしてしまう。迷いと混乱の中にある彼にとってそれはとても眩しく見えてしまったから。

 

忸怩たる思いに駆られ体を震わしながらも竜司は言葉を紡がせる。

 

「・・・・・・いい訳ねぇ・・・いい訳ねぇだろ!でもどうしろってんだよ!俺みたいな問題児なんかが噛み付いた所でアイツは何も失わねぇどころかそれを利用してもっと力を付けちまう!結局何やったって俺はアイツには適わねぇ・・・!何やったって・・・全部無駄に・・・ッ!!」

 

 

それは正しく感情の爆発であった。今まで孤独の中で溜め込んでいたものを全て吐露するように叫んでいた。1人ではどうしようもないという無情な現実に対する苦悩を抱え込んでいた竜司の言の葉はとても痛々しく、悲痛なものであった。

 

だがそれでもジョーカーは揺るがない。未だ曇りなき眼で竜司を真っ直ぐと見据えある質問を投げかける。

 

「・・・竜司、お前はそれで『納得』出来るんだな?」

 

「・・・は?」

 

そう語り掛けてきたジョーカーに竜司は理解が追いつかず顔を上げて困惑の目を向ける。静かにその目を見返すジョーカーは極めて平坦に続きを話した。

 

「この畑に捨てられ、カビが生え、ハエもたからないかぼちゃのような腐った現実を受け入れられるのか?と聞いてるんだ。『納得』は全てに優先するぞ。お前は陸上部を潰され、脚を壊され、奴が王様気分でヘラヘラし続けるという現実に『納得』が出来るか?」

 

「納・・・得・・・」

 

噛み締めるように反復する竜司。やがて理解が追いついてきたのか大きく呼吸をすると一度目を閉じると腹を括ったように鋭い目を見開く。

 

「ラァッ!!」

 

手を固めジョーカーに殴られた方とは逆の頬を自分で殴る。鼻血を垂らすことも痛みなども気にせず震えが収まるとゆっくりと立ち上がり今度は目を逸らさず真っ直ぐとジョーカーの目を見つめ返す。

 

そんな竜司にジョーカーは再び問いかけた。

 

「お前から全てを奪い、今も尚奪い続けているクズを許す事が出来るのか?」

 

「出来ねぇ・・・出来るわけねぇッ!!そんなもん今までの俺を!俺の為に体張ってくれたお袋を!そしてダチのお前を!俺自身が馬鹿にするって事だ!!出来るわきゃねぇだろ!!」

 

そう叫ぶ竜司にはもう迷いも何も残っていなかった。ジョーカーの言葉で奮起して自分の足で立ち上がった彼は腹の底から湧き上がってくる闘志が心の闇を打ち払ったのだ。

 

その目はバチバチと稲妻を走らせるように()()に輝き始めている。己の弱さと向き合い、現実に立ち向かう強き意志の力が。我欲にまみれた怪物と戦う反逆の(いかづち)が宿った瞬間であった。

 

「ありがとよ、蓮。おかげで目ェ覚めたぜ・・・!」

 

「らしくなったな、竜司」

 

ニヤリと優しく笑い合う2人。ダチが迷っているのなら手を差し伸べそれを引き上げる。そんな当たり前に従った迄だとジョーカーは笑い、竜司もそれを感じ笑ったのだ。付き合いが短いながらも確かな友情を持っていた彼らはその繋がりを更に確固たる物にした。

 

そんな彼らの間に水を差すように焦った鴨志田が声を荒らげる。

 

「何をやってる!さっさとあのクズ共を始末しろ!」

 

その声に従って呆然としていたシャドウ達を再起動させ、その身をそれぞれの形へと変貌させて行く。たちまち大量のシャドウに囲まれたジョーカー達。殺意が倍増しで彼らを襲うが2人共全く動じていない。台風の目のように落ち着き払っている彼らは周りのシャドウなど目にも映さず鴨志田の方へ向き直る。

 

少なからず動揺はするだろうと思っていたにも関わらず全く効果が無いのを見て鴨志田は内心かなり驚いていたが小虫共にそれを悟られてはかなわんとプライドが高い故に出た見栄で冷や汗をかきながらも二チャリと気持ちの悪い笑みを貼り付けている。

 

「・・・違ぇな」

 

それを見た竜司はキッと更に目を鋭くすると鴨志田の方へに堂々と凄みを纏わせながら歩いていく。鴨志田はそんな彼を警戒して自身の前へ来れないよう道を遮る形でシャドウ達を集わせる。

 

だが竜司はそんなこと気にもせずに歩いていくとシャドウ達が彼を取り囲み、何時でも攻撃できるようにそれぞれの魔法を発動させ待機している。かなり危険な状況だがジョーカーとアルセーヌはそれを見守るように微笑みながら佇んでいる。

 

「人を利用する事しか考えてねぇテメェの方こそ本物のクズだッ!鴨志田ァ!!」

 

凄まじい胆力でシャドウ達など意に介さず鴨志田を指差してそう叫ぶ竜司。その気迫に鴨志田は更に顔をニヤケさせる。

 

その気味の悪い笑みが竜司の怒りの雷管を点火させた!

 

 

「ニヤけた面で!!こっち見てんじゃねぇよッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

バチバチィッ!!!

 

 

 

 

 

 

『随分と待たせたものよ』

 

 

 

「がっ!?あぁっ!?」

 

 

 

その声と電が弾ける音ともに大きな心音が響き、竜司に頭が割れるのでは無いかと思う程の頭痛が襲いかかった。

 

余りの激痛に立っていることすらままならず、床に蹲り頭を抱えて悶える。心の奥底から聞こえてくる声は溢れ出てくる痛みと力が竜司の体を蹂躙していく。

 

 

 

 

『力がいるんだろう?ならば契約だ。』

 

 

 

 

 

 

『どうせ消えぬ汚名ならば、旗に掲げてひと暴れ・・・お前の中の『もう1人のお前(この俺)』がそう望んでいる。』

 

 

 

 

逆襲の鎖が深き海底から秘められた力を引き上げる

 

 

 

 

『我は汝、汝は我・・・我は汝の心の海原より出でし者・・・!』

 

 

 

 

 

 

バチバチバチバチッッ!!

 

 

 

激しく弾ける電気が蒼炎と共に竜司の顔を走るといつの間にか髑髏の仮面が目元を包み込んでいた。

 

突如として出現したそれに疑問を持つ事も無く力強く掴むと無理矢理引っペがし始める。ベリベリと剥がす度に痛々しく血が吹き出し、彼の顔を赤く染めていく。

 

 

 

 

 

 

 

『覚悟して背負え!これより、反逆の“髑髏“が貴様の旗だッ!!』

 

 

 

 

 

そして完全に引き剥がした仮面を頭上に向けて思い切り投げ飛ばす。過去の後悔も、雁字搦めの現実も、真っ暗な未来も全て共に投げ捨てるように。

 

 

 

それでいて叫ぶ。

 

 

 

 

高らかに呼ぶ。

 

 

 

 

 

己に眠る、反逆の略奪者を。

 

 

 

 

「あ“ぁ・・・行くぜっっ!!

 

キャプテェェェン・キッドォォォーーーッッ!!!』」

 

 

 

 

 

 

ガッシャァァァァンッッッ!!!

 

 

 

 

 

呼び声と共に雷霆が大気を引き裂き、爆音を轟かせた。

 

 

 

 

 

突如降り注いだ巨大な雷の柱を中心に、まるで嵐により荒くれる海の如し凄まじい落雷が降り注ぎシャドウ達を襲う。不運にも竜司の周りにいたシャドウはその直撃を喰らい悲鳴をあげながら焼け焦げ炭となって倒されていく。

 

その電撃の余波は鴨志田まで届き、シャドウ達を貫きながら突き進み右腕を焼く。

 

「ぐおぉぉおぉ!?」

 

「鴨志田様!」

 

「ぐっ・・・!?クソ・・・!俗物の分際で・・・!!??」

 

右腕を焼かれ痛みにより大粒の汗をかきながらも巨大な雷の柱から目を離さないのは流石パレスの主と言った所か。

 

そんな鴨志田に応えるように雷の中から荒っぽい靴音を鳴らしながら蒼炎を纏った竜司がゆっくりと姿を現す。

 

「コイツァいいぜ・・・この力がありゃ借りが返せるってもんだ」

 

その格好はペルソナに目覚めた者特有の服に変化している。

 

ジョーカーのように紳士服じみた物では無く自由人の様な、言い方を変えるなら暴走族のようなイカすライダースーツに身を包み、雷を形にしたかの様な黄色い手袋を付け首には彼の燃えるような情熱を表すように赤いマフラーを巻いている。

 

肩にショットガンを担ぎ、悪どい笑みを浮かべた竜司はその背後に自らの化身であるペルソナを連れ漂わせていた。

 

放電を繰り返しながら浮かぶそれは鎖の蠢く音を響かせながら悠々と己のペイントの施された漆黒の小型船に乗り、その姿は海賊と言うに相応しい。

 

海賊帽から覗くその顔は皮膚も肉もない眼帯を付けた頭蓋骨のみが敵を睨み、地獄の亡者の如しその瞳は合わせた者を恐怖に震えあがされる冷たさが宿っている。

 

更に特徴的なのが右腕であり、そこには手の代わりに大砲が取り付けられている。時折そこから電撃が漏れ空気に火花を散らしていた。

 

 

深海の闇より蘇りし伝説の海賊、祖なる海を駆けた稀代の荒くれ者。

 

 

 

それこそが竜司のペルソナ、『キャプテン・キッド』である!!

 

 

 

『フハハハハ!!相変わらず荒々しい奴よ!だがその意気や良し!』

 

暴れ馬のように広場を駆け巡る雷を見てアルセーヌは高々と懐かしげに、しかし楽しそうに笑う。竜司の性格を表すようなその光景にかなり気分が高揚し、ご機嫌な様だ。

 

かく言うジョーカーもかなり嬉しそうに笑みを浮かべており、キャプテン・キッドを従えた雄々しい竜司の背中を誇らしげに見つめていた。拘束から抜け出し、隣に来ていたモルガナはまさか竜司が覚醒するとは思って無かったようで口をあんぐりと開け愕然としている。

 

鴨志田を睨んでいた竜司はふと後ろを振り返るとジョーカーとモルガナに向けてニッと彼らしい笑顔を向ける。

 

「ほんっと、待たせちまったな!行くぜ2人共!」

 

「あぁ」

 

「へっ!仕方ねぇ!足引っ張るなよ?」

 

「ぐぅ!この賊共がァァァ!!」

 

そう言って手を拳で叩いた竜司の隣にジョーカーとモルガナが並び立つ。ジョーカーは手袋を直し、モルガナは相変わらず上から目線で腕を組んでいる。そんな頼もしい2人の肩を叩いてから臨戦態勢に入ったシャドウ達にキャプテン・キッドの砲口を向け、悪を焼く雷撃を放ち戦いの火蓋を切った。

 

 

「ぶっ放せよ!キャプテン・キッドォ!!」

 

 

咆哮と共にキャプテン・キッドの右腕から登場時と同威力の強烈な電撃魔法、『ジオ』が蛇のように畝りながらシャドウ達を蹴散らす。

 

「ぐあぁあぁぁッッ!!??」

 

「ギャアァァアァッッ!?」

 

「なっ・・・!?雷だと・・・!?」

 

「なんて威力・・・!し、痺れ・・・!?」

 

電撃が弱点のシャドウは一撃で消し飛び、弱点ではないが耐性も無いシャドウでさえ初覚醒補正により大ダメージを受け加えて感電して動きが鈍くなる。動けない隙にジョーカー達がシャドウ達をペルソナと武器を使って殲滅していった。

 

だが勿論、電撃に耐性を持つシャドウも居る。インキュバスやアガシオン、マンドレイクなどの耐性持ちシャドウ達と兵隊長クラスの上級シャドウはキャプテン・キッドの放つ電撃を掻い潜り竜司達へと殺到する。

 

「喰らえ」

 

『フハハハハ!』

 

「威を示せゾロ!」

 

だがマンドレイクやアガシオンなどの通常シャドウは辿り着く前にジョーカー達によって倒されて、残った上級シャドウも足止めを喰らう。アルセーヌの右手から放たれたエイガオンの呪怨エネルギーがシャドウ達を飲み込み闇へと葬り、ゾロのガルが疾風の力でシャドウを細切れにしていく。

 

何とかそれらを抜けた上級シャドウのアークエンジェルは剣による強力な斬撃を竜司へと放つがそれはキャプテン・キッドの華麗な船捌きにより受け流され、バランスを崩したアークエンジェルの腹にキャプテン・キッドの砲口が着けられる。

 

「しまっ!?」

 

それに気が付いたアークエンジェルは直ぐに距離を取ろうとするがキャプテン・キッドが剣を左手で掴むことでそれすらも出来ずに完全に逃げ道を奪われたアークエンジェルに悪い笑みを向ける。

 

「散々痛めつけてくれた礼だ、受け取っときなァ!!」

 

「グオォアァアァァッッ!!??」

 

これまでの鬱憤を晴らす為に密着させた砲口からジオの零距離放出を受けたアークエンジェルはそのまま勢いよく天井までまるで雷のように昇り、その上で力尽きて消滅した。

 

「へっ、ざまぁみろ。・・・ん?」

 

それを眺めていた竜司の視界に何かが映る。ひゅんひゅんと音を立てて回りながら落ちてくる物は丁度真下にいた竜司の手元にピンポイントで収まった。

 

「いいモンが落ちてきやがったぜ」

 

そう、それは何故か真上にあった足場が先程の衝撃で崩れた事で落ちてきた1本の鉄パイプであった。丁度近接武器を持っていなかった竜司はこれ幸いと片手でブンブンと振り心地を確認すると満足気に頷いた。

 

「めちゃくちゃ使いやすいぜっと!!」

 

そして振り向きざまにフルスイングをして近づいてきていたケルピーの顔面をぶっ飛ばす。どうやらかなり手に馴染んでいる様子。更に気分が上がった竜司は笑みを深めてキャプテン・キッドとシャドウ達に向けて突っ込んでいく。

 

かなり猪突猛進でラフな戦い方だが元が不良じみた竜司なのでかなり様になり、また戦いやすい様子でタガが外れている事もあって凄まじい暴れっぷりであった。

 

「オラオラァ!行くぜ行くぜ行くぜぇ!!」

 

雷が降り注ぐ中、片手で鉄パイプを振り回し、片手でショットガンをぶっ放つその姿はまさに荒くれ者。邪魔するのならばあらゆる物をなぎ倒す戦車の様である。

 

「すげー暴れっぷりだなアイツ・・・」

 

「2人共、そろそろ決めるぞ」

 

モルガナが竜司の戦い方に呆れ気味にそう呟き、頃合を見たジョーカーがそう声を上げる。

 

「ああ!そろそろ終わらせようぜ!一斉攻撃だァッ!!」

 

竜司が響く声でそう叫ぶとそれに合わせる様にジョーカーとモルガナも一気に力を解放する。

 

 

ブチッ!!

 

 

ブチ切れカットインが入ると影だけが残るほど素早く動き、残った残党を切り裂き、潰し、貫いた後3人は一箇所に集まり竜司がズッコケながらも直ぐに立ち上がってロックな決めポーズを決める。同時にシャドウ達は血飛沫を上げると断末魔を上げながら一斉に消滅した。

 

「そのまま寝てなっ!」

 

決め台詞を決めながら消えるシャドウ達を見送ると今度は鴨志田だと気合を入れて振り返る。

 

が、鴨志田はとっくに逃げた後のようでその姿は何処にも無い。部下を置いてさっさと逃げるとは上司の風上にも置けない奴だ。いやそもそも人間としての風上にも置けない奴だった。

 

「ふん、少しはやるようだな」

 

と、思ったらちゃっかりいた。いつの間にか自画像の前にまで移動しており避難したくせに偉そうに右腕を隠しながら竜司達を見下していた。

 

「今更謝っても遅せぇぞ鴨志田!」

 

「確かに()()、だがここが俺の城だと言う事を忘れていないか?兵力は無限に生み出せる!そして・・・俺好みの女もな」

 

「は?何言って・・・」

 

いきなり意味不明な事を言ったかと思えばまた気持ち悪い笑みを浮かべて指を鳴らす鴨志田。すると奴の隣に黒い影が現れ、1人の少女の姿を形作る。それは彼らも良く知る鴨志田と関わりの深い少女であった。

 

「た、高巻・・・?」

 

そう、影は杏の姿を形作っていたのだ。しかも何故かピンクの豹柄ビキニに猫耳を着けたなんというか、()()()()()で出てきそうな格好をして。完全に鴨志田の欲望がダダ漏れの格好であるのは明白であり、事実鴨志田はそんな彼女を見て鼻の下を伸ばしていた。

 

対して、いきなり知り合いが鴨志田の隣に現れて混乱する竜司。

 

「え、は?な、なんで高巻がここに、つーかアイツのとこに?」

 

「ニャ、ニャンて綺麗な女の子・・・じゃない!おい落ち着け!言ったろ!ここはパレス!そこにいる人間は認知存在で全くの別物だってよ!」

 

「あ、あぁそうだった!ありゃ鴨志田が作り出した偽モンって事だよな!」

 

ここに来るまでに何度も説明され、やっと理解していた竜司はすんなりとこの光景を受け入れたが今度は現実の認識が反映されているという事を思い出して強い嫌悪感を顕にした。

 

「だとすりゃあ、高巻はあいつにそういう目で見られてるってこったよな・・・キメーんだよこの変態野郎が!!」

 

「何度言ったら理解するんだ?ここは俺様の城だぞ、何をやっても許される。どころか、誰もが俺に気に入られたいと願ってるのだ・・・貴様らのような頭の悪い奴以外はな。」

 

ぶん殴りたくなるような酷くムカつく顔で巫山戯た事をぬかす鴨志田。その気色悪さに流石のジョーカーも目元を若干引くつかせた。何度やっても鴨志田の時折見せるマジの気持ち悪さには慣れないようだ。思わずR.I.ピストルを乱射しそうになるが耐え代わりにまだ消滅していなかった兵士の剣をその顔面目掛けてぶん投げる。

 

だが、それはまた湧き出てきた兵士の盾によって防がれる。小賢しいヤツめと強く警戒しながらジョーカーを睨む鴨志田。その熱視線にも特に当たると思ってなかったジョーカーは少し薄れた気持ち悪さに満足したようで手袋を直しながらフゥと息を吐く。

 

「フン・・・おい!さっさと掃除しろ!」

 

鴨志田がそう叫ぶとまた広場の床から黒い影が蠢き、その中から兵士達が墓場から蘇るゾンビのように溢れ出てくる。それを見た竜司はうげっと生命の冒涜すら感じる兵士の登場の仕方にドン引きし、モルガナは更なる増援に流石に消耗したままではジリ貧になるだけだと判断したのか退却の姿勢をとる。

 

「くそ、このままじゃまずい!また囲まれる前にズラかるぞ!」

 

「ハァ!?このまま逃げるってのかよ!そんなの・・・くっ!」

 

やはり納得しない竜司は噛み付いたがペルソナ覚醒の反動による疲労でふらついてしまう。こんな調子でシャドウと戦い続ければ途中で力尽きてやられてしまうのは目に見えている。竜司は悔しいが撤退した方がいいと嫌でも理解した。

 

「竜司、死んだら元も子もないぞ」

 

「・・・クッ!そうだな・・・絶対テメェの化けの皮ひっぺがしてやっかんな!首洗って待ってろ!」

 

「ククク・・・ここの連中は甚ぶり飽きていた所だ!いつでもかかってこい!命が惜しくなければな!!ハァッハッハッハッハ!!」

 

「相手にするな、行くぞ!」

 

そう挑発しながら笑う鴨志田にまた突っ込みそうになる竜司の襟首をジョーカーが掴み少しの時間も惜しいので無理矢理引き摺ってモルガナ先導の下、湧き続ける兵士達と笑い続ける鴨志田に背を向けて広場を出て前回にも脱出に使った物置部屋に駆け込み換気口から抜け出し、漸く城の外に出る事が出来た。

 

 

 

 

 

 

 

チラリと後ろを確認するがどうやら追っ手も来ていないようだ。この様子だと逃げ切れたというよりは見逃されたという様な気がするのでちょっと気に入らないがあのまま戦うよりかはマシなのでここは気にしないでおく。

 

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・クソ、マジでブランクやべぇ・・・」

 

「大丈夫か竜司」

 

「あ、あぁ・・・てか、なんか、服変わってんだけど!?」

 

息を切らしながら今更な事を言う竜司。戦闘中は興奮状態で服の事まで気にしてる余裕も無かったから仕方の無い事なのかもしれない。そんな竜司にサムズアップをしながら「似合ってるぞ」と笑顔で褒めるジョーカー。暗に賊っぽいというより族っぽいなと言ってる訳だがそれに気が付かない竜司は「そ、そうか?」と満更でも無さそうに照れている。

 

「にしても髑髏とは・・・イカスな」

 

「えぇ・・・まじかお前」

 

竜司の不良寄りなファッションセンスに少し引いているモルガナ。ほぼ全てが真逆の彼らはファッションセンスも真逆なようで、紳士的な物を好むモルガナと竜司はこんな所でも相容れないようだ。

 

「あっ!なぁ、ネコガナ。こっちの鴨志田に見つかっても現実の鴨志田には影響ねーのか?これで外出たら鴨志田が襲ってきたーなんて勘弁だぜ」

 

「確かに」

 

「おぉ、バカの癖にいいとこに気がつくじゃねーか。バカの癖に」

 

「一言多いーんだよ!てかなんで2回言いやがった!」

 

竜司とモルガナが取っ組み合いになりそうなのをジョーカーが獣を宥めるようにどうどうと抑えて話を続かせる。

 

「それについちゃ問題ねーよ。現実の鴨志田はこっちの事は知りえない。処刑の事、あっちの鴨志田は覚えていたか?」

 

「そういや覚えてなかったな・・・なら大丈夫なんだな」

 

「そういう事だ」

 

昨日のパレスから出た後に校門前で出会った鴨志田は敵意こそ向けていたがパレスの事や竜司達を処刑しようとしていた事など知っているようにも見えなかった。それはパレスの鴨志田とリアルの鴨志田が意識や情報を共有している訳でなく、あくまでも別物であることを証明していた。同一の存在なのに別物というのもおかしな話だが、まぁ表と裏くらいに考えとけばいいだろう。

 

「よし、それさえ分かれば後は現実の方で・・・」

 

「おい待て、何サラッと帰ろうとしてんだよ。約束通り案内してやったんだ。今度は吾輩に協力して貰うぞ?」

 

パレスから帰還し早速現実の方で調査を進めようとした竜司をモルガナが呼び止める。どうやら危険を冒してまでそっちのお願いを聞いてやったんだから今度はこっちの願いを聞いて貰わなきゃ割に合わないということらしい。

 

別に「案内するからその後こっちの言うこと聞けよ?」とかそういう契約は一切結んでないのだが、道中の戦闘や広場での事を負い目にさせて断りづらくしている。モルガナ、中々の策士である。

 

「あ?協力?」

 

「そうだ、その為に丁寧に教えてやったしあんな危険な戦闘にも身を投じたんだ。吾輩の身に受けた歪みを取り払う為、真の姿を取り戻す為にな!その為には遥かメメントスの・・・」

 

恩を感じやすかったりすればこれを断わるのはかなり難しいだろう。だがそれは普通の人間が相手だった場合だ。

 

「ちょっと待てよ、何話し勝手に進めてんだ。付き合うなんて一言も言ってねぇだろ?」

 

「え、まさか・・・タダでお世話になろうってのか!?」

 

「いや、だって別にそういう約束してねぇだろ?事前に言ってんならまだしもよ。」

 

「いや待てよそりゃ無いぜ!特にお前!既に吾輩のプランの1部なのに!」

 

そう言って慌てたモルガナに指さされたジョーカーは数秒考えるように顎に握り拳のような形で指を置くと何も言わずに誤魔化す感じでイケメンスマイルを放った。

 

「・・・・・・(ニコッ)」

 

「いや何爽やかスマイル決めてんだコラァッ!」

 

「悪ぃな、こっちも色々やんなきゃならねぇんだ。世話んなったぜモルガナ、中々、いやかなりガッツのある奴だったぜお前!ん?猫か?」

 

わざわざしゃがんで目線を合わせ、ニカッと明るく笑って別れの挨拶を告げる竜司。凄い、堂々とモルガナからの恩を蹴っ飛ばしている。

 

「いやうるせーわ!猫じゃねーって言ってんだろ!吾輩がニンゲンじゃないからって馬鹿にしてのか!?」

 

「じゃあな!またどっかで会おうぜ!」

 

モルガナの怒声を完全にスルーして立ち上がり、手を振りながらパレスの出口に向かって走る竜司。そしてジョーカーもモルガナの小さい手をとって握手をすると竜司の後を追って出口へと向かった。余りにあんまりな光景に一瞬固まっていたモルガナだが直ぐに再起動してなんだか良い話風にシめた竜司達の背中に向かって叫ぶ。

 

「ちょ!?おい待てお前ら!ねーわ!そりゃねーわ!マジねーわっ!何いい話風に纏めてんだ金髪モンキーッ!」

 

しかしそう叫んでも2人は止まらない。まるで青春を駆けるように振り返ることも無く、真っ直ぐと迷わずに出口に入り、現実世界へと帰還してしまった。グニョンと揺れる世界が2人を包むとやがてパレスから完全に姿を消した。

 

マジで取り残され、ポツンと城前に取り残されたモルガナはフルフルと体を震わせるとキレて光の中へ消えた奴らに向かって吼える。

 

「いや、ねーわ!!ねぇーーーーッわ!!ぬぇぇーーーわぁぁーーーーッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かくして竜司と蓮は窮地を脱し、無事に証拠となり得る情報を持ち帰ることに成功した。

 

更に蓮の狙い通り竜司もペルソナに目覚め確実な戦力増強と凡そルート通りの展開で事を進めることが出来たので大いに満足のいく結果であった。

 

 

 

 

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潜入進行ログ

 

 

‪NEW 一斉攻撃を習得した

 

NEW 証拠を持ち帰った

 

NEW 竜司のペルソナを覚醒させた

 

 

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文才が無いので似たような文が多いけど許して!ごめんなさい!ぶたないで!(幼女)

本当の竜司覚醒回でした。竜司のペルソナ覚醒する時のセリフ好きなんですよね〜。宮野さんの演技が超カッコイイ。

ウチの竜司はかっこよさと素直さマシマシで行きたいと思います。元のふざけた感じも好きなんだけどね、ギャップが欲しいので。

次回は杏殿のお話!女豹!

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